3.7 未来頼み
◆
「助けてくれて……ありがと、な。二人とも、かっこよかった」
「持てる力のうち、最も大きなものを使ったからな。」
「うん……。あいつ、このままだと世界を敵に回すんじゃないのか? なあ、そっちの兄さ……、まだ駄目か?」
ラクトはすっかり意気消沈しており、二人に顔を見せる様子はない。
「そっとしておいてやってくれ。富豪にとっての全財産が、ラクトにとっての自尊心だからな」
「ああ……」
うすうす気づいていたが、少年はこれで確信にいたった。前回会った時は図々しい物乞いだったが、今はいくらか成長している観がある。
「さ、本題に入ろうか。どうして君は、ここに来ていた? あの男(エラノー)に会うためか」
「まあ、そうだね」
目をそらし、ここから先は話そうとしない。おそらく触れてほしくないのだろうが、こちらは個人の意向を無視してまで情報を得ればならない。
「目的は?」
幾ばくかの時を挟んで、こう答えた。
「……わかるだろ、金だよ。俺は金がないから、オーランで物乞いをやってた。でも、もうあんな生活には飽き飽きだったんだよ。……。ああ、最初のうちは、人に頭まで下げて……、奴隷みたいに住み込みで働いて、奉公することもあった」
「ここに来れば、金が手に入ると?」
「そうだよ、それなら、僕も聞いた」
ラクトが会話に加わる。心の傷には触れないのが一番だと判断した二人は、のどで言葉を押しつぶして先を聞く。
「エラノーについての情報を集めているとき、宿近くに住む、領主に仕える騎士から噂を聞いたんだよ。とある男のもとに就けば、自分の得意なことをいかして働ける。うまくいけば一生遊んで暮らせるほどの大金を報酬として得られる、って内容の」
「まったく、その通りだった。だから俺は、あんたたちに金をせがったんだ」
「ここまでくる旅費か?」
「そう。けど、あんたが金貨をくれたから馬車と、少しの食料だけを用意すればよかったんだけどな」
まるで帰り道など考慮しないといった様子だ。だがその無謀さと大胆さが、彼をこの世界で物乞いとして生き長らえさせたのだろう。人にはそれぞれの存在価値がある。ヴァネッサは剣として、ラクトは知恵として、そしてこの少年は冒険として。エラノーは敵として存在するばかりか、三人を出逢わせた。すべては運命が導き、運命によって人は引き裂かれる。
「これを帰りの代金として、大事に使ってくれ」
今度は自分をよく言われたからではない。単純なる“生を守り抜く義務感”によってであった。ヴァネッサに続き、ラクトも金貨を二枚与える。
「これは、この先の将来という道を、大きく変えることもできる魔法の金属だから、上手に扱う必要がある。でも、君はもう大丈夫そうだ。贈るよ」
金属と金属の触れ合う音は、何とも心地よい。さらに、ひんやりとして滑りの良い表面が手に触れると、安心感さえも呼び覚まされる。たとえそれが、何にも替えられる魔法の金属でなくともだ。
少年は唇と、二人の慈悲深さを噛み締めた。思いやりの心は、互いが感情の交感を許し、認めた時だけに生じるものだとわかっていたのだ。
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