第44話 愉快で気さくな天才科学者
地道に縮む長蛇の列を抜け、ようやく王都に入れた私とヘルセリオさんは、まず、私とメアリーさん、リーダーの3人で泊まっていた宿へと向かった。
メアリーさんと合流、それと可能性は極めて低いが、リーダー帰還の確認。
「お連れ様はもう出ていかれましたよ?女の子を連れて」
「そうですか・・・え?女の子?」
「えぇ、10歳ぐらいの女の子でしたけど・・・」
メアリーさん、ちゃんとあの子を助けてくれたんだ・・・
何かしら手を打ってくれるのかとは思っていたけど、まさか本当に助け出してくれるなんて・・・!
「嬉しそうだな」
「はい!本当に良かった・・・!」
これでリーダー捜しに専念できる!
メアリーさんもなんだかんだ言いながら、ちゃんと人助けをできるんじゃない。再会できたらお礼しないと!
「で、その二人はどこに行ったか言ってませんでした?」
「苦い顔した少女と、ニコニコ去っていっただけですね。行方はわかりません」
・・・なんだか途端に嫌な予感がしてきた。
「そ、そうですか。まぁ、はい。ありがとうございます・・・」
宿を出て、考える。
メアリーさんを探したい気持ちはあるけど、今はちゃんとやるべきことをしなければ。
「もういいのか?」
「はい、とりあえずここはもういいです」
「そうか。さて、だ。どこから行ったものか」
「目星はついているんですか?」
「まぁな。とはいっても、確信はないが。おそらく彼は、レギオンの拠点にいるのだろう?」
「そうですね。ほぼ間違いないと思います」
「それならば、彼と言うより、奴らの拠点を捜さなくてはな。しかし・・・転生者はそれほどこの人間界で生きやすくないと聞く」
「そうなんですか?特別な力を使って、街や人を守ったりしてそうですが」
「君が見た彼らはそんなことをしていたか?聞いた話では怪盗になっていたそうだが」
そういえばそうだ。
彼らは能力をいい方向に使っていると聞いたことがない。
「時折話題に上がる程度で、都市伝説程の噂しかない場合もある。少なくともレギオンのメンバーは身を隠しているのだろう」
「どこにいるんでしょうね・・・」
「身を隠しているだけで、存在しないわけじゃない。どの世界にも、そういったものに惹かれ、興味を持ち、研究している者がいるはずだ」
「その人ならレギオンについてなにか知ってる、と?」
「あぁ、間違いない。だからその人物に会いに行く。王立研究所にいるはずだ」
あれ、ヘルセリオさん、それって勘じゃなくないですか?理にかなってしまってますよ?そっちのほうが安心はするけど・・・
「北東にある。いこうか」
もしかしてこれ、私いらない感じではなかろうか。
~~~~~
王都は区域によって町並みが大きく変わる。
泊まっていた宿のある区域とゴルトニアあたりもぜんぜん違うし、ここ、王立研究所のある区域もだいぶ雰囲気が違う。
工業地帯といえばわかりやすい。
どの建物も質素でデザインなども凝ってなく、ただ大きい。アスファルトのような作りの道はやたらと広く、愉快といえば聞こえのいい様々な機械や重機の音があちこちから聞こえる。
カンカン、ガチャガチャ、ゴーゴー、プシュー。
そんな街の一角に、一際大きい直方体がそびえ立つ。近未来というか、他と違って綺麗に磨き上げられた、白い一つの大きな箱のようだ。
「ここだな」
ここだそうだ。
ガラスの扉を通り中へ入ると、大理石でできた床や壁、広いエントランスに、人のホログラムがいくつも立っている。なんだろうあれ。
外の町並みと違い、近未来的というか、ロマンあふれると言うか。
そんなのと少しも気にせず、ヘルセリオさんはまっすぐ堂々と受付へと向かう。
が、しかし。
「やぁやぁちょっと待ってくれそこのお二方。もしかして、探しているんじゃないか?天才科学者を」
受付にたどり着くより早く、建物の中に響く声。
緑の髪の毛をオールバックにした、吊り上がった少し目つきのおかしい男が、30メートルは離れたところから声をかけてきた。
結構遠いのにわざわざ・・・多分ヤバい人だ。関わらないほうがいい。
「きっとそれは、あー、身長182センチ、愉快で気さくな天才科学者、エルクーーーーーード・シュタインじゃないかな?そうだろう?」
右手を白衣のポケットに手を突っ込んだまま、少ない揺れで早歩きのヤバい人がグイグイ近づいてくる・・・!こわい!
