第29話 性的って・・・

「それでは3人とも、レギオン討伐、気を引き締めてかかってください」

「はい!」「おう」「はぁーい♪」


謁見の間にて。

俺とフィロ、そしてメアリーは鎧姿のソフィアに呼び出され、作戦の概要を説明されていた。

クリスタルフォレストに行った日から3日。いよいよ出発だ。


「絶対無事で帰るように。『3人』で戻ってきてください」

「やさしいですねぇ魔王様。好きになりそうです」

「メアリーさん、もう魔王様に絡まないであげて・・・そ、それでは行ってきます魔王様」

「えぇ・・・ご武運を」


俺でなくても兜の向こう側の表情が容易に想像できるだろう。おそらく引きつった顔をしてるに違いない。

いつまでも変態殺人鬼と同じ空気を吸わせるのも気の毒なので、俺たちは謁見の間を後にする。

・・・その前にちらっと振り返ってみると、ごつい鎧は小さく手を振っていた。

片手をあげ、応えるだけ応える。


「・・・行ってくるわ」


~~~~~


「さて冒険!と言いたいところですが、どうやって行くんですか?馬?鳥?」


魔王城の外、正門の前にて。メアリーは何やらご機嫌に問う。


「転移で飛ぶ。長距離だから3人は少しきついけどまぁなんとか行ける。鳥はない」

「えぇー!私転移トラウマなんだけど・・・あれ気持ち悪いんだよぉ・・・フラフラするし頭痛いし」


そういえばフィロは初めて魔王城に来た時、転移で酔ってゲロゲロ吐いてたな。ちょうどこの場所で。


「転移ですか、私は初めてです。楽しみですね」

「別に楽しいもんじゃねぇぞ。パッと移動するだけだからな」

「そうですか・・・それはそうと、お二人の準備はそれだけですか?」


準備?

いつも通りのデュランダルとスキャナー。ほかになんかいるか?


「私はこのバッグに着替えとか入れてるよ?」


フィロは腰につけた小さなバッグを手でたたく。着替えとかってあんな小さくまとまるもんなのか?


「あ、私だけですか」

「まぁ、メアリーさんが寝ている間はゆっくり準備できたからね」


直ぐに出動しようと決意していた俺が、なぜあの日から三日間も時間を空けることになったかというと。

実は三日前。俺の能力の効果でメアリーは三日間意識を失っていた。


「全然起きないし。叩いても起きないし」

「叩いて・・・ひどい仕打ちですねぇ」

「捕虜だもん」


俺は三日前、天使の制約、つまり魔王への殺意のみを壊すぐらいなら、メアリーの殺人衝動そのものを消してしまえばいいと思った。殺意を消せば、魔王も狙わないし、真人間になると思ったから。

しかし結果として、メアリーは三日間意識を失うことになったわけだ。

どういうことかというと。

生き物の感情、その中でも心の大部分を壊した場合、人は意識を失うらしい。生きがいなのか、希望なのか、どういう言葉で表すのが正解かはわからないが。理由は判明していないが、、過去にもこういう事はあった。

しかしまさかメアリーが常に大部分の感情を殺意で構成しているとは・・・こいつと旅して大丈夫なんだろうか。


「まぁそれはそれとして、私誘拐されるかのようにここに来たので、私物はすべてヴィークにあるんですけど、取りにいけませんか?」


そういえばそうだな、メアリーは半裸半殺しの状態でここに来たんだった。


「そんなに必要な物もないだろ。戦闘の時だって丸腰だったし」

「別にもともと戦闘を専門にはしてないんですけど・・・着替えとか取りに行きたいです」

「王都で買えよ」

「他にも取りに行きたい物があるので、少し寄ってくださいよ」

「そうだねぇ、さすがにメアリーさんも女子だし、どうせパッと移動できるなら寄っていこうよ」

「さすがにって何ですかねぇ」


あーもうこれだからめんどくさいんだよなぁ。連れがいるだけでも面倒なのに、異性なんてもはや別の生き物だからな・・・勝手がわからん。

ゼノなら・・・

なんて考えてもしょうがないか。


「わかった、じゃああまり行きたくねぇけどヴィークに行こう。ただ俺とお前はできる限り顔を隠すぞ。あんなことがあったんだから」


街を破壊して回るわ、人を殺しまくるわでもはや指名手配されてるぐらいだろう。

着替えを取りに行くためだけに衛兵に捕まったらたまらん。


「そうですねぇ、気を付けます。でもうっかり、トルルちゃんを見つけたら私・・・!」

「その時はお前を半殺しにして魔王城に直送するからな」

「まだ何をするか言って無いじゃないですか・・・性的な悪戯をするだけですよ」

「性的って・・・何する気なの・・・」


天使の制約は外れているが、人間としての良識も元から外れているからな・・・結局警戒を解くわけにはいかない。散歩中の犬が虫を殺す感覚でコイツは道行く人を殺す可能性もある。

人間界では死刑確定の凶悪犯罪者だろうし、放し飼いにするのはいろいろ危険。飼い主がちゃんとしないとな。


「安心してください。お兄さんが現れるまでは誰にもばれずに平穏に生きていたんですから」

「殺人鬼が隠れて平穏に過ごされても怖いんですけど」

「とにかく、無駄に人に危害を加えるな。面倒が起きれば動きづらくなるし魔王軍にまで迷惑かける可能性がある。ほんっとやめろよ。フリじゃないからな」


そんなキラキラした目で見てもダメだぞメアリー。

正直一刻も早くこの魔王城から引き離したいっていうのが俺の本音。

レベル100を超える不死身の殺人鬼を開放してるともなれば、魔王城の中でも被害が出ないとも言えない。


「それにお前はクラリアのこともあるからな、信用もしてないし、仲間だとも思ってない。邪魔になるようならさっさと殺して道に捨てていくからな」

「それが普通だと思います。むしろこうしてゆっくり話せる方が驚きですよ。気があるのかと思っちゃいました」

「ケロッとしやがって・・・まぁいい、少しだけヴィークに行くか。もちろん長居はしないからな」

「えぇ、わかっています」

「だけどその前に、少し俺んちに行こう」

「おやおや。長旅の前に若い女性を二人家に連れ込んで、これから何するつもりなんですかぁ??えっちですねぇ」

「馬鹿か、そんな恐ろしいことできるか。少なく見積もっても3回殺されるわ」

「変なことするつもりなら、私だけでも5回殺すよ!?」

「じゃ7回かな・・・。ってちがうわ。俺とメアリーの変装具を取りに行く。ほれいくぞ、どっか掴め」

メアリーとケモミミはそれぞれ俺の手を握る。


