1ー14
しおりと糸子は、ショウリと12の戦闘現場のすぐ近くに来ていた。
「どうする?手助けする?」
こそっと糸子に尋ねるしおり。見ると、12が攻撃を続け、ショウリがそれを受けきっている。たまにショウリの方から攻撃するが、アッサリとかわされてしまう。パッと見、ショウリが完全に押されている様に見えるが、12の方もショウリの防御力の高さに阻まれ、ダメージを与えられずにいる。
恐らく、7の目的は最初からこうだったのだろう。ショウリをミタマから引き離し、足止めをする。12にショウリを倒させる気など毛頭無かったのだ。この後やって来る『統括』とやらが到着するまでの間の時間稼ぎ。しかし、このまま時間稼ぎをさせるわけにはいかない。
しおりがある事を思い出す。
「ねぇ、糸ちゃん。ここに来る途中にリュウ兄の言ってた事覚えてる?」
定食屋から廃遊園地に向かうまでの間に、リュウトはショウリについて話をしていた。
「うん、勿論覚えてるよ。『もし、あのまま闘いが長引いてたら勝てなかった』って言ってたよね。後、もう1つ・・・」
「うん、『もし9が、自分の力にあった、別の闘い方をしてたら、反撃する間も無く、やられてたかも知れない』ともいってた。」
リュウトは気付いていたのだ。ショウリの力の使い方が半分間違っている事に。でなくては、今こうしてエネルギー的には劣っている12にここまで足止めをされることもないだろう。
して、その闘い方とは・・・
「あたし、伝えて来るね。リュウ兄の言ってた『ショウリさんの闘い方』。」
闘っている2人に歩み寄ろうとするしおり。それを糸子は慌てて止める。
「だっ、駄目だよしおりちゃん。あんな中に入って行ったら、危ないよ。」
焦る糸子だが、しおりは余裕の笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。12って人の『あの程度』の動きなら、問題ないよ。」
しおりの顔を見て、ゾクっとする糸子。本当に、何の脅威も感じていなさそうな表情をしている。もしかすると、自分以外に4人もの『ナンバーホルダー』が集まった事によって、『生命エネルギー』が刺激されてしまったのかも知れない。このままでは、早々と『覚醒』してしまうのでは・・・
ツカツカと歩を進めるしおり。そうは言っても、不安を拭えないな糸子は、後ろで『発明品』を構える。
「ショウリさん、ちょっといい?」
自然に、普通に声をかけるしおり。しかし、そのしおりの態度を見て、案の定、12は怒り出す。
「てっ、てめぇ!何当たり前の様に割って入ってきてんだぁ!」
攻撃対象を、ショウリからしおりに換える12。まるで『燕』の様な軽やかな動きだ。そう、12の獣の特性はそのまま『燕』なのだ。凄まじいスピードでしおりに迫り来る12。しかししおりは、敢えて歩速を早め、12の接近のタイミングと攻撃の間合いを狂わせる。
「!?チッ、待てコラッ!」
一度しおりを通り越すと、もう一度仕切り直す。そして、またすぐさま飛びかかろうとする12。しかし、そこに糸子の『発明品』が火を吹く。何やら得体の知れない攻撃。そう思った12は、後ろに大きく飛び退きながら躱す。今や、ショウリと12の間にはかなりの距離ができている。その間に、しおりはショウリのすぐ側まで来ていた。
ショウリに耳打ちするしおり。それを聞いたショウリは目から鱗が落ちた。
そうか・・・そういう力の使い方があるのか・・・
どうやらショウリは何かを掴んだ様だ。
とりあえず用が済んだので、再び糸子の元に戻ろうとするしおり。しかし、怒りの12が迫り来る。
「ふざけやがって!まずはテメエからだ!」
怒りを露わにする12。『生命エネルギー』が迸っている。しかし・・・
「お前、の、相手、は、俺だろ。」
ショウリがしおりの前で立ちはだかる。それでも関係なく突き進んで来る12。どうせ手も足も出ないだろうと読んでいたのだ。素早く拳を繰り出す12。それを先ほどと同様に防御するショウリ。しかし、違うのはここからだった。
反撃の態勢をとるショウリを見て、12は鼻で笑いながらまた躱そうとする。だが、今度のショウリは、いつもの様に拳にエネルギーを溜めるのではなく、肩、そして腰にエネルギーを流し、攻撃の『発射台』を強化する。。そして、そのまま一気に拳を突き出す。
グシャ!
