第9話 千夏
俺の家は3人家族だ。
おやじは・・・死んだ・・・らしい。
母さんにおやじのことを聞いても何も教えてくれなかった。
死んだのか生きてるのか・・・わからない
俺が産れた頃からいなかった・・・と思う。
母さんも俺と千夏のために必死に働いてくれているから、家ではいつも俺と千夏の二人だった。
おかげで俺は家事すべてこなせるようになったんだが。
小学校に上がったころからだろうか?
千夏がよく学校を休むようになった。
後々わかったことだけど、千夏は学校でいじめにあっていたらしい。
割と引っ込み思案な性格で、いつも俺の後をくっついてきていた千夏。
歳はさほど離れてはいないけど、そういつでもどんなときでも一緒にいるっていうわけにはいかない。
俺だって友達だっていたから、千夏をほったらかしにしていた時もあった。
「あ!お兄ちゃん!よかったら一緒に・・・」
「おーい、千尋ー公園いって遊ぼうぜー」
「いつもお前断るからなー。今日くらいいいだろ?いこうぜいこうぜ?」
「あー、おう、いこうか。で、千夏、なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよ!えへっ先にお家帰ってるね。あまり遅くならないでよ?お兄ちゃん。」
「あー、わかった。じゃあいってくるわ。いこうぜ?」
伸ばした手は届かなかった。
大好きなお兄ちゃん。
いつも私と一緒にいてくれるお兄ちゃん。
学校で嫌なことがあってもお兄ちゃんがいれば私は頑張れる・・・
お兄ちゃんさえ・・・お兄ちゃんさえいれば・・・ふふっ
「・・・。おい、千夏・・・千夏!お前、なにやってんだよ!?
自分がなにしたかわかってんのか!?おい、聞いてんのかよ千夏!!」
「あ、お兄ちゃんだぁ~えへ・・・へへっなにって・・・邪魔者を消しただけだよ?」
シャフ○アニメでよくみるようなシャフ度でこちらをみる千夏。
体には大量の返り血と顔にはべったりと付着した血。服には臓物。
パンッ
「いっ・・・なにをするの?お兄ちゃん。私なにか悪いことしたかなぁ?」
「おまっお前なあ!?なにをしたかわかってねえのか!?人を!殺したんだよお前は!早くその刃物よこ
せよ!なんでナタなんか持ってんだよ。どっからもってきたんだ」
「近くのねえ?おばあちゃんが使ってるのをね?もらったんだぁ・・・へへへっこれでお兄ちゃんから邪魔者は消えたよね・・・
これでずっと私を見てくれる。私だけを・・・」
直感で悟った。こいつはやばい。
やばい。
逃げよう。こいつから。こんなのは千夏じゃない。
俺の知っている千夏じゃ・・・
「はあ・・・はあ・・・っちっあいつこんなに足はええのかよ」
「まってよおおおおおおおおおお兄ちゃああああん逃げなくてもいいじゃ・・・きゃっ!?」
「千夏!?」
「うへへっお嬢ちゃん・・・そんな物騒なもん捨てちまえよ・・・」
「邪魔だよおじさん」
「っと、あっぶねえなこのガキッおい、乗せろ。連れていけ。」
リアルハイエーサーなんか初めて・・・
「って!?警察・・・警察!!」
俺は必死になって警察に訴えた。妹がさらわれた。
そのことと、友人を妹が殺したこと・・・。
そのあとはレイ○魔のおじさん達は捕まったが、あられもない姿でボロボロになった千夏が見つかった。
小学生が人を何人も殺害したのは新聞に大きくのった。
千夏は精神科と傷を治すために病院へ。
母さんが家に帰らなくなったりしたのもそれから。
小学校高学年だった千夏。学校に復帰したのは5年の時。
殺人鬼がきた。殺される。口々にクラスメイトは言う。
いじめられ、はぶかれ。千夏は学校にいかなくなった。
体調も崩し、よく入院するようにもなった。
あの事件以来、千夏は血やとがったものをみると人が変わったかのように狂い泣き叫んだ。
医者にも手に負えない状態で、精神不安定。うつ病とはまた違う、治らないトラウマを抱えた。
そりゃそうだ、一夜にしてすべてを失った千夏。
人を殺しておいて血をみておかしくなるというのはどうなのだろうか?
俺は・・・千夏と一緒にいることに決めた。
学校から帰ると病院に向かう日々。
遊ぶこともなく、毎日病院に通った。
俺じゃなきゃダメなんだ。俺じゃなきゃ・・・
俺以外の人には言葉すらも発しない千夏。
俺にしか見せない笑顔。
俺にしか口を開かない。
もうお手上げらしく、ただ病院にいるって感じらしい。
検査をしてもなにもかわらない。
隔離・・・といってもおかしくはないだろう。
でも、母さんや医者が見捨てても、俺は見捨てなかった。
俺がこんな千夏にしたんだ・・・
ある時、千夏は病気にかかった。医者からもうあまり生きられないらしい。
俺達がマチルダに殺されたあの日。
医者から危篤状態だ。という電話がかかってきた。
早くいかなきゃ・・・という自分と、もうあいつにかかわらなくてもいい・・・
好きに暮らすことができる・・・という自分もいた。
でも、アリスちゃんの言葉を聞いた時、一人にしてはいけないと思った。
あいつを一人にしちゃ・・・だめなんだ。
あんなことが・・・もう二度と起こらないように。
起こさせないためにも・・・。
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