第22話 久しぶりの再会だ

落ち着け、なんらかの能力だ。

転生特典ならそういう個人情報がわかるやつもいるんだろう。きっとそうだまちがいない。

そうでないとおかしい。俺の名前を知ってるやつは、もう全員この世にはいない。いるはずがないんだ。

「!?」

パニック状態を解消したのは頬をかすめたナイフ。メアリーのエアスライサーだった。

今はこっちに集中だな・・・!

「離れるぞ!」

恐怖で力が抜けきったままのチヒロを抱き抱えて走り、当たり前のように無傷の状態で建物から出てきたメアリーと大きく離れていく。

「いいなぁ。私もお姫様抱っこしてほしいなぁ。」

とにかく、今は眼の前のことを何とかしねぇと・・・

しかししまったな、さっき転移したせいで魔力が足りない。メアリーを凍らせる魔法が使えないのだ。

これは少しまずい。

「もう下ろしていいよ。自分で歩けるから。」

「そうかい、それは助かるわ。」

俺はチヒロを下ろし、ゆっくりと迫るゾンビ女に目を向ける。

「そんないやらしい目で見つめちゃって、どうしたんですかお兄さん。さっきみたいに激しく攻めてこないんですか?」

「不死身のやつをいじめ続けるほど、俺も性格曲がってないんでな。それにいやらしいことを考えてる余裕はねぇ。」

対策がなくなりつつあるってのに頭がまるで回らない。

「あの、助けてくれてありがとう・・・」

「なんでお前が俺のことを知ってるのか、一段落ついたら説明しろ。そのために助けただけだ。」

「・・・そっか。じゃあ今はあの人をなんとかしないとだね。」

「そういうこった。テキトーにサポートしろ。」

「もぉ、みんなそれなんだから・・・」

メアリーはゆっくりねっとりとした歩調で距離を詰める。

凍らせて封じることはできないしな・・・なんとか魔力を補充できれば話は別だけど。

チヒロの能力でなんとかできないもんかな。

「作戦を立てる上ではっきりさせておきたいんだけど、お前の能力は透明化と瞬間移動のどっちだ?」

「え?そんな能力ないよ?」

「・・・はい?」

どういうことだ?じゃあいったいこいつの能力は・・・

「な~にゆったり話してるんですか?」

このままゆっくり作戦会議でもしたいところだがそうはいかないようだ。

「フフフ、どっちからにします?」

メアリーの周りをナイフが数本衛星のように飛びまわる。

エアスライサーは風の初級魔法だから大して魔力消費がないんだろうな。

威力としては中級魔法に比べると強くもないがここまで同時発動を何回もされると疲れるわ・・・

「くるよ!」

「わかってる!とりあえずお前は自分のことだけ考えてろ!」

メアリーは浮いていたナイフを両手で取り、チヒロの方へと踏み込む。

狙いはそっちか!

俺は突撃のラインに割って入ろうと踏み込む。

が、その必要はなかったようだ。

何かに横から弾かれたメアリーはそのまま体制を崩し転げ回る。

俺の隣には少し息の荒いチヒロがメアリーを見据えて立っている。

「んー?なんですか今の。ダメージはないみたいですが・・・」

メアリーは頬を擦りながら不思議そうな顔をしている。

それがじわじわとイラついて来るんだよ。まだ蚊が刺した程度にしか思っていないようだけどな。

しかしダメージにならないし、仮になっても回復されるとなると、やっぱり俺が何とかするしかないか・・・

せめてなんとか魔力を補給できれば突破口になるんだけどな。

「今のが、私の能力。」

「いやそれは知ってるよ。でも何が起きてるのかさっぱりわからん。」

「そっか・・・なんかショックだなぁ。」

「なんでだよ。」

「・・・別に。」

チヒロはふてくされたようにそっぽを向く。

ん?なんだろう、懐かしい感じがする。こんな感じ前にも・・・?

妙に親近感がある。以前草原で会った時は全く何も感じなかったのに。

駄目だ、思い出せねぇ。でも・・・こいつは殺させる訳にはいかない。俺のことを知ってる知らないにかかわらず、そんな気持ちだけが湧いてきた。

さっさとなんとかしないと・・・なにかないのか?

「・・・ん?」

さっきから辺りをを見回してはいるが、どうせこんな街中で役に立つものなんて無いと思っていた・・・しかしこれは・・・!

「おいチヒロ。これを見ろ。」

足元に落ちていたのは、壊したどれかの建物から出てきたであろう見覚えのあるパンフレット。

「これに載ってるこの街の特産の豆を探してきてくれ。」

「豆?なんで?」

「とりあえず読め。じゃあたのんだ!」

俺は前に飛び出て、メアリーのもとへ走る。同時にチヒロも反対方向に走っていった。

あの豆、たしか魔力が豊富とかそんなんじゃなかったか?