12のスピードを上回る、ショウリの拳の速度。今まで当たらなかったショウリの攻撃が、12の顔面にクリーンヒットした。
???!
何が起きたのかわからないまま、吹き飛んでいく12。そしてそのまま、広場を囲う様に生えている木々の1本に激突する。顔は、思った程グチャグチャにはなっていない。何なら、まだ意識がある様だ。恐らく、まだ慣れていないエネルギーの使い方で、拳に纏う量が少なかったのだろう。しかし、これでもうショウリが12に負ける事はない。勝負はついたのだ。
「7、分かっておるだろうな。貴様には今までの事も含め、しっかりと償ってもらうぞえ。」
殺気を放ちながら、じわじわと7に近寄るミタマ。多少エネルギーを削られたとはいえ、まだまだ余力がある。7を圧倒するには十分な程にだ。顔中汗をかき、焦りが隠しきれない7。ミタマは、更に7を追い込むかの様に、自分の獣の特性を『生命エネルギー』で増幅させ、全身に纏う。恐ろしいほどのプレッシャー。そんなミタマの背後に見えるもの。それは、やたらと尻尾の多い・・・
・・・狐。
そう、ミタマは『狐』の『古の血動』なのだ。
自分の周りにエネルギーで作った火の玉を6個出現させ、自在に操るミタマ。『狐火』と言うやつか。
「終わりじゃ。蛇よ・・・」
右手をゆっくりと7に向けて伸ばす。すると、狐火の1つが7目掛けて飛んでいく。炎自体は小さく見えるのだが、物凄いエネルギー量が凝縮されている。当たれば恐らく、一撃で決まるだろう。
バフォン!
炸裂する音。しかし、当たったのは7にではなかった。黒マントを着た7の手下が、いつの間にか現れて、盾になったのである。一体どこから・・・そして、登場するやいなや、黒焦げになり地に帰っていく黒マント。なんと哀れな・・・
「まだですぞ。ここからは時間稼ぎにだけ集中させてもらいます。もうじき、『統括』が来られますからな。」
7がそう言うと、地中から5体の黒マントが這い出て来る。恐らく、全部が『古の血動』なのだろう。5体はフォーメーションを組み、7を守る様に立ち塞がる。
「やれやれ、分かっとらん様だなえ。」
狐火の1つを操り、それをあろうことか自分に向けて飛ばす。まともに喰らうミタマ。しかし・・・
華麗に、まるで焔のドレスを纏ったかの様に、エネルギーを『着こなす』ミタマ。
これは・・・
「美しい・・・」
7は感動の声を上げる。確かに、美しい。だが・・・恐ろしい。
あれだけのエネルギーを制御できるのか・・・いや、それよりも、あの狐火1つにこれだけのエネルギーが練られていたのか・・・
「いくぞえ。」
声を発して間も無く、黒マントの1体が吹き飛ぶ。まさに電光石火。神がかりなスピードで、攻撃を与えたのだ。これが『覚醒者』の力なのか。それともミタマが特別なのか。完全に、完璧に能力を使いこなしている。
あっという間に、残り4体の黒マント達をあちこちに吹き飛ばしていくミタマ。それでもなお、纏っているエネルギーは全く衰えていない。
「もうよいだろう。小細工はせず、潔く、お主自らがかかってこんか!」
どうにも男らしくない7に、腹わたが煮えくり返る思いのミタマ。だが、そんなミタマの気持ちを知ってか知らずか、7はまた新たな手下を呼び出そうとする。
「ワシのとっておきの1体をご紹介させていただきましょう。」
そう言うと、両手を地面に付ける7。しかし、わざわざ敵が増えるのを待ってやる必要は無い。ミタマは地面を軽く蹴ると、一気に間合いを詰め、カタをつけようとする。炎に包まれた拳を突き出すミタマ。
バイィィィン!
