第26話 俺はお前の友達か?

とても久しく感じるのは、いろいろゴタゴタした後だからだろうな。

ほんと今何時だと思ってんだ?夜の10時だよ。非常識にも程があるだろあの馬鹿天使め。

星の光だけが照らす草原で、苛立ちながら俺は意味もなくデュランダルで素振りをしていた。

はやくこい、はやくこい・・・!!

心の中でそう念じていると、星々を差し置いて煌々と輝く何かが宙に現れた。

「きたな。」

背負う鞘にデュランダルを収め、誰に言うでもなく俺は呟く。



「・・・?」

男だ。高校生ぐらいの男。特徴という特徴もない。髪は短く切って、少し派手な制服のようなものを着ている。

降り立った男は周囲をキョロキョロと見回した後、空を見上げ、露骨に落胆した。

「お前も災難だなぁ、こんな夜に召喚されるなんて。」

男は明らかに警戒した様子で振り返る。

「あなたは・・・噂の出待ちの・・・」

「出待ちとか言うな。悪質なプレーヤーみたいに聞こえるだろ。」

・・・あ。

スキャナーがない。最後に見た時は、ソフィアに渡されたところか・・・

まずいな、うっかりしてた。

見たところ武器を持ってそうにない。特殊能力の可能性が高いか。ここは言葉をかわして情報を引き出すしかない。

「お前はどっちを選んだ?特殊能力と武器。見たところ武器を持ってないから特殊能力だろ。」

「・・・」

「どんな能力?ほら言ってみ?」

「それを言ったら勝ち目がなくなるでしょ。」

まぁそりゃ警戒して話したがらないわな。

「わかった。お前が能力を教えてくれたら今は見逃してやるよ。」

「ほ、本当ですか!?」

「本当だよ。俺だって早く帰りたいんだ。」

俺の言葉に安心したのか、男はため息を漏らす。

「まぁここで逃しても、後々殺しに行くけどな。」

「それじゃただの執行猶予じゃないですか。」

「そうだけど。でもこの世界には『レベル』の概念がある。次俺に出会うまでに、俺を倒せるぐらい強くなっていればいい。頑張れ。」

「頑張れって・・・ちなみにあなたのレベルは?」

「・・・20だ。新人のお前ぐらいなら30秒に一人ぐらいのペースで殺せる。で?どうする?このまましゃべんないなら殺すけど。」

「あー待ってくださいわかりました!俺の能力は・・・時を止める能力です。」

出ましたよ。どこぞの吸血鬼や魔法少女と同じ。どうせそのへんの影響だろスへ○ックホルダーめ。

「なかなかに凶悪な能力を持ってんだな。よしよしわかった、よく話してくれた。」

デュランダルの柄に手をかけると、男は絶望的な表情で目を見開く。

「ま、まってください、なんで剣を握るんですか?」

「え、逆になんで逃げれると思ったの?」

「そんな・・・!話が違うじゃないですか!」

「たかが口約束を守る義理がどこにあるんだよ。俺はお前の友達か?」

「ひどい・・!くそ、殺られるぐらいならこっちが殺してやる!」

「こいよ。意気込むより先に行動に移したほうが効果的だぞ。」

「死ね!」


そう泣き叫ぶやいなや、一瞬のうちに男は姿を消し・・・


「はぁ・・・またか。」


同時に音もなく血溜まりだけが生まれた。


男は消え、そこにはただぶちまけられた血が残る。

たまにあるんだよなこのパターン。今までもこういう事は何回かあった。

俺も何が起きているのかはわからないんだが、バニタスいわく『理に殺される』らしい。

時を止める能力は定番すぎて、選ぶやつがわりと多くいる。そしてそのすべてがこうして謎の死を遂げる。

俺も正直最初この能力を選ぼうとしたんだけどな。結局嫌な予感がして選ばなかったんだよなぁ。俺の能力のほうが生き抜く上では便利そうだったし。

ひどい話だよな、使ったら死ぬ能力ですなんて誰も教えてくれないもんなぁ。詐欺だろこれ。どんまいとしかかける言葉がないよ。

しかしよかった。楽して帰れるのが一番だ。夜も遅いし帰ろう。

結果的に少ししゃべるだけで仕事は終了。さぁ早く帰ろう。


「ちょーっと待って貰おうか。」


少し遠い、背後からの声。こんな夜の草原に何者だ?

