第30話 ・・・長くない?死んでるんじゃね?
王都セルドラ・ゴルトニード。
人間国最大、ゴルトニードの中心都市。
人族だけでなく、エルフや妖精なども人口の大半を占める大都市。
そんな王都に入る審査を受けるために、俺たちは列に並んでいる。
というかゴルトニードには入国してるんだから、なぜ改めてこんなことをしてるんだろうか。なにか理由があるんだろうけども。
以前までなかったとは思うが、この閉じた大門の脇に設置されたゲートはまるでテーマパークのチケット回収エリアのようで、そこで俺達3人はそこに馬鹿正直に並んでいるというところだ。
それもタイミングの悪いことに、商人の群れと一緒になってしまった。
「うぅ・・・もう40分ぐらい待ってない?」
「文句言うな、もうすぐだろ」
なぜこんなことになっているのかというと、転移で直接王都に入れなかったのだ。
どういった結界かはわからないが、転移できずにヴィークに戻された。
つまりフィロは二度吐くことになった。
それはいいとして。
以前までは簡単に王都には入れたはずだが、どういうことだ?
「入国許可証を提示してください」
とりあえず王都を囲むように六つある大門の一つであるここまでは転移で来れたわけだ。
そして入国許可証の提出を改めて求められている。もはや存在も大して重要ではないような入国許可証を、なぜここで・・・
そしてみたところ、前の商人たちはそれぞれパスポートみたいなものを提示して行っている。
もちろんそんなもんない。今までは不法入国してたから今回もそうすべきか。
でもお荷物2つもあるし、どうしたものか・・・
警戒心を壊してまわることはできるが、入国許可証がなければ結局は無駄だろう。
出鼻を簡単にへし折られた。どうしよう。
「お兄さん、私に任せてください」
メアリーはにっこり笑う。
うわぁ嫌な予感。これは波乱の予感・・・!
「だめだ。殺すのはやめろって言ったろ」
「お兄さんは私を何だと思っているんですか」
そうこう言っている間に俺たちの番。メアリーはバッグに手をつっこむ。
監視してる人間は5人、こいつならやれてしまう・・・簡単に
「入国許可証を提示してください」
「はいどうぞ、この二人は私の助手ですので」
あれ・・・?なんか、商人とは別の、金色の、なにこれ?
「これは・・・確認いたしました。そちらの方が背負っているものは?」
「ガラス細工です。」
メアリーは淡々と話すと、簡単にゲートを越えて歩いていく。
「どうしたんです?ついてきてください」
「あ、あぁ・・・」
俺とフィロも続く。
「それではメアリー様。王都へようこそ、ごゆっくりされてください」
「えぇ、ありがとうございます」
・・・入れた。
~~~~~
王都だけあってやはり派手。
実は過去に何度か来たことはあるが、いつ見ても美しい街並みだ。
石畳、レンガ造りの家、魔具による華やかな外装、それでいて公園や並木道など、文明と自然が融合したきれいな街。俺はここが魔王城のあるグレルガンドと同じぐらい気に入っている。
そして見たところ、ちらほらエルフや獣人、木人もいる。
広義で言うとこいつらも魔族なんだが、もう平和協定成り立ってると思っていいんじゃないのかこれ。
「ちょろいですね」
メアリーはほくそ笑む。
「いやいやいや。ちょっと待って、なんだよさっきの」
「何って、提示しろって言われたものを提示しただけですよ。荷物関係も全部医療
道具として片付けられてますし問題ないです」
「緩すぎじゃないここの入国審査!私たち確認すらされなかったんだけど、大丈夫なのこの国のセキュリティ!?」
「普通はダメでしょうね。私が特級医師の資格をもっているのでこうなっただけのことです。ね?ヴィークまで取りに帰って良かったでしょう?」
これを計算に入れていたならすごいことだが、どうなんだろうか。いや、ないな。
「まぁ、なんであれ正直助かった。地面か空か、迷ってたんだ」
「えぇ・・・どうやって入るつもりだったの・・・」
「いつも通りの手で行こうかと。それはそうともう暗くなってきたし、まずは今日は休もう。転移も何回もしたし、お前ら連れて回るのも相まって疲れた」
「了解しました。私もちょっと・・・早く休みたいです」
「お?おぉ」
俺やフィロはもう人間の身体じゃないから全然気づかなかった。レベルが高いとはいえこの中では唯一純粋な人間だからさすがに疲れたのか。
結構歩いたもんな・・・俺も移動だけで魔力を消費したから休んだほうがいいな。
俺たちは未だにぎわっている街を、少しふらつくメアリーを先頭に歩いていく。
~~~~~
30分ほど歩いて、宿屋が並ぶ場所へとたどり着いた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
メアリーは顔を赤くして息を荒げている。そんなに疲れたのか?