口元はニヤけて、充血した三白眼、骨折しているのか、左腕はギブスをしている。
「名前以外の情報は今新たに仕入れたが、君の言う通り、エルクード氏に会いに来た。どこに行けば会えるだろうか」
察しが悪いんですかヘルセリオさん、多分そいつです!いや、間違いなくそいつがエルクードです!
「あぁ幸運なことに!貴殿はその探し人を既に目の前に捉えているぅ私が!エルクード・シュタインだエルと呼んでくれ」
「それは助かった、貴方がエルクード氏か。私はヘルセリオ・ディスクナート」
クールすぎるヘルセリオさんと異常すぎるエルクード氏。二人の交わす握手のとなりで私の居場所はない。というより帰りたい。
「そ・れ・で。私に何の用か私のルァァボで聞こうじゃないかこちらへどうぞ軍団長殿」
「ありがたい」
「えーっと、君もだろう?だれだっけアイリスだっけ?」
「名乗ってないけどフィロ、です・・・」
「そうかフィロ君もこちらへきっと楽しいぞぉ?」
んふふ~と奇妙な鼻歌を歌いながら、テンションの高い自称天才のあとを私達は追う。
エントランスからエレベーターに乗り、地下へと降りていく。
ゴルトニアのときとは違い、ひたすらに地面にはいっていくだけで、景色に面白みはない。
「魔族の偉い人が来ると緊張するねぇ何も後ろめたいことはないがこうなんていうか、実家の親が突然家に来るようなドキドキだわかるだろうアイリス氏?」
「フィロですけど、その感覚はわからないです・・・」
「わからないかそりゃそうだ。実は私にもわかっていないなぜならぁ私には家を尋ねてくるような親もいないからねぇ?」
「・・・」
「すまないすまない、暗くしたいわけじゃないんだ私は親はいなくても家族はいるから全く寂しくないぞ?だからそう気にしないでくれ!」
早くラボに着かないかな・・・この人と話すの苦手だ・・・
言葉の区切りもおかしいしとても早口。しかし不思議と聞き取りやすい。
メアリーさんに少し通じるものがあるけど、もっと得体のしれない怖さがある。
「なるほど、愉快な男だな。言っていたとおりだ」
「そりゃそうさ私は嘘をつかない嘘は、身を滅ぼすし科学的ではないしね!さぁついたぞ私のルァァボへようこそ歓迎するよ」
地下25階。どれだけ深い所まで来たのかわからないが、すこし冷える。
エルクード氏の研究所には、誰もいなかった。
研究員も、助手も、いない。色んなものに埋もれていてわかりにくいが、机も一つしか無いのをみると、元々一人なのだろう。
ただ、棚は多い。何かで満たされた大小さまざまな瓶に、ナニかが入っている。泳いでいるのもいる。
「生物学が専門だったな?」
「よくご存知で私は生物学を専門にしている。生物学はいいぞぉ神秘的でなにより自分にも繋がる話だだがまぁ、リアリティの塊でありながら神秘的という言葉は果たして当てはまるものかどうかぁ・・・」
「魔族にも詳しいのか?」
「もちろんだとも最近は特に熱中している魔族は人と違って様々な違いがあるからなぁ、研究時間がいくらあっても足りないよ。そういえば軍団長殿は限りなく人間に近いように見えるが魔族で間違いないのかな?」
「そうだ」
「そうなるとぉ・・・むふふ、ぜひ研究対象にしたい!あぁ気を悪くしないでくれそれだけ希少な貴重な存在だということだ」
「それはそうだろう、が謹んでお断り申し上げる。軍団長の職務があるのでな」
「それは残念だ死んだらぜひここに来てくれ歓迎するまぁ軍団長が簡単に死ねるなら、だが。おやおやアイリス君ずーっとぼーっとしてるぞコーヒーは飲むかい?エル博士特製のスーパーコーヒーだ頭が冴えるぞ?」
「いえ、私は結構です・・・」
「私は頂いてもいいかな」
ダメダメ、ヘルセリオさん、それ絶対コーヒーじゃないですよ!?
コーヒーは黒ですがそれはほんのり緑がかってます!頭が冴えるどころかおかしくなりそう・・・!
