第6話


 ひとしきり、朝のランニングを終えた4人は、近くの公園に来ていた。

 お兄さんが言うには、これから実地トレーニングを行うという事らしい。


「亜実、俺を殺すつもりで全力で来い」


 俊太がそう言うと、亜実と向かい合い、構えの体勢を取る。

 最初に動いたのは亜実だった、間合いを詰めると、亜実は俊太の腕を取り、体勢を崩しにかかる。


 早い。亜実の行動は素早く、目で追うのがやっとだった。


 崩しにかかるものの、俊太の力が強いのか、俊太はピクリともしない。

 そして、そのまま掴まれた腕で亜実を抑えるように動かし、亜実は徐々に膝を曲げ、やがては地面に伏してしまう。


「だめだ、亜実では相手にならんな。修人、相手してくれ」


 その言葉に、修人はきょとんとした。


「え?俺?」


 俊太は本気だった、その顔はいつでも来いという顔をしていた。

 修人も、格闘技をかじったことがあったため、全く自信がないというわけではなかった。

 修人は、試しにという思いで、俊太と向かい合う。


 膝にぐっと力を入れ、俊太との間合いを詰めると、右腕を振りぬく。


 だけど、俊太も素早く、すっとよけられてしまう。そして、修人の拳を掴むと、円を描くようにゆっくりと回し、修人は簡単に地に伏せられてしまうのだった。

 亜実の時といい、修人の時といい、俊太は身動き一つしていない。


「修人、いい感じだ、もう一回」


 修人には、何がいい感じなのかわからなかったけれど、そう俊太に促され、立ち上がると、もう一度向かい合う。

 修人は考えた、まともにやり合ってもだめだ。何か隙ができればと、そして、ある考えに到達する。


 修人は、もう一度、膝にぐっと力を込めると、俊太に詰め寄り、すっと体勢を低くし、足元に回し蹴りをお見舞いする。


 ガッ


 修人の蹴りは見事に俊太の足元をとらえる。だけど、俊太はやはり、ピクリともしない。そして、俊太が足を振り上げると、体勢を崩すのは修人の方だった。


「きゃははははは。修人、お兄ちゃんの強さ思い知ったか」


 修人は確かに感じていた、格の違いというものを。


「ダメだな、亜実、修人とやってみるか」


 亜実は笑顔で、余裕といった感じで大きく頷くと、修人と向き合う。

 修人は思った、亜実は体が小さいものの、あの素早い動き、侮れないと。


 そして、修人は体を固くし、構える。


 やはり先に動いたのは、亜実、修人との間合いを詰めると、修人の襟首をつかみ、くるりと振り返り、腰を落とす。


 修人は、亜実に引かれ、気付けば亜実の背中の上に。


 柔道。


 気づいた時には遅かった。修人の体は宙を舞い、次の瞬間、地面にたたきつけられる。


「修人、そんなにがちがちじゃ、隙だらけだよ」


 亜実は、楽しそうに、修人にそう告げる。


 修人の頭は混乱していた、そして思っていた、この兄弟はなんなんだと。

 修人は、立ち上がると、砂の味をかみしめ、再び、亜実と向かい合う。


 近くで、心配そうに見ていた雪が口を開く。


「亜実、あまりやりすぎちゃだめだよ」


「分かってる。軽く遊んであげてるだけだから」


 亜実のその言葉に修人もさすがにむっとなる。修人は亜実との間合いを詰めると、亜実の肩を掴み、舞い上がる。

 小さな亜実だからできる芸当だった。大車輪の要領で、亜実の頭上の上に来ると、勢い、蹴りを振り下ろす。


「亜実!危ない!よけろ!」


 そして、修人の脚が亜実に接触する瞬間、修人の脚は地面につく。

 修人にもよくわかっていた、それは危険な行為だということが、だから、振り下ろすとき、勢いをわざと殺し、着地したのだった。


 亜実は唖然としていた。おそらく、そんなアクロバティックな攻撃受けたことがなかったのかもしれない。


「亜実、今の食らっていたら、吹き飛んでたぞ」


 亜実と同じく、修人も身軽さには自信があったのだ。それを見た俊太も少し驚いた表情を見せるのだった。

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