第9話 歳の差は幾つかな。

 結局お弁当を一人でぺろりと平らげる、美味しいには物には弱い、理性を失いいつの間にか大口を開けて食べていた。


 やっぱり石の様に固まってしまった青鬼さん。

(こんな時は美女の口づけで、、、残念ながらわたしは含まれる筈がないメデューサだからね)


「ごちそうさまでした、美味しくて理性を失いました」

「ほんとに野生の、、、いや失礼」

 慌ててお茶を飲んでむせる青鬼あおきさん。


「ライオンならまだいい方ですヘビってよく言われます、やっぱりお茶まずいですか」

 

 少し間をおいて(言い訳思考中かな)

「月に向かって吠える狼は美しいですよ、お茶はいけます野生の味ですね」

「そうです野生が良いのです、でも見たくても狼は居ないでしょ」

「本物はね」

「本物じゃない物?」

「そのうち見に行きましょう」

「は、はい喜んで(どこへでも)」

 言った後に青鬼さんを見つめたら見つめ返され二人とも石になってしまった。。。


 間が空いて、  

「えっと、あのこんなこと聞いてはいけないかもしれませんが普段お化粧は?」

「全く、学校で禁止されてるしゴーグルも必要だし」

「あの僕のバイト先なんですが、女性のファッション関係のお店で化粧の指導もしているんです、一度試してみませんか、もちろん無料体験コースです」


 少しためらった、お化粧なんて一度もしたことがない。

「えっ私が、お化粧、馬子にもお化粧。。。」

「ぜひ、それに濃い色のコンタクトを試してください、カラーコンタクトも取り揃えていますから、サングラスの代用になるかもしれません」


 お化粧はともかくコンタクトにはグラッと来た、サングラス不要!


「そんなに濃い色が有るんですか」

「結構あります、店には有りませんが医療用でもっと濃いのもあるらしいですよ」

「そうなんですか、知らなかった」

「コンタクトをしたことは?」

「無いです、あきらめていました」

「それはもったいない、せっかくの美人なのにサングラスで顔を隠すのは」

 そんな事をシレッと言ってくる。


「ダメですよ、マネキンはいくら化粧しても人にはなれないんです」

「お面を外したくない、そう聞こえますが」

「えっお面?」


「女性の方で時折おられます、きれいに見せるためじゃなく素顔を隠すために化粧をする方、それはもうお面です」


「何となく」

うなずく。


「でも私にとってサングラスやゴーグルはもう体の一部です、大げさじゃなくて、これが無ければ生活できません、ただ代わりが有るとは気付かなかった」

「それでは試してみればどうですか」

「そうだね」

(青鬼さんに会えるなら針の山でも火の海にでも、大げさか)


「でも怪我が治ってからにしましょう」

「あ、たぶんもう大丈夫ですよ、明日くらいにおじいちゃんに見てもらったら、外出くらいOKしてもらえる筈です、あのバイトは毎日ですか」


「さすがにそれは無理です、ただ一流企業に見劣りしない給料を用意するから、卒業したら入社してくれと盛んに勧誘されます」

「おー一流企業並みって、凄いじゃないですか、ブラックじゃないんでしょ」

「どうでしょう、社員の方は大変そうですよ、営業ですから毎日飛び回っていますよ」

「営業?昨日言ってた服を宣伝するって事ですか?」

「いえそれはバイトです、社員はそのバイトとデパートとか販売店を回って、どれだけ沢山の数を置いてもらえるか交渉するんです」

「なるほど力の見せ所ですね、お茶どうしましょう」

「頂きます、中々味わい深いです」

「そう言われると、変に自信を持っちゃいますよ」


 茶葉を入れ替えるため席を立つ。


「背が高いですね171センチかな」

「ウドの大木です、男性より高いって駄目ですね」

「どうして?」

「どうしても見下す様に話してしまうから女子認定されていません、しかもサングラスですから下手すりゃ恐喝です」

「それは、、、やっぱりサングラスはやめましょう、週末辺りにお店に来てください」

「そうですね、えーと連絡先教えて下さい状況がはっきりしないのでもしかしたら毎日電話しちゃうかもしれませんよ」


 さっとすすいだポットにお水を入れて火にかける。


「歓迎しますよ遅くても八時には帰っていますから」

「八時、遅くないですか」

「帰っても特にする事もないのでバイト先でダラダラしてます、そうしてたらあれやってこれやってって時間外でも働かさるんです」

「何となくグレー」

「それでも居心地が良いので、好きでやっているんですよ」


 お湯が沸いたので茶葉を入れ二人でソファに座る。


 (やばいなあ、良い感じなんだけど、歳がばれるとそれじゃあって事になるだろう、きっとでも早めに白状しなきゃあ)


「えっと、卒業は」

「再来年、留年しなければだけど」

「あー二十二か」頭を抱える。

「どうかした」

「あっいえ何でもないです、同じ大学生になれないなーって」

「じゃあ三年ほど留年しようか、そう言う訳にも行かないけど」


 お茶を注いでから覚悟を決めて、

「三年じゃ足りません、もう少し」

「もう少しか、んー今は聞かない事にしよう、女性には秘密がなくてはね」

「そう、ですか」


 覚悟を決めた分力が抜ける。

(焦ることはないか、今はこのままで、、、でも怪我が治ったらそれで、おしまい?)

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