第27話 案外早い再会でしたねぇ、お兄さ~~ん!
昨日は散々だった。
残業に謎のゾンビに謎の女。
どれも今の問題に関わっていないからよいものの、疲れた。
結局戻ってきたのが遅かったのもあり、メイドに伝言だけ残してソフィアには会っていない。
だからといって朝早く会いに行くのも、なんというか、照れくさいし。
しかしそれを許さないと言わんばかりに、日差しは俺を起こそうと窓から瞳を狙撃してくる。ひたすらに眩しいばかりだが、一向に布団から出る気になれない。
・・・結局俺はこれからどうするべきなんだ。
転生者軍団は何かと力を蓄えているから攻める必要がある、でも俺を狙っている可能性もあるから下手には動けない。
じゃあ俺は何をすべきなんだ?
いまいち進展のない自問自答が浮かんだところで、寝返りを打つ。
時刻は12時。
朝のトレーニングも終え、やることもなく、いまいちカフェに行く気にもなれず、俺は布団でゴロゴロしてこの時間。
割と普段はこんな感じなんだよな。特にやることも行きたいところもないし。
久々だな。こんなに平穏そうな日って。これはあれか、閑話休題的なやつなんじゃないのか。
何もせずに一日を終えるだけ、それもまぁいいんじゃないか。
コンコンコン
やっぱり何かある日かな。
「あーい。」
とりあえず、誰だろう。
「失礼します。魔王様がお呼びです。」
お、メリルだ。魔王城で人気メイドのメリルだ。今日もメイド服とツインテール。いいね。
「うわ、まだ寝てるの?そんなんじゃ魔王様が愛想つかしちゃいますよ?」
メリルは布団でゴロゴロ寝ている俺に向かって、平日の昼間からだらだらしているニートを見るかのような目を向ける。
メリルは魔王軍には敬語だが、実は俺にはこんな具合にちょいちょいタメ口だ。
まぁ俺は魔王軍ではないしな、敬意を払う必要は確かにないわけだが。
「早く行ってあげてよ。なんかもじもじしてたから待ってるはずですよ。」
なぜか不満そうにメリルは俺をせかす。
不満そうに、というのも俺の主観だから本当にそうなのかはわからないけども。
なーにをイライラしてるんだか。寝不足じゃないかな。俺みたいにこう、しっかり睡眠を・・・
「もう。ごろごろやめ!」
バタン
雑にメリルは扉を閉じる。
・・・やっぱなにかイラついてんな。なんでだ?
まぁいまそんなことはどうでもいいか。ソフィアに会いに行こう。
俺はコートを羽織り部屋を出るが、そこにはもうメリルはいなかった。
~~~~~
部屋につくとメリルの言っていたとおり、ソフィアはベッドに座り、何やらそわそわしていた。
「なんか落ち着きないな。どうした?」
「いえ別に。何も、ないですが。」
今日は肩を露出したフリル付きの白いワンピースに上からスラっとしたコートを着ており、頭には青白い小さなリボンをつけている。部屋着にしてはおしゃれだな。
「なんかメリルが機嫌悪かったんだけど。なんかあった?」
「メリルが?なんでしょうか・・・心当たりはありませんが。さっきまではニコニコ話していましたよ?」
「あぁそう。まぁ別にいいや、俺には関係ないだろうし。ところで呼び出してどうしたんだ?いつもとまた違った格好してるし。」
「はい。命令があります。」
「お?なんだ?」
「私と、これからデェトをします。」
~~~~~
城下町の西門を出て馬車に揺られること30分。
俺たちは魔界の名所の一つ、クリスタルフォレストへと到着した。
読んで字のごとし、木々が様々な色の水晶でできており、地面は土ではなく半透明な砂が広がる。
快晴のため、日差しは木々を照らし美しく光を反射し、空気も心地よく、神聖な場所といった印象を受ける。
どこまでも広がっているようなこの森を前に馬車から降りた俺たちは唖然としていた。
「すばらしい・・・こんなに美しい場所だなんて・・・!」
ソフィアは目を輝かせて森へと走る。
「おーい転ぶぞー。」
俺もそれを追い、さらに俺たちの数十メートル後ろに魔王軍の小隊がついてきている。
・・・落ち着かないんですけど・・・
「もう、コウセツさんゆったりしてないで、早く奥まで行きましょうよ!」
