第16話 おしりかじり虫

 夕方。

 彩光あやみ(いかりさんと呼んだら怒る、結構怒りんぼさんで『いかり最高!(怒りマーックス)』などと呼ばれていたらしい)の家に行った。

 彩光のうちの真下に住んでるもいつものように当然居るが、何故か態度がソワソワしてる。


どうしたの意地悪妖怪女にいじめられたの、ママ(わたし)に隠し事しちゃだめよ」

 そう言って真正面に膝立ちしてぎゅっと抱きしめるとニッコリ笑顔。


「こら、変態魔女はあんたでしょ、人の恋人に触るんじゃないわよ」

「恋人って言うより、ペット可愛がりしてるんじゃないの、私の子供に変な事しないで」

「やっぱりオバサンだ、何年小学生やってるの」

「小学生なんてやってない、教員見習い、もういつだって教えられる、後は試験に合格すればいいだけよ、飲み物ぐらい出しなさいよ」

「蛇口からお水飲んで、それは良いけど先生と仲良過ぎ、お似合いのカップルって言われてるの知ってる」


 なおみを開放して、

「知ってる、別にどうでもいい、教員見習いだから先生をき使う訳にいかないでしょ」


 床に座り足を延ばして、なおみを太ももに座らせ後ろから抱きしめる。


「こら変態放しなさい、(なおみを引きはがして)十分お尻に敷いてるカップルどころか中年夫婦だね」

「誰が中年よ、あなたこそを好きな様に使ってない、背中のノミ取りさせてるんじゃない」

「私は猿か、うっきー、反対だから背中が痒いっていうからノミさがししてたの」

「背中じゃないよ、お尻が痒いんだよう」


 なおみは彩光の腕から逃げ出しお尻をボリボリ掻いている。


「それで、なんかの様子が変だと思った、なおみ、お尻齧かじられてない」

「齧られた、良く齧られるんだ」

「彩光、なにやってるの、なおみだっていつまでも子供じゃないんだから」

 立ち上がって彩光の前に立って抗議。

 彩光も立ち上がり下から睨みつけてくる、気の強さは私以上かも。

 

「何言ってるの、幼児扱いしてるのはそっちでしょ、ちょっとは男らしくなってくれないと」

「それとお尻を齧る関係は?」

「そりゃしっかりしろ、ガブリってところね」


 彩光は逃げていたなおみを即捕まえる、小さいだけあってすばしっこいこと。


「なおみ齧られてどう思うの」

「くすぐったいー、ひゃひゃひゃー」

「ハアー、バカらし、お好きにどうぞ、それでさあ一昨日の事故のお詫びにどこかに連れて行ってくれるって事になったんだけど、何処が良い?」

 床に座り直してから聞く。


「えー、夏休み終わってるじゃん、海に行きたかったのに」

「海?海なんて何しに行くの、火傷やけどするだけよ」


 今度は彩光が這って近くまで来て床の上で水かきの格好をしながら、

「ああ、あんた泳げなかったわね、運動させたら日本一なのにどうして泳げないの」

「人間は水生動物じゃないの、水に浸かれば体が溶けるのよ、知らないの」

「へーそれは知らなかった、要するに水が怖いのね」

 今度は深く潜る真似。


「こ、怖くなんて無いわよ、お水飲んでるし、お風呂にも入ってるもの」

「お風呂、深さ20センチ?」

「30センチ、お腹までからないと」

「普通肩まで浸かるのよ、ふーん意外な弱点が有ったのね」

「お腹まで浸かったら十分なの、良いこと教えてあげる、ドラキュラは日光に弱いけどお水はもっと苦手近くにバケツを置いておけば近寄って来ない」

「それあんただけ、でもドラキュラも今ではあんた一人かもね、誰かが噛みつかれたなんて聞かないし、噛みついたことあるの」

 

 彩光は自分の首をつかんで言う。


「ない、今目の前にいる可愛い女の子の首を噛んでやろうかなって思ってる」

「無理ね、可愛い女の子なんていない、骨に皮を張り付けた張り子のトラしかいないね」

「あなたねえ自分の事もう少し褒めてあげなさいよ」

 

 彩光は自分のほっぺたを両側に引っ張ってなおみを脅している。(そうにしか見えない)


「自分だって魔物だとかドラキュラだって言ってるじゃない、まあその白さはほんとに魔物級だけど、それと海と関係あるの」

「海って言うか日焼けすると火傷みたいになるから直射日光がダメ、海で直射日光なんかに当たったら体が灰になってしまうわ」

「火傷じゃないの?」

「だから数秒で火傷、それ以上当たったら灰になるの、ドラキュラの常識よ」

「そういう事か、でを狙ってる訳ね」

「いやいや、なおみは可愛いから遊んでいるだけ、自分の子供をミイラになんかしないから」

「ミイラ?ドラキュラじゃなくて」

「噛みついただけでドラキュラになれるもんですか、試してみる?」

「いらない」

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