第2話
「あの」
すっかり景色にのめりこみ、意識が空へと向かっていたころ
それを破る控えめな声が頭に振ってきた
「ここで何してるんですか?」
「昼寝」
「・・・」
彼女はやや黙り込み、想像するに豆鉄砲で撃たれたような
顔をしていたるように思う
「危ないですよ」
彼女の声を追いかけるように、風が吹き抜け衣服を揺らす
「・・・白・・・か・・・確かに危ないかもね」
状況を理解し、はっとなった彼女は顔の下から赤みを増し
修人の肩を蹴り上げるのだった
「いってぇ」
そしてそれは何度も繰り返され、彼女は何度も何度も蹴りをお見舞いした
「いって、いってぇ、まじでいてー、わかった、ごめん」
修人は彼女に謝罪しようと起き上がるも
彼女はそっぽを向き目を合わせようともしてくれそうになかった
(車に引かれてしまえばよかったのに・・・)
「ん?何か言った?」
「何も」
彼女は、そういうとそっぽを向きすたすたと離れていった
「まって、迷子を置いてくなんてひどい話だ」
彼女は立ち止まり、振り向かずにそれに答える
「迷子なら迷子らしくしてください」
「迷子らしいだろ、ほら、何も持ってないし」
修人は大げさに両手を広げ、彼女に訴えかける
「迷子の人が道に寝ころんだりしません。それにした・・した・・」
「した?」
それを聞いた彼女は再び振り向き、修人の股間を思いきりに蹴り上げる
「ふげ」
修人はその場にうずくまり、少し大げさにのたうち回って見せた
「自業自得です」
その姿を見ても少女は冷静で、吐き捨てるような言葉を発すると再びその場から離れようとした
「まって、道に迷ってて帰れないんだ」
少女はこちらに振り向きもせず、肩を落とすのだった――――
「待って、聞き取れなかった」
彼女のその声はなめらかではあったけど
早口で、とても聞き取れるようなものではなかった
それは、日本語でありながら他国語を聞いているようでもあった
呼び止められた彼女は、ため息を一つすると
仕方ないというように肩を落とし、修人についてくるように言いった
慌ててバッグをひったくり、早足で彼女に近寄ると
彼女の身長は修人の顎ほどの高さで
やや色の抜けた茶色の頭が目の前で揺れていた
「のどかでいいところですね」
他愛のない質問だったけど、修人はそのように思っていた
日頃の疲れを癒しにこの場に来たのも確かなことだった
「あなたは知らなすぎるんです」
少女の回答は意外なものだった
「知らないって、何……」
ガシャン カカカカカカ ガシャン
その意外な回答の真意を訪ねようとしたその時
大きな物音が鳴り、振り向くと
そこには番犬と思われる大型犬が息を荒げ、よだれを垂らし
歯をむき出しにして、今にも襲い掛かってくるところだった
修人はとっさにバッグを構え防御の態勢を取ると
間一髪番犬はバッグに突っ込み、その勢い修人は倒れこんだ
番犬にマウントを取られる形となった
息を荒くしたそいつは、バッグの端から顔を突っ込み
修人の顔を執拗に噛みつこうとする
バシ カン カカカカカ
小石が転がるような音が耳に届いたかと思うと
その番犬は修人の上から降り、去っていくのだった
修人には何が起きたのかわからなかった
「お兄ちゃん」
突如駆けつけた青年に、少女はそういった
「そこの人大丈夫か」
青年は落ち着いた声で修人に声をかけ、修人の横に膝をつくと
修人は恐る恐るバッグをずらし、周囲を確認した
「もういない」
言葉通り番犬の姿はすっかりなく、整った顔立ちの青年と
少女の顔が覗いていた
「その人道路で寝るのが趣味みたいです」
そんな修人に、少女は嫌みのような言葉を投げかける
「雪も意地悪言うようになったな」
青年はそういうと、修人の手を引き立ち上がらせるのだった
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