第19話 お前なんか、チクワになってしまえぇ!

「そんな・・・!」

トルルは膝から崩れ落ち、震えている。

「死因は・・・なんだ?」

「それは、個人情報ですので・・・」

「あぁ?俺達が毎日ここにきてクラリアと話してんの知ってんだろうが。少しでもいい、なんか情報をよこせ。」

こんな時に個人情報がどうのとか言ってる場合かよ。

「ですが・・・」

「お兄さん!」

受付嬢が言いよどんでいると、いつもクラリアが歩いてくる階段をメアリーが走って降りてくる。

「お兄さん、トルルちゃん・・・とりあえず、いつもの場所へ・・・」

クラリアではなく、メアリーに連れられて俺たちは多目的室へと向かった。


~~~~~


「間違いなく、犯人は例の殺人鬼です。」

メアリーは書類を何枚か机に並べた。情報部から持ち出したんだろうか。

「くそ、遅かったか・・・」

せめてあと一日犯行が遅ければ、犯人を殺せたかもしれないのに・・・!

「死体は右腕が切り離されていて・・・心臓が抜かれて・・・」

「もういい、十分だメアリー。今日で犯人は捕まえる。いや、必ず殺す。」

「どうやってですか・・・?今回も手掛かりを何も残してないんですよ!?」

メアリーの悲痛な叫びが多目的室に響くが、俺もトルルもそれに返事をすることすらしない。

「次は・・・私ですよね。」

言いたくないことだが、本人が一番そのことに気づいていた。

犯人は明らかにこちらの動向に気づいている。クラリアを殺されたのではっきりした。

おそらく犯人は楽しんでいるのだ。少しずつ周りから人がいなくなって絶望していくトルルやその周囲の様子を。

「私いやです・・・死にたくない・・・。クラリアさんだって、何も悪いことしてないのに・・・。」

机に突っ伏してメアリーは震える声を漏らす。

「・・・」

一方トルルはずっと口を閉ざしていた。

自分の周りの人が死んでいく恐怖からなのか、それとも自責の念なのか。

しかし実際にその表情を見てみると、俺の想像とは違い、強い意志のようなものを感じる。

「許さない・・・」

「・・・え?」

トルルのひねり出したような重苦しい声に、メアリーも驚いている。

「絶対に、許さない。このトルル様を狙うのは、怖いけどしかたがない。でもクラリアはいい人だった!何も関係のない人だったんだ!!こんなのおかしい、絶対許さない!」

涙を浮かべて、トルルは悔しそうに顔をしかめる。

すげぇなトルル。まだ13歳だろ?死にたくない怖いって、自分のために泣けよ・・・

「・・・メアリー、トルル、聞いてくれ。今から犯人を捕まえる作戦について話す。それにはトルル、お前の努力が必要だ。」

「なんでもやってやる。犯人を捕まえるためなら・・・!」

「お前は、今日の夜までに変身魔法を使えるようになれ。簡単なやつでいい。メアリーの言うとおり、次の標的はおそらくメアリーだ。だから俺をメアリーの姿に変身させる。あとは俺が餌になって、殺人鬼が狙ってきたとこを返り討ちにする。」

「私が囮になるんじゃなかったのか?」

「あ、あぁそれはもういい。あとはメアリーを俺の姿に変身させて、お前ら2人は一緒にいろ。これで殺人鬼はメアリーに化けた俺だけを狙ってくる。」

「根拠は、あるんですか?」

「犯人はこの状況が楽しくてしょうがないはずだ。わざとトルルを絶望させるために周りのやつを殺してるんだからな。そしてそれが終わった後でトルルを狙うはず・・・だから間違いなく先にメアリーを狙う。・・・メアリー、これをもっとけ。」

「これは、なんですか?」

「おそらくメアリーが仕事を終えて夜に帰る時になったらヤツは動き出す。だからセントラルを出る時にそれで俺に連絡しろ。俺たちもセントラルの近くで待ってるから、迎えにいく。」

俺は魔力を注げばテレパシーが送れる魔晶石をメアリーに渡す。通話だけのケータイみたいなもんだ。

「わかりました・・・じゃあ作戦は夜に合流してから、ですね?」

「あぁ。そうだな。」

「トルルちゃんは、お家にいさせた方がいいんじゃないですか?」

「だめだ。相手はこっちの家もわかってる。もし仮に俺の予想が外れて家で一人のところを狙われたら為すすべなしで殺される。だからこれでいい。」

机の上に並べられた書類に目を移すと、写真が貼られているのが見えた。

現場の写真だろうな、壁や地面に一切血はついていない。

大きな布で覆われた死体から少し離れたところには布がかぶせられた何かがあるが、あれは切り離された腕だろうか。

見れば見るほどきれいな現場だ、意識して作られたかのような殺人現場。

殺人鬼はすべてを楽しんでいる。

殺し方、殺す相手、殺した後に至るまですべて楽しんでいるんだろうな。

だがこれ以上好きにはさせない。トルルの依頼云々以前に、単純に癇に障る。

「それじゃ俺たちはもう行くから。絶対に連絡しろ。何があってもだ。」

「・・・はい。」

「じゃあな。」

俺はトルルの手を引くと、メアリーを残して多目的室から出る。


