第14話 間章五
「荒事に、また彼女たちを使ったそうですね」
彼女が声を固くして問い詰めてくる。その眼を、私は正面から受け止めた。
「魔法使いは強力だ。君には申し訳ないが仕方のないことだ」
ふっ、と彼女の表情が柔らかくなった。
「いえ、攻めているわけではありません。私はあくまでも指南者ですから。それに私も、彼女たちの運用が間違っているとは思いません」
「本音は」
動揺したように彼女は眼を背けた。
「……できることなら、まだ未熟な彼女たちを実践に投入するのは遠慮してください」
理解はしている。つい先程の戦いでも戦死者が出たが、理由は明らかに修練不足だ。いくら女が魔法に適正があるとはいえ、戦い慣れた男と渡り合うのはまだ厳しい。
「すまないな。それもこれも、全て私の力不足が原因だ」
彼女は緩やかに首を振った。
「貴方の責任ではありません。まだ何もかもが始まったばかりですから、上手くいかない部分が出てくるのは仕方のないことです」
いつもこうだった。彼女にも重責があるというのに、私の心配までしてくれる。立場上仕事の手助けは互いにできないが、精神的にどれだけ助けられたか。
「心配を掛けてすまないな」
一瞬、彼女は眉尻を下げ、それから微笑みを湛えた。
「では、どうでしょう。貴方も魔法の勉強を受けませんか。そうすれば彼女たちの指揮にも幅が生まれる筈です」
魔法の勉強。魅力的な言葉だった。しかしそれは、以前に試して失敗している。
「嬉しいが遠慮しよう。どうも私に魔法の才能はないらしい」
「それなら仕方ありませんね。ですが知識だけでも役には立ちます。そもそも男より女の方が魔法に適正がある理由をご存知ですか」
「いや、そう言えば知らないな」
途端、彼女の表情が明るくなった。堰を切ったように早口で捲し立てる。
「理由は出産に関係があります。出産、新たな生命を生むという行為は自然に密接したものです。即ち、女は男よりも存在からして自然に近しいのです。具体的に言えば、異世界から飛んでくる魂を子宮に宿して新たな生命を誕生させる。これを言い換えれば、魂に働きかける能力に秀でているということです」
それから、彼女は嬉しそうに魔法の講義を始めた。いつもより口調が軽く、私の耳にも良く入ってくる。
やはり彼女は優秀な人材だ。それだけに、以前に感じた疑惑が深まった。
しばらくして一段落がつくと、私は口を開いた。
「何か、隠し事はしていないか」
「隠し事、ですか」
彼女の表情は変わらない。唐突な質問だったか。いや、聞いて答えるわけもないか。少し、彼女との距離感を勘違いしていたらしい。
「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」
彼女の魔法指南から始まるこの計画の主導者にして、彼女の師である大魔法使い──レスダムールは何か企んでいるのではないか。この計画には裏があるのではないか。
無性に不安が掻き立てられた。
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