第39話 キスよりキルされそう

四聖騎士団団長、ペリノール。

先々代魔王、エリーゼを倒したとされている人類最強の騎士。

私が知っているのはそれだけだった。

本人を見たことは、ある。

英雄と呼ばれているだけあって、街の中に堂々と銅像が建ててあったり、彼が魔王を倒す劇まで存在するらしい。

そんな伝説のような存在は、今では四聖騎士の長を務めている。王都に住んでいた頃、彼の噂や英雄譚はちらほら耳に入っていたが、どれもメチャクチャな内容ばかりだった。

例えば、素手で湖を割って干上がらせた、とか。拾った石だけで盗賊の砦を陥落させたことがある、だとか。

おおよそ、噂に尾ひれがついただけだろうと思うけど、先々代の魔王を倒したというのは流石に本当のことだろう。

そのエリーゼという魔王がどれほどの強さと凶悪さを兼ね備えていたかは知らないが、いずれにせよ魔王を、少なくともあの魔王城の包囲をかいくぐり、その中心を陥落させたほどの異常な力の持ち主であることは間違いない。

そんな英雄が、ゴルトニアにいる。


「でもメアリーさん、そんな偉い人に会うのなんて私たちじゃ無理じゃない?そもそも、ゴルトニアの人たちって魔界や魔族を良しとしない人たちなんでしょ?」

「私達がそう名乗らなければ魔王軍とは気づかれないでしょう。それに方法を考えていないわけではありません。先程言った通り、賭けになりますが」

「なにを、するの?」

「ふふふ、フィロちゃんにも脱いでもらいます」


またフィロちゃんには大変な思いをしてもらうけど、別にいいだろう。


~~~~~


食事と少しの作戦会議を終わらせた私たちは、店を出ると、メアリーさんの先導に従いゆっくりと大通りを進んでいく。

私はきょろきょろと周囲に目をやる。


「穏やかの街並み、ほどよい賑わい。王都は素敵な場所ですよね」


メアリーさんはとてもさわやかな、清楚な笑顔でこちらを振り返る。

その姿はどう見ても、都会ではしゃぐ、どこにでもいる少女。これがメアリーさんの本来の姿だと信じたくはあるんだけどそうではない。


「どうしました?ほら、おいて行っちゃいますよ?」


小走りで進む彼女からキラキラと光が散るエフェクトが見えてきそうだ。どこかの世界のヒロインかな。

でも私にはわかる。彼女は何か怪し事を考えている。

理由はないけど、確信している。お店で彼女から意味深なセリフを聞かされた時から嫌な予感しかしていない。


『私を信じて、ついてきてください。それも、初めてこの街に来た田舎の旅行客のように、キョロキョロ周りを見回しながら、です。ちょっとエッチなことをするかもですけど頑張ってください』


どうしたらいいかと聞いたら、それだけしか教えてくれなかった。

どこに連れて行かれ、なにをされるんだろうか。

彼女の考えていることはわからないけど、私にとって良くない何かが起こることは間違いないだろう。なんだ、理由がないなんてとんでもないじゃん。

嫌な予感がしようと、不安であっても、ただ言われたとおり、ウキウキと前を歩いているメアリーさんについていくことしかできないんだけど。


「こっちにも行ってみましょうよー!」


大通りからそれて細い道へ、メアリーさんはグイグイと歩を進めていく。

キョロキョロ。大通りにはもちろん人がたくさんいるが、この路地、だれもいない。

ふと、脳内で警報が鳴り響く。

あぁ間違いない、この人はここで何かをするつもりだ。言っては何だが、もう分かりやすすぎる。

知っている道の様に迷いなく進んでいるけど、どこに向かい、なにをするつもりなんだろう・・・?

進んで曲がって、進んで曲がって。

もう元の場所に戻る道も分からなくなりそうな頃、袋小路に出た。

レンガ造りの建物に囲まれ、その建物の窓はカーテンが閉められている。

周囲に人はいない。つまり、


「さて、と。そろそろいい頃合いですね」


いい頃合い、私もそう思った。


「どうするの?」

「フィロちゃんを虐めます」


え、なんて?

虐める?なんで!?


「ちょ、ちょっと待って。それは、どういう意味で?」

「どういう意味って、虐めるに分類なんてありませんよ?私がフィロちゃんを好きなよう弄くりまわす、それだけです」