~~~~~


俺たちはセントラルを出ると、ギルドと呼ばれる冒険者組合の施設にあるマジックショップに来ていた。

「おいおい嬢ちゃん、君にこれはまだ早いよ。」

「トルル様は天才だ。今日中にこの魔法をマスターしなければならない。金は払うから早くくれ。」

「いやでも嬢ちゃんはまずこっちの初級魔術からがいいと・・・」

店員が言い終わる前にトルルは右手に魔力を溜め、魔法発動前の魔法陣が浮かび上がる。

「な・・・!その魔法陣は上級魔法・・・!?うそだろ・・・」

店員のみならず周囲の客までトルルを警戒して距離を取り始めている。

「この店を吹き飛ばすぐらいの魔法は使えるんだ。いいから早くしてくれ・・・!」

トルルは支払いを終えると、魔導書を抱えて、すぐ横の食堂でピラフを食べる俺のもとへと帰ってきた。

「馬鹿にしおって凡人め・・・!私は天才魔導師トルル様だぞ!本当に吹き飛ばしてやればよかった・・・!」

「そうだな、でも駄目だ。ほらとりあえずカレー食え。」

「うむ・・・」

席に座り、あらかじめ頼んでおいたカレーをつつきながら魔導書を真剣に読みはじめるトルル。

辞書ぐらいありそうなほど分厚い本を一日でマスターするなんて、ベテランの魔術師ぐらいでないと普通は無理だ。

それでも俺がこの13歳に賭けたのにはちゃんとした理由がある。

それはトルルが生業としている占いの魔法、正確にいうと高度な探知魔法を扱えることが理由だ。

本来、探知系の魔法は専門職の魔術師しか会得しない。

それ以外でも、冒険者たちも身を守るために簡単な魔物の探知に使ったりする程度には学ぶが、それ以上深くは学ぼうとしない。

理由は簡単。完全に習得するのはかなり難易度が高いからだ。

その探知能力を磨き、未来を予測したり自分が知りもしない人物や物をこの魔導都市で探し当てるほどの技量に至ることは常人にはまず無理だし、それこそベテランの魔術師でもおそらく不可能だろう。