~~~~~


「これはひどい散らかり様。だらしないですねぇお兄さん」

「うるせぇな、俺はこれが落ち着くの」


誰に迷惑をかけていないはずだけどなぜ文句を言われなければならないんだろうか・・・


「うわ、前来た時から変わってない・・・私が片付けてあげようか?」

「やめろ。俺はどこに何があるのわかってるからいいんだよ。他人が片付けるってことは散らかすのと同義。いいからじっとしていなさい」


さてと、『あれ』はたしかクローゼットにあったはず・・・

あちこちに落ちている服や本を跨ぎ、クローゼットへたどり着くと、下から引き出しを開けていく。


「ねー、この壁に立てかけてある剣は使わないの?強そうなのいっぱいあるけど」

「そこにあるのは持っていく用の武器じゃない。ただのどこにでもある武器で飾りみたいなもんだよ」


所詮昔使ってた剣の、もういらないし今度廃品回収に出すかな。


「よし、あった」


それはメガネととても似た外見をしている魔具。ただし度は入っていないが。

俺はそれらを2つ手に取り、メアリーの元へと持っていく。


「このメガネを掛けて、魔力を流せ。そうすれば目立ちはするけど顔は隠せる」


俺はもうひとつのメガネを掛けて、魔力を流す。

メガネが変形し、顔を覆う。


「うわぁ、何それ・・・」


フィロの引きつった半笑いに懐かしさを覚える。俺もこれを見た時、昔同じ反応をしたものだ。


「よし、じゃあヴィークに行くぞ」


~~~~~


懐かしくともなんともない街並み。

長い坂道が行政機関セントラルに続いていて、道を囲むようにたくさんの建物が所狭しと並んでいる。


「お母さん!泥棒がいるよ!お母さん!!」

「なんかの催し物かしらねー。こら、指ささないの」


やっぱ目立ちはするな。


「ねぇ、普通の格好の私だけ逆に浮くんだけど、それどうにかならない?」

「ならない。我慢しろ」


俺の方はというと、笑っているかのような曲線のみの目となぜか涙が描かれた白い仮面、そしてその上から全く意味の無い飾りのモノクルを右目に付けている。そしてなんとこれ、ソフィアの兜と同じで、声も低めに変わるようになっている。


「はぁ、お兄さんのはまだいいほうじゃないですか。」


メアリーの方はもっと派手で、羽を広げた黒い蝶の仮面。口元だけは隠れていないが、こちらは声が高めに変わるようになっている。加えて無駄に派手な紫のハットをかぶっている。

身長が低いゆるふわ系なメアリーにこの仮面とハットはミスマッチすぎる。そして面白すぎる。


「泥棒って言われてたよメアリーさん・・・」

「今までやってたことに比べれば、泥棒って言われてる方がだいぶマシだろ。それよりほら、早くメアリーんち行くぞ」

「ここからは割と近いです。お二人はどうします?どこかに散歩でも行きますか?」

「ここで逃げられたらたまらん。3人で行くに決まってるだろ」

「逃げる、ですか。ふふ、その発想はなかったですね」


坂になった大通りを登りながら、時々俺たちを怪しむ目線が突き刺さる。

特に衛兵からの。

しかしそれらを気にしなければ、綺麗な町並みだな。魔導都市というだけあって、あちらこちらに魔具が見える。

風車型の魔具や、人と話すロボットのようなものもある。アレはもはや機械だろうと思うが、ゴーレムというらしい。

そして特に魔具がよく見られるのは店の入口だな。

本屋では大きな本の模型が閉じたり開いたりしており、レストランではナイフとフォークが音を立てずにぶつかり合っている。

店のPRみたいなもんなんだろう。