ニコッとお面のような笑顔を浮かべ、距離をつめる。

思わず後退りすると、さらにグイグイ距離を詰められていく。


「ちょっと待って!あっ」


壁。

ひんやりと、そしてしっとりしたレンガの壁に右手が触れる。

追い詰められた・・・!

大丈夫、メアリーさんを信じる。信じるしかない。大丈夫、大丈夫・・・!


「そんな怖がらなくていいですよ?」


メアリーさんの左手がゆっくりと、顔の横を通り抜け、壁に触れる。

キスされそうな距離だが、今回はそんな感じではない。キスよりキルされそうだ。


「あ、あの・・・ちょっと、怖いよ・・・?」

「何を怖がるんですか?貴方も死ぬのは初めてではないでしょう?」


耳から背中まで、悪寒が駆け抜ける。

自分より身長が低く、か弱いはずの女性の言葉に、思わず背筋が伸びた。

とても演技には見えない、少し見上げた眼は黒い感情に染まっている。

けど・・・


「それじゃあ、どこから切り離しましょうか」


いつのまに取り出したのか、振りかぶった右手には銀色のナイフが握られている。


「まずは、耳ですねぇ」


すぐさま振り下ろされたナイフを、私は咄嗟に両手で抑え、そのまま左に受け流す。

・・・受け流せる。

獣人の力を使わなくても、メアリーさんの攻撃を防ぐことができた?

レベル差が50以上離れているのに・・・?


「鬱陶しいですねぇ、抵抗しないでくださいよ」


受け流され前のめりになった姿勢のまま、空いている左手で腰の辺りから新たにナイフを取りだし、胸に向けてまっすぐ突き出す。

が、右手の手刀で迎撃。カランっとクリアな音が路地裏に響いた。

・・・間違いなく、手加減している。これはメアリーさんの演技だ。

まぁ演技であったとしても、怖いものは怖いけど。


「やめてよ、どうしちゃったの?」


とりあえず彼女の演技に合わせて、まるで友人の奇行に驚いているかのように、私もそんなことを言う。


「貴方がいけないんです、貴方が、かわいいから」


ゆったりと顔をあげ、笑顔で言う。

その顔には今朝襲ってきた時のような狂気は感じられない。とはいっても、私以外が見たらそうは思わないかもしれないけど。

いつの間にかメアリーさんの微細な変化や違和感がわかる・・・これも獣人になった影響なのかな?


「活きがいいのは面倒なので、少しばかり落ち着いてもらいましょうか」


メアリーさんは後方に跳び、距離をとる。


「風の刃よ、切り裂け。エアスライサー」


詠唱。

メアリーさんが詠唱してエアスライサーを発動したのなんて初めて見た。

しかもたったの2本。


「大人しくしてください」


空中に浮かんだ風のナイフはそのままこちらへと発射される。

方向から察するに、両足か。跳べば簡単に避けられる・・・が。



「ファイアボール!」



私たちが歩いてきた路地の方から、火の玉が3つ放たれ、2つはこちらに向かう2本のナイフを、1つはメアリーさんの方へと向かう。

メアリーさんは跳んでそれを避けるが、風のナイフは相殺された。


「こんな白昼堂々人を襲うなんて、あんたも油断がすぎるなぁ。どうしたんだい?

一種の自首かな?」


顎髭をいじりながら渋い声でそう言う男。

今朝取調室にやってきたダンディな中年、ディレック、さん。

こんな人目につかないところで、間一髪で助けてくれたとなると・・・ずっとつけてきたのか。全然わからなかった。


「大丈夫かい嬢ちゃん。怪我ねぇか」


メアリーさんとの間に入り、私に背を向けたまま言う。


「は、はい。大丈夫です・・・」


ちょっとまって、これどうするの?メアリーさん???

予想外の展開に今更動揺し始めた。メアリーさんが何をしようとしていたのかわからないけど、これはまずいのでは?

とりあえず誤解を解かないと、メアリーさんがお縄だ。

遊んでただけです・・・演劇の練習で・・・こういうダンスなんです・・・

だめだ、なんかいいのが思い浮かばない!ダンス、でいくかなぁ・・・?


「ボサッとしない!!確保!!」


突然聞こえたメアリーさんの大声。


「あ?なんだって?」


そういうことか・・・!


「夜の導きよ、闇を纏わせ・・・」

ザワッと全身に魔力がめぐる。瞬間、時間がゆっくりに感じた。


