第11話 間章四

 机に山積みになった資料を見ていた浅黒い中年男は、ある資料を見て手を止めた。

「今現在、身軽な隊員は何人いる?」

 傍に控えていた青年が、背筋を伸ばして答える。

「隊長を含めると二十二名になります」

「そうか」

 言って、中年男は手にした資料を山に戻した。指で机を何度も叩き、天井を眺める。

「あの、何かありましたか」

 中年男は青年に眼をやり、重苦しい息を吐いた。

「ガシェーバの街で、トルガードの連中が暗躍している節がある」

 眼を剥き、青年は声を漏らした。

「もしや、レスダムールの一件と関係があるのですか」

「可能性が高い。私はそう見ている。ただ、問題はその目的だ。そもそも奴は何故、トルガードに寝返った?」

「それは、研究資金を不正に流用して私的な研究をしていたからでしょう。それを追及された結果、レスダムールは亡命した」

 中年男は溜息を吐き、肘掛けに頬杖をついた。

「問題はその私的な研究の中身だよ。状況証拠から考えて、奴が行っていた研究は従来の研究から逸脱したものではなかった。にも拘わらず、奴は亡命した。その理由は何だ。我が国がトルガードより魔法研究の環境が劣っているとは思えない」

「人質でも取られたのではないですか」

「いや、それもない。奴は妻と息子夫婦に先立たれ、一人しかいない孫娘も随分昔に死んでいる。つまり天涯孤独だ。他国に亡命するほどの親しい友人がいたという報告もない。奴が亡命する理由はないのだよ、これっぽっちもな」

「気味が悪いですね。何か不都合でもあったのでしょうか」

「謎しかない。しかし、はっきりしていることもある。我が領土に属するガシェーバの街で、レスダムール擁するトルガードが暗躍している。ならば、我々が行うべきことは決まっている」

 青年は眼光を鋭くして笑った。

「行きますか」

「当然だ」

 中年男は立ち上がった。傍らに置いた剣を手に取り、青年に突きつける。

「全隊員に召集を掛けろ。我らは、ガシェーバの街に向かう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る