第37話 これは間違いなくまた一難だぁ・・・

チヒロの告白に反応するように、俺の知らない記憶の断片がちらほらと顔を覗かせ、その都度頭痛が走る。


「転生したばかりの時、私は死んだということ以外の記憶が全くなかった。こっちに来てすぐ光雪君に襲われた後、シードちゃん・・・レギオンの人に助けられてから少しずついろんなことを思い出したの。家のことも、大学のことも、そして5年前に死んだ光雪君、きみのこと」


チヒロは物憂げな表情で言葉を紡ぐ。

この目、やはり嘘をついているとは思えない。

うすうす感じてはいたが、無意識の中で俺はチヒロのことを信じてしまっている。まるで昔から知っている相手への安心感のようなものが、そうさせる。

俺はチヒロを知っているんだろう。どんな性格で、どんなものが好きで嫌いなのか。そんなことすらわからないけど。


「君はどうかな?少しは何か思い出せたり・・・しないかな?」

「俺はいまだに思い出せないよ。自分の名前や物の名前とかは覚えてる。けど、周囲の人も、家族すらも思い出せない。悪いけどお前のことも思い出せない」


何も、思い出せない。

でもなんでだ、なんでなにも思い出せない。こいつのことは、きっと忘れちゃいけなかったはずなのに。もうそこまでわかっているんだ。

わかってるのに、チヒロは俺の中のどこにもいない。

得体のしれない焦燥感にだんだんと支配されていく。これはなんだろう、どういう感情なんだろう。


「俺は、なんなんだ?お前は何者なんだ・・・?」

「何も覚えていない・・・いや、正確に言うと何も覚えていない理由。ゼノさんがその答えを教えてくれたよ。とは言ってもあくまで仮定の話みたいだけどね」

「俺がチヒロのことを忘れた理由・・・だと?」


大きく息を吸い込み、吐き出す。

一度気持ちを整えるように深呼吸をし、チヒロは話しはじめた。


~~~~~


朝。

9時に目が覚めた私は、身体の節々に残った昨夜の疲れを感じながら、その身を起こす。

傷は残っていない。が、疲労感まではメアリーさんでも治せないみたいで、気だるい。


「ふわ~・・・」


きっとメアリーさんも疲れてまだ寝ているんじゃないかな?

あくびをしながら体を伸びをし、彼女が寝ているそちらに目をやる。


「あれ?」


メアリーさんはすでに目をさましていたが、それは少し違和感のある雰囲気だった。

上半身を起こし、下半身は掛け布団の中にある状態で、動かない。

眼はうっすら開いているけど、魂が抜けたように動かない。

え、怖。


「あの・・・メアリーさん?」

「・・・はい?」


そのままの姿勢で普通に返事は返ってきたが、やはりどうも様子が普通ではない。

糸の切れた操り人形のように無気力。疲れているだけなら寝ているはずだし、なんで体を起こして固まってるの?


「フィロちゃん」

「は、はい!なに?」


ビックリした。


「どうしたんですか、そんなに驚いて。私の顔に何かついていますか?」


・・・やっぱり何かおかしい。

心がざわめき、何かが私の感覚を不愉快に撫でる。

次第に強くなるその気配に本能が警鐘を鳴らす。無差別にばらまかれているこの嫌な感じは・・・殺気だ・・・!

明確にそれを察知するとすぐ、反射的に獣人化し、ベッドにメアリーさんを押し倒し、覆いかぶさる。

馬乗りになって両腕を抑え込むが、メアリーさんは抵抗する様子はない。


「朝からお盛んですね?それにしてもフィロちゃんの方から来てくれるなんて・・・私、うれしい」

「ふざけないで!メアリーさんなんかおかしいよ?どうしたの!?」


抑え込まれた姿勢のままでメアリーさんは妖艶な笑みを浮かべる。

この目の奥に潜む闇もとい病みは、先日チンピラを襲っていたときと同じ、殺人スイッチが入ってる時で間違いない。

そもそもなぜ今?今まで私を襲おうとしたこともほとんどなかったのに・・・


「この自由が効かない構図、だいぶ悪くない・・・ですがそろそろどいてください。ウィンドブロウ」


横なぎの突風が術者ごと私を窓際へと突き飛ばす。

直接的なダメージはないけど激しい衝撃。壁が壊れなかったのが不思議なほどだ。

このままだとまずい。原因はともかくとして、なんとか無力化しないと。

その時だった。

バタバタと何者かがこの部屋に向かってきている音を頭部の犬耳が捉えた。

そして。


「ちょっとお客さん!すごい音が聞こえたんだけど!」


ノックもなしに開かれた部屋の扉から、いつも午前中は受付にいるおじさんが怒りを帯びた顔をのぞかせた。