いや、歩いただけでこれほどまでに体力を失うほどヤワじゃなかったはず・・・さっきまではぴんぴんしてたし。
「ここにしましょう・・・お兄さんお金はたくさん持っているんでしたよね?」
メアリーは早足で宿へと入っていく。
「あ、メアリーさん待って!ほらいくよ!」
メアリーを追って俺たちも宿屋へと入る。なんかあの感じ、以前も見たことが・・・
~~~~~
「いらっしゃい。3人?」
「えぇ」
そういえば部屋はどうすべきだろうか。
フィロはどうでもいいとして、メアリーは一人にするべきではないような気がする。
かといって男と女が同じ部屋ってのはちょっとよろしくない気がする。
フィロを監視につけるか?いやそれもそれで危険な気が・・・
「同室でお願いします。ベッドは2つ以上であれば」
「え、あ、ちょおま」
「あーシングルベッド3つの部屋が空いてますよ」
「じゃあそれで」
「じゃあこっちに記帳してください」
メアリーはサクサクとやり取りを進めていく。俺の意見も聞かずっていうか俺の意見を言うまでもなく。
「こちらカギになります。食事は外でとってください。ごゆっくり」
カギを受け取るとメアリーはすぐさま階段を上って行った。
「なんかとても急いでるね。メアリーさんどうしたんだろ?」
「様子がおかしいな・・・ちょっと気にかけてやったほうがいいか。アイツだけはただの人間なんだしな」
「頭の中身は人一倍人間離れしてるけどね・・・」
俺とフィロは二階の217と書かれた部屋に入る。
「シャワーの音・・・?」
驚くべきことに、メアリーは荷物をベッドに置きすぐにシャワーを浴びているようだった。
「もしかして綺麗好きなのかな?部屋も綺麗だったし実は潔癖症だったりして」
まぁいいや、それだけで済むなら問題ない。
体調不良とかでもアイツの能力なら治せるだろうしな。
「メアリーさんの次は私入ってくるねー!」
フィロは腰のバックを外すと布団に倒れこみ、バフバフと暴れる。
「ふぁーきもちー!魔王城のベッドほどじゃないけど!」
「あまり騒ぐなよ。下の人に文句言われるぞ」
「う、それはいやだなぁ。そういえばさ、今回の冒険はレギオンの全滅が目標だよね。終わったらメアリーさんはどうするのかな?」
どうするか、とういうのは、魔王城がメアリーをどう処理するか、だろう。
「良くて捕虜、悪くて死刑。あいつは転生者だからな、ソフィアの脅威になりうるなら死んでもらうしかない。俺としてはそういう判断になるけど、魔王軍はどうだろうな」
仮に魔界の脅威を取り去った功績を認められて恩赦がでたとして、メアリーを城に住まわせるのは絶対によろしくない。毎日天使の制約を壊すために一緒にいるなんてのは当然お断りだ。
「まぁそういうのはこの件がいくらか片付いてからだな。そもそも始まって間もないし、レギオン討伐自体簡単じゃない。3人生きて帰るのすら難しいと思うぞ。お前は特に死亡率高いだろうし」
「不吉なこと言わないでくれるかな・・・」
「本当に守ってやれるかわかんねぇからな。まずいと思ったらちゃんと逃げろよ」
「足は引っ張らないようにするよ。ついてきたからには役に立たないと、ディンに怒られちゃうしね」
「そういえばお前、これまでの間よくあのイカレ吸血鬼と一緒にいられたな。異動届が全然出ないことをパルティが心配してたらしいぞ」
人間を玩具か食料かぐらいにしか思っていないであろうあの男の元で正気でいられる、いや生きていられただけでも驚きだ。倉庫番というほぼほぼ仕事がない職とはいえ、ただでさえ気が滅入りそうなあの部屋でさらにディンがいるなんて、俺からしてみると何らかの罰にしか思えない。
「みんなが言うほどアイツは悪い奴じゃないとおもうよ。そりゃよく解体されそうになったし、人使いも荒くて、自分は本ばかり読んで全然仕事しないし、口を開けばよく分からない平和理論を聞かされたけどさ」
十分悪い奴だと思うのは俺だけなのだろうか。
「でもね、アイツはアイツなりに魔王様への忠誠も厚いんだよ?というか逆に魔王様のことしか考えてないようなところある気がするなぁ。みんなの平和とか言ってるけど、結局魔王様が大事なだけだと思うし」
「そうなの?俺にはさっぱりそういう面を見たことないんだけど。ガルスタインのことは心底嫌いだったくせに、よくわかんねぇなやつだな・・・」
ガルスタインがディンを嫌ってるってことはない様子だったけど、ディンのほうは、それはそれはガルスタインを嫌っていたからな。
「私を強くしてくれるのだってちゃんとやってくれたし、私としてはその・・・感謝はしてる、かもね!」
フィロは掛け布団をかぶりモサモサと左右に転がっている。
「いまさらだけど、着替えるか風呂あがってから布団に飛び込めよ。汚くない?」
「実はまだなんか具合悪いし、疲れてたんだもん。・・・メアリーさんまだかなぁ」
いまだシャワーの音が鳴り続けている。
「・・・長くない?死んでるんじゃね?」
「そんなことないでしょ・・・ちょっと様子見てくる」
「おう」
フィロはベッドから離れ、シャワールームへと向かう。
なんとなく、見るのはまずいよな・・・
ガチャ
「・・・ちょっと!!みて!」
「いや見ちゃダメだろ!」
服とか下着とか置いてあるんじゃ・・・!
