第5話 夏休みの終わりに (良いのか悪いのか)

 レントゲンが終わるとさらしではなく医療用のテーピングをおじいちゃんに巻いて貰った、胸が隠れる所まで、それでベッドにうつ伏せで待ってなさいと言われた。


 「さんどうぞこちらへ」

(全く子ども扱いなんだから、って子供だった)


「そこへお座りください、レントゲンはこうなっております、骨が少し膨らんでこの白い線が折れた所です、もうかなり治りかけております」

「あ、あのそんなに早く治るものですか」

「わしらの血筋は特別なんですよ、大抵のケガなら半日で治ります、治癒能力が優れておってな、ケガや病気はすぐに治ってしまいます」


 あおきさんはジーンズの裾を少し上げて自分の怪我を見て。

「あの僕もケガは早く治ります、さっきケガをした所は今はもう何ともないです」

「あーそうだった、私頭がぼーとしていて気が付かなかった、足をバイクに挟まれていたんだ、ごめんなさい忘れてた」

といって起き上がる。


 「あっ」といって向こうを向くさん。

「い、いえ、とんでもない、あなたに骨折させてしまって、痛かったでしょう、なんて謝ったら良いのか、ほんとに申し訳ないです」向こうを向いたまま。


「これ寝てなさい」

「はーい」


おじいちゃんが私のわき腹を指して「この辺りです、こうやってテーピングしておけば、明日にはいやもう歩いておったな」

「ケガが早く治るのが不思議でしたが、骨折でもそんなに早く治るんですね」

「そうですな、それにこの子は特別に治癒能力が高い、小さいときから鍛えておる影響でしょうかな」

「そうだね、傷テープ使ったことは無いね」


 擦りむいた手の傷は少しだけ傷跡が残っているだけだ。


「と言って無理をするんじゃないぞ、お前は動けなくなってしまうんじゃから」

「そうだった、もう少し神経をコントロールしなくちゃいけないね」

「どうして動けなくなるんですか」


 おじいちゃんがブラウスを私の背中に放り投げた。


「痛みを止めるために頭が勝手に思考停止してしまうの」

「あ、それでさっき動けなくなったって事?」

「そう、良いのか悪いのか痛みはほとんど感じない、その代わりケガに気が付かない事も有るんだ」


 起き上がってブラウスの袖に腕を通す。


「危険な場所でそうなったら命に係わるんだぞ」

「分かってる、動ける程度には出来ると思う、このケガでコントロールの仕方が分かってきた、骨の様子も見えたし」

「見えるとわどういう事だ」

「レントゲンの映像をインプットしたの、そうしたら筋肉の動きとか血液の流れが頭に浮かぶ、骨の状態もリアルタイムで、くっつき具合も分かる」


さんは怪訝そうな顔をする。


「神経が情報を集めて頭で映像にしておるのじゃろう、但し現状なのか想像に過ぎないのか判断しなければならんな」

「分かってまーす、そろそろ帰ってご飯の用意しなくっちゃ」

(あー余計なことを言ってしまった、実験材料にされてしまう)


「今日は駄目じゃ、昨日の残り物でも無いのか」

「大根とかジャガイモ生のままかじれば有るけど、お母さんの口に合うかは疑問だね」

「何か買って来ましょうか、もし良かったらピラフくらいなら作れますけど」


 ベッドから降りて両腕を上げ、

「わーいピラフピラフ、作って作って、痛」

わき腹をさする。


「こりゃ調子に乗るんじゃない、今日は帰ってさっさと寝とれ」

「そっか、今日は外に出ない方が良いね、あおきさんもお見舞いに行かなくちゃならないから、適当に残り物で済ませます、あ、後で少しだけお願い聞いてください」

「はい、僕にできる事なら何なりと、それにしてもすごく鍛えられていますね、感心しました、あ見えたのは背中だけですから」


 ブラウスの下をスカートの中に押し込みながら、

「あーばれちゃいました、胸も筋肉です、鬼の師匠にしごかれていますから、青空武道館と言うより赤鬼あかおに武道館の方がピッタリなの」

「何を言っておる、赤鬼と呼ばれとるのはお前の方じゃろが、わしは仏の玄さんじゃぞ」

 おじいちゃんがひげをさすりながら言う。


「お師匠様の顔が仏様に見えた方はさぞ立派な方でしょう、私なんてまだまだ修行が足りません」

「そうじゃ、もっともっと修行に励め、彼氏なんぞ十年先でよいわな」


私は何もないところでつんのめる。


「じゅ、十年先はないでしょ、私なんて今の内に予約しておかないと誰も引き取って貰えなくなるわ、この貴重な血統を私の代で絶えさせる訳に行かないでしょ」

「それはそうじゃが、このじゃじゃ馬娘を扱えるような男がおるかのう」

 

(目の前にいらっしゃるじゃあーりませんか、もっと良いこと言ってよーってなに私気に入っちゃってるの?)


「いや中々可愛らしいお嬢さんです、芯もしっかりしていらっしゃいます、将来が楽しみでしょう」

「まあ道場の方の心配はいらんだろうがなあ」

「はいはい、心配はそこまでで結構です、いくら心配してもらった所でどうにかなるものでは有りません、それでお師匠様、私はやっぱり今週は練習無理かなあ」


 入口の方に掌を向けさんを出口へさそう。


「そうじゃのう、たまには休むのも良いだろう、この先わしが引退したら休めなくなるからの、今だけ休んでくれ」


 玄関に向かっていたが振り向き、

「な、何言ってるの、引退なんてさせないわよ、そうねえ、私が結婚して旦那様が道場を手伝ってくれたら引退を考えましょ、それまでは馬車馬のごとくわき目も振らず頑張って貰わなくちゃ」

「ほれ、さんわしよりよっぽど鬼じゃろ、赤鬼舞あきぶ家の女は恐ろしいわい」

「変な事言わないで、ね、さん、私のこと可愛いって言ってくれたもんね」

「はいもちろん、今まで会った人の中で一番可愛いです」

「えっ。。。」

(あのえっと、、、いやいやおべんちゃらだよおべんちゃら心証良くしておかないといけないからよ私)

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