第3話


「ありがとうございます」


 修人は青年に軽く頭を下げると、青年は修人に手を差し伸べ、握手を求めてくる。


「俺は、風間俊太。こっちは風間雪。よろしくな」


 そして、修人は、彼のさわやかさに、どこかしら照れのようなものを感じて、頬にほんのり赤みがさしてしまう。


「俺は、修人よろしくお願いします」


「そんなことより雪、昼飯できたぞ」


「はい、今行きます」


 雪は、短く返事をすると、衣服を整えて、家路へ向かおうとする。


「あ、まって、俺は?」


 修人は迷子にも関わらず、すっかり置いていかれた形になるのだった。


「修人、だったな、お前も一緒にどうだ?」


「いいんですか?」


「気にするな、兄弟三人でさみしいと思っていたところだ」


「ご兄弟……三人ですか?」


「あぁ、話せば長い。昼めし食いながらでも話そうと思うがどうだ」


「はい」


「そんなにかしこまらなくてもいいよ。気軽に話そう」


 修人は、先ほどのこともあり、俊太のことを心のどこかで尊敬し始めていたのかもしれない。


 そして、三人は連れ立って、風間家を目指すのだった。





 風間家らしきところに近づくと、角から女の子が急に飛び出し出迎えるのだった。


「亜実、危ないぞ、周りを見て行動しろ」


 俊太にそう言われると、その女の子は少ししょんぼりしたような表情を見せる。


 雪はそのさやかに駆け寄り、連れ立って家の中へ消えていくのだった。


 その家は、高いブロック塀に囲まれていて、申し訳程度の庭と、玄関の前には飛び石が設けられていた。

 構えは見たところ、二階建ての普通の家のようだった。


「こん、にちは。お邪魔します」


「大丈夫だ、俺たちしかいない」


「お兄ちゃん、その人だれ?」


 亜実は首を傾げ、遠慮という言葉を知らないのかというくらい率直な質問をしてくる。

 そして、俊太がかいつまんで話すと、ふんふんと話に聞き入り、納得しているようだった。


「それに、この人、道路で寝るのが好きな迷子さんです」


 俊太のまじめな話に続き、雪が余計なことを付け加える。


 亜実の顔はたちまち疑うような顔になり、やがてそれは哀れな子犬を見るような顔になる。


「いい年して、まい、ご……それでお腹すかせてるんだね

 お兄ちゃんの料理は天下一品なんだから、おなかもすぐいっぱいになるよ」


「あ、ありがとう」


 その言葉に、修人の顔はやや引きつっていた。というのも、第一印象が悪すぎるからだ。

 この二人の頭には修人は道路で寝ころぶ迷子とレッテルを張り、インプットされていることだろう。


「玄関で話しているのもなんだ、入ってくれ」


 そう促され、先だって亜実がスリッパをペタペタと鳴らし、玄関に隣接する部屋へと吸い込まれていく。

 それに残り三人も続いた。


 テーブルにはすでに三人分の料理が用意されていて、修人の分は亜実が用意してくれるのだった。


「はい、どうぞ」


 そして、出されて料理は、ハーブのよく効いた海鮮パスタだった。

 上にハーブが乗り、周りにパセリの粉が散りばめられ、具はイカリングやら海老やら貝やらがパスタとよく絡んでいて、おいしそうなスープがかけられていた。


「これ、お兄さんが作ったんですか?」


 そう聞いた修人だったけど、俊太に、それがどうしたという怪訝な顔をされてしまうのだった。

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