「今さ、なんかすごいこと起きたよね?おねぇさんに詳しく聞かせてもらえないかなぁ。」

振り返ると、そこには先程までいなかったはずの女性がいた。

フード付きのローブを羽織っているが、下には露出の激しいひらひらした踊り子のような格好。寒くないのだろうか。

真っ赤なバーマがかかったようなぼさぼさの髪が肩ぐらいまで伸びている。暗いから見えにくいが、目は大きく小顔だ。

年齢がよめない。20代半ばぐらいかな?

妖艶と言うか、どこか不思議なオーラを感じる・・・今までの経験上、こういう相手は何かしら厄介だ。敵でないといいんだけど。

「さぁ?俺にも何が起きたのかさっぱりだよ。眼の前で人が消えた。それだけ。」

「君が消した、じゃなくて?」

「そんなことしたように見えたか?それにもしそうだったとして、なにか問題があんのかよ。」

「問題ありありだねぇ。実は私ね、3時間前からずっとこの草原をウロウロしてるの。なんででしょ。」

あまり敵意は感じない。まさかソフィアと話してた、転生者の待ち伏せか?

「今の男を迎えに来た、とか?」

もしそうなら、ゼノの仲間だろう。早々に殺す。

「ぶっぶー!今の宇宙人は関係ありませーん。多分。私は単に、この辺に強い魔物が出たって聞いたんだ。それを討伐しに来たんだけど・・・お兄さんもしかしてぇ、魔物が擬態してたりしないよね??」

いろいろツッコミどころが多いが、内容から察するに、こいつはどうやら俺の想像してるような相手ではなく、本当に全くの無関係者のようだ。しかし宇宙人て。その発想はなかったな。見ようによってはそう見えるか。

「どう見ても人間だろ。それに俺が魔物なら、お前みたいな女一人ぐらいさっさと殺してるわ。」

「怖いねぇ。そうなる前に燃やしちゃうぞー?」

「それも怖い話だな。」

やっぱりなんかおかしいやつだなこいつ。俺に無関係とはいえ明らかに一般市民ではないだろ。

「まぁお前の探しているような魔物じゃないんで。俺は帰るわ。」

野良不審者に下手に関わるのはやめよう。そう思いその場を離れようとすると・・・

「ちょっと待ちなさいよ。こんな綺麗なお姉さんを独り草原に置き去りにする気?危険じゃない。気は確か?」

「おいおい、こんな時間に独りで草原ほっつき歩いてたのはお前だろ。お前こそ頭おかしいんじゃないのか。」

「ちょっとレディに対して冷たすぎじゃない?私に何かあったらその立派な剣が泣くわよ。」

「これはただの飾りだよ。ガラス細工。」

「ガラス細工背負って夜な夜な草原歩き回ってる男なんていないでしょ。それに聖剣を見抜けないほどお姉さんもポンコツじゃないのよ。そんなの持ってるぐらいなんだから腕が立つんでしょ?どうせなら手伝ってよ。私一人じゃこーわーい!」

「魔物退治なんてセルティコの衛兵にでもやらせろよ。なんで俺がそんなことしなきゃいかんのだめんどくさい。だいたい見ず知らずの俺を頼るなよ・・・」

「こんな時間まで仕事させられてる私をいたわってよ!困ってる時はお互い様でしょ!それにもしこの仕事を失敗したらセルティコが滅ぼされかねない。それでもいいの?」

セルティコが、滅ぼされる?