ディレックさんがスローモーションでこちらを振り返っている、が、振り向き終わるより先に私は飛び出す。

ディレックさんの右腕を掴んで背中に回し、同時に膝裏を足で押し込み体勢を崩す。


「なんだと・・・!?」


その場にひざまずかせ、身動きが取れないよう、掴んだ右腕を上に少し上げる。


「く・・・っ!はめられたか・・・」

「ち、ちがうんです!ちがくないけど、ごめんなさい、こんな予定ではなかったんです!」


弁明したいが、確保した私自身パニックである。


「いいえ、何も予定外ではありません。ここまですべて計算通りです」


ニヤニヤしながらメアリーさんはディレックさんに近づく。

この人の中では計算通りなのかもしれないが、もっと事前に説明しておいてほしいもの・・・!だいろいろ急に言われても対応できないし、こういう荒っぽいのは好きじゃないし・・・


「ちょっと、なにしてるのメアリーさん!?」


メアリーさんはそのまま、ディレックさんの服をあさり始めた。


「何って、身分証を探しているんです」

「やれやれこんなオッサンの体弄って何がおもしろいんだか」


ディレックさんはこんな状況でも余裕そうに話しているが、こういうの慣れているんだろうか。

そして、メアリーさんの手際の良さも、慣れているんだろうか・・・


「ありました。・・・なるほど、ガルトー通りの方ですか。郊外の方に住んでいるんですね?」

「そんなもん知ってどうするんだ?差し入れでもくれんのかい?」

「少しばかり、ディレックさんには手伝ってもらいたいことがありましてね」

「手伝ってほしいこと?」

「私の知る限りでは、ディレックさんはそこそこ地位の高いゴルトニード兵ですよね。なので手伝ってもらえないかと」

「それこそ差し入れの一つでも持って丁寧に頼んでくれねぇもんかね」

「かわいい子に手を握られて、幸せでしょう?」

「握られてんのは命と住所だろ」

「それもそうですね」


メアリーさんは鼻で笑う。


「さてお願いというのは、四聖騎士団長、ペリノール氏に会いたいんです」

「・・・そいつぁ難しいな。そもそも会ってどうする?下手な気を起こすなよ、彼は妻子持ちだぞ」

「別に彼そのものに興味はありません。魔王城に手紙を送ってもらいたいんです」


あまりに直球。いいんだろうか、ゴルトニアの人に魔族の居城に物を送るなんて話して大丈夫なんだろうか。


「手紙なんかのために俺を騙したのかよ。そんなもん郵便屋にでも頼め」

「できるならとっくにしています。急いでいるんですよ、今すぐにでも向こうに届けたいんです。転移魔法以外に方法があるならそれを教えて下さい」

「なるほどな、たしかに転移魔法は手っ取り早い。だが会わせることはできない」

「そうですか・・・どうしても、ですか?」

「考えてみろ、彼は英雄だぞ?そうやすやすと会えるかってんだ」

「それは残念です、それならやっぱり、差し入れでも準備しましょうかね」


メアリーさんはニッコリと微笑む。これは良くないことを企んでいる笑顔だ。

嫌な予感がする。


「何か、方法があるの?」


恐る恐る私はメアリーさんに聞く。


「ちょっとばかしに行かないといけません。手間ですが、ディレックさんがこう言っているのでしょうがないですね・・・ところでディレックさん、娘さんはその後どうですか?」

「おい、まさかあんた・・・」

「私がせっかく治療したんですから、お家で元気にしているはずですよねぇ?ここの住所の、お家で」


メアリーさんは満面の笑みで先程手にいれたディレックさんの身分証を突きつける。


「娘に手を出したら許さねぇぞ」

「許さなくて結構です。本来であればもう死んでいるはずの命なんですから、どう使おうと私の勝手でしょう」


な・・・!この人・・・!


「ちょっとメアリーさん!さすがにそんなの、ひどいよ!」

「こっちだって命がかかっているんです。知らない家の子供より、お兄さんを助けるべきでしょう?さぁ忙しくなってきましたねぇ」


メアリーさんはくるりと振り返り、もと来た道へと歩き出す。


「・・・待て!やめろ!」

「なんですか?話は終わったのでここに用はありません。せっかく釣ったあなたは何もできないし、まったく役に立たないんでしょう?」