「いいから!」
これは不可抗力。そう言い聞かせ洗面所を見ると・・・
「あのバカ・・・!」
衣服なんてないし、奥の風呂場の窓は空いていた。
「格子まで壊しやがって・・・」
~~~~~
「や、やめろ・・・くるなぁ・・・!」
男は尻もちをついたまま、ナイフをこちらに向ける。いい、いい顔。
「もう一度聞きますね・・・?貴方はこの路地で私にいかがわしいことをしようとしましたね?その後はどうするつもりでした?」
「な、なにもしねぇ!許してくれぇ!」
「ゆーるーす?私に何もするつもりがないなら許すも何もないでしょう?私は貴方の正直な気持ちを聞きたいんです。しっかり手袋もつけて、だれもいないところに誘い込んで、逃げ道には二人も見張りをつけて・・・何をするつもりでしたか?」
切れ味の悪そうなナイフだなぁ・・・痛めつけるのには一番いいやつだ。
「うッぐぁあぁぁあぁ!!!」
ほら刺さりにくいせいで余計に痛そう。いい物もってますねぇ。
「どうした!?おい!お前なにしてる!」
「おやおや、お二人はちゃんと見張りしてないとダメじゃないですか。エアスライサー」
宙を舞う魔法のナイフは踊るように散り、駆け付けた男二人の足を突き刺し、派手に転げまわる。
「ぐぁあ!魔導士か!」
「さてと!お客様はもてなさないとですね。どなたからイキたいですか?」
三人ともそんなに辛そうに跪いて・・・最高の表情!
自分が優位でなんでもやっていいと思っている人をたたきつぶすのは何度やっても飽きないなぁ。
「やめろ!」
おや、この声は・・・えらく早い。
すぐさま半透明の剣が路地の入口から飛来し、肩を貫き、私はそのまま壁に打ち付けられる。
イタイ。
「お兄さん、お迎えには早いですよ・・・あぁ、フィロちゃんの仕業ですか」
あの姿、あれがフィロちゃんか。フサフサの尻尾と獣耳、なかなかかわいいじゃない。
人狼の姿になると嗅覚や聴覚が鋭くなるってところかな。
「さっそく約束を破ったな」
「この人たちは立派な犯罪者ですよ。裁かれるべき者を私が殺すのは需要と供給がうまくいっていると思いませんか?」
く・・・剣が抜けない。まったく、どんな力で投げてるのかな。
「この人達、気を失ってる・・・。なんでよメアリーさん!さっきまで普通だったじゃん!」
「普通・・・?あれが?食事や睡眠が必要なように、私は、何かを刻んでいないと生きていけないんですよ。あなた方にはわからないでしょうけどね。・・・くっ!やっと抜けた」
引き抜いた剣をその場に置く。
「そのまま動くな」
「もう何もしませんよ」
倒れている男三人に触れ、傷を癒す。
「さて、どうします?」
「こいつらはほっとく」
「そうじゃなくて、私をですよ。どうしますか?裸に剥いて殺すんでしたよね?」
「そんなことは言ってないと思うけどな。・・・もういい、帰るぞ」
「・・・は?帰る?なにを言っているんですか、このままだとまた殺しますよ」
「殺してないだろ。だから帰るぞ」
お兄さんは剣を拾ってそのまま路地を出て行った。ろくに目も合わせず。
「メアリーさんも、行こう?まだ旅は始まったばかりなんだし、メアリーさんのこの癖?もなんとか解決しよう。今は帰って寝るよ!」
なにこの人たち、気持ちが悪い。
さっそく約束を破ってしまったのに、お咎めなし?何を考えているの?