「ふむ、いけるな・・・」
「だろう?体にもいいし眠気も取れて集中力も倍増ただまぁすこしだけ・・・」
うーんと悩む。
「すこしだけ、なんですか!?」
「少しだけ、苦いんだよなぁそれは改善できないこの天才でも」
その程度!っていうかコーヒーは苦いもんだし!もっとこう、意識が混濁するだの依存性があるだの・・・そういうのじゃないのか。
「私は好みだ」
好みならもっと顔に出してくださいヘルセリオさん!水飲んでるときと変わらない顔ですよ、水飲んでるとこ見たことないけど!
「それよりほら、シュタインさん」
「エル博士だアイリス」
「フィロですエルクード博士。博士は転生者を知っていますか?」
「エル博士・・・まぁいい。転生者なら知ってる大好物の話題だフィロ氏はなかなかおしゃべり上手だな?わくわくしてきた何でも聞いてくれ」
前のめりに、食いつくように、目を見開く。
怖いって・・・!
嬉しいんだろうけど、気味が悪すぎる。
「エルクード博士は、転生者の何を知っているんですか?」
「何を・・・か」
眉を八の字にし、うーんと唸る。迷っているのか、考えているのか、困っているのか。
「私が知っているといえばあまり多くはないかもしれないが。彼らは特殊な力や特別な武器、防具を持って他の世界から来るということが多い。そして彼らは魔王を倒すことを目標にしているなぜなら魔王を倒せば願いが叶うそうだ」
「なぜ魔王様を狙う?」
「そういう風になってる、としか言いようがないなぁ。得体のしれない恨みや怒り嫌悪で動いてるとも言える・・・実に、実に奇妙だが面白い」
「面白くなんかないですよ・・・理由も無しに狙われる魔王様の身にもなってほしいです」
「その言い分はわかるしもっともだだが、望みもしていない転生や転移もそれなりに本人には迷惑だと思うぞぉ?」
「まぁ・・・そうかもだけど・・・」
言う通りではある。
私だって好きでこの世界に来たわけじゃないし、自分の本意とは別に魔王様を狙っていたことも、今では不愉快だ。
私を一瞥すると、エルクード博士は椅子に腰かけ、クルクルと回り始めた。
大小さまざまな配管が巡る天井を見上げ、エルクード博士はうっとりと光に目を細める。
「君はさぁフィロ氏・・・今憤っている、わかるぞ?人や魔族我々を駒にして遊ぶ何者かの力を感じるからだ・・・私が今こうして見つめるこの先のもっともっともっともっっっっっと向こうにねぇ」
「何者なんだ?神のいたずらというわけか?」
「大方正解だろう軍団長殿。理由はわからないが、ソレは魔王という存在を疎んでいる・・・いやぁ?消えれば本当は何でもいいのかもしれない。いずれにせよあまり快いものではないよなぁもちろん、この世界に来た者の中にもそういう考えの者はいるようだがな」
「どういうこと?転生した人の中に魔王様を恨んでいる者がいるってこと?」
「あまり喋るべきではないのだろうだけどソレは・・・あーその前にだ、異世界人でできた集団がいることを知っているかな?」
「レギオン、だな。我々が今捜している者達でもある」
「おっとっとそうかそうか彼らを探しているのか。やめておいたほうがいいかもしれない知っての通り彼らはこの世界の魔法とは一線を画する力で反撃するだろう。いくら魔王城の軍団長殿とはいえただでは済まないぞ?」
「かまわない。戦いに行くわけではないのでな」
「向こうはそうじゃぁない奴らにとって魔王の側近なんていないほうが都合がいいそんな場所に軍団長殿が行けばどうなるか・・・とっくにわかっているだろう魔獣の群れに裸で行くようなものだぁ面白い見物にはなるかもしれないがね」
「それでもいい。エルクード氏、彼らの居場所を知らないか?」
くるくる回した椅子をピタッと止め、そのまま両膝に手を着くと、同時に顔を伏せた。
貧乏ゆすりが手を伝い、肩までガタガタと小刻みに震えるだけでなにも言わず、もちろんヘルセリオさんも、それをただ仁王立ちで見つめ何も言わない。
「あ、あの~」「知らない」
ほとんど同時だった。
知らない、という言葉が出るまでの間何を思っていたのかはわからないが、彼なりに何かを考えたのだろう。
だが問題は、
「なんでそんなに間があったんですか?本当は何か知ってるんじゃないですか?」
ピタッと貧乏ゆすりをやめ、完全に静止。まるで電源が切れてしまったかのようだ。
「いーーんや?居場所は知らない。だがしかしね、ところがどっこいね、行き方に心当たりはある」
顔をあげた博士は、先ほどとは少し違い、眉をハの字にし、下唇を噛み、なんというか、困ってる?そんな面持ちで、工具の並ぶ壁をにらんでいる。