だとしたら魔力回復をできるかもしれない。こうなったらそれに賭けるしかないな。豆に賭けよう。

「おやおや優しいですねぇ。逃してあげたんですか?」

「健全な女子にお前という存在は刺激が強すぎるからな。妥当な判断だと思うぜ。」

「私だって健全な女子なのにな-?」

「ウソつけ露出狂。」

「この格好はお兄さんのせいじゃないですか・・・」

このまま喋って時間を稼げるか・・・?あまり長く話していたい相手ではないけど。

「ところでお兄さん、このままだと決着も付きません。私はなかなか死なないし、私もお兄さんを殺せそうにないです。そこでです。やっぱり見逃してもらえないですか?」

その選択肢は考えてなかったな。

なるほど、こいつを逃がせば問題は解決。チヒロを見つけた今、トルルの依頼を達成する必要なんて無い。

だが。

「却下だ。お前は殺す。」

「あら~迷いがないですねぇ。」

たしかにトルルの依頼は達成する必要はない。が、ここで逃がせばトルルが狙われる事実は変わらない。それにこいつも転生者だしな。生かしておく訳にはいかない。

「残念。なら続きですねぇ?」

メアリーはコリもせずエアスライサーを発動する。

やれやれ長い戦いになりそうだ、そう思った時だった。


ガシャァン!!!


大きなガラスを思い切り割ったような破壊音があたりを包む。

俺とメアリーはこの唐突な異常現象に周囲を見やると、一帯に響く音の元は空にあった。

「空間が隔離されてるとは、見つからないわけです。」

見上げた空に穴が開いている。それこそ、ガラスの割れたような穴だ。

その穴から膨大な魔力を放つ小さな影が一つ。

ただゆっくり、静かに、降臨した。

「捜しましたよ。」

漆黒の鎧に派手なマントと少し小柄だが放つ気迫とあふれる魔力が只者じゃないことを証明している。

じゃなくて。

「おい!なんでお前がここにいる!?」

城でゆっくりしているはずの魔王が、突如この魔導都市に現れた。

登場の演出こそ魔王のそれだが、なぜこの場所に?

「はわわぁ・・・!なんでしょうこのドキドキは!!一目ぼれみたいな衝撃・・・ムズムズしますねぇ!!!こ、殺さないと!!!」

メアリーは今日見た中でももっとも気持ち悪い笑みを浮かべ、戦っている俺に背を向けソフィアの方を向く。

「エアス・・・」

「申し訳ありませんが急いでいますので。アブソリュート。」

魔王の足元に魔法陣が展開し、メアリーは一瞬で高さにして5メートル級の氷塊に包まれた。

「どなたか存じませんが、死なないようにはしました。さて、どういう状況ですか?」

本当に生かしてあるんだろうか。そのまま殺してくれてかまわないんだけど・・・

いやそれより。

チヒロを殺しにこの街に来たのに、チヒロにきかなきゃいけないことがあるから生かしてあるし・・・でもソフィアになんて説明すべきか・・・

とりあえずあいつの話は伏せておくか。

「おーい!豆、みつかったよ!ってえ!?なにこれどういう状況?誰?」

はい素晴らしいタイミングですね。今お前のことどうやってごまかそうか考えていたんですけどね!!!

「豆?こちらの方は?」

「いや、その、これは・・・」

今の状況を簡潔にソフィアとチヒロに伝える。チヒロが転生者であることやソフィアが魔王であることは伏せて。

「なるほど、そのトルルという人を助けるために、こちらの方と戦っていたんですね。」

「そういうわけだ。そんなことよりなんでソフィアはここにいる?」

仮にも王である身分の者が誰も連れずに一人出歩くなんて自殺行為だ。

「私は、どうしてもあなたに聞きたいことがあります。あなたの過去について、です。」

「おいおい!そういうのは俺が帰ってからでいいだろ?それに大した内容はねぇよ。それよりお前は自分の立場をわかってんのか?突然襲われて殺されたりしたらどうすんだよ!」

「それでもどうしても聞いておきたかったんです!確認だけして帰るつもりです!」

「そんなことのためにわざわざ危険を冒しやがって・・・!守る身にもなれよ!」

だんだんムカついてきた。何やってんだこいつ・・・!

だいたい魔王城の奴らは何してんだよ!?犬が逃げたなんてレベルじゃねぇんだぞ!?

「あのー、お二人はどういったことでもめてるの?」

能天気に入ってきやがって・・・しかも説明しづらい・・・!

「こいつはその・・・わりと偉い立場だから、色んな面で命を狙われてて、家で護衛されてないと危険なんだ。それなのにのこのこ出てきやがって、死にたいのかよ?」

「私だって簡単に殺されません。何度も言いますが、すぐに帰りますから!」

「じゃあさっさと要件を言え!そして帰れ!」

本当は、心配なだけなんだ・・・!

