第7話


「俺は少し作業をする」


 家に着くなり、俊太はそう言うと、部屋へと引き上げていった。

 それが俊太にとってはいつものことらしい。何をするのかと尋ねてみたけど、答えてはくれなかった。


「お兄ちゃん強かったでしょ?」


 亜実は笑顔で話すけど、確かにあの強さは尋常じゃないと思えた。どこか人間離れしている、そんな感じすら受けてしまうのだった。


「お兄ちゃんそれにね、ハッカーなんだよ」


「ハッカー?」


「そう、いろんな国の攻撃から日本を守ってるんだって。それがお兄ちゃんのお仕事。私もよく知らないんだけどね」


 修人の頭は混乱していた、次から次に、信じられないような言葉が亜実の口から発せられるからだ。

 そして、亜実はそんなお兄ちゃんとお姉ちゃんに憧れていて、いつか、その2人に追いつきたいと思っているみたいだった。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんが好きなんだね」


 亜実は笑顔で頷き、答えるのだった。そして、亜実はいたずらっぽい顔をすると、ちょっと行ってくると言って、どこかに行ってしまうのだった。


 ギャー!!!


 修人の耳に飛び込んできたのは悲鳴だった。修人が辺りを見渡すと、どうやらその悲鳴はこの家からのようだった。

 修人は、廊下を走り、階段を駆け上がり、その悲鳴の音源を探す。するとその音源は一つの部屋から漏れているようだった。

 修人は慌ててその扉を開く。するとそこには亜実と俊太の姿が。


「ヴゥ、ギブ、ギブ」


 俊太は亜実の腕を持ち、関節を固めるように、自分に引き寄せている。そんな姿が修人の目に移り、修人はほっとするのだった。


「侵入者が来たのでな、捕獲していた」


 俊太は、関節技を決めながら、冗談なのかまじめなのかわからない口調でそう言った。俊太はようやくその侵入者を開放するとまた机に向かうのだった。


「修人、お兄ちゃん酷いんだよ。お兄ちゃんにじゃれたら、関節技してきた」


 亜実の目はもはや涙交じりで、修人にそう訴えるのだった。それを聞くも、俊太はもはや、目の前の画面に集中し振り向きもしない。


「修人に相手してもらえ、俺は忙しいんだ」


 亜実は口を膨らませ、スリッパをペタペタとさせ部屋を後にする。

 俊太の前には、いくつもモニターが並び、キーボードで必死に何かを打っているようだった。その部屋はよく整頓されていて、余計なものが何もない、そんな印象を受けた。

 修人は、俊太の邪魔をしては悪いと思い、何も告げず、彼もまた部屋を後にするのだった。





「亜実ちゃん、お兄さんってどういう人?」


 今までのことでお兄さんが十分に人間離れをしていることはわかったけど、修人はあえて、亜実にそのことを聞いてみたくなった。


「お兄ちゃんは私の憧れだよ」


 亜実は、目を輝かせ、そう答える。亜実のその目を見れば、彼女が嘘をついていないことは明白だった。


「それに、スポーツ万能で、頭脳明晰、体は引き締まってるけど、余分な部分がない、パーフェクトボディだよ」


「パーフェクトボディ……」


「お兄ちゃんの体見ると、つい見とれちゃうんだから。すごいでしょ?」


 亜実はほんとに嬉しそうに、目を輝かせてそう話す。そして、お兄ちゃんにかなうものなんてこの世にいないとも。


「お兄ちゃんと一緒にお風呂にも入るし、たまにお兄ちゃんの服貸してもらって着ることもあるんだよ」


 修人はもうあっけにとられるしかなかった。亜実は本当にお兄ちゃんのことが好きなんだなと。


「お風呂?」


 亜実はまた、大きく運と頷く。それのどこがおかしいのかというように。


「兄弟でお風呂に入ること、おかしい?」


 そう言われるも、修人の心は複雑だった。亜実は、修人の目から見れば十代前半といったところだろうか、そんな亜実がいまだに兄とお風呂に入っているとは少し考えにくかった。


「お姉ちゃんはどんな人?」


 ついでというわけではないけど、修人のことをさんざんこき下ろしてくれた、お姉さんについても聞いてみることにした。


「お姉ちゃんは優しいよ。大好き」


「そうなんだね」


 結局、亜実との話で、この兄弟はほんとに仲がいいのだなと、そう思えるのだった。それがかえって、修人自身、自分がここにいてもいいのかという思いにも駆られるのだった。

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