勝負を決めるだけの力が込められた一撃を、地中から伸びてきた大振りの剣に阻まれてしまう。
「ほう・・・これを止めるか。」
感心するミタマ。流石はとっておきというだけのことはある。どれだけの猛者が出て来るのだろう。
メリメリと地面を割って現れたのは・・・
「ルオオオオオオオオオオ!」
雄叫びを上げ、自分の存在を周りに示す。そこにいた誰もが、『それに』目を向ける。
「うわっ!何あれ!」
嫌そうな声を上げるしおり。
「なんか、ホラー映画にでも出てきそうなのが出てきたね。」
これまた、嫌そうに言う糸子。
2人がそう言うのも仕方がない。何故なら『それ』は、黒い覆面で顔を隠し、上半身はほぼ裸。ショウリの様に、全身を筋肉の鎧で包んでいて、先程の大振りの剣を軽々と携えている。糸子の言うように、その姿はまるでホラー映画の中の『地獄の刑執行人』の様な格好だ。
細い木の枝でも扱うかの様に、大剣をクルクル回しながらミタマに近づいていく黒覆面。そして・・・
「ルオオッ!」
一吠えを上げ、一気にミタマに襲いかかる。間合いに入るや否や、高々と大剣を振り上げ、そして振り下ろす。
しかし、事もあろうかその一太刀を、左腕一本で受け止めるミタマ。焔のエネルギーの防御壁で全身を覆っている為、肉体はおろか、着衣にすら傷1つつかない。だが、ミタマの足元の石畳は、その衝撃波で稲妻模様のヒビを伸ばしていく。黒覆面の攻撃は収まらない。見るからに重たそうな、大柄な身体を扱っているとは思えない程の、軽やか且つ俊敏な動きで、あらゆる剣技を繰り出す。
防戦一方の闘いだ。雨の様な黒覆面の攻撃を、焔の雨合羽で防御し続けるミタマ。
少しすると・・・ミタマは軽くため息をつく。そして・・・
黒覆面の、渾身の突きを右手人差し指と中指で軽々と止める。そして・・・それだけならまだしも、そのまま熱で大剣を溶かしていく。
!!
驚愕する黒覆面。今の今まで押していたはずなのに。急いでミタマから剣を引き離す。見ると、刃の半分以上が焼失している。武器を破壊され頭に来たのか、剣を放り投げ、肉弾戦を仕掛けて来る。
一直線に突撃して来た黒覆面を、ミタマはゲンコツ一発で難なく叩き落とす。
ドゴンッ!
地面に頭からメリ込む黒覆面。そして、そのままピクリとも動かなくなる。その様子をフラフラと立ち上がりながら見ていた12は震え上がった。
「なんてこった。俺が勝てたことの無い『処刑人』をあんなにあっさり・・・」
12はミタマの力を見誤っていた。よくても7より『少し』強いだけだと思っていた。しかし現実は・・・7の『死者使い』の能力を意にも介さない、圧倒的な力の差。『数字』が1つ変わるだけで、こんなにも違うのか・・・
横目にショウリの近づいて来る姿が見える。12はもう分かっていた。自分ではショウリに勝てないことを。こんな状況ではあるが、とにかく7に助けを求めなくては。きっと、なんとかしてくれるに違いない。敵前逃亡する12。そして、向かう先の途中にリュウトがいた。
・・・腹いせしてやる!
何やら良からぬことを考える12。
だが、期待を寄せている『目的地』である7はというと、改めて知るミタマの力の前に、もはやなす術なく、ただ立っていた。
「ふぅ、また言う様じゃな。・・・終わりじゃ、蛇よ。」
圧倒的なミタマの力。焔を纏い、悠然と立つその姿は、思わず見惚れてしまう程に、あまりにも美しい。7は・・・覚悟を決めた・・・
リュウトは攻めあぐねていた。どうやら、先程の一撃でかなり警戒されてしまっている様だ。近づこうとすれば、距離を取られてしまう。闘いを長引かせるわけにはいかないのに。一体どうすれば・・・
そんな膠着状態の続いている、その最中だった。
「ルオオオオオオオオオオ!」
ミタマ達の方から雄叫びが聞こえてきた。そこにいたみんなが気をとられる中で、リュウトだけは正面の敵から視線を逸らしていなかった。
!今だ!今しかない!