いつになくハイテンションなソフィアが手招きをし、森の中へとグイグイ進んでいく。
しょうがねぇ、ちょっと状況を掴めないでいるけど、とりあえずついていくしかないな。
一応舗装された道を進み、ソフィアの隣に並ぶ。
「見てください。素敵な景色でしょう?」
少し開けた場所。そこでソフィアは掌を空に向ける。
木漏れ日、というのだろうか。
水晶の木々の隙間から差す光だが、どちらかというとミラーボールに反射したようなキラキラした多色の光。
「あぁ、きれいだな。」
素直にそう思って、それだけの言葉が出た。
しかしあれだな、全面水晶ともなると、すこしまぶしい。目が痛い。
「えぇ、本当に美しいです。感動です!」
外出用の私服姿が珍しいのもあるが、今日のソフィアはまた一段と違って見える。
なんていうか、普通の女の子みたいで、魔王やってるようにはやっぱり見えなくて。
「昨日はゴメンな、ちょっと帰るの遅くなって。」
「少し心配で起きていましたが、メイドから聞いて安心してすぐに寝ちゃいました。気にしないでください。」
「そっか。」
全くそんなこと気にしていないというふうに、ソフィアは周囲をぐるぐる見回す。
「こういうのも、いいな。でも出かけるなら国の中のほうがよかったんじゃ?あんなに兵まで連れてどうしてここに?」
「どうしても貴方とここに来てみたかったんです。ずっと前から魔王城の会議室にここの写真が飾られているんですよ。それを見ていたら、実物を見たいなぁと。それが貴方とならならなおいいな、と。」
なるほど。すごいシンプル。
家に飾ってある景色を恋人と見に行きたい、か。
それはどこにでもありそうな話ではあるな。身分の都合上、配下を連れてを実行することになる分、一般的ではないけど。
いや待て待て、そういえば俺達って、そもそも恋人なのか?今更だけど、恋人ではなくないか?
婚約者ではあっても、お互いが恋心を見せつけ合い、それを主張し合い、合意をもって恋人になってるわけじゃないし。
つまり、おれたちはただの婚約者。政略結婚のように、互いの気持ちに関与せず関係を築いたわけだ。
「あの・・・嫌でしたか・・・?」
「ん?全然そんなことないけど。なんで?」
「なにやら難しい顔をしていたので。どこか具合でも悪いですか?やっぱり昨晩何かあったとか・・・?」
強いて言うなら後ろの人たちが気になるぐらいですけどね・・・
「いたって健康体だよ。それより突然どうして今日?どうせならもっと前から言ってくれててもよかったんだけど。」
「それが・・・」
なんだ、なにか隠してるのか?
「もう少ししたら話します!それよりもっと奥に行きましょう。この森の奥には美しい湖があるらしいです。」
そう言うとソフィアは俺の手を握り、さらに奥へと進む。
・・・やわらかい。
~~~~~
それほど時間はかからずに、噂の湖にたどり着いた。
「おぉ、これはすげぇ!まるで異世界だな!」
異世界です。
透き通った明るい青さの湖。底まで透けて見えるが、やはり砂が半透明のためどこまでも透けて見えるようだ。中途半端に溶けたグラニュー糖がコーヒーカップの底に沈んで透けているような感じ。青いんだけども。
「実物は臨場感が違います。あ!みてください!虹色のお魚がいますよ!夜空を駆けているようで、まるで流れ星です・・・」
ソフィアはうっとりと湖を見つめている。その先で青く鮮やかな水にスイスイと魚が泳ぐ様はソフィアの言う通り流星のようだ。
これは絶景。
吸い込まれそうなほど広大で美しい湖を前に、感受性がポンコツな俺でも息をのまずにはいられない。
「・・・さて、それではそろそろ話しましょう。今日は大事な話があるんです。」
「大事な話?魔王辞任すんの?」
「できるならしたいですよ・・・そうではなく、ですね・・・」
そんな言いにくいこと?なんだろう。
まさか・・・
「貴方にお願いがあるんです。いえ、命令、と言ったほうがいいでしょうね。」
「じれったいな、早く言えよ。何してほしいんだ?」
「その・・・魔王城を出て、旅に出てほしいのです。」
・・・?