「いくら小さい国とはいえセルティコを滅ぼすだと?そんな魔物が何でこんなところにいるんだよ?この辺は雑魚しか出ないだろ。」

「さぁわかんない。テュポーンと関係があるのかもしれないと思ってるんだけど、それも含めて調査に来たって感じかなぁ。」

「テュポーン??なんだそれ。」

「2年ぐらい前に現れた災厄のことよ。世間的には名前はついてないけど、私達はそう呼んでる。君も噂ぐらい聞いたことあるでしょ?世界を騒がせた巨大で凶悪なキマイラ。あの事件が解決したのもこの近くだったからね。誰がどうやって倒したかもいまいちハッキリしてないし、もしかしたら生きてるって可能性も捨てきれない。だから私が直々に見に来たってわけよー。」

ここにきてあの化物関連の話かよ・・・!あの化物にそんな名前がついてたのか。

今も肉体だけならゼノの中にあるが、たぶんアイツの仕業ではないだろうな・・・

しかしそうなってくるとこれはなかなか無視できない、魔王城とは関係ないけど、個人的に気になる。そもそも俺たちが倒したはずだし、生き残ってるわけがない。

「まぁいいわ。あまり一般人に無理強いしちゃ、だめだよね。もう一人で行くもーん、いいもーん。」

そういうと、女はセルティコがある方とは逆の、森がある方へとふりかえる。

「ほーらおねぇさんいっちゃうよー?いいのー?いっちゃうよー??」

う、うぜぇ・・・

でも・・・テュポーンだっけか。あいつに関係してる可能性があるなら、俺も放置できない。

ちょっとだけ様子見に行くか。

「はいはい。あの森に行くのか?そこまでならついて行ってやる。」

「おぉ!心強いねぇ!いってみるもんだ、うっしっし。頼んだよ、聖剣使いのおにいさん!」

そんなこんなで少し寄り道して帰ることになりましたとさ。


~~~~~


歩くこと30分。ずっと見えてはいるんだけど距離はそれなりにあった森はもう目の前だ。

三時間前から歩きまわっていたとは思えないほどにずんずん進んでいく女は一向に疲れる様子はない。体力あるなぁ。

「よーし探索スタート!ついてきたまえ!」

「俺も行く前提かよ・・・」

「当たり前じゃん!入り口まで案内してなんて言うわけ無いでしょ、見えてるんだし。」

まぁ、そうですよね・・・

「これってギルドの依頼?お前仲間とか連れて行かねぇの?」

「ギルドは関係ないよ。なんというか、まぁ仕事なの。王都からわざわざこんな遠いところまで魔物退治!偉いでしょー。あとお前じゃなくてモーちゃんって呼んでって言ってるじゃん。」

「こう言っちゃなんだけどさ、お前20歳そこそこだろ?その歳でモーちゃんはどうなんだよ。」

「でもだからといってモーさんはなんか嫌じゃない?ちなみに若く見てくれてるみたいだけどお姉さんは34だよ!」

「余計にイタイわ!34でモーちゃんはアウトだろ!」

「見えないからいいんですー!言わなきゃわからないでしょ?惚れてもいいのよ!」

「馬鹿言うな、俺はお前みたいな半露出狂の不思議ちゃんなんて好みじゃない。」

「そうかー。残念だ!」

「それより気をつけろ。なんか様子がおかしい気がする。」

森を進むに連れ、不穏な気配を感じる。

「・・・そうだねぇ。この森の魔物はランクも低いし、私が逆立ちしながらスクワットしてても勝てるような奴しかいないはずだけど・・・なにかおかしいね。」

こいつは逆立ちしながらスクワットできるのだろうか。どういう状況だそっちのほうが気になる。

それはいいとして。

森の中はただ暗いだけではなく、何かにずっと見られているような感覚だ。

そして異常に冷える。夜だからというには寒すぎる。

意識を集中し魔力を探知するが、やはりおかしい。いたるところに魔力が浮遊しているのが霧のようになって視える。