そういえば、入り口に喋るドアが設置してある奇抜な占い屋もあったな。


「どうしたの?変なお面のせいか、ぼーっとしてるように見えるんだけど」

「あぁ、今はちょっとぼーっとしてたわ。考え事」

「これからのこと?」

「どちらかというとこれまでのこと。まぁ気にするようなことじゃないよ」

「ふーん」


フィロはそれ以上は追求してこなかった。


「そうだ、近道しましょう。こっちです」


メアリーは大通りから狭い小路へと入る。

この街にはこういうところが多い。セントラルに続くいくつかの大通りとそれぞれをつなぐ狭い路地でこの街はできているんだろうと思う。

二人並べるぐらいの路地を歩いていくと、ゴミ箱や大量のダンボール、ときには地面で寝ている人もいた。


「おぉ・・・まさに路地裏!大通りが華やかな分余計に汚く見えるね。」

「そうか?他の街に比べたら綺麗な方だと思うけど」

「なんか、ゴロツキとかいそう。殺人が横行してそう!」

「こんな人が頻繁に使うであろう小路でゴロツキが殺人を犯すことなんかそうそうないだろ。捕まえてくれって言ってるようなもんだ」

「それもそっか」

「そうでもないですよ。そういう人たちは手際が悪いだけです。周りに人がいないときにサッと殺れば大丈夫ですよ」

「お前は頭が大丈夫じゃないですよ」


しばらくクネクネとした道を進むと、再び大通りに出た。


「あ、道間違えちゃいましたー。テヘヘッ」

「お前・・・わざとだろ」


見覚えのある服屋、そしてケーキ屋。そしてその間にある狭い建物。


「おやおやぁ??おにいさん!あんなところに占い屋さんが!これから激しい戦いが予想されますからねぇ、何か占ってもらったほうが良いのでは!?」


メアリーはわざとらしく、そして大げさなリアクションでその店を指差す。


「別に、占ってもらうことなんかねぇだろ。早く行くぞ」

「つれないですねぇ、店員さんがかわいい女性かもしれませんよ?」

「なんのつもりか知らんけど、俺は行かない。もちろんお前も行かせないけどな」


こいつ、最初からここに向かってたんじゃねぇだろうな。

だとしたら、何が目的だ。まだトルルのことを狙ってんのか?


「えぇー!?占いやっていかないの!?私こういうの大好きなんだよね。ね!行こうよ!大丈夫だって変な格好だけどあのお店も十分怪しいから!」


面倒なことを言い出しやがって・・・!

しかしフィロはこの街での出来事をほぼほぼ知らない。だから本当にただの好奇心で言っているんだろうが、今それはとても迷惑。

今はそんなことより早く王都に向かうべきだ。


「あらまぁ、一応気遣いのつもりだったんですけどねぇ?」

「なんの気遣いだよ。いらんことに時間を使わせるな。ほら、行く・・・」


言いかけて俺は『トルルのワクワク占いハウス』に視線を奪われた。


「ありがとうございましたー!」


礼を言い、ニコニコと笑いながら出てくるカップルがそこにはいた。

・・・そうか、ちゃんとうまくやってんだな。


「ありゃ、どうしたの?もしかして行く気になった?」

「いやそういうわけじゃ・・・。ほらもういいだろ。行くぞ」

「あ、なんか一人で満足してる感じがする!なんなのもー!」


文句をグチグチ言うフィロを無視して、俺はメアリーに案内するよう合図する。


「やれやれ、リーダーがこう言うんじゃしょうがないですね。フフ、行きましょうか」

「恋愛運占ってもらおうと思ったのにぃ・・・」


メアリーはしたり顔で俺にウィンクをし、歩き始める。

ちゃんと無事にやってんならそれでいい。わざわざ確認しに行くほど、俺達は親しくないしな。