旅?
なんで?別にいいけど、どうしていきなりそうなった?
「そりゃまた突然だな。でも転生者は?」
「新たに現れる転生者はディンに任せます。もちろん本人の了解も得ました。貴方には『レギオン』を追ってほしいんです。」
「レギオン?なにそれ怪獣?」
「レギオンとは、私と貴方が遭遇した転生者集団の名称です。実は今日の午前中に会議を開き、そこで情報担当の西方軍からレギオンの話が出ました。西方軍団長のジェイド曰く、彼らの情報は王都でよく集まる・・・そこで彼らの対処を貴方達にお願いしたいんです。」
対処、か。要は殺せばいいんだろう。俺が懸念していた場所の特定もすでに済んでるのはラッキーだ。
「それじゃあさっそく行かないとな。なんだ、俺はてっきりもっと重要なことかと思ったよ。でもそんな話ならいつも通り部屋でよかったんじゃない?わざわざこんなところに出てこなくても・・・ん?それとさり気なく『貴方達』って・・・?」
俺がそこまで言うと、ソフィアは悔しそうなのか悲しそうなのか、暗い表情を浮かべる。
「そうです。今回は貴方にとってかなり危険な旅になりますので、助っ人を用意しました・・・」
ここでソフィアはさらに苦い顔をする。
「助っ人なんていらねぇよ。いつも通り一人でやる。嫌ならつけなければいいじゃん。」
「これは魔王軍の総意です。貴方がレギオンに捕まり、何らかの形で洗脳されるなどして彼らの仲間になってしまった場合、こちらの損失は大きすぎます・・・」
「そんなこと・・・」
「すいません、言い方が悪かったですね。今のはあくまで魔王軍の意見です。素直に言いますが、個人的に貴方がいなくなってしまっては、私はたぶんまともではいられなくなります。平和協定を無視して王都に超級魔法を放ちかねません。そうなってしまっては元も子もないのでやはり何としても貴方を守る必要があるのです。・・・その結果、貴方に二人、助っ人をつけることになってしまった・・・!」
あ、また嫌そうな顔。助っ人に問題があるのか?
しかし珍しい。誰とでも基本的に仲が良く、『だれか』の話題でこんな不快そうな顔をするソフィアを俺は初めて見た。
「その二人って役に立つのか?使えないようなら邪魔なんだけど。」
「残念ながら、そこそこ腕が立つのは事実です。一人は後で紹介します。もう一人は、貴方が迎えに行ってください。」
そういうと、ソフィアは待機している魔王軍のほうを少し見つめた。
あの中にいるってことか・・・?