「集中してるねぇ。なかなかいい顔してるよー。」

「うるせぇ。・・・あっちの方が特に怪しいな。」

「ほーほー!魔力探知もできるんだ!やっぱりただの剣士じゃないんだね!」

「あーうるさい。ほら行くぞ。」

なんかこいつ、森の異変より俺を警戒してないか?気のせい??

そんなことを思いながら森の中へと進んでいく。

幸いこの森はセルティコの住人もよく来るようで、それなりにしっかりした道ができている。舗装まではされていないが。

「そういえばさ、なんで3時間も平原にいたんだ?まっすぐ森にいけばよかったじゃん。」

「あー、仕事さぼってただけだよ。たまに公園でボーっとしてる営業マンがいるじゃん?あんな感じで草原でぼーっと散歩してた。」

「どんな仕事だよ・・・お前ってそもそも戦えるのか?魔物が少ない平原とはいえ、いないわけじゃないからな。独りでも3時間歩き回れるぐらいは戦えるってことだよな。」

「私は立派な熟練魔道士だよ!」

「まぁ、そっか・・・。たぶん情報通り、この森にはなにか普通じゃない魔物でもいるんだと思う。強敵だった場合、お前は逃げ切れるのかと思ってさ。」

ローブの下に隠せても短剣か小さい杖ぐらいか。格好、といってもローブぐらいだけど、それぐらいしか魔法使いの要素がない。簡単な言葉でいうと、弱そうだ。

「心配してくれてるのかな?私なら大丈夫だよ!強いんだよー?」

でもまぁ、王都からセルティコまで何百キロあるのか想像すらできないけど、歩いてきたわけじゃあないだろう。となれば転移魔法か・・・それならたしかに、熟練魔導士かもしれないな。転移魔法って取得するのにかなり複雑だし・・・!あぁ苦い思い出が・・・!


~~~~~


森に入ってから探索すること1時間。

もうすぐ近くにいるはずだ。

ケモミミの時もこんぐらいがはっきり痕跡を残してくれればあんなに歩き回ることもなかったのにな・・・そういえばここの森でケモミミはワーウルフになったんだよな。あれはいつごろの話だったんだろう?

そんな思い出に浸っていると目標は姿を現した。

「・・・こいつ、か?」

「多分・・・」

見つけたのは両手にちょうど乗るぐらいの大きさの、ウサギ。

赤い瞳ともさもさ食事をするしぐさはなんともかわいらしい。

毛が泥やら何かの液体やら血やらで汚れていなければ、そして人間の腕じゃなくて野菜スティックを食べているのなら、なおよかったね。

「キシャアアアアアア!!!!!!!」

あらま、口がすごい開くのねこいつ。ウサギってこんな後ろ足の付け根まで口ひらくんだっけ。・・・なんかこんな魚いたな。

「じゃねぇ、避けろォ!!!」

ウサギが開いた口から自身の体何十匹分かの火炎を吐き出した。それもよりにもよって女のほうを向いて。

「あらら-!」

俺は女のローブをひっぱり地面に倒す。

幸い女には炎がかすりもしなかったが、夜空がきれいに見えるほど、上方の木はきれいに大穴をあけて燃え尽きていた。

「くそ、こいつ・・・!」

すぐさまウサギを拾い上げ、手で顎を引きはがし、力任せに体を二つに引き裂く。

・・・なんだこいつ・・・!?

「アカカカカカカカカカカカ」

はがれた顎から上が、奇怪な声を発しながら高速で瞬《まばた》きをしている・・・きもい。

「これはこれは、なんだかすごい生き物だね。」

女は体を起こすと、あまり驚いた様子もなく顎の下半分、主に胴体がついているほうを持ち上げ、

「えい。」

身体に手を突っ込んだ。

「むむむ?心臓は止まってる・・・」

「アカカカカカカ」

「でもまだ動いてる・・・アンデット?にしてはなんか雰囲気違うなぁ。シャインアロー。」

うっまぶしい・・・!