~~~~~


しばらく歩いた。といっても15分ぐらいか。

住宅街の中の普通の一軒家。その前でメアリーは立ち止まった。


「ここが私の家です」


メアリーは扉の横の植木鉢をひっくり返し、土だらけの鍵を取り出すと、扉を開ける。


・・・普通の家。


特に趣味や性癖が主張されることも無く、キレイに片付けられた玄関、そして部屋。


「おじゃましまーす。メアリーさんって部屋は普通なんだね」

「部屋『も』普通ですよ?」


リビングも普通だ。ソファーに机にモニター。ソファーには小太りの猫のクッションがある。

俺とメアリーは変装(というかお面)を外す。


「狂気の殺人鬼ってぐらいだから、もっと人の内臓とか飾ってたりするかと思ったよ」

「そんなの見たら宅配の人が驚くでしょう。そういうのは見えないとこに置いてますので大丈夫です。さてと、ゆっくりしててください。直ぐに準備してきますから」

「え、今なんて」


メアリーは赤色と水色のマグカップを手際よく机に並べると、冷蔵庫から取り出したオレンジジュースをカップを注ぎ隣の部屋へと向かっていった。


「ねぇねぇメアリーさんさ、城にいた時よりもなんていうか・・・普通じゃない?」

「あの言動で普通だと思えてるならお前も少し心配なんだけど」

「いや確かにたまに変な事言ってるけど・・・そうじゃなくて、もっとほら、変態チックだったじゃない?いやらしい目もしないし変な動きもしないし」

「そういえばアイツ、猫かぶってる時は案外まともなんだよ。ずっと本性を隠し通してきただけあって、そういう擬態が上手くなっていったんだろうよ。多分街中では一般人モードに自動切り替えするようになってんじゃね?」

「逆になんか怖いんだけど・・・。ん?あれ・・・」


何かに気づくと、フィロは立ち上がり窓際に置いてある何かに触れる。

あれは・・・写真立て?


「わー!わー!見て見て!これメアリーさんの彼氏じゃない??」


フィロは写真立てを手に取りキャッキャッと騒ぐ。

こらこら、人んちの物を勝手に・・・って、は!?

そんな馬鹿な、ありえない。メアリーに恋人!?

あのクレイジーな殺人鬼に恋人!?


