第15話  サバを読む。

 掃除を終わらせまだ診療所の方に居るはずのおじいちゃんに声を掛けておく。


「師匠、今日は軽くお掃除しておきました、ロボット君にやって貰ったので飛んでいる場所が有るかもしれません、出来具合確認しておいてください」


 診察時間外だけど備品やお薬の在庫確認や発注、カルテの整理などやる事はいっぱい有るらしい、私は診療所の方はノータッチ、掃除くらいはやってあげるけど。


「ロボットとな、電気屋の差し金か」

「私が今試作中、工作みたいなものよ、趣味と実益、実益にならなくてくたびれ儲けになるかもしれないけど」

「趣味ならまあ良い、出来具合と言っても大して埃もつもっとらんから、二、三日様子を見てみるか」

「ありがとう、バッテリーの持ちとかも比べてみたいんだ」


 書類から顔を上げ、

「それで怪我の具合はどうだ」

「あっ忘れてた、まだサポーターしてる方が良い?」

「忘れるくらいなら順調じゃな、ちょっと見せてみなさい」

 ブラウスを脱いで椅子に座る。


 お爺ちゃんはサポーターの上から指で押さえ、

「痛くないか?」

「うん痛くない」

「レントゲンを撮ってもいいがなるべく少ない方がいいから週末にするか」

「うん、そうする、運動は?」

「歩く程度なら良い、無理はするな」

「わかった、体育は見学にしておく、ごめんなさい迷惑かけちゃって」

「いやあの子たちを守ったんだから立派なもんだ、そろそろ武道館を引き継いでくれ」

「またそれを言う、体調悪いの」


 おじいちゃんは背筋を伸ばして、

「腰がな痛む時が有ってな」

「んー大人の人(の指導)はまだ無理だから、少しの間吉田さんにでもお願いする?」

「警察官じゃからなあ、いつ来れなくなるか分らんぞ」

「そっか、警察官はそれが有るね、消防も」

青鬼あおきさんはどうじゃ」

「ヘッ」

 予期せぬ名前に言葉が返せない。


「そ、そんな、そんなこと、、、」

「あの体型身のこなし、只者ではない」

「そう、かな、今度聞いてみる、私が聞くから横やり入れないでよ」

「ああ、青鬼さんの事は全部お前に任せる、うまくやれよ」

「うまくやれって、、、やりますとも、でもまだ歳を言ってないから言ったら引かれちゃう」

 

 ブラウスを羽織りボタンを止める。


「お前は規格外じゃ、常識に囚われなくてもよい」

「私はよくても世間が許してくれない時代なの、江戸の頃なら大手を振って嫁に行けたけど」

「青鬼さんも歳は聞かないと言っておったじゃないか、そのままで大学生には見える、しかしお前がもっと若いと言っておったから、高校生くらいと思われているかのう」



 これから小中学生の練習時間、剣道の方は高校女子に指導を任せている(アルバイト)が柔道は私の担当、今週は私と互角の中学三年の女子に指導を頼んでいるが道場関係者がいないなんて事では無責任だ、おじいちゃんが全体を見てくれる。

 それで午後の診察を一時間遅らせて今から道場へ行くところ。


「えっ私そんな事言ってた、まああまり勘違いされても、と言って十三歳なんて言えっこないし、あーどうしたらいいの」

「柔道でも手ごわい相手の対戦方法が有るじゃろ、そのまま通用するとは言えんが、正面突破は無理じゃろうな、お前は家に戻っておれ」


「居ても何もできないしね、って武道と一緒にしないでよ、とりあえずシッポは掴んでおかなきゃね」


 拳をぐっと握って見せる。


「おいおいそれじゃあ青鬼あおきさんが悪人になってしまうぞ」

「あっいけない、じゃあ襟をつかむ、あーダメダメ私が不良になってしまう、えーと腕を掴むで大丈夫?」


 おじいちゃんが白衣を脱ぎながら、

「いきなり腕を掴まれたら引かれてしまわりゃせんか」

「って何の話でこうなったの」

「お前がシッポを掴んで離さんと言ったからじゃな」


 私は診療所の戸締り。


「あーどうせなら掴まれる方の立場になりたい、五つほどサバ読んでいいかな」

「止めておいた方が良い、そんな大事な事を誤魔化せば信用されなくなる、バレたらお仕舞いじゃ」

「そうだよねー」


 おじいちゃんは道場へ、私は家に戻りかけて道場へ行き、

「アジ買って来たけど焼いた方がいいでしょ、刺身も有るけど」

「久しぶりに刺身を食べてみるか、もちろん新鮮なんじゃろうな」

「当然、朝取れだし三枚下しは持ってくる前に切るから、後で持ってくる」

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