「それを、教えてもらえるか?」
「かまわない、が、やめた方がいいかもしれないなにより、漠然としているんだ。細かくは私も知らないしな」
「それでもいい。教えてくれ」
それを聞くなり博士は再び口角を吊り上げた。
ねっとりとヘルセリオさんを見つめ、どこか嬉しそうだ。
「いいだろう、いいさ。教えてあげよう。簡単に言えば奴らの拠点に転移できる便利な場所がある。ワープゾーンとでも言おうか」
「レギオンの隠れ家に直通で行けるワープゾーン?そんな都合のいいものが・・・?」
「ある。あるが、君たちにとってはそこまで簡単に行ける場所じゃないかもしれないなぜなら、その場所はなんと!・・・王城ゴルトニードにあるからだ」
王城なんて、そう簡単に入れるわけがない。そんなの魔族じゃなくても、転生者じゃなくてもそうだ。この国で最も警戒されている場所に、魔族の幹部とついでに私が入るなんて、ましてやうろうろと探索して回るなんてできるとは思えない。
「どうしましょう・・・手続きだけでどれだけ時間がかかるか・・・」
「好都合だ、王城にはもともと行くつもりだったからな」
「そうです・・・うぇ!?行けるんですか!?」
「いけるとも。文は出してある」
「どうして王城に?」
「なんとなくだ。それに、あそこには友人もいるのでな」
「それって・・・大丈夫なんですか?王都に入るときもそうでしたけど、こうも魔族がスイスイ進んでいいものなんでしょうか・・・」
「難しい問題だが、私に限ってはそうでもないんだ。しかし助かった、貴重な情報、感謝する。エルクード博士」
「お安い御用だまだまだ語り合いたい私も、お二人さんが知っていることを教えてもらいたいんだがどうかな?」
私達もそう多くは知らない。何されるかわからないから、私自身が転生者であることは言わないほうが良さそうだし。
ヘルセリオさんも考えているようだが、なかなか言葉は出てこないようだ。
「魔王軍には異世界人を処理している人物がいると聞いたぞ確か、リーパーと呼ばれていたな彼は何者だ?」
リーダーのことを知っているなんて、一体どこでそんなことを聞いたんだろう。
それになんとも答えづらい・・・彼が転生者であることを伝えるのも良くない気がするし、そもそも存在していると肯定するべきだろうか。
「彼はただの魔王軍の一員だ。役職もなければ位もないが、強さに関しては私と同等かそれ以上だろう」
「それだけの力がありながら幹部でもないのだなぁいささか不思議だ余計に興味が湧く」
「今の魔王城は強さだけで幹部になれるわけではないからな。少し前であれば、彼も四崩魔を名乗れたかもしれないが」
四崩魔・・・ディンに聞いたことがある。
軍団長という名前になる前は、魔王城には魔王とその下に『四崩魔』と呼ばれるのがいたらしい。
要するに、魔王城最高戦力の四人。先代だけでなく、はるか昔から魔王城ではその制度が続いているとか。
始まりは、戦闘に長けているばかりで、とても国を運営できるような頭の持ち主ではなかった当時の魔王本人が補佐として八人集め、八崩魔としたらしい。しかし我が強い者が多く、7,6、5と減らし、最終的に四崩魔が最もまとまりが良いということに落ち着いたそうだ。
ちなみに、四聖騎士団もこれに対抗するため編成されたのだろう、とディンは話していた。こういう低レベルな対抗心がバカバカしいと、彼は呆れて笑っていた。
「転生者は大方彼一人に任せているが、新たにリーパーという役職を与えてもいいのかもしれないな。魔王様に申請してみようか」
「しなくていいと思いますよ、リーダーも別に嬉しくないと思いますし」
「しかしこのままだと、彼の紹介に困る。私だけでなく、彼自身もそうだろう」
「とりあえず、彼の呼称とかはまた今度にしませんか・・・」
「いやいやフィロ氏呼称というのは重要だぞぅ?いい機会だ度々気になっていたんだがフィロ氏達の言う転生者・・・それについても私は正しくないと思うのだ。これは先程話しかけたことなんだがぁ」
エルクード博士は椅子から立ち上がると、何やら様々な絵や式が書かれたホワイトボードを白衣の袖で乱雑に消し、ペンでせっせと何かを書き始めた。袖が汚いのはこれのせいか。
「君達は転生転生と言っているが転生者は少ないなぜなら大体の輩はセルティコに召喚された召喚者だからだ。転生者とは完全に赤ん坊から生まれ直す者を転生者と呼ぶべきではないかな?」
確かに、言われてみればそうだ。
リーダーもメアリーさんも、召喚者であって転生者ではない。だけどそれは、重要なことだろうか?
