第41話 次回最終回

 おおきな洋館に住む、とある華族のドラマを見ていた。


 遺産相続に人間関係が揺れるなか、一見、無関係の人が死亡する。事件の鍵を握るのは、親友である令嬢だと、長男の許嫁である主人公は気づいている。そういう状況から開始していた。

 次の放映が最終回なだけに、ここ数回の放映で、今までの泥沼トラブルが強引に解消されていた。

 こじれにこじれた遺産相続問題はすんなり収まった。こじれた人間関係も含めて、新キャラ登場ですべて解決し、第一話から想像もつかない穏やかな雰囲気で、誰もが笑顔で会話をしている。今日の放映では、新キャラの婚約披露会で、そこに伏線もなにもあったもんじゃない。

 ふいに長男が、主人公である許嫁と、令嬢と呼ばれる妹がいないことに気づく。使用人に尋ねたら「いつものことでしょう」と交わされ、納得しつつ気にかけていた。

 おなじ頃。

 その許嫁と妹は、池の上でボートに揺られていた。令嬢の使用人は無表情でボートを漕いでいく。

 いつもの水遊びのようだが、うつろな瞳で令嬢が微笑み、許嫁は腰を引いた。

 令嬢の一言で芦のなかにボートが止められる。

 いつも来るふたりの秘密の場所で、ここはどこからも見えないのだ。

 震える許嫁に、令嬢が手を伸ばした。

「さあ、行きましょう」

「は、はい。でも」

「大丈夫よ。わたくしも一緒ですし」

 ついさっきのことを、許嫁は思い出していた。

‘水底へどちらが先に沈むか競争しましょう。ね?’

 令嬢の声色に否定は許されなかった。

 水死した人々や水夫がいなくなった日と、彼女が全身を濡らして帰って来た日は同日。

 親友がまさかそんなことをするなんて信じたくない。

 でも。

 令嬢と並んで水に入り、ボートに手をかける。足にはなにもつかない、深い池だ。

 令嬢は楽しそうに微笑んだ。

「先に沈んだほうの勝ちでしてよ?」


 ドラマはここで終わり、次回予告の映像が流れた。

 ナレーションが興奮気味で題名を読む。

「次回最終回、『煉獄地獄』! おたのしみに」

 ふーん。いつも題名に「地獄」がつくこのドラマも、とうとう最終回か。毎朝15分間で(どうみても昼間向きだけど)最終回くらいは「天国」とかいうかなと思ったけど、言わなかったな。

 さ、仕事に行こ。

 テレビの電源を切って鞄を持った。



 ここで目が覚めた。

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