4:空と名乗る団体
イヤホンから流れたバート・ラウの声に唇を噛み締め、ユウリは激情が去るのをじっと待った。
その表情はミカルと接しているときとはまるで違う。目つきは鋭く、暗い光を宿す。
店の入り口とレジに鍵を閉め、ユウリは四階にある住居代わりの部屋で息を詰め、イヤホンから聞こえる声に集中していた。
二ヶ月ほど前、入っていたテナントを立ち退かせ、ユウリはこのビルの所有者となった。だが、それを決めたのは彼自身ではない。
ユウリが現在身を置く、
壁にもたれ窓の外を見る。深夜の裏通りは人通りもなく静かだ。青白い街灯に照らされたアスファルトを睨みつけ、ユウリは苦い顔でラウ家の団らんに耳を傾けていた。
今日、ミカルがレジに鞄を放り出して菓子を物色している隙に、盗聴器を仕掛けた。どうやら今、その鞄はリビングに放置されているらしく、会話はかなりクリアに聞こえた。
できれば書斎か電話機に仕込みたいところだが、バートがそれに気づかないわけがない。
CEUに入る以前、バートと同じ組織に属し、彼の指揮下で働いていたからわかる。彼は冷徹で狡猾、また用心深くもあった。どんなに痕跡を消そうとしても、侵入者を見逃すような男ではない。
それに、カレンは日中ほとんど家にいるらしい。侵入は難しそうだ。ミカルに接触していることを彼らに悟られるわけにはいかない。
最小限のリスクで。それが命令でもあったし、ユウリ自身もできればミカルを無為に苦しめたくはないと思っていた。
しばらく彼らの声に集中していたが、有益な情報は得られそうにない。しばらくするとほとんど音声は聞こえなくなった。ミカルが鞄を持って自室に戻ったのだろう。
ユウリはイヤホンを外し、頭を振る。
「バートの声を聞いたくらいで、こんなに心を乱してどうする」
一人呟き、ぬるくなった水を一口含む。すると、そんなユウリの行動を監視でもしていたように、耳に取りつけた機械が受信を知らせるために震える。小さな電子音の後、聞き慣れた声が脳に直接響くように聞こえた。
CEUからの通信だ。ユウリは襟元につけた小型マイクに努めて冷静に答える。
「わかっている。別に焦ってなんかいない」
焦るな、私情を捨てろ。幾度も繰り返された忠告に、いつもと同じ答えを返す。相手はしばし沈黙した後、一言もなく通信を切った。
溜め息と共にユウリはベッドに倒れ込み、掠れた声を絞り出した。
「ホリー……待っていてくれ。後……少し」
その声は静寂に消え、しんとした空気が薄暗い部屋に満ちる。その孤独に耐えかね、ユウリは目を閉じた。
記憶の中のホリーは、ただ笑っていた、
自分の甘さに嫌気が差す。その笑顔が永遠に失われたのは、他でもない自分の罪なのに。
ユウリは背を丸め、顔を覆った。それでも脳裏に焼きついた光景は鮮やかに……残酷なほど鮮烈に失われた幸福を甦らせる。
ホリーは優しく微笑み、その後ろではただ、金色の草原が揺れているだけ。
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