第21話 ドストライクです!


高校生ぐらいだと予想される顔立ち、金髪。狐のようなつり目が特徴的な男。白シャツに黒のジャケットのスマートな格好だ。そしてなんだ、最近ナイフ流行ってんのか?

「誰だお前。」

ナイフを突きつけられたトルルは立ってはいるものの、ぐったりしてて目も虚ろで何も喋りもしない。なんかの魔法でも食らったのか。

「俺はクラフト・エルトン。好きな食べ物は焼き魚、好きな色は黒。あんたの大嫌いな転生者さ。他に聞きたいことはある?」

クラフトと名乗る青年は意地の悪そうな笑顔を浮かべる。

こいつ転生者か。メアリーといいこいつといい、転生者のバーゲンセールかよ。

しかもタイミングが悪いな。魔力もかなり使ったし、夜も遅いから眠いんだけど。

「あまり睨まないでよ怖いなぁ。俺はお願い事をしに来ただけで、争いに来た訳じゃない。」

「そうか、それじゃ話だけなら聞いてやるよ。」

まぁ転生者なら、話を聞いた後で殺すことになるけどな。

「お、案外温厚だね。じゃあさ、とりあえずその凍ってる人をちょうだい。」

「だめだ。こいつには今死んでもらう。」

「・・・わかってないなぁ。お願い事って言ったけど、これは命令だよ。この子見えてないの?」

クラフトはにやつきながらトルルの頬をナイフの側面で叩く。

「トルルは関係ないだろ。だいたいそんなガキを交渉に使って恥ずかしくないのかね・・・そんなにこのアホがほしいなら力づくで奪えよ。どうせチート持ちなんだろ。」

正直な所、トルルを殺られるとまずい。結局例の転生者の手がかりがトルルしか宛がねぇからな。それにトルルは一般人だ。転生者に殺されたとあっては具合が悪い。

しかしおかしいな、トルルにはデュランダルを渡してたはずだ。

今みる限り結界も展開されてないし、というかデュランダル自体を持ってないんだけど。どこやった?傘立てにでも置いてきた?

「リーパーの名に恥じないね。そうやっていつも暴力で解決して、周りは死でいっぱい。寂しい人だ。」

「俺はリーパーでもペーパーでもねぇ。そして安心しろ、死ぬのはお前ら転生者だけだ。」

言い終わると同時に転移魔法で背後に回り、ナイフをもつ手首を反対向きに折る。

「は!?なんだ!?」

クラフトは何が起きたかわからないといった表情でトルルを離し、慌てて距離をとった。

「なにやってんだよ、まったく。」

トルルから返事はない。うつろな視線は俺すら見てないな。

ここにいられても邪魔なのでトルルを転移魔法で飛ばす。行き先はセントラル内だからだれかに見つかったら保護してくれるだろ。

・・・くそ、魔力消費が激しすぎるな、ちょっとまずいぞこれ。転移もフォースフィールドも奮発しすぎたな。

「う・・・くっ!メチャクチャだなぁほんと!チヒロ、ベイル!」

折れた手首を押えながら、クラフトは空に向かって叫ぶ。

仲間を呼んだのか。殺人鬼奪うのに大掛かりなこって。

サクッと終わらせるか。

「何人でもかかってこうぐッ!」

内心でヤル気満々だったが、出鼻を挫かれた。突然何かの衝撃を腹部に受け、身体が少しだけ浮く。

どこからなにをされたのかわからん攻撃、そしてこのムカつく感覚・・・

「お前か・・・!でも探す手間が省けたぜ。」

いつの間にかクラフトの隣に立つあの無個性女。あ、ほらやっぱニット着てるじゃん!

しかしあいつ・・・少しレベルも上がったのか、威力が上がってんな。

「探し人は見つかったみたいでよかったな?」

建物の上から飛び降りる大きな人影。

それはチヒロと呼ばれた無個性女の隣に重々しく降り立ち、こちらを睨む。

「はは、あんたもグルかよマスター。そうきたか。」

「悪いな。お前さんのことは最初からマークしてたんだよ。殺人鬼と会わせて相打ちになる予定だったんだけどな。」

「うまく誘導しやがって・・・それよりよく俺があの酒場を選ぶってわかったな。」

「それはたまたまだよ。他の店をお前さんが選んでたら、俺がそっちに行ってた。いずにせよトルルの元へ行くようにはする予定だった。まぁグラッゾもたまたまあそこにいただけで無関係なんだけどな。」

マスターは以前会ったときのような腰巻きをつけた店員スタイルではなく、黒いスーツにワインレッドのシャツを着こんだちょいワル親父になっていた。

つーか、俺がどこかの店に入ることは決定事項かよ・・・

「おしゃべりは終わりだ。チヒロ、お前と俺で時間を稼ごう。ベイルは能力で殺人鬼を蘇生して。終わり次第すぐに連れて帰る。余裕があれば、リーパーもつれていく。」

クラフトは二人に指示を出すと、折れた手首を押さえたまま勇ましく仁王立ちを決める。

メアリーもそうだが、俺まで連れて行って何する気だ?なんか面倒な予感しかしいんだけど。

まぁとりあえずそれはいいや。

それより今のクラフトの発言・・・こいつらは転生者のチームなのか。


『レベル114、人間、転生者、危険要因・特殊能力』

『レベル105、人間、転生者、危険要因・特殊能力』

『レベル28、人間、転生者、危険要因・特殊能力』


予想外だ、クラフトが一番レベルが高いのか。どんな能力だろうか。

マスターは氷を溶かせるような能力。単純に考えれば炎や熱関係の能力か。勝手なイメージだが、わりと歳をくった転生者は想像力が貧困で大した能力を持っていない。ガス代がかからないから火が出したいとか電気代がうくから電気出したいとか、そういったリアリティを捨てきれない残念な能力ばかりだろう。偏見だけど。

オッサンは中二力が低いんだよ。

それはいいとして問題はどちらかというとクラフトだ。

手首はへし折ったものの、いまだにどんな能力かわからん。レベルも高いから、下手すれば一発逆転すらありうる。

真後ろに転移して簡単に奇襲できるほど腑抜けたやつがレベル100を超えてるとなると、やはりそれなりに使い勝手のいい能力なんだろう。

「いくよチヒロ。てきとーにサポートして。」

「クラフト君、いつもそれしか指示ないじゃん・・・でも了解。」

クラフトの周囲に風がふき荒れる。風魔法か?

「なっ、おぉ!?」

突如俺の体が地面を離れる。

「くたばれ!」

クラフトの言葉に合わせ、謎の力が俺を吹き飛ばした。

なんじゃこりゃ・・・触れられている感覚や、魔力も感じない。

「うおっ!」

無抵抗のまま、壁に叩きつけられた。

そこからさらに水平に飛ばされ、別の建物の壁に背中を打ち付けられ、地面に落ちる。

メアリーはさっきこんな感じで俺に投げ飛ばされてたんだろうな。

なかなかに豪快な攻撃だが、大してダメージはない。酔いそうってだけだ。

しかしやられっぱなしなのも癪なので反撃しようかと顔を上げると、マスターがメアリーのところへと向かっているのが見える。俺はおすすめしないけどなぁあいつの蘇生は。

「うおっと!」

再び風が吹き荒れ、倒れていた俺の身体は再度浮き上がり、またもや壁に打ち付けられる。

そしてまた他の壁、地面、壁、地面。

建物を次々破壊しながら叩きつけられること数秒。

・・・だんだん腹立ってきた。

「調子に、のんな!!」

原始的な攻撃。打ち付けられながら拾った瓦礫を、ただ投げるだけ。とはいえ当たれば大ダメージのはずだ。

だがクラフトの目の前までいくと、ピタリと急に勢いがなくなりその場に落ちる。

「あれだけやってもまだこんな力が・・・クラフト君、大丈夫?」

「サンキュー。ちょっビビったよ。アホみたいに力があるな。」

アホみたいってなんだ、アホは投石で人を殺せるのか。

そしてまたあの女何かしやがったな・・・とことん邪魔しやがって。

でもなにをしたんだ?瞬間移動の能力の応用なのか?まったくわからん・・・

「それにしてもこいつかったいなぁ。散々叩きつけてもまったく効いてない。でかいのいくか。」

「で、でも、殺しちゃダメって!」

「大丈夫。死なないだろどうせ。」

クラフトが両手を広げると、背後にそびえる建物が根こそぎ浮き上がる。

わりと大規模な能力だなこいつ・・・サイコキネシスってとこか。ただの風魔法じゃねぇもんな。

「潰れろ!」

浮き上がった建物は空中で向きを変えると、わざわざ角をこちらに向けて、真上から俺を潰しにかかる。

「フォースフィールド。」

猛烈な勢いで建物が降り注ぐ。魔導障壁を通過してこないものの、中から見るとすげぇ景色だな。

うわぁこれ解除しても結局潰れるわ。

「イグニート。」

魔導障壁の外側に生まれた炎の渦が俺を埋めた礫の山を押し広げるように退かす。

いかんな、魔力節約しねぇと。そろそろ決着にするか。

「くっ、まずい離れるぞ!」

炎に巻き込まれまいと二人は遠ざかっていく。一緒に燃やされればいいものを。

「はは、油断だらけだな。背中見せやがって・・・ん?」

逃げる二人に追い討ちをかけようとしたその時だった。


「ぐあぁ!」


クラフトたちが逃げていく場所とは別の方向からマスターの声。何がおこったのかだいたい予想はつくけどな。

「ふぅ・・・寒いなぁ。こんな経験初めてです。おはようございます。」

転生者諸君、何が狙いか知らないけど頭のおかしいゾンビが復活したぞ。責任とってなんとかしろよ。

ほら見ろだからおすすめしなかったんだ。どうせ見境なく暴れるんだろうし。

まぁいい一通り暴れてもらって、また凍らせよう。こうなるだろうと思ってその分の魔力は残してるしな。

「このおじさまもなかなか手応えがいいですねぇ。どなたか存じませんが、このまま死んでください。」

メアリーは腕の傷をおさえてうずくまるマスターの前に幽霊のように立ち、禍々しいオーラを放っている。遠くからでも大体わかる、楽しそうな満面の笑みだ。そしてその表情のまま、掲げたナイフが振り下ろされた。

「ダメ!!!」

が、マスターにそれが刺さることはなかった。いつの間にかチヒロが間に入り、メアリーの手首を掴んでいる。

「あららぁ?なかなかかわいらしい子ですね!ドストライクです!」

遠くて何を言ったのかよく聞こえなかったが、メアリーはゴミでも退かすように足元のマスターを蹴飛ばすと、チヒロを押し倒し、馬乗りになった。

すげぇ勢いで飛んでいったけどマスター死んだんじゃねぇか・・・

「いつまで余所見してんだよ!」

突然の声に驚きクラフトの方を見ると、いつの間にか宙に浮かぶ瓦礫が俺を包囲していた。

「おいおい、今それどころじゃねぇだろ。お前の仲間このままだと死ぬぞ。いいならいいけど。」

今にもいかがわしいことをされそうなチヒロを指さし、クラフトの注意をメアリーに向ける。

「な・・・!チヒロ!!」

クラフトは絶望的な表情でチヒロの元へと飛んでいった。おやおや熱心ですねぇ。

俺を襲う予定だったであろう浮遊した瓦礫はその場に落下し、路上はもう散らかり放題だ。

いやぁしかしあぶなかった。正直もう魔力が少ないから戦いたくねぇ・・・

あとはメアリーに任せよう。適当に皆殺しにしてくれ。

「何から始めましょうか?まず服を脱がせて、肋骨を一本ずつ折りましょうかね。」

「な、なにいってるの・・・!?離して!」

レベル差が開きすぎだ。一見小柄で弱々しい見た目のメアリーだがレベルは段違いだからチヒロに逃げるすべはないだろう。こうしてみてみると、大学生を襲う中学生みたいだな。

「チヒロを離せ!」

駆けつけたクラフトは例の特殊能力でメアリーを浮かせ、チヒロを開放する。

「せっかくいいところだったのに・・・なんですかあなたは。邪魔。」

珍しく苛立ちを顕にしたメアリーは周囲に無数のナイフを出現させる。先程野次馬を巻き込んだ攻撃のと同じぐらいの量だな。

「なに・・・!?やめろ!俺は敵じゃない!」

クラフトの必死な叫びも虚しく、ナイフはクラフトめがけ飛んでいく。

「うぐあぁ・・・」

能力を使用したのか、大多数のナイフはクラフトに当たらずあらぬ方向へと飛んでいき、消えた。しかし数本ばかし、防ぎきれなかったようだな。

クラフトの能力が解除され、地上に降り立ったメアリーは呆れたように、そしてとても冷ややかな目でクラフトを見下している。いいぞもっとやれ。

「俺はお前の仲間だ・・・!」

両足と肩を負傷し虫の息のクラフトは必死にそう訴えかけているが、相手が悪いな。

「仲間?私に仲間はいませんよ?目の前におもちゃならいますけど。」

メアリーはサッカーボールを蹴るように、クラフトを真上に蹴り上げた。見事すぎるほどまっすぐ垂直に4メートルほど身体が浮きあがる。

「エアスライサー。」

白目をむいているのは意識を失っているからだろう。そんなクラフトを再び大量のナイフが狙いを定め、囲う。アレは死ぬな。

しかしナイフは現れてすぐその場で突如霧散した。

術者であるメアリーが体制を崩して片膝をつき、いつの間にかその隣にはチヒロが立っていた。発動前に止めたのか。

「・・・最高ですね。今から、というときに邪魔をするなんて。」

メアリーをゆっくりと立ち上がる。セリフとは正反対の、怒りに満ちた顔で。

「いくら可愛くても、マナーを守れない子は嫌いです。」

「うぐ・・・!」

乱暴にチヒロの頭を地面に押し付け、仰向けにして自由を奪い、メアリーは右手に持つナイフを向ける。

「体を縦に引き裂くと、臓器がこぼれます。でも安心して下さい、すぐには死にません。でもすごーく痛いですよ?それを何回かしますので、いい声を上げて下さい。」

驚くほどうまく行っているなぁ。マスターはどうなったか知らないけど、クラフトは瀕死状態で気絶してるし、チヒロとかいうのはもう殺されるだろうし。

「じゃあまず1回目です。」

「い、いや・・・!たすけ・・・て・・・!」

「あぁ、良いですその顔!その声!ふふふ、さっきのことは許してあげましょう。でも残念、ここまできたらもう我慢はできません・・・!」

「やだぁ!助けて・・・!『コウセツ君』!!!」





判断は一瞬だった。

聞き間違えか?勘違いか?そんなことを考えるより早く、俺は転移魔法でメアリーの隣に移動し、脇腹に回し蹴りを放っていた。

メアリーは下半身と上半身が分離しながら数メートルふき飛び、建物の中に突っ込んでいった。


「お前・・・誰だ・・・?」


チヒロは涙でいっぱいの目をこすり、鼻をすする。

「やっぱり、本当に私のこと覚えてないんだね、光雪君・・・」

聞き間違いなんかじゃない。間違いなくそう言ったんだ。

それは紛れもなく、誰も知るはずがない俺の名前だった。

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