第4話


「そうだった、俺たちの両親の話だったな」


 俊太の丁寧に言うその声はきれいで、思わず聞き惚れてしまうほどだった。


「父親は海外調査のため、ずっと出てて一年中戻ってくることはないな」


「母親は……」


 俊太はそこで言葉を区切り、それ以上話そうとしなかった。


「入院してます」


 その続きを雪が手短に話すのだった。


「そうなんですね」


「だから、ここには俺たち兄弟しか住んでない」


 そう言って、俊太はパスタを一口口にする。


「そうだ、修人だったな、ちょっといいか」


 そう言うと、俊太は席を立ち、修人の元に寄ると耳打ちをするのだった。

 修人は、俊太のほのかに香る香りにしばし酔いしれ、その話に耳を傾ける――――


――――


「ということだ」


「沈黙は同意の証と取る」


「……」


「よし、決まりだ、修人は今日からしばらくここに住む。

 二人ともよろしく頼んだぞ」


 修人は動揺していた、耳打ちされた内容もそうだったし、しばらくここに住むということが理解できなかった。

 急にこのお兄さんは何を言い出したのか、修人にはしばらく理解できなかった。


「え、ほんとに、やったー」


 嬉しそうに返答するのは亜実だった。亜実はパスタのソースを口の周りにいっぱいつけて笑顔を見せるのだった。

 雪はというと、少しむすっとしていた。


 ひょんなことから始まってしまった見知らぬ兄弟三人との共同生活。修人にはしばらく予定もなかったし、ちょっとだけの間ならそう思えるのだった。

 そう、ちょっとの間だけなら――――





「修人の部屋ここね」


 部屋に案内してくれたのは亜実だった。相変わらず、その足より大きいと思われるスリッパをペタペタとさせ、修人を先導してくれた。


「ここはお父さんの使ってた部屋だよ」


「ちなみに、周りのもの壊しちゃだめよ」


 亜実はいたずらっぽく笑い、そう言うと部屋を出ていくのだった。


 そこは落ち着いた雰囲気の部屋で、机の上には本が丁寧に並び、電気スタンドに筆記具が乗ったままになっていた。

 また、ガラス張りの本棚にもびっしりと本が並び、覗いてみると、各国の歴史や、風土といった本が並んでいたけど、ほとんどが海外の言葉で書かれていて、修人にはそれがどんなものなのかわからなかった。


 修人は、ベッドに腰掛けると、今日起きたことを頭の中で思い浮かべていた。

 迷子になり、女の子に声をかけられ、犬に襲われ、素敵なお兄さんに助けられ、そして気づいたらここに。


 修人はだけど、楽観的だった。なるようになるさと、そしてその場に寝転がり、いつの間にか眠ってしまったようだった――――

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