第9話 間章三

 七年ほど前、他国の行列が村を通ったことがあった。それを事前に聞いたクライトは、まだ健康だったシアルを誘って見物に行った。

 静かで、煌びやかな行列だった。

 馬車は金銀細工の意匠が凝らされ、馬まで鮮やかな刺繍の入った外套を着ている。徒の者や御者も同じような豪奢な外套を纏って、土煙一つ上げずに粛々と進んでいた。

 異様だった。だからこそ眼が離せなかった。シアルも不気味に感じたらしく、気付けば手を握り合っていた。

「凄いね」

 シアルが呟くように言った。クライトは行列を見たまま頷く。

「そうだね」

 一際豪華な馬車が、眼の前を通り過ぎていく。窓の向こうの紗には人影が映っていた。その一つが、観衆を眺めるように顔を向けている。

「偉い人かな?」

 しばらく待っても、シアルの返答はなかった。

 シアルは、その豪華な馬車に釘付けになっていた。瞳を羨望に輝かせ、うっとりとした表情で見つめている。

 それはまさしく、女の子の表情だった。

 今も思えば、この日からシアルのことが気になるようになったのかもしれない。

 シアルのそんな顔が見れたことが嬉しく、そんな顔にさせたのが自分ではないことが悔しかった。

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