首を雄叫びの方へ向けていた為、リュウトの動きに反応が遅れるミタマ兄。そこにリュウトの連続攻撃が炸裂する。まず、両膝、両肘を徹底的にトンファーで殴りつけ、ミタマ兄の身動きを封じる。そして、トンファーの柄の部分を額に当てる。その後、足、腰、肩を回転させることによりエネルギーを発生させ、そのままトンファーにそのエネルギーを乗せる。
「・・・じゃあな・・・」
ミタマ兄の頭部を一気に打ち抜くリュウト。今まで感じたことの無い手応え。まさに『会心の一撃』というやつだ。そう、リュウトは自分の『生命エネルギー』を乗せて攻撃したのだ。それが上手くいった。前の相手でも、別に出し惜しみをしていたわけでは無い。まだ上手く使いこなせていなかったのだ。その為、変にエネルギーを消費し、余力が無くなっていたのである。
後ろに、仰け反るように崩れ落ちていくミタマ兄。その顔は、どこか安心した様な、安らかな表情をしている様に見えた。
・・・ありがとう・・・
ミタマ兄の、心の声が聞こえた様な気がする。
肉体的なダメージを受けたわけでは無いのだが、満身創痍のリュウト。『ナンバーホルダー』では無い為、今ある残りのエネルギー量は、もう既に空に近かった。そんな状態で、何とか倒すことが出来き、ホッと安堵のため息をつくリュウト。そしてそのまま周りを見渡す。ミタマは、どうやらあのデカブツを一蹴した様だ。流石だな。ショウリの方に目をやると、近くにしおりと糸子もいる。
?何か、こっちに向かって叫んでいるぞ。
「避けて!リュウ兄!!」
ザンッ!
聞こえた時にはもう遅かった。死角から襲いかかる12の攻撃を、避ける事が出来なかったのだ。12の手刀による斬撃を、背中に受けてしまったリュウト。
「かっ、はぁ・・・『怪奇カンパチ紙芝居』・・・か・・・」
バタンッ・・・
苦痛の声と捨て台詞を発し、その場に倒れ込む。
「はっはぁー!どうだ!俺は強えんだよ!思い知ったか!」
得意げに、そう言いながらリュウトの周りを飛び回っていた12だったが、ショウリが自分を追って、向かってきているのを見ると、7に助けを求めに再び飛び立つ。
「リュウトさん!」
もちろん、しおりと糸子も駆け出していた。
そして、リュウトのすぐそばまで来ると、糸子はすぐさま声をかけたり、脈をとったり、呼吸を見たりしている。しかし、しおりはというと・・・少し距離を取り、その見た事も無いリュウトの姿を、目を見開き呆然と見ていた。ワナワナと震えている。
「良かった。気は失ってるけど、思ったよりも大丈夫そうだよしおりちゃん。咄嗟にこの武器とこの木の枝で防御したんだね。さすがリュウトさんだ。」
一先ず安心する糸子。だが、しおりは聞いていなかった。しおりにとって、目の前にある光景が全てだった。大切な人が傷つけられ、倒れている・・・
「・・・くも・・・よくもあたしのリュウ兄を・・・」
プチッ・・・
『 キレて』しまったしおり。
その音がした直後、空気が張り詰めていく。
「?・・・何事じゃ?」
この気配に最初に気付いたのはミタマだった。
その後、ショウリも7も12も気付き、そして糸子も気付く。
みんなが、うつむいた状態のしおりに注目している。
「糸ちゃん・・・リュウ兄、お願いね。」
どこを見ているかわからない、そんな目線のしおりは、糸子にリュウトのことを頼む。唖然としながら頷く糸子。そして・・・
ブワッ!
『生命エネルギー』がしおりから溢れ出す。その『量』たるや・・・あっという間に半径100mを覆う程だ。
「しおり嬢ちゃん!ダメじゃ!意思の力で抑えるのじゃ!」
慌てるミタマ。恐れていた『暴走』をしおりが起こしてしまったからだ。このままでは、エネルギーを放出し過ぎて・・・命に関わるかも知れない。
「これはこれは・・・あの娘・・・『ナンバーホルダー』だったのか・・・」
まさかの事態に驚きを隠せない7。だが、焦った様子では無い。何か思惑があるのだろう。
各々がそれぞれの目線でしおりを見ている。しかしそんな事、知ったことじゃ無い!
無表情で呟くしおり。
「・・・あんたら・・・壊してやる・・・」
顔を上げ、見せたその瞳は、金色に輝いていた・・・
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