「その口ぶりだと、転生者もいるということだな?」
「もちろんさ軍団長殿。そして彼らはなぜ『召喚』ではなく『転生』したのかその理由はおおよそ見当はついているそれと、人数は決して多くはない稀な存在なのだ」
「転生される者と召喚される者の違い・・・なんでしょうかそれは」
「すこーしは考えてみたらどうかなフィロ氏キミはまるで、そうだな、オウムのようだ会話が弾まない先ほどの勢いはどうした」
考えてみろって言ったって・・・
召喚される人も転生する人も、同じじゃないの?たまたま、とか。
「なるほど・・・そうか、そういうこともあるのか」
「気付いたか軍団長殿流石だ素晴らしい。さぁフィロ氏キミ待ちだぞ」
そんな事言われても・・・召喚者が召喚される理由?転生者が転生者である理由・・・
召喚は、そのままの姿で異世界に行く。ただし一点、得意な能力や武器を持って。
強力な武器・・・?
「転生者には赤ちゃんからやり直しだから、武器や防具を選ぶことはない、とか?」
「ん~~~それもいい着眼点だ悪くない3ポイント。だがいま触れたいのはそういうことではないヒントをあげよう。たくさんの魔法使いや魔法科学者、それに魔法薬学者に私もそうだが、あるものをいや、ある事柄と言うべきか、追いかけることがある」
「言い方が難しいです、もっと噛み砕いてください」
「甘えん坊め頭を捻ってぐるぐる回すんだつまりはな、人類が過去より目指しているものがこの話に関わってくるんだ」
「人類が目指す?いっぱいご飯食べたり、お金を集めたり?」
「・・・君はよほど充実した人生を歩んでいると見えるな」
「え、ありがとう」
「褒めてはいない皮肉だ。だが完全に遠いわけでもないがなぁ・・・君は考えたことないか?傷つかない体や止まることのない心臓、今のキミのように美しさを保ちたいなんてことをね」
「不老不死ってこと?」
「・・・今は褒めたつもりだったんだがまぁいいだろうその通り。人は古来より不老不死を目指す傾向があるがそれは、未だに達成した例はないただし人類においてはだが」
博士は顔を私に向けたまま、ギョロリと視線のみをヘルセリオさんにも送る。意味ありげに。
「まぁそれはいいとして、不老不死とはどう成されるか・・・それはいくつかのパターンが有る。それはわかるかな?」
「わかりません」
「即答とは情けない考えようともしないとは」
「私の仲間がピンチなので一刻も早く答えが欲しいんです!どうして焦らすんですか!」
「答えを聞いてばかりで君の脳みそは稼働していると言えるのか?せっかくの知能が役に立たないのであれば君は人類として失格だ」
「・・・話がそれています、答えだけ教えて下さい」
「いいだろうつまりこういうことだ、不老不死とは、肉体を不老かつ不死に対応させるか、あるいは肉体は強靭にならないと諦め、精神のみを新しい肉体に移していくか。それらとは別にもう一つ、シンプルなものがある。蘇生だ」
「死んだ人を蘇らせるということ?」
「そうその蘇生。死んだものを何度も蘇らせば死なないだろう?それは実質不死だ。それが可能なら死にゆく細胞も蘇生させ、不老も可能だろう」
「で、それが転生者と召喚者になんの関係があるんですか?」
「生き物を蘇生させる魔法も薬もこの世界に存在しないおそらく、あってはならないものなのだ。それなのに人は手を伸ばすのを止めないがね」
「つまり・・・?」
やれやれと、エルクード博士は両手を広げる。早く答えをパパッと言ってほしいんだけどなぁ・・・!