宙に浮かぶ輝く2本の光の矢が、分断した体それぞれに突き刺さる。

「アカカカカカカカカ」

「ありゃま。浄化魔法で貫いても動き続けるってことは、アンデットではないのかー・・・まさかこういう生き物?」

「そんなわけあるか。もとからこういう生き物なら動かない心臓を持ってる必要がねぇ。よく見ろ。」

女はいまだ動く死体を凝視し、にやりと笑う。魔力を探知したのだろう。

「これはすごい・・・!どうやってやってるんだろ!?」

「魔法で死体を動かしてる。まるで操り人形だな。」

「魂の代わりに魔力で動かすだって・・?こんなことできる人そうそういない!!これはすごいよ、持って帰りたい!!」

鼻息荒く興奮しながら、ピクピク微動するウサギの死体をまじまじと見ている姿はとても異様だった。早く捨てろよそんなモン・・・

「アカカカカカカ・・・ヵ」

「ん?」


ビチャアァ!!!!!!


うわ・・・これはひどい。

女は動かない。というより、思考が止まってしまっているんだろう。

手に持っていた小動物のゾンビが突如として粉みじんに弾け、全身にその死肉を浴びてしまっている。

「・・・お、おい。だいじょうぶ・・・?」

「・・・」

返事がない、ただの屍まみれの女のようだ。

「ふは、ははははは。」

こわっ!いきなりなんか笑い出したんだけど・・・!

「まさか爆発するなんて、ね。なかなかないよねぇこんなこと。ねぇ?」

ねぇ?って言われても・・・

「なんというか・・・うん」

水を払うかのように手を下にふり、ローブを脱いだ。

「あぁもう!くさい!」

そして脱いだローブでぐしゃぐしゃと顔を拭き始めた・・・

「アクアフォール」

そして頭上に水を放ち、もろにそれを浴びる。

ただでさえ薄着なのに水とかかぶって大丈夫なのか。いつものコートきてる俺でちょうどいいぐらいの温度なんだけど。

「うっわさむ!!においもいまいち取れないし、肌はべたべたするし・・・!なによこれなんの嫌がらせ!?これだから魔物は・・・!というか魔物もどきは!」

たいそうお怒りの様子です。


~~~~~


結局。

水浸しのほぼ下着のような格好で夜道を歩かせるのもさすがに気の毒なので、コートを貸した。

「へぇ。普通の中二病コートかと思いきや、なかなかの優れものだねぇこれ!魔法耐性が異常に高い!物理に対しては魔法耐性ほどじゃないけど優秀・・・でもすごく軽くて動きやすい!冒険者御用達って感じ!」

「中二病は余計だ。かっこいいだろうがそのロングコート。わざわざ造ってもらった大事なもんなんでね、ゾンビ臭くなる前に早く帰るぞ。」

あのゾンビウサギが消滅したあと、森はいつもの調子に戻っていた。

・・・いや、正確に言うと、元には戻っていない。

あの一帯だけ魔物も動物も一匹もいなくなっていた。おそらくゾンビウサギに食われていしまったのだろうと思う。

それに出会ったときに食べていた腕。人間の被害もそれなりに出ているんだろうな。

「はぁ、出口遠いなぁ。」

「転移で帰れればいいだろ。どうせ使えるんだろ?どうせまだ俺のこと疑ってるからついてきてるだけだろけどさ。森を出たらもう帰れよ。俺も帰るから。」

テュポーンともどうやら関係なかったみたいだしな。完全に無駄足だった。

あー、ソフィア怒ってないかな・・・

「おやおやばれちゃってた?一応ね、疑ってはおかないとね。まぁでも話してみても人に害を加えるような危険人物にはあまり見えないし、聖剣やら変わった防具やら持ってるし、なんか謎多き冒険者って感じだよね、君。・・・いきなり破裂とかしないでよ?」

「よくわからないからといってさっきのゾンビと一緒にすんな!お前だってよくわかんない奴だろうが。何者だよ。」

なんだかんだそれなりの時間を共にしたのに無駄話が多すぎて詳しく聞けてないんだよ。

「私?私はバツイチ子持ちの偉い魔導士だよ!魔狩りのモーちゃんとはわたしのことでい!」

ビシっと親指を立ててポーズを決める34歳はそれなりに俺のコートが似合っていた。子持ちでモーちゃんか・・・


