第13話 碇《いかり》彩光《あやみ》の憂鬱

 お饅頭を頂いたら急に眠気に襲われた。


「ママ、お昼まで寝る、パパ(担任の恩田先生)によろしく」


 実はこの二重ふたえ先生、今年私の担任の恩田先生と婚約をしてすでに同居している。

 ほぼ新婚さんだ。

 学校にも秘密にしている、知っているのは私くらい。


「杏どうしたの、具合悪いの?」

「ううん、単に寝不足、昨日眠れなくて、、、」

「杏?あらら、もう寝ちゃったの」


 目を覚ますと近くにワゴンが置いて有ってその上に、お皿に移した給食が置かれてあった。

(あっお昼回っているんだ、とにかく食べておかないとお昼から立っていられなくなる)


 ここにはレンジが有る、給食のお椀は金属なのでレンジは不可、深いお皿に移してあるのでシチューをチンしてあっためる。


 シチューを取り出そうとしたらレンジの時計は13:12(これは信用できない)、時計を確認すると1時44分辺りを指している。

(あっ五時間目もうすぐ終わりじゃない、食べて戻りますか)


 六時間目が始まる前に教室に戻る。


 私の場合誰も「どうしたの」とか「大丈夫?」とか聞きに来るひとは居ない、私の機嫌が悪いと藪蛇やぶへびのとばっちりが飛んでくるのを敬遠するためだ。


 ただ一人の例外、ミニこといかり彩光あやみがやって来て「具合悪いなら休めばいいのに」とだけ言って戻って行った。


 この前プール帰りに一緒に事故に巻き込まれた女子の方。


(私が休めば好き勝手する子が居るでしょ、そういうだらけた雰囲気にならないよう私が目を光らせておかなければならないの)言いそびれてしまった。


 これだけは言っておかないと、彩光の横を通り過ぎながら「帰り寄る」不機嫌オーラを放ちながら彩光だけに聞こえる程度に言う、特定の子だけと親しくしていると思われたくないから。


 帰る前の『今日の反省』で一言。

「今日は体調管理が不十分で皆さんにご迷惑を掛けました、皆さんごめんなさい。私が居ない時でも、授業中に騒いだりふざけた事が無かった事と信じています。(ふざけた真似してないでしょうね)」と釘を刺しておく。


 嫌われるのは承知の上、授業中は静粛せいしゅくな雰囲気を保つ-これが私のポリシー。


 今の時代、先生も厳しいだけでは生徒に嫌われると、生徒に甘い先生が多数を占める。

 でも私はそれを許さない、「宿題忘れたの、今日は忘れずにやって来てね」なんて言う先生にも「そんな甘い事では生徒がダメになってしまいます、運動場十週くらいの罰を与えてください」と容赦ない。


 やり過ぎなのは自分でも十分承知の上だ。


 授業が終わるとその場で宿題を片付ける、掃除の邪魔にならない様に教台に移動して十五分で終わらせる、大抵十分も有れば終わるが、掃除の見張りのため次の問題までやって、掃除終了を見届ける。(結構やなやつと自覚あり)


 これで掃除をさぼる者は誰も居ないし、ダラダラやる者もいない、私のきつーい言葉の攻撃を受けようとする者は先生を含めても誰も居ない、、、事は無い。

 やはりあの子、碇彩光いかりあやみだけは例外だ。


 時は保育園時代までさかのぼる、私のあだ名は『泣き虫杏あん』いつでもピーピー泣いていた。

 そんな私をなぐさめて(「ピーピーうるさいわね、おとなしくしないとつわよ」慰め?)いたのが碇彩光。


 それ以降去年同じクラスになるまで面と向かって再会する事は無かった。

 と言うか、彼女は完璧に私の事を忘れていた。


 でも私には彼女に頭が上がらなかった記憶が残っていて、どうも彩光だけには攻めきれない甘さが出てしまう様だ。

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