苦虫を数匹噛み潰して飲み込んだような顔で、ディレックさんは睨む。

それはそうだろう、突然確保された上、我が子を人質にされたのだ。抑え込んでいる私が言えた義理ではないが、あまりにひどすぎる。


「・・・わかった、連れて行くだけだぞ」


メアリーさんは悪意に満ちた笑顔でこちらを向く。いかにも、こうなるだろうと予想していて、そしてうまくいっているという顔。


「だらだらとするのは好きじゃありません、どのようにして会うか、サクッと説明してください」


メアリーさんの言葉に、ディレックさんは少しだけ肩の力を抜いた。安心したのだろうか。


「彼は国中の人気者で、一般の面会者との時間ですら大事にする人だ。ゴルトニアに行き手続きをすれば会うことができる」

「ではあなたに頼るまでもなかったんですね」

「それがそうでもない。最近妙な事件も多くてな、王都の中は警戒度が上がってる。あんたら二人があんなに簡単に開放されたのも不思議なぐらいだ・・・まぁそれはいいとして。面会には手荷物検査があって、魔力を制限する魔具をつけてもらう。そんで監視員もつけて話すことになるわけだ。もちろん怪しいやつや、ましてや前科持ちなんて普通会えない。二位捜査官の俺が連れてきたとなれば話は別だが」


なるほど、ほいほい会えるような感じじゃないな。


「でもそのペリノールって人は、人類最強なんでしょ?そこまでガードする必要あるのかなぁ」


私はふと疑問を漏らす。

人類の最大の敵である魔王を倒した人間。そんな人物をまもる必要があるとは思えない。


「最近は妙な魔法や武器を使って悪さするやつらがいるんだ。属性もわからねぇ無茶苦茶な力だったりもする。いくらペリノール氏が超人でも、もしものことがあるかもだろ」


あぁ・・・それたぶん私たち転生者だ。


「え、でもそれって最近、なんですか?」

「ここ数年特に目立ってる。ガニマールとかいう怪盗もそうだし、ネガジオも怪しい」


ネガジオの中にも転生者がいる・・・?まさかあの日少女を誘拐したあの男も・・・?


「気になる話になってきましたが、そろそろここを離れましょう。ディレックさん、少し話が聞きたいですねぇ、お宅にお邪魔しても、いいですか?いいですね?ありがとうございます」

「・・・ったく、ふざけやがって」


〜〜〜〜〜


路地を抜けて、歩いたり馬車に乗ったりなんかすること40分。品のいい住宅街へとやって来た。


「いいところにすんでますね、羨ましいです」


メアリーさんはキョロキョロと周囲の家を見回している。本当に羨ましく思っているようだ。

メアリーさんの住んでいたヴィークの住宅街もきれいだったが、こちらのほうが、いくらか優雅さがあるように思う。

公園に噴水、木々や鮮やかな花壇に彩られ、清潔感のある住宅街。私もこんなところにすみたい。

建ち並ぶ家のうち、ディレックさんは青い屋根の家へと私たちを誘導した。

鍵をとりだし、あける。


「パパ・・・?パパぁ!」


金髪の長い髪を揺らし、色白でふっくらしたほっぺの、10歳にも満たないほどの少女が、忙しく足を動かしこちらへと向かう。

かわいい。


「あぁただいま、エミリ」


ディレックさんは少しかたい笑顔で言う。


「こーんにーちはっ、エミリちゃん!」


そしてそんなディレックさんの隣からひょこっと顔を出し、満面の笑みを浮かべるのは猫かぶりモードのメアリーさんだった。


「メアリー先生!?わーいメアリー先生だ!!なんでいるのぉ!?」


顔を真っ赤にして喜ぶエミリちゃん。

なにこの異様な光景。

だいぶ慣れたつもりでいたが、メアリーさんの豹変ぶりは、もはや気味が悪い。雰囲気まで変わるってどういうことなんだろう。


「実はねぇ、エミリちゃんに会うために、遠くから帰ってきたんだよぉ?」

「そうなの!?やったぁ!」


うぅ、眩しいほど和やかな空気・・・!その人ついさっきまでお父さんのことを脅していたんだよ、なんてとても言えないし信じてすらもらえない空気・・・!

そういえば、小さい子相手には敬語じゃないんだなぁ。


「それにほら!プレゼントも用意しました!」


ん?なんだあれ?

メアリーさんは10センチ四方の、可愛らしいリボンの付いた箱をエミリちゃんに手渡した。