「でも、俺はソロプレイヤーだからな。連携なんて取れないからやっぱ邪魔なんだけどな。」
「安心してください。二人は主に貴方のサポートと、何かあった時の報告、つまり伝令みたいなものなので。邪魔にはならないかと。」
そこまで説明すると、ソフィアは一歩、俺のほうへと進む。
近い。
「さて、今日呼び出した理由の一つは終わりです。」
ソフィアは手のひらを空へと向けた。
「アクアトルネード。」
魔法を唱えると、足元に半径5メートルほどの魔法陣が現れ、俺達二人を中心に水の渦が地面から立ち上がる。
「ふぅ・・・アイス・アーツ。」
現れたばかりの水の渦は10メートルほど立ち上がったところで氷に変わった。
今俺たちは、氷に囲まれている状態だ。少し冷える。
「いきなり魔法打つなよ。びっくりするだろ。」
俺はコートを脱ぐと、ソフィアに渡す。
「え、あ、・・・ありがとうございます・・・」
「で?こんな天窓付きの密室つくって、配下に聞かれたくないことでもあったのか?」
冷静なふりしてるけど、わりと驚いている俺。
上級魔法と下級魔法だが、このソフィア・ガルティーノにかかれば殺傷能力の高い魔法へとその姿を変えるのだ。
マヒャドじゃない、ヒャドだ。といった具合に。
「そうです・・・貴方の気持ちを聞きたかったんです。」
「は、はい?」
「ここでの景色、間違いなく私たちの思い出の1ページになるかと思います。少なくとも私はとても感動しました。このように美しい場所が本当にあるんだな、と。そしてそれを、その・・・貴方と一緒に見れたことは私の宝物です。」
「・・・ごめん、何が言いたいのかちょっと・・・」
「貴方はこれから旅に出ます。長くなるかもしれないし、もしかしたら、帰ってこないかもしれない・・・。一つでも多くあなたとの思い出を作りたかったんです。それと今のうちに、貴方の気持ちを知りたいんです。貴方は、私のことをどう思っているんですか?」
「どうって、それは・・・」
急に窮地。
でもそれは俺も思ってはいたことだ。俺達って、なんなんだろうかと。ついさっきも思ってた。
正直な話、ソフィアが俺のことをどう思っているのか気にはなる。
もしかして、ほんの少しでもわずかでも、俺のことを想ってくれてるんじゃないかと最近は思う。
「どうなん、ですか・・・?」
どうなのかと言われれば、答えはある程度決まってんだけど。
でも、伝える勇気は、『今は』ないんだよ。
なので。
「帰ってこれないかもとは失礼だな。どんな状況でも間違いなく帰る。ほかの助っ人二人を犠牲にしてでも帰る。だからこの件が落ち着いたら、ちゃんと伝えるよ。」
まったく、まるで俺が死ぬみたいなこと言うじゃねぇの。
とは言ったものの、ただの逃げだってわかってる。
俺も今回の作戦は、危険度がかなり高い気がしてる。なんてったって転生者集団と勝負だろ?ほぼ俺一人で。
「そんな・・・!それはずるいです!」
「ここで伝えてしまったら、それこそ気が抜けていつでも死んじまうわ。約束を守るためになにがなんでも生きて帰るしかない。そのほうが気合入るんだよ。」
これは本音。
今じゃなくてもいいなら、ゆっくりとちゃんと、俺のほうから話したい。
「だから今日はおあずけ。」
昨日のように、俺はソフィアの頭を撫でる。
うわー不満そう。不満そうだけどなんとか飲み込もうとしてくれてるみたいだな。
「・・・・!・・・・・!!!わかりました!もう!そういうことなら死んでも約束守って下さいね!」
無茶苦茶なことを言ってソフィアはくるっと振り返り、俺に背を向ける。おぉ・・・怒ってる。
「もちろん、このまま私だけに話せなんて言ったら星まで飛ばしますから!」
これが冗談でも脅しでもないのがソフィアの恐ろしいところであり、個人的に、なぜか魅力的な点だ。
「こ・・・、もう・・・!」
「ん?なんて?」
「なんでもないです!」
パンパン
顔真っ赤の魔王様は、鋭い目つきで俺をにらむと、手を二回叩いた。
なんの仕草かとおもったが、それがある合図であったことに俺は気づく。
ガガガガガガガガガガガガ!!!