つまり、本当に天才でなければできないのだ。

その才能に加えトルルはかなりの努力をしたのだろう。そうでもないとあそこまで探知能力を鍛え上げることはできない。

単純な頭のよさ、魔法の才能、そして熱心さに賭ける価値ありと踏んだのだ。

「よし、一通りは読んだ。理解はできたから後は実際に試したい。」

俺にはぺらぺらとページをめくっていたようにしか見えないが、大体理解したらしい。もちろん俺にはこんな真似できない。できるならしたい。

トルルはカレーをがつがつと頬張ると、水をぐいっと飲み、流し込む。

「さすがだな。」

口元のカレーを机に備えつけてある布巾で拭きとってやるが、以前のように文句は言わなかった。

「たかが幻術魔法の応用だ。これぐらいなら余裕でできる。」

食事を終えると、俺たちは昨晩向かった草原へと転移し、魔法の練習を行った。


~~~~~


練習をはじめて一時間。

魔法を受け続け、中途半端に変身したり、なにも起きなかったり。そんな一時間を過ごした時だった。

理解はできても実演はできない。魔法と手品はどこかにたところがある気がするなぁ。

そんなことを思っていると、トルルは先程同様俺に右手を向け魔法を放つ。

「トランス。」

お?視線が低くなる。しかも毛むくじゃらの4足歩行なんだが。

「・・・成功だな。トルル様に失敗はない。」

トルルは余裕の笑みを浮かべこちらに向かってくる。この失敗だらけの一時間のことはキングクリムゾンしたのかな。

「讃えろ。」

トルルの手が脇腹に入り、体が持ち挙げられる・・・!なんか具合悪いぞこれ。

「しかし、いいもふもふだな。もうずっとこのままにして一緒に暮らさないか?」

「恐ろしいこと言うな。こんな子供に猫に変えられて一生そのままなんてお断りだぞ。」

こんな姿で魔王城に帰れるか・・・つーかこのままじゃ戦えないし。

「冗談だけど。・・・この件が終わったら出ていくんだろ?」

「そうだな。俺にもやることがたくさんあるしな。それに殺人鬼もいなくなったらもう一人でも大丈夫だろ?」

どういうわけか体が元に戻っていく。うまくいっても長時間変われる訳じゃないのか?それとも解除されたのか。

「大丈夫だけど、いつ同じようなことが起きるかもわかんないし・・・それに・・・」

「それに?なにか他にあるか?」

トルルはキョロキョロと周囲に視線を向ける。これはトルルの癖みたいなもので、困ったときや言い訳しようとしたときにする素振りだ。

「なんだかんだで、た、楽しかったんだ!お前と一緒にいて、怒られたり笑ったり、キレイなの見せてくれたり出掛けたり!一人の時はこんなことなかった・・・だから、その、いなくならないでほしい・・・」

本当はずっと一人で寂しかったんだろうな。そりゃそうだ、こんな小さいときに親もいなくて寂しくないわけがないよな。

「聞いていいのかわかんねぇけどさ、お前の両親は?」

「かーちゃんがどこかにいる、と思う。とーちゃんは死んだらしい。とーちゃんは会ったことないからあまり気にしてないけど・・・」

風が赤い髪を撫で、トルルは鬱陶しそうに前髪をどかす。

「そもそもかーちゃんを見つけるために探知魔法を学んだんだ。私を孤児院に預けてどこへ消えたのか。そもそもなぜ私を置いていったのか。聞きたいことはたくさんあるんだけど、まだ見つかってない。」

「そっか・・・母親のこと、恨んでるか?」

「恨んでないと言ったら嘘になるかもしれない。でも正直そこまで憎くはないかな。あまり覚えてないし、何度も言うがトルル様は偉大すぎるため一人でも十分生きていけるから。」

一人で生きていけるっていうのは立派だが、やはりこいつには親が、誰かが一緒にいてあげるべきだったんだと思うな。

普段は誰にも頼ろうとしない。自分が1番。

親もいない。友達もいない。誰も自分を矯正してくれない。

本人は自分の間違いを気づくこともできずに大人になっていくのだ。