さっきだってメアリーは感覚的にソフィアを殺そうとしていた。ソフィアが魔王だと知らないはずなのに、異常な殺気に満ちていた。

おそらく天使の制約にはそういう効果もあるんだ。感覚的に魔王を敵とし、殺す対象だと認識させる。どんな見かけであろうが関係なしに。

チヒロだって転生者だから、本当はソフィアに何かしらの感情を抱いているはずだ。

いろいろ明るみになる前に早く要件を済ませないと・・・


「帰らせるわけにはいかない。」


人が焦っているときに少し遠くから聞こえる男の声。クールで、波のないぶっきらぼうな声。

その声のもとを探るより早く、俺とソフィアの間にきらめく何かが飛来し、砕け散った。

ガラスの破片のようなものが散りばめられ、足元が輝く。

「これは・・・デュランダル?貴方が持っていたんじゃないんですか?」

「トルルに渡してたはずなんだけどな。親切なやつが拾ってきてくれたみたいだな。それより・・・今の声・・・」

瓦礫の山の上に人影。夜の闇の中、月光を反射する少し長めの銀髪。

顔は見えないが、そのシルエットだけで心臓が高鳴る。

「は・・・?う、うそだろ・・・・!?お前・・・・!」

少しずつ近づくにつれ、その正体が明らかになっていく。それに合わせて動機が激しくなっていく・・・!

俺と同じぐらいの身長。翡翠色の鋭い目はあいかわらず威圧的だ。

そう、あいかわらず・・・

「久しぶりの再会だ。喜んでくれるかと、思ったんだけどな?光雪。」

「ゼノ・・・?本当に、本物の、ゼノなのか・・・?」

「正真正銘の、ゼノ・グランベルグだ。そこの・・・鎧の方ははじめましてだな。」

「どうもはじめまして。私は、」

「ソフィア・ガルティーノ、だろ?知ってるさ・・・魔王ソフィア。あれ程追い求めていた存在が、まさかこんなところで会えるとはな。」

そんなバカな。ゼノは死んだはず。

アルマと、あの場所で・・・

「さて、と。どうして光雪は魔王と一緒にいる?どういうことだ?」

怪訝そうな表情でゼノは俺を睨む。

「コウセツ・・・?」

ソフィアは小首をかしげる。兜で見えないがキョトン顔してそうだな。

「俺のことだよ・・・俺の、名前だ。」

「なんでこの人がそれを?古い知り合いなのですか?」

なんだこの状況。

すごく嫌な予感がする。誰かに仕組まれているかのように、まずい方向に向かっている気がする。

「あなたが・・・魔王なの・・・?」

今まで沈黙していたチヒロが突如敵意を顕にし始める。自分の中にあるソフィアへの違和感の理由が明確になったためだろう。

一方俺は想定外のことが起きすぎてパニックを通り越し冷静だ。

これは何だ?どういうことだ?

魔王の出現、死んだはずのゼノと遭遇。しかもゼノとソフィアは・・・

「ゼノ、といいましたか。貴方はこの方についてなにか知っているんですか?私の知らないことも・・・?」

ソフィアは何気なく、純粋に疑問に思ったことを口にした。

「なにか、だと?多分お前よりはよく知っているさ。チヒロ、光雪から例の魔具を取り上げろ。」

ゼノの指示が出たとほぼ同時に、チヒロは瞬間移動でゼノの隣に立っていた。すでにスキャナーをその手に持って。

「な・・・!?おいチヒロ!」

コートの中から抜き取ったのか!?どうやって!?

「ごめんね光雪君・・・それより、その鎧の人は危険なんだよ!はやく離れて!」

「何いってんだ!いいからそれ返せ!」

まずい・・・ゼノ、まさか・・・!

相手がゼノだろうが、昔の仲間だろうが関係ない。これは阻止しなければ・・・!

足元に散るガラスの欠片に触れ、デュランダルを剣の形に戻し、そのままスキャナーを持つゼノの右手に斬りかかる。

「あいも変わらず、感覚と反射で生きてるようなやつだな、光雪。」

しかし手首を掴まれ、デュランダルはゼノに届かなかった。

「無駄だ。攻撃の防ぎ方はお前とトレーニングしたのを忘れたのか?それに以前より動きも遅い。弱くなったんじゃないか?」

くそ・・・力が抜ける!駄目だ立ってられねぇ・・・!

片膝を付き、デュランダルが手からこぼれ落ちる。

「いい機会だ、教えてやれよ。」

ゼノは俺にスキャナーを向け、発動する。

「ほら、やるよ。」

そして、ゼノはスキャナーを雑にソフィアに投げて渡した。

「・・・そんな・・・!」

・・・くそ・・・!!なんでこんなことに・・・!




『レベル2026、転生者、◯×△▲、危険要因・特殊能力』



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