何やらすさまじい勢いで俺たちを囲う氷の壁に亀裂が入って砕けていく。
「ちょ、あぶねぇよ!フォースフィールド!」
俺とソフィアを包む魔導障壁が飛び散る氷を防ぐ。
めちゃくちゃ飛んでくるんですけど。
氷の倒壊が終わったところで、ソイツの姿がはっきりわかった。
かかと落としで、上から真っ二つに氷の壁を割ったのだ。その証拠に、白い毛をはやした獣人のようなソイツは踵どころか右足の脛あたりまでが地面に刺さっている状態で姿を現した。
「あれ、ちょ、抜けない!」
演出に反して情けない姿。獣人は細長い虎のような、いや猫のような尻尾をせわしなく振りながら足を引き抜こうとしてる。
「うひゃ!?」
俺はその残念な獣人に近づき、脇に手を入れて地面から引っこ抜いた。
よほど恥ずかしかったのか、ソイツは顔を隠して体育座りをする。
「その人が貴方の助っ人の一人です。」
「いくらか強くなったみたいだけど、本質の残念感は変わんねぇんだな、ケモミミ。」
「フィロだって言ってんじゃん!もぉ台無しだよ・・・せっかくかっこよく登場しようと思ったのに・・・」
またもや久しぶりの登場。ケモミミだ。
今は3時頃だろうか。少なくとも日は登っているはずだけど・・・なぜ獣人化してる?
「おやおや?さすがに生まれかわった私に驚き?yes!」
「yesじゃねぇよ。登場の仕方にビックリしたわ。ソフィアに当たったらどうすんだよ。」
そのソフィア様というと余裕たっぷりの腕組姿勢で仁王立ちしてるわけですが。
「魔王様と打ち合わせしたとおりにやったんだもん!地面に刺さるのは予想外だったの!」
「ちょ、フィロ!?打ち合わせとか言っちゃダメです!せっかくかっこいい登場考えたんですからアドリブってことにしときましょうよ!」
「って魔王様も全部言っちゃってるじゃないですか!」
・・・本当にこいつは役に立つんだろうか・・・不安しかない。
「こ、これでもかなり強くなったんだから!本当だよ!?」
たしかケモミミはディンと一緒に倉庫番の仕事をしていたはずだ。
そういえばあの時、ワイズマンの瞳を取りに行った時も獣人化してたな。
ワーウルフって夜じゃないと変化しないんじゃないのか?初めて会った時も自我を失って暴走状態だったはずだけど・・・すこし成長が気になるのは事実だな。
「なんなら今試してやるよ。かかってこい。」
ケモミミは応えるようにニヤりと笑い、姿勢を低くして構える。陸上競技で見る、クラウチングスタートのような姿勢。
アレが、構え・・・?
頭を低くし、尻を上げ、右手を地面につき、しかし左手は背後に隠している。
「待ちなさい。」
今にもケモミミが飛びついてきそうな瞬間、ソフィアはあっさりと止めてしまった。
「おいおい、なんでだよ、いいとこだったのに。」
「いいところはこっちのセリフです。デェト中になにほかの女性とイチャイチャしてるんですか。」
「あ、魔王様が嫉妬してる。かわいい。」
「し、嫉妬などしていません!もうフィロの紹介もしましたし、城に戻りましょう。」
ケモミミとソフィアって、そこそこ仲いいんだろうか。なんかメリル以外にも友人らしい相手がいるのは初めて見た。そういう意味ではあの時山から連れて帰ってきたのは正解だったのかもしれないな。
「はぁ・・・行きましょうか。」
ソフィアはつぶやくと、湖を背に早足で俺の横を通り、来た道へと向かう。
そしてまた振り返り俺を指さし、
「約束!絶対!」
それだけ言うとスタスタと魔王軍が待機しているほうへと歩いて行った。
「怒ってるねぇ・・・」
「怒ってんなぁ・・・」
~~~~~
帰りはなぜか3人で馬車で帰った。ソフィアはいまだにすこし不満げにしており、ケモミミは普通の人間の姿に戻っていた。
「そういえばお前来るときは後ろのやつらみたいにリザードに乗ってきたのか?」
「んーん?走ってきたよ?」
「お、おう・・・」
ワーウルフってすごい。外見た感じ時速50キロぐらいでてそうなスピードなんだけどな。よくわからんけど。
「フィロは貴方がいない間もいる間も、ずっとディンに鍛えられていたんですよ。誰が命じたわけでもないのですが、あのディンが珍しく、ですね。」
ディンが、だれかを、教える・・・?