「転生者は、生まれ直さなければならないんだ。この世界で死に、改めてこの世界に召喚されては、まるっきり蘇生されたことになる。それでは理に逆らうことになる」
「御名答だ軍団長殿に10ポイントッ!」
満足気に白い歯をみせ、ボードマーカーをビシッとヘルセリオさんに向ける。
「しかし恐ろしいことに、奴ら転生者はここで生きていた記憶を持ったまま新たな異能を持って生まれてくるそれもいつもの草原ではなく子供として誰かの腹からだ」
「それってリーダーが倒し損ねている異世界人が、たくさんいるってこと・・・!?」
「さっき言ったはずだがたくさんはいないしかし、確実に存在するし身を潜めている」
特殊な能力を持っているとはいえ子供からやり直し。セルティコの周囲に現れないから待ち伏せできないとはいえ、そこまで転生者であるということは重要なことだろうか?
「そんなに問題ないのでは?」
「問題ないだとバカを言うな奴らがもしも元大賢者だったりしたらどうするつもりだ?魔力が手に入り次第好き勝手し始めるぞさらに、奇妙な能力まで持ってな。優秀なゴルトニード兵が転生したってだけでも十分危険だ、犯罪者ならどうだ?まだ例をあげようか?」
「天才児というやつか」
「災害だよまさにぃ・・・天災児だ」
「それは転生者・・・いや召喚者でも同じじゃない?」
「フィロ氏、時間というものがいかにかけがいのないものだわかるか?20歳からカポーゼを始めることと生まれたときから始めるのでは成長の結果が全く違う。それぐらいは理解できるよなぁ、魔法や剣術、魔法科学などでもそれは同じ話だ」
「えーっと、カポーゼって?」
「あぁそこはどうでもいい知らないならそれでいいんだちなみに球技だがそれはいい。とにかく、赤ん坊の時点で知恵があるだけでも十分に危険なのにそれをリーパーは見逃しているってことだ」
エルクード博士は身振り手振りをしながらマシンガントークを披露する。
なんだか罵られているようで少し居心地が悪い、圧を感じる。
おそらく彼は熱が入るとこうなるのだろう。
「それだけ言うなら、エルクード博士は心当たりがあるの?その・・・転生者に」
「ある。私は正直だから本音を言うがぁ私は一人知っているしかし、誰かは言えない」
「どうして?ここまで来たら教えてよ」
「駄目なんだヤツはこの事を言うと私を殺すと言ったこの天才の、私をだぞ?いかれていると思わないか世界の財産の損失だぁまるで、正気じゃない」
「わかったエル博士、どこでその転生者と会った?またはどうやって?」
「それは君たちと同じさ転生者の調査をしている私に会いに来たんだいや、釘を刺しに来たというべきか。これ以上探れば殺すとな」
「そうか、それは恐ろしいな。・・・今こうして話しているのは大丈夫なのか?」
「あまり大丈夫じゃないがつい興奮してしまって・・・なかなかいないんだ私の話に興味を持ってくれる人は。それにこれぐらいであれば問題ないだろう彼は、案外温厚なんだ。脅し方はなかなかキレがあるがね」
異世界人ではなく、この世界で蘇った人物が特殊な力を持って身を潜めているなんて・・・そんなの、いつ魔王様が襲われてもおかしくない。
この世界に生きていたなら、はじめから言語も、地理も、歴史も、魔法も知っている。そんな赤ん坊が、天使の制約で魔王に対する殺意をずっと持ち続ければ、どんなに生前弱かったとしても、強くなるだろう。さらに、無茶苦茶な力まで持って。
この世界のことを知っているから、立ち振舞次第で身を潜めるのも容易なんだろう。
「多くのことを教えてくれて感謝する。転生者の件は特にだ」
「かまわない。これだけは言えるが、先程話した転生者は化け物だ強さだとかはわからないが他の召喚者とは一線を画す。その単純な能力とは裏腹にね」
「あまり話すとまずいんじゃないの・・・」
「君たちがその転生者を成敗してくれたらいい。私が消される前に消してくれ」
何が楽しいのか、椅子と一緒に再びくるくると回る。一定周期で目が合う。
「もしかして、それが狙いでこの話をしたんですか?」
「あぁそれもある。そもそも私はリーパー本人が来ると思っていたがね、予想が外れたわけだがまぁ軍団長殿にまかせておけばなんとかしてくれるんじゃないかなぁ」