~~~~~


森の入り口に戻ってくると、そこは平穏な平原が広がるばかりだった。

「じゃあ将来の勇者候補君、夜道は危険だから気を付けて帰りなさいよ!」

「お前も気をつけろよ。」

「うむうむ!じゃ!」

「おう。コートはかえせ。」

ばれたか!みたいな顔してんじゃねぇよばれるわ。

「はい、ありがとう。暖かかった。」

「じゃあな。たぶん二度と会うことはないだろうけど。」

「うん!またどっかでね!」

いまいちかみ合わないんですけど。

そう思ったときには、女は転移魔法で消えていた。

コートを羽織ると香水のいい香りがした。


~~~~~


王都セルドラ・ゴルトニード。

その王城のある丘から見渡す城下街はまだそれなりに明るく、人もそれなりに行き交っていた。賑やかだねぇ都会は。

街の景色から目を離し、夜でも関係なく緊張感のある城門の衛兵に挨拶をすると、城内へと向かう。

窓を見る限り、明かりはあまりついていない。夜勤の人以外は寝てるなぁ。

しかし寒いわ・・・早くお風呂入って寝たい。けど報告を先にしないとね。

憂鬱な気持ちを抱えたままエントランスに続く扉を開けると、柱に寄りかかって腕組み姿勢で寝ている人物がすぐに視界に入った。

ボーイッシュなオレンジの短髪に短パンとタンクトップ。スポーツマンのような服装だが、彼女は基本的にこういった格好でいることが多い。

さっき森で同行してくれた冒険者くんと同じぐらいの身長で、私より20センチほど高いぐらいかな。

「おーいアーヴェイン?こんなところで寝てたら風邪ひくわよ?」

アーヴェインはビクッと体を震わせると、眠そうに目をこすりこちらを見つめる。

「ん?ようお帰り。どうだった?やっぱテュポーン関係だった?」

「いや違った。・・・もしかしてそれが気になって待ってたの?」

「なんだよ関係なかったのか。起きてて損した!もう帰って寝る。バイバイ。」

アーヴェインはあくびをしながら城から出ようと歩き出す。

「テュポーンは関係なかったけど妙な人にあったよ。」

のびをしながら顔だけこちらを振り返る。

「妙な人?」

「ハーフじゃないみたいだけど、半分魔族で半分人間の聖剣背負ったイケメン。なんかよくわかんない魔力だったなぁ。」

「へぇ?なんだかすごい特徴的な人だな。強い?」

「実力はよくわかんないけど、強そうだったよ。彼が魔族側なら、いつか会えるだろうね。」

「おお、そりゃ楽しみだなぁ!聖剣かぁ、魔族のくせにな。それにしてもあんたよく生かして帰したな。魔狩りのモルドさんらしくもない。」

「ほら、私面食いじゃない?」

「あーなるほど。」

アーヴェインは呆れたように笑うと、そのまま外へ出ていった。

そんなに気になるなら自分が行けばよかったのに・・・とは言わないけどね。

まぁいいや、私も早くペリノールに報告して帰ろう。

・・・戦場で会うことになったら容赦はしないよ、半魔のおにいさん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る