第19話 間章六

 フォニーは路地を縫うように走っていた。時折振り返り、頭巾を深く被って街の外に向かっていく。

 この街に踏み入ることは金輪際ない。家財道具は全て貨幣に換えた。行きつく先はどこでも良い。とにかく、急いでこの街を出なければいけない。

 辺りは夜陰に沈んでいる。フォニーの足音が響いている。

 男が、暗がりから現れた。

「誰?」

 フォニーは足を止めた。あいつらの仲間か。その顔に見覚えはない。男は両の掌を見せて、立ち塞がるように正面に立った。

「お前に交渉を持ちかけた人間の仲間だ」

 やはり、あいつらの仲間か。フォニーは男から距離を取った。

「待って。私はあんたたちの命令をちゃんと聞いた。だから」

 男の低い笑い声が、フォニーの言葉を遮った。

「俺はまだ、何も言ってないぞ」

 下手を打った。冷や汗と脂汗がない交ぜになって流れていく。

「……なら何、臨時報酬でもくれるって言うの?」

「フォニー、確かにお前は良く仕事をこなした。ソーウィンにペナン花を渡し、クライトを上手く麻薬闘争に引き込んだ。口実作りにわざわざ借金をしたのも良かった。認めよう、お前は優秀だ、頭が回る。だからこそ、俺たちはお前に仕事を任せた」

 相手が誰であっても褒められれば嬉しい。フォニーは心の中で笑った。

「だが、勝手に動き過ぎたな」

 心が冷えた。躰が冷たくなっていくのが分かる。

 殺される。しかし、何故か足が動かなかった。男が緩慢に近づいてくる。

「クライトを利用して立ち回ったのは問題だ。身の安全を確保したいのは分かるが、自分を過大評価し過ぎたな。もう、お前にそこまでの価値はない。少しだけなら見逃してやっても良かったが、流石に駄目だ」

 背中に、熱いものが侵入してきた。咄嗟に背後を見やる。

 誰もいなかった。短剣が独りでに刺さっている。まさか、あの男は魔法使いなのか。

「先生の計画を乱す不穏分子は、必要ないんだよ」

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