「善処する。では私達はそろそろ行くとしよう」
「見送りはここからだ、幸運を祈るよ」
頭をガシガシと掻きながら、博士はにこやかに私達を見送った。
エレベーターが閉まるギリギリまで、その視線は逸れなかった。
研究所を出て、私は先程の話を思い出していた。
不老不死・・・そして蘇生の話。
博士はさりげなく『未だに不老不死を達成した例はない。ただし人類においては』と言っていた。
蘇生が不老不死に繋がるなら、私がワーウルフとして蘇ったことは重大な出来事ではないだろうか。
博士にバレたら即解剖されていたかもしれない。そういえばディンも最初は私を解剖したいと言ってたなぁ・・・
「気分が悪いのか?それとも機嫌が悪いのか?」
「あ、いえ、なんでもないです」
考え事をしていたらヘルセリオさんに気を使わせてしまった。
「これからどうします?例の転生者の事も気になりますし、リーダーも探さないと・・・」
「無論コウセツの捜索を続ける。俺たちが王都に来たのは、彼を探し助け出すためだ。どんな情報が入ってきても、目的だけは失ってはいけない」
「そうですね、わかりました」
「王城へ向かおう。そこに、奴らに通じるなにかがある。それに・・・」
「それに?」
「・・・これは勘だが、例の転生者も、王城にいる気がする」
「どうしてですか・・・?」
「勘、とは言ったが、少し考えもある。転生して記憶が残るのであれば、魔王様を倒すのに必要なことをしているはずだ」
「修行ですか?」
「それもそうだが、俺が転生者であれば、一人で魔王城に出向くなんて自殺行為はしない」
「だからレギオンは群れているんですよね」
「だがレギオンは転生者・・・いや、エルクード博士の言葉を借りると、異世界人の集まりだ。仲間のようでありながら、互いがライバルでもある。そうした場合、最も味方にふさわしいのは誰か」
「同じように魔王を目の敵にしている、ゴルトニード最高戦力の四聖騎士・・・!転生者は四聖騎士と組んでる可能性があるってことですか!?」
「可能性としては、だがな。四聖騎士の中には魔族を深く憎んでいる者がいる。異世界人が仲間にする相手としては、うってつけだ。コウセツが魔王城で召喚者を倒しているように、ゴルトニード兵に紛れて魔族を倒してる転生者がいる可能性は高い」
「でも、もしその転生者に鉢合わせたりしたら・・・」
「問題はない。魔界と人間界が和平を進めているのも周知の事実だ。それを人間界の中心地であるゴルトニードで破綻させるようなことはしないだろう」
「それならいっそ、出てきてくれたほうが助かりますね。その人物だけでも特定しておきたいです」
「そうだな。気にはしておく必要はあるが、そればかりを気にもしてられない。とにかく今は王城へ向かおう」
相変わらずヘルセリオさんは感情の見えない顔で淡々と言うばかり。もちろん焦ってるようにも見えないし、一体今どう思っているんだろう?
迷いもなくまっすぐ歩く背中に、そんなことを思った。
「緊張しているか?」
振り向きもしないのに、心中を覗かれたようだった。
「正直、かなり緊張しています」
「もっと力を抜くといい。何度も言うが戦いに来た訳じゃないんだ」
「そうですけど・・・噛まないと言われても、虎のいる檻にやすやすとは入れません」
「?虎はいないぞ?」
「例え話ですよ・・・」
「なるほどそういうことか。理解した。そうであれば・・・他のことを考えるといい」
ヘルセリオさんは立ち止まると、振り向き言う。
やはりというべきか、想像通りの無表情で。
「他のことと言うと?」
「楽しいことを考えるんだ。ディーノに買っていくお土産なんてどうだろうか」
「ふふっ、それよりもっと楽しいことを考えたいですよ。どうせ何を買っていってもアイツは喜ばないだろうし、それどころか買ってきたものを
偉そうに鼻で笑う姿が容易に想像ができる!
「・・・十分そうでよかった」
「え?どういうことですか?」
「いや」
無表情ではあったけど、どこか満足げに再び歩き出す。
なになに?どういうこと?どういう意味??
よくわからないけど、まぁ・・・いっか。
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