「こわっ!きも!なんだあいつ、もしかして死期が近いのか?」
「あーいやいや、それは私の希望もあってのことだったんだよ。私が強くなりたいって言ったの。」
「なんでだよ。せっかく平和な転生ライフが楽しめるってのに。戦ったっていいことないぞ。」
「私のためだけじゃない、魔王様を守るためだよ。訳も分からず命を狙われてるなんて、意味わかんない。私もその狙う側の一人だったと思うと、何もしないではいられなかったの。」
ケモミミはたぶん、アホだけどその分まっすぐなんだろうな。単純でいい奴なんだろう。
「魔王様はこんなにお可愛いですしね!」
ケモミミはソフィアに抱き着くと、頬ずりをする。友達ってより、妹みたいだな。
「ちょっと、やめてください・・・もう、フィロは誰も見てないといっつもそれですね。」
いや俺見てるんですけど。
というかいつもしてんのこれ。仮にも相手は王なんだけど、これ罪に問われるレベルじゃないの?
しかしソフィアもなんだかんだ嫌そうじゃないみたいだな。
俺は二人の反対側で、断片だけ聞こえる女子トークを聞きながら、そしてなぜかたまにフィロに睨まれたりしながら、馬車に揺られる。
「あ、そういえばもう一人の件、なんですが・・・」
唐突にソフィアはこちらを向く。
「そういえば『二人』って言ってたな。」
「申し訳ないですが、先程言ったとおり、自分で会いに行ってあげてください。」
「またかっこいい演出はなくていいのか?」
「いいです。あの人に関してはいらないです。」
「あ、そう・・・どこにいるの?」
「牢屋塔・・・です。」
~~~~~
あーもう嫌な予感しかしない。というか、その線しかない。
「だ、大丈夫。案外面白い人だよ?君はあまり話したことないだけだって!」
「残念ながらそこそこ話したよ。だめだ。アイツはダメだ。」
薄暗い塔の螺旋階段をのぼりながら、俺はケモミミになぜか慰められていた。
ソフィアは別れ際、鍵だけを渡してくれた。
ついてこなかったのは賢明だ。何が起こるからんからな・・・
なかなか来る機会はないが、魔王城の牢屋塔は、どちらかというとペットショップみたいだ。
罪人がいるというより、魔獣が多い。
今だって廊下を歩くと両サイドからさまざまな魔獣がよだれを垂らしながら檻越しに熱い目線を注いでくる。
「あ、ほらあの子私のお気に入り!かわいくない?」
角の生えたカエルの魔獣だ。同じ檻には自分の身の丈の3倍はある元気なウサギが。かわいくはない。
「あー、あんま見ないほうがよさそうだぞ。印象崩したくなければ。」
「えー?なん・・・」
~~~~~
牢屋塔の上層にて、俺は半泣きでぐずるケモミミと例の相手を探した。
上層ではやはり魔族がちらほらいる。危険なやつや重犯罪者を収容しているんだろうか?
「うぐ・・・ヒッ」
「もう泣くなよ。アイツらの食事なんてあんなもんなんだって。」
「だって、あんなグロいなんて、知らなかったんだもん・・・!あ、次の次が例の助っ人さんの場所・・・」
ケモミミに連れられて向かった牢屋には、812とだけ書かれた鉄の扉があった。
俺の目線より少し低い位置にある小さな長方形の窓から中を見て、予想は確信に変わった。
そして心からがっかりした。
「本当に衛兵さん連れてこないでよかったの?この人相当やばいよ?」
「案外面白いって言ってたのは誰だよ。とりあえず拘束すんぞ。」
ドアの隣にあるボタンを押すと、牢屋の中でピーッピーッと警報が鳴った。
そして中の人物は急に地面に伏した。
「魔導拘束、すごいな。実践で使えたらいいのに。」
部屋の中に仕掛けられた魔道具。囚人を地面に押さえつけ抵抗できなくできる装置だ。
「ほらあまり待たせるとかわいそうだよ。入ろう。」
鍵を開け、中に進むと、『その女』は顔だけ無理にこちらに向け、気色の悪い笑顔を浮かべた。
「あら~!案外早い再会でしたねぇ、お兄さ~~ん!」
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