第5話


「おっきろー」


 いつの間にか部屋に入ってきた亜実は、寝ている修人に馬乗りになり、そのうえでドスドスと飛び跳ねる。

 修人は最初何事かと思ったけど、徐々に頭が覚醒するにつれ、そこが自分の家ではないことを知り、若干の違和感を覚えるのだった。


 修人は、目を擦り、あくびをし、伸びをしながら起き上がると、そこには亜実の笑顔があった。


「朝だぞ」


 亜実にそう促され、時計をふと見てみると、5時30分を指していた。修人の頭はしばらく混乱した。

 それは朝と呼ぶにはあまりに早かったからだ。まだ寝たりない修人は少しむすっとした顔を作るけど、仕方ないといった風に立ち上がる。


 まだボウとする頭で、そこに突っ立っていると、亜実が修人の手を取り、ぐいと引っ張り部屋を連れ出そうとする。

 その力は案外強く、修人はつんのめる形で引っ張られることとなる。

 亜実は、だらだらと歩く修人を見て、一喝入れるのだった。


「シャキッとしなさい」


「まだ5時30分だぞ」


 亜実はそれを聞くも、そんなことお構いなしといった風に、修人を洗面所に押し込む。


「顔洗って、タオルはここ、終わったら朝ご飯だよ」


 そう早口に言うと、亜実は洗面所を例の大きなスリッパをペタペタとさせながら立ち去っていくのだった。


 そこには、髪の毛がぼさぼさでけだるそうな男が映っていた。

 修人は仕方なく蛇口をひねり、水を出すと、バシャバシャと顔を洗う。

 冷たい。

 ようやく覚めた頭で、修人は顔を拭き、衣服を整えると、台所へと向かう。


 台所にはすでに朝食が用意されていて、テーブルの上には、卵焼きやらサラダやら、お味噌汁やらが乗っていた。

 それは、姉の雪が用意してくれたものだと、亜実が教えてくれる。


「いただきます」


 そう言うと、皆で一斉に食事を開始する。


「いつもこんなに早いんですか?」


 修人は思ったことをそのまま口にしてみた。


「あぁ、いつもこのくらいだ。早いのか?」


「早い、と思います」


「いろいろやることもあるしな」


「修人、ご飯食べたら走るよ」


 そこに急に亜実が話に混ざってくる。


「走る?」


 亜実は大きく頷くとまた、パクパクと食べだすのだった。





 食事がすむと、皆軽装に着替えて庭に集まっていた。

 そして、屈伸をしたり、ストレッチがひとしきり終わると走り出す。


「修人も行くよ」


「え?俺も?」


 いつもこんなことしてるんだと、ぼやとみていた修人は急に声をかけられ、はっとなって我に返る。

 そんな修人の手を亜実はぐいと引っ張り、走りに誘う。


 仕方なく修人も走り出し、亜実と俊太の後に続く。

 修人は体力に自信がないわけではなかった、部活もやっていたし、学校には自転車で通っていたからだ。


 そして、朝もやの中、まだ茜色の太陽の下3人は、連れ立って走っていくのだった。


 しばらく経ったころだろうか、自信のあるはずの修人はだんだん話され始め、2人に置いていかれる形となる。

 修人は悩んだ、2人に追いつきたい気持ちもあるけど、これ以上加速すれば体力が持たない。

 結局修人は、そのジレンマの中、自分のペースを保つことを選択する。





「修人、おっそーい」


 息を切らしながらようやく、風間家の庭にたどり着くと、修人はその場で息を整えた。


「2人が、早すぎるんだ」


「お兄ちゃんの体力はすごいんだよ、あたしはまだまだだけどね」


 そんな2人を見て、呆れる修人だった。

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