第43話 海と園児と熱い唄
面接を受けに行った先は海岸沿いの特別養護老人福祉施設でした。施設長が建物をひととおり案内してくれたあと、隣の保育園を指しました。保育園のベランダは海上に設置されており、こちらから丸見えの状態でした。
「あそこの保育園は、入所されているお年寄りになくてはならない場所でもあるんです」
その時、ベランダに子どもたちがワッと出てきました。そして海に向かって元気よく歌いはじめました。
施設長が目を細めました。
「保育園の唄です。毎日この時間に歌うんですよ」
保育園の唄か。かわいらしい唄だろうと思いましたが、よく聞くと違いました。
海の荒波を受けても 胸をはって
カモメが鳴いている
波のもくずと消えたわが舟は
まだこの心に 深く刻んでる
演歌のような歌詞、海に漕ぎ出すのにピッタリの曲調でした。
うっとり聞き入る施設長の横で呆然としていたら、どこからともなくおじいちゃん集団がやってきました。ここに入所している人たちで、キラキラした表情で教えてくれました。
「あの唄はええのう! すごくええ!」
「海の男の血がたぎるんじゃよ!」
「わしらにぴったりなんじゃ!」
たくさんのおじいちゃんが、リズミカルに杖を振り上げ、子どもたちと一緒に歌い上げました。老若混合のすばらしい唄でした。
でもここに就職するのはやめようと思いました。
ここで目が覚めました。
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