「そ、そんなわけあるか、弟とかだろ。じゃなきゃサンドバッグだろ」

「転生してきたのに家族がいるわけないじゃん!それにこの穏やかな笑顔・・・これ絶対彼氏だよ!しかも結構なイケメン!車椅子に乗ってるから、身体がどこか悪いのかな?」


フィロは興味深そうに、かついやらしく写真を観察している。そんなに見つめたら穴が開くぞ。


「今とあまり見かけが変わらないから、最近の写真かもしれ」


パキッ


興奮して話すフィロを黙らせたのは高速で飛んできた1本の『メス』だった。

魔法じゃなく、銀色に光る本物のメスが写真たてを突き刺しそのまま壁に刺さったのだ。本当に穴が空いた。


「貴方は警察ですか?そうでないなら勝手に人のものを漁るもんじゃないですよ」

「ご、ごめん」

「まぁそんな所に置いていた私も悪いんですがね。うっかりしていました」


隣の部屋からリュックを背負って戻ってきたメアリーは壁に刺さったメスを引き抜き、写真もバッグにしまった。笑顔の奥に黒い感情が渦巻いているように見える。

メアリーの黒い部分なんて丸見えだったけど、それとはもう少し違う、普通の人間らしさというか、そういう闇を感じる。


「しかしそうですねぇ、指を1本、いや2本折らせてくれたら許してあげます」

「うっ・・・」

「ふふっ冗談ですよ。お待たせしました、さぁ行きましょうか」

「あぁ、いよいよだな」


一瞬膨れ上がった殺気はどこへやら、メアリーはいつもの調子で小さく微笑む。

まぁ特段気にする事でもないか。メアリーにはなにか地雷がある、その程度に心にとどめておこう。

俺達は再び『メガネ』をかけて、家をあとにした。


~~~~~


おかしい。

何について、何がおかしいのかというと、それは俺たちが戦った場所のことだ。

メアリーの家を離れた俺たちは、少し気になっていたことを確認しに行くことにした。

町の中を歩いていた時にも感じた違和感。だれも俺達を、それなりに大きい事件を起こした俺たちを探していない。

俺とメアリー、そしてゼノ達と争ったこと自体がなかったかのようだった。

そしていざ現場に向かうと、この有様。

何も壊れていない。


「これは、何かの魔法ですか?」

「いや、俺は聞いたこともない。壊れた町が完全に修復するなんて、ありえないと思う・・・」


俺たちはゼノ達と出会った場所に来ていた。

クラフトが壊した建物も、ディンが俺のぶっ飛ばして壊した街並みも、すべてなかったかのようにそのままだ。


「ここでメアリーさんと戦ったの?」

「そうだな。そのはずなんだけど・・・」

「まぁ、騒ぎになっていないのは都合がいいですね。死んだ人がどうなったかはわかりませんが・・・その辺の人に聞いてみましょうか」


そう言うとメアリーは近くにいた老夫婦に歩み寄る。


「すみません、お尋ねしたいのですが」

「はい?なんでしょう?」

「この辺で大規模な建物の倒壊がありませんでしたか?」

「倒壊?特に無いですが、悲惨な多量殺人ならありました・・・。おぞましい事件でした・・・噂だと例の殺人鬼の仕業だとか」

「殺人鬼による大量殺人、ですか。なるほど参考になるお話をありがとうございます」


去る老夫婦の背中に丁寧なお辞儀をして、メアリーはこちらへと向き直った。


「私が殺して回ったことは変わってないようですね。・・・どうなっているんでしょう?」

「わからん。でもお前の犯行だとバレていたらお前の家にもなにかしら捜査とかはいってるはずじゃね?」

「そうですね・・・無断欠勤してるだけなら嬉しいんですが・・・」

「じゃあセントラルに行ってみたらいいんじゃないの?メアリーさんそこで働いてたんでしょ?」

「いえ、そこまで確認しに行くつもりはないです。このまま無断欠勤します」

「解雇されるんじゃね?」

「また採用試験受けます。まぁこの街にもどれたら、ですがねぇ」


メアリーが転生者である以上、それは無理なんだけどな。人格に問題ありだし。


「それはそうと、私たちが愛し合って」「『殺し合って』な」「失礼、ヤリ合ってる間の出来事はそのままに、その後のことはなかった事になってる、といったところですかね」


メアリーの言い回しはもはや放っておくとして、これは気持ちが悪い。変な夢を見たかのような、幻術を見せられたかのような感覚だ。


「こう考えるべきではないですか?『レギオンと暴れた事実だけ』がなかった事になってる、と」

「・・・つまり・・・そういうことか」


そんな、そんな馬鹿みたいな能力があるのか・・・いや元々転生特典なんて全部無茶苦茶なもんだったな。


「ん?どゆこと?」

「・・・レギオンの中に、壊れたものを直すというか、事象をなかった事にできる能力者がいるってこと」

「え、そんなのずるくない?」

「お前がもらった転生特典の武器も、俺の能力も、全部ずるいだろ」

「私のは取り上げられちゃってるけどね・・・」


簡単に言ってはいるが、相手にしたらどうすればいいのやら・・・


「まぁわからないものを考え続けていてもしょうがないですし、そろそろ行きましょうか」

「ここに用もねぇからな。メアリー、フィロ、王都に行くぞ」

「そうだね。・・・あれ!?今フィロって言った!?ねぇ今名前で呼んだ!?」

「うるせぇな、行くぞ!」

「お兄さん稀にデレを見せる・・・私的には、アリです」


ようやく俺たちは王都へと向かうのだった。

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