3.13ㅤ魔力覚醒

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 魔法。それは古代神権政治の道具として、また戦争や労働に使われていた。現在では世界の主な大陸に浸透し始めており、特に文明の発達した都市などには”必需品”となっている。

 あまり多くのことが分かっていない魔法だが、それでも多くの経験則と古代からの言い伝えで作成された魔導書はかなり参考になる。

 そしてそこに掲載された魔法理論は使用者の手助けになることもあるが、それは絶対ではない。なぜか? その答えは、「魔法自体がどのようにして成り立っているのか」という大前提が、いまだに解明されていないことにある。これは人間が魔法を見つけてから治まることのない最大の疑問の一つである。

 人間に宿る精霊の力を仮る説、また空気中の魔導物質エーテルを用いる説など様々だが、どの流派にも、ひとつだけ共通する言い伝えがある。

 それは、生命の危機に代表されるような極限状態に陥ると、「眠れる魔力」が覚醒するというものだ。自他は問わない。

 体内の芯が燃えるよう。誰かが言った。

 そして此の世界にまた、魔法に目覚めたものが一人、名は、ロキアス・アルノーザ——。


 叫んだ瞬間、腹からじわりと熱がこみあげて来た。そして、汗が蒸発するのではないかというくらいの熱を帯びた肌が冷たい大気に触れると、強い鼓動が感じられた。

 ラクトには、全身を未知の感覚が襲った。

 ヴァネッサには、背に衝撃が叩きつけられた。

 何が起きたのだろう。もう一度下を見、土塊の浮遊する腕を見た。その、体に巡る力を強めようと念じると、手のひらに浮く塊が大きくなった。こうしてようやく理解したのだ。自分が魔力を手に入れたこと、そしてヴァネッサを助けるようにしてせり出した岩は、自分が作ったものだと。


「ヴァ、ヴァナ、大丈夫かい!?」


 返事の代わりに、彼女は手で状態を伝える。


「僕……、とうとう魔法を使えるようになったみたいだ!」

「そのようだ、な」

「やっとだよ。僕はやっと報われたんだ……」


 ラクトの体に起きた変化は彼にとって、とてつもない衝撃を与えた。だから誰にも聞こえないくらいの声量でしみじみと実感しながら、事実を徐に受け入れていく。また、ヴァネッサが上へと登ってこられるよう、岩を階段状に追加していった。


「本当に、大丈夫かい?」

「ああ」


 かなりそっけない返事だったが、確かに別段大きなけがをした様子もない。ただ、そこにはいつものヴァネッサはもはやいなかった。ラクトに一度も目を合わせずに彼のもとに登り切った彼女は、しばらくの間眼下に広がる自然をぼうっと見つめていたのだ。いつもの、隙を見せない彼女が嘘だったかのように。

 彼女の背を見るラクトは、対して自信に満ち溢れていた。体から生の力がほとばしった彼には、いつもみるヴァネッサの背中とはまた違う景色――新たな世界が広がっていた。


「さて、行こうか」


 その言葉を発したヴァネッサの唇は、手は、足は、まだ幽かにわなないていたことを、ラクトは知らなかった。



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