まずい、今のメアリーさんなら誰に何をするかわからない。

案の定、メアリーさん体を起こすとすぐ、獲物を狩る獣のようなギラつく視線をおじさんに向ける。


「なにしてんだ!?」


壁際で倒れているメアリーさんと私をみておじさんは叫ぶ。同時に、私は壁を蹴っておじさんに飛びかかった。もちろん、助けるために。

そのまま背中に腕を回して支え、さらに壁を蹴ってその場を離脱した。

予想通り、メアリーさんの魔法がおじさんのいた場所を通過し廊下の向こうの壁を吹き飛ばす。

メアリーさんの瞬間的な判断が読めちゃうところがなんとなくうれしいのか悲しいのか・・・それより!


「早く逃げて!できれば他のお客さんも連れてここを出て!」

「え、ちょっとあんた!」


何か言っているがそれどころではないので丁寧に、ケガしない程度に部屋の外へと投げ飛ばす。

はやくこの魔物を抑え込まないと・・・

慌てて背後を振り返る。

意外にもメアリーさんは魔法を放ったままの座った姿勢で動いていない。

ただ、理由のわからない笑顔が怖い。

なんにせよこのままここで争うのはよくない。見つけた人間誰でも襲っちゃいそうだし、衛兵が来ると大変なことになる。

でも、だからといって私は、本当は戦いたくはない。

こんな人だけど接してるうちに少しは仲良くなれた、と思ってるから。

そもそもメアリーさんが理由も無くここまで暴れまわるとも思えないし何かがおかしいだけなんだ。

その辺の話を聞くためにも、メアリーさんを止めないと・・・!


「ごめん、ちょっと痛いと思うけど!」


後ろに引いた右足に力を込め、飛び込む。

ニヤニヤして動かないメアリーさんが目の前まで急接近、同時に腹部に掌打。


「うぐっ!」


そのままの勢いで窓から飛び出し、宿前の道を挟んで反対側の宿屋の屋根に着地。


「けほっけほっ」


うまく鳩尾に入ったみたいで、呼吸が乱れている。

狙い通り・・・魔法も唱えられない今がチャンス!

仰向けに倒れる身体を両腕で抱え込む。

魔法を使って暴れだす前に王都を一度出ないと。

その場から跳躍。屋根の上を次々飛び越え、王都を囲う壁を目指す。

わざわざ丁寧に門を通ってる暇なんてない。入るときは検査があったが、出る分にはそこまでお咎めはない、と思う。思いたい。

どうであろうと脱出することに変わりはない。幸い私達のいた宿はどちらかというと王都の端の方だ、メアリーさんが回復するまでにはなんとか脱出でき・・・


「ひゃ!?」


壁まで残り200メートルというところで思わぬを受け、抱えていたメアリーさんを手放してしまった。

首元、舐められた・・・!

10mほど落下し、大通りを勢いよく転げまわるメアリーさんを道行く人々が心配そうに、そして怪しむように注目する。


「しまった!」


メアリーさんが大衆の目にさらされる!


「けほっけほっ・・・あら、服が裂けちゃった・・・」


というより、メアリーさんの目に大衆がさらされる!

近くの建物に下り立ち、すぐさま目標の位置を確認。

まずい、キョロキョロしてる。あれは、餌を探してる顔だ・・・!


「みんな逃げてぇ!」


丁度優しそうな子連れの女性が道にへたり込んでいるメアリーさんに声をかけようと歩いて行く。間違いなくあのお母さんはヤツのタイプ・・・!


「その人に近付いちゃだめぇ!!」


警戒を促しながらも私は足元の屋根を引きはがし、2メートルほどの鋭い木材を槍投げのようにまっすぐメアリーさんへと投げつける。


「あ・・・」


そしてそれは見事に、今にも女性に触れようとしていたメアリーさんの腹部を貫通して地面に突き刺さってしまった。


「「「きゃああぁぁぁあぁ!!!!」」」


野次馬たちと親子から悲鳴が鳴り響く。目の前の少女(見かけだけは)が突然空から落ちてきた上、たちまち串刺しになったのだからそれは悲鳴もあげるだろう。やってしまった・・・!

驚くほど鋭い反応で野次馬の視線が屋根の上にいる私を目掛けて殺到する。


「あの獣人だ!獣人が暴れてるぞ!!!」

「え、いや!誤解です!その・・・わざとじゃなくて!いや狙ったけど・・・とにかくその人から離れて!」


言いながら、死体のようにぐったりと動かないメアリーさんの元へと飛び降り、身体を貫く屋根の破片を引き抜く。

ものすごい量の血が噴き出て親子を赤く染め上げる。


「きゃぁぁぁぁぁあ!!」


これもうだめだ。早く外に連れ出さないと・・・

なぜか物言わぬメアリーさんを両腕で抱え、その場から跳躍。再び建物の上を飛んで回る。

・・・なんか私が悪者みたいだ・・・


~~~~~


ゲートは越えず、壁を乗り越えて私たちは王都の外に来た。

それまではピクリとも動かなかったのに壁の上でメアリーさんが暴れだし、結局何十メートルもある壁の上から外に投げ飛ばすような形になってしまった。

そのせいだろうか。そのせいだろう。

数十メートル離れた場所から、目に見えそうなほど溢れるどす黒い負のオーラを身に纏い、ふらふらと立ち上がるボロボロの少女がこちらを睨む。

あれ・・・怒ってるのかな・・・


「随分と雑な扱いじゃないですか。そういう所はフィロちゃんらしいですが、好きではないですねぇ」


うわやっぱ怒ってる。これは怒ってる。


「そ、それはともかく!どうしたのメアリーさん!?なんだかいつものメアリーさんらしくないよ!誰かに操られてるみたい・・・」

「操られている?ちょっと違いますね。目が覚めた、とでも言いましょうか。昨晩結構楽しんだつもりだったのですが、どうも目が覚めてからムラムラと落ち着かなくてですね」


どういうこと?目が覚めた・・・?

そういえばなんだか、大事なことを忘れている気が。


「それだけのことであんな場所でいきなり暴れて・・・そこまで分別のない人じゃないと思ってたのに!」

「そもそも先に私に乱暴したのは貴女ですけどね。まぁとにかく私は早く行かなければならないので、あまり邪魔しないでいただきたいのですが」


変な言い方だけど、メアリーさんはもっとポリシーのある殺人鬼だと思っていた。

殺しをする時は身元がばれないように、そして確実に殺すために少人数を相手にするし、もっと計画的な方法をとるはず。

今のメアリーさんは本能のままに暴れようとしているようにしか見えない。

本気でこの人の考えはおかしいと思うことはあっても、こんななのはメアリーさんじゃない。


「行かなきゃいけないって、どこに?」

「魔王様のところに決まっているじゃないですか。彼女にはまんまと嵌められました。ですが・・・私を自由にしたのは間違いでしたね」

「嵌められた?なにを言って・・・」


・・・そうか、8時間だ!

この噛み合わない感じは間違いない、リーダーがいないから天使の制約が戻ったんだ!


「殺せないとわかるや否や利用するとは、大胆な考え方です。まぁお兄さんがいなければ私はただ逃がされただけのようなものすが」


天使の制約ってこういう風になるのか・・・どんな勘違いを起こしてるのかわからないけど、人格が歪むほど強力に作用するんだ。

初めてその実態を目の当たりにすると、気持ちが悪い。気分が悪い。

こうも簡単に人の心を弄ぶ・・・いったい誰が、なんでこんなひどいこと・・・!


「なんとなくわかったよ・・・悪いけどしばらく眠ってて!」

「私と本気で戦うおつもりですか?フィロちゃんを虐めるのは楽しくなさそうなので今まで何もしませんでしたが、そういうことであれば」


初めて戦意を私だけにむけたようだ。

リーダーの言ってた通り、臨戦態勢になったメアリーさんは普段とは全然違う!

見た目からは想像もつかない圧力に、心臓が高鳴る・・・!


「お!いつもよりかわいい顔してますよ、そそられますねぇ。エアスライサー」


出た、風のナイフ。

10本の風のナイフがメアリーさんの周囲にフワリと浮かぶ。

そのうち5本はすぐにこちらに向けて発射され、メアリーさんは動かない。

右上、左、右下、左上、後ろ。飛来したナイフすべてを手足で迎撃。全然見える。

視線をメアリーさんに戻すと、彼女はすでにこちらへ向かって走り出していた。

今のは目眩ましか。

残りのナイフをふわふわと周囲に浮かせながら前傾姿勢でまっすぐ、そして容赦なく突っ込んでくる。

そして走りながら、腰に手をやりなにかを取り出した。

ナイフだ。手入れが行き渡っているであろう刃渡り10センチほどの綺麗な銀色のナイフ。・・・いつの間にそんなものを?

目の前までくると横薙ぎにソレを振り、私は上半身を少し退く。

退いた身体を追うように、顔面に風のナイフ2本が飛んでくる。

右手でそれらを弾く。

続いて風のナイフが1本左足に、翻った銀色は鉛直に真下から顎を目掛け昇る。

風のナイフは左手で弾き、ナイフを持つ右手の手首を、こちらも右手で掴む。

さらに発射される前に1本ナイフを右足の前蹴りで落とす。

最後の1本がくる・・・!

予想通り、宙に浮かぶナイフが再び顔面目掛け発射。

メアリーさんの右手を強引にひっぱり、握られたナイフでそれを間一髪防ぐ

ナイフも浮いてない、武器を持つ右手も封じた。

左手の手刀がこのまま首筋に入れば、気絶させられる!


「ふふっ」


メアリーさんは笑っていた。

迷っちゃいけない。この笑いはブラフだ。

しかし私は突然、握っていた右手が重くなったのを感じた。

気付くとメアリーさんは両足を地面につけていなかった。

50センチほど、小さく跳んだんだ。

上半身を後ろにそらしながらの小さい跳躍、そこから放たれるのは両足による胴体への蹴撃。


「うぐぅ!」


私の身体は後方に弾け、打ち所が悪く強い眩暈がした。

首元の攻撃を躱しつつも、両足での攻撃に転じるなんて・・・何なのこの人!

メアリーさんは蹴った勢いとともに数回バックステップをして距離をとった。


「強い・・・!」


でも聞いていた通りの戦い方、身体能力も体力も私のほうが上。

これなら時間をかければ勝てる。


「さすがです、うまく躱しましたね。でもまだまだ終わりではないですよ?むしろここからが本番です。エアスライサー」


次は15本・・・少し増えたぐらいなら対応できる。


「トルネード」

「え!?」


上級魔法!?これは聞いてない!

メアリーさんの足元に現れた2重円の魔法陣が一瞬光り、私を中心に風が巻き上がる。台風の目にいるような状態で、私自身にダメージはない。

普通はこの竜巻を直撃させる魔法のはず・・・何故私の足元に?


「そういうこと・・・!」


凄まじい暴風の渦。土が巻き上がり、竜巻の外が何も見えない。脱出しようにも暴風による大ダメージは避けられない。

目くらましと足止めか!


「うっ!」


不意に右足に痛みが走る。

切り傷・・・?

これは暴風によるものじゃない・・・ということは・・・

続けて真正面から風のナイフが顔を見せる。

慌ててそれを迎撃するが、わざわざ丁寧に一本ずつ飛んでくるわけもなく。


「うあぁ!!」


左足のふくらはぎと太もも、右足の甲と脛と次々にナイフが突き刺さり、消失。

痛い・・・!