「えーなになに?あけていい!?」

「だーめ。これは次に私達がお家に遊びに来たときに開けるんだよ!それまでに開けちゃったら、とても悲しいことが起きます!」

「どんなことがおきるの?」

「二度と私とあえなくなっちゃうよ!そうなったら私は悲しいなぁ」

「そんなのやだ!!開けない!」

「うん!偉い!私だと思って、肌見放さず持っておいてね!」

「わかった!」


・・・何だかあれ、良くないもののような気がする。

同じことを思っているのだろう、ディレックさんも青ざめた顔でやり取りを見ている。


「それじゃあエミリちゃん、お父さんと大事なお話があるから、またね!」

そう言うと、ディレックさんの方を振り帰り、ニヤリと笑う。

「2階の自分の部屋で遊んできなさい・・・」

「うん!」


エミリちゃんはばたばたと二階へ向かった。大事そうに箱を抱えて。


「さて・・・少し話をしましょうか」


本当に、オンとオフが激しいよこの人・・・!!

とても冷静な口調で、勝手に人の家のリビングにある椅子に腰かける。

それにならって私とディレックさんも続く。


「その前に、だ。さっき何渡した」

「遠隔作動型の魔晶石です。今私が持っている同じ石に魔力を注げば、爆発するというシンプルな代物です」

「やっぱりそういう類のやつか・・・!」

「もしも私たちの邪魔や、計画が滞ることがあれば、その瞬間からあなたには一人暮らしをしてもらいます。唯一のご家族、大事にされてください」

「そんなことしなくても騙すつもりはない!頼むから娘を巻き込むな!」

「はぁ、まだわかりませんか?この無駄な問答も十分私の邪魔です。それとも今すぐ殺してほしいんですか?」


平然とした顔でよくそんなことを・・・!


「ま、まぁディレックさんもこのまま協力してくれたら何も起きないんですから!」


だめだムカムカする。この件が終わったらメアリーさんともう一回ちゃんと話し合わないと・・・!


「そういうことです。さてさて、少し気になるんですが、ネガジオにも特殊な力を使うものがいるんですか?」

「そんなこと聞いてどうする」


『コンっ』と、メアリーさんはポケットからを出し、机に置く。

余計な問答はやめろ、とそう目が言っていた。


「・・・可能性の話だ。正体がつかめないやつが何人かいるからな。名の知れている奴らは魔法使いだが、そうじゃない奴らの中に、妙なのがいるって噂がある。ここ最近は失踪事件も多い、俺は奴らの仕業だと睨んでる」


ネガジオの中にも転生者がいるとしたら、かなり厄介だ。ガニマールのときもそうだったが、彼らの力は単体でも甚大な被害を生む。

それが組織化して悪巧みをすれば、大げさではなく、世界を壊しかねない。


「ちなみにネガジオをゴルトニアはどう考えているんですか?」


メアリーさんはふとそんなことを聞いた。


「明日にでも壊滅させたいね。強盗に殺人、挙げ句人さらいまで追加でもう手を焼かされっぱなしだ」


それを聞くなり、メアリーさんは顎に手を添え、なにやら考え事を始めたようだ。


「いままで、その・・・変な力を使う人達と、ディレックさんはあったことがあるんですか?」


少なくとも目の前に二人いるということは伏せ、私は聞いてみた。


「触れたり魔力を使わずに物を動かす力の持ち主と戦ったことがある。風の魔法かと思ったがそうじゃなかったな。とんでもない力だったよ、魔法を撃ってもすべて防がれるしな」


またクラフトの話題か。彼は割と色んな所で悪さをしていたのかも知れない。

そんな問題児を仕留めたと思うと、わたしも結構やるじゃん!すこしだけ自信出てきた!


「ん、なんとなくわかりました。まぁ今の話は参考になりました、ありがとうございます。・・・さて、それではペリノール氏の元へ向かいますか。手紙を書きたいんで、紙とペンをください」


ディレックさんはため息をつきながら席を立ち、言われたものを持って戻ってきた。


「この話を聞くために、家に来たのか?」

「いいえ、エミリちゃんにプレゼントを渡しに来たのが本命です」


人質の確保、それがメアリーさんの狙いだったようだ。

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