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い
・・・怖い。
~~~~~
「これはこれでいいかも。背中流してあげますよ?こっちから洗いましょうか」
「ちょっと!待った待った!!私女だよ!?あっダメだって・・・」
シャワールームからよろしくない声が時折聞こえるが気にしないようにしよう。少なくとも逃げられることはないから気にしないでも大丈夫、と信じたい。
メアリーは管理だけでも骨が折れるな・・・でもあいつの能力は必要だ。今回のレギオン討伐にはおそらく不可欠。
だからなんとかメアリーの殺人癖は抑えられないだろうか。
ガラッ
「お先しました」
「もぉ・・・毎回交代制にしない?メアリーさんの見張り」
「それはいろいろダメだ」
フィロがいてよかった・・・見張りにもってこいだな。俺にはできないししたくない。
「もう疲れたから黙って寝ててくれよ。俺もシャワー浴びて寝る」
疲れた。
~~~~~
シャワーを浴びながら考える。
どうするかなぁ、レギオン捜し。ヴィークの時もそうだけど、俺は単純な戦闘以外は苦手なんだ。
しかも今回はゴルトニードという超広範囲。相手の規模も未知数だしな、とりあえず明日少し聞き込みするか。
王都ならおそらく情報の集まりやすいところがあるはずだ。それにフィロもいる、あいつは情報集めに何かしら役に立つはずだ。先程メアリーの場所を簡単に特定したしな。
まぁ、とにかく早く明日を迎えよう。
~~~~~
お兄さんのお風呂、覗きに行っても怒られないかな。
フィロちゃんはベッドで何か本を読んでいるし、今ならばれないんじゃ・・・
「メアリーさんさ、なんで人を襲うの?」
だめか。
「さっきも言ったけど、人を傷つけたい欲望は私にとっては食事や睡眠、性欲処理に並ぶ欲望なんです。これなしでは生きていけない。もちろん、だれに理解もされないし、理解してもらいたいとも思わない。これはこの世界に来る前から変わらない・・・。フィロちゃんも大変ですね?私みたいなのと一緒にいろなんて、きついでしょ」
「まだ1日目でよくわかんない。それに今までもそれなりに変な人、いや変な吸血鬼と一緒にいたから何とも言えないかなぁ」
「そうですか。でも一つだけフィロちゃんはラッキーですよ?」
「何が?」
「フィロちゃんは私の『タイプ』じゃないから。あんまり殺人意欲がわかないし、ムラムラもしにくいんです」
「でもさっきお風呂で・・・!」
「それはだって、フィロちゃんだっておいしものだけ食べて生きてるわけじゃないでしょ?」
「失礼な・・・私はおつまみ程度か」
お兄さんはモロにタイプだけど、フィロちゃんはちょっとね。ピンとくるものがないんだよね。単純にかわいいけど、それだけじゃダメなんだよなぁ。
もっと、『弱そうな人』がいいんだよね。
「じゃあどんな人がタイプなの?」
「私のことばかり聞きすぎです。フィロちゃんのことも教えてくださいよ。フィロちゃんのタイプってどんな人?お兄さんのことはどう思います?」
「あの人はタイプじゃないかな。私はどっちかというと、ちゃんとかまってくれて、リードしてくれそうな人がいい。少し自分勝手で人のこと考えれなくても、意志の強さみたいなのをもって人がいいな!」
「でもお兄さんは顔もイケメンで長身、強くてかっこいいじゃないですか?いい物件かと思いますけどねぇ」
「そういうのは好きの基準にならないですね!どこかダメなところがあって、ちょっと癖があるほうがいいんだよ」
お兄さんに癖がないと言い難い気も・・・
「フィロちゃんは恋愛ごとでは苦労しそうですね、私にはわからないけど」
「わからない?」
「私は恋愛なんかしませんから」
恋愛なんてしない、そんなもの役に立たないし気持ちが悪い。
「それより、さっきの獣姿はよかったですよ?もう一回みたいなぁ」
「ちょっと、またそんなとこ触って・・・!だめだって・・・」
お兄さんが出てくるまではまだ時間あるだろうし・・・ね。
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