体勢が崩れ、両膝を地面につく。

だめだ、今気を抜いたら!まだナイフは10本も残っているのに!

この状態で同時に狙われたら、防ぎきれない!

落ち着け、大丈夫・・・メアリーさんはいつも5本ずつのナイフを使う。また追加で5本放ってくるに違いない。集中すれば、この風の壁を越えてきた瞬間に叩き落す!

集中して息を整える。

音を聴いて、魔力を感じて・・・大丈夫、できる。

そう自分を鼓舞するが、想像を超える窮地がすぐそこにあった。


「そんな・・・」


風の壁が、竜巻が突如消えた。

そしてそこで見たものは、もはや数える気にもなれない大量のナイフ。

四方八方をナイフに囲まれ、その様子を少し離れたところでメアリーさんがにやにやと見ている。

あ、これはだめだ・・・!

かつて森の中でワーウルフに出会った時は感じる余裕もなく殺されたからわからなかったが、絶望とはこのことだろう。

時間がゆっくりになっているのか、それともメアリーさんがわざわざ猶予を与えてくれているのか。

いずれにせよ私の中の絶望感はより一層その冷ややかさが増していく。

あぁわかった、先ほどの集中が悪いほうに働いているんだ。今まさに飛んでくるってのが、わかってしまう。

ごめんなさい魔王様・・・!


「轟兎ッ!!」


刹那。

もう死んだと思ったその瞬間。が私の周囲に落ちてきた。

ギリギリ眼で動きを追えるほどの高速の物体が次々とナイフを打ち消していく。

これは、ウサギ・・・?

2匹のウサギが爆竹の様に飛び跳ねては体当たりをし、ナイフをすべて打ち消した。


「なぁにやってんだ?あんたらよぉ」


女性のハスキーな声、後ろだ。

両膝をついたまま背後を振り返ると、スマートな鎧を着たオレンジ色の短髪の女性が立っていた。

肩と胸部、腰回りと脛。

肌が露出している場所が多いんだけど、あれは防具として役に立っているのかな?


「獣人が女の子を殺したって騒いでるからたまたま近くにいた俺が成敗に来たってわけだけど・・・なんだこれ?逆じゃね?」


鋭い目付きとずいぶん男勝りな口調のその女性は私より年上、に見える。

防具は少しつけているけど武器は所持してない・・・?

武器、といっていいかわからないけど、2匹のウサギならかわいらしくピョンピョン跳ねながら女性の足元へとすり寄っている。


「さてどっちを捕まえるべきか・・・とりあえずどっちもか」

「いやちょっと待って!あの人は見ての通り危険なの!関わっちゃダメ!」

「はぁ?馬鹿かお前。助けられておいてなに俺の身を案じてんだ、てめぇの身を案じてろよ。大体俺を誰だと思ってんだ」


せっかく綺麗な顔なのに口調が汚い・・・!


「あーあ、魔族なんざ助けたくもないんだけど・・・っとその前に」


女性は話している途中でメアリーさんの方へ視線を移し、消えた。いや、とてつもない速さで私の隣を駆け抜けていった。


「メアリーさん!」


叫んで振り返ると、腕を捻じられて地面に押さえつけられた状態のメアリーさんがそこにいた。もちろん押さえつけているのは今の今まで目の前にいた女性だ。

人間なのに、獣人の私より速い・・・!


「まったく、王都内で暴れてたら即殺してもよかったんだけどな、外に出たのはある意味いい判断だよ。オフとはいえこのアーヴェインから逃げられるわけもないけど」


彼女はアーヴェインというらしい。なんだか、どこかで聞いた気がする名前。


「とりあえずお前!獣人!ちょっと話聞かせろや」


なんかガラも悪い!誰か知らないけど怖いなぁ・・・命の恩人だけど・・・

アーヴェインさんは、メアリーさんの上に乗っかったまま、ブンブンと手招きをする。


「おいこら早く来い!」

「は、はいぃ!」


とりあえず一難去ったけど、これは間違いなくまた一難だぁ・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る