「もし母親見つけたらさ、また一緒に暮らしたら良い。どうせまだちびっこだし。」

「トルル様は身長以外ちびっこじゃない。」

「ちびっこなんだよ。大きくなったらどんどん誰にも頼れなくなるんだ、今のうちに甘えて頼って生きるほうが良い。お前のためにもな。」

「でも今更会った親なんかに甘えたくないし頼りたくない。そんなことのために会う訳じゃないし。」

トルルはおもむろに右手をこちらに向けた。

「トランス。」

またも視線が低く、なるけどトルルと同じぐらいの視線だ。

手も足ももふもふしてる。なんか見覚えあるな。

トルルは『なにか』に変身した俺を抱きしめる。うぐ・・・苦しい・・・。

「なぁ、もう親を捜すことなんかどうでもいい。さっきは流されたけど、もう一回聞くぞ。ずっと一緒にいてくれないか?このままずっと・・・」

あぁ、思い出した。

こんなふうにいつも夜抱きしめてたな、あの熊のぬいぐるみ。

「生活だって安定させるし、毎日ご飯も作る。もっと稼げたら広い家も買おう。駄目か?」

なんか妙に成人男性感のある言葉を並べ、クマのぬいぐるみを抱きしめ続けるトルル。

「前にも言っただろ?俺には婚約者も帰る場所もやるべきこともある。ここにはいられない。」

周囲に人間はもちろんいないが、この状況はかなりシュールな画だろうな・・・草原でしゃべるヌイグルミを抱き締めている青いゴスロリ衣装の少女・・・

「じゃあどうしたらいい?どうすれば一緒にいられる?」

どうしようもない。このまま一人で親を探せ。

そんな言葉が喉を駆け上がってくるが、口からでることはない。

「俺じゃなくても良いだろ。もっと優しくて面倒見の良いやつがいるさ。」

精一杯、傷つけず諦めさせる方法を探すが、どうも子供の扱いは慣れないからな・・・

「・・・わかった強行手段だ。」

トルルはホールドを解く。

抱き締められていて頭が隣りにあったから気づかなかったが、トルルの目にはうっすら涙が浮かんでいた。



「・・・!」



ん!?!?

突然のトルルの行動に俺は慌ててぬいぐるみの手足をばたつかせ、トルルから離れようとする。

「大人は、キスすると結婚できるんだろ?これでお前はトルル様のものだ。」

少しずつ体が元に戻り、先程まで同じ高さだった視線はもうトルルを見下せるところまで戻った。トルルはというと、照れ臭そうに顔を赤らめて視線を泳がせている。

「お前・・・!色々突っ込みたいことはあるけど、こういうのはだな!大事な時にとっておくもんなんだよ!」

「今まさに大事な時だろ?殺人鬼をはめる作戦が失敗すれば、だれかが死ぬかもしれないんだ、タイミングとしては完璧だ。だいたい、いい歳して何をそんなに騒いでいるんだ。」

余裕そうに語るトルルだが、一切視線を合わせようとしない。まったく、最近の子供は進んでんなぁ・・・

「・・・何度も言ってるだろ、一緒にはいられないし、もちろん結婚もしない。お前は俺がどこでどういう生活を送ってたかも知らないだろ?一時のテンションに身を任せちゃいけないって教科書で読まなかったか?」

「お前が今までどこでどんな生活をしていたかなんてどこでもいいしどうでもいい。それにどこであろうと着いていける!いい加減諦めて私と一緒にいろ!」

「お前が諦めろ!わがままばかりが通じる世界じゃないんだ、どうにもならないこともあるんだって!」

でも知っている、このわがままモンスターは一回こう言い出すと止まらない。曲げない。

その情熱を他のことに向けてみてもいいんじゃないかとも思うが、これはトルルの尊敬できるところであり、魅力的なところであるのは事実だ。

こんなガキなりに、本気なんだろうしな。

「お願いだ、わがままを言っているのもわかってる。それでも私と一緒にいてくれ!凡才でも、お前なら隣にいてくれていい、そうであってほしいんだ!」

堰を切ったように言葉が押し寄せてくる。

・・・真剣な言葉は、聞いていて辛くなる。

諸刃の剣なんだ。相手の心を動かすには本気の言葉が必要だが、通じなかったときはその分ダメージがでかい。

・・・でもそれを教えてやるのも大人の仕事だろうな、と思ってしまう。

「だめだ。というより無理だ。その願いは叶えられない。」

「そんな・・・!何でもするから!お前の望むことは、何でもする!」

やめろやめろ、これ以上必死な顔をするな。俺だって本当はこんな子供を一人でいさせたくはないんだ。

だが俺の思いは通じないだろうなぁ。ならしょうがない。

「ほーう何でもする、か。それなら一つ頼もうかな。」

「うん!なんでもする!」

はぁ・・・こんなことに使いたくないんだけどしょうがない、こいつを説得できない俺の実力不足を恨もう。

キラキラとした期待の視線を俺は裏切るしかないようだ。

「じゃあ・・・俺を許してくれ。」

「え?」

俺はトルルの頭を優しく撫でる。

あんなぐーたら生活でどうやったらこんな綺麗なサラサラを保てるんだろうな。

そんなことを思いながら、乗せた手に意識を集中する。


「・・・は!?あれ!?え!?」


トルルは慌てて俺の手を弾くと、すぐさま距離を取り、鋭い視線でにらむ。

「変態め!トルル様の、トルル様の唇を奪うとは!!!恥を知れ!」

突然態度を豹変させ、さっきとは少し違った意味で顔を赤くし狼狽するトルル。やれやれ、奪ったのはお前だろうが・・・まぁ、そんなことは言わないけど。

「お、お前なんか、お前なんかちくわになってしまえぇ!」

半狂乱で絶叫しながらトルルは俺に右手を向ける。

え?今なんて?チクワ!?

放たれた魔法をダイレクトに受けてしまい、俺は身動きもとれない小さい身体になって地面に這いつくばる(?)

よかった、無事に変身魔法はマスターできたみたいだな・・・。この調子で敵もチクワにしてくれ・・・。


〜〜〜〜〜


空には星が煌めき、すんだ夜風の香りが心地よく吹き抜ける。

「わかったな?言った通りにすればうまくいく。デュランダルがお前を守るから安心しろ。」

俺はデュランダルの一部を結界化させてトルルに纏わせ、本体のデュランダルも渡す。

「本体の近くにずっといないと意味ないからな、お前が持っとけ。」

「・・・わかった。」

なんだ、まだ怒ってんのか。

チクワにされた後もずっといろんなもんに変えられた後、疲れたのか何もしなくなったと思ったら最低限の会話しかしなくなった。まぁ、半分俺のせいだけど。

一人で「ヌイグルミとキスしただけ」を何度も繰り返して呟いていたのを聞かないふりしていたことは言うまでもない。

そんなこんなあって日が落ちた後、俺たちは予定通りセントラルの前に戻って来ていた。

ここでメアリーと落ち合う予定だが・・・

『・・・はぁ、はぁ・・・!おにいさん!聞こえますか!』

突然コートのポケットからメアリーの声が聞こえる。息が荒いが走ってるのか?

「どうしたメアリー?」

『今、セントラルから出て南に向かっているんですけど!何かに追われてる感じがして、でも誰もいなくて・・・!怖い、私、死にたくない!』

出る前に連絡しろよな・・・!

しかしセントラルから出たと言うわりに、見える範囲にメアリーの姿はない。

「裏門の方から出たのか。トルル、探知してくれ。」

「わかった。・・・うーん、セントラルの反対方向!あっち!」

俺たちは急いでメアリーのもとへと向かった。


~~~~~


「はぁ、はぁ・・・!」

たくさん走った。辿り着いたのはセントラルから少し離れた、誰も来ないような路地裏。高い建物に囲まれた行き止まりだけど、逆に誰かが来るとしたら絶対に後ろからのはず。

私は路地裏の突き当りの壁を背に座り込むと、すぐに誰かが近づいてくる気配がした。

「・・・誰!?」

お願い・・・!お兄さんであって・・・!

私は祈る気持ちでその場に身体を丸める。

「・・・デカ乳!生きてるか!」

あれ?まさかのトルルちゃん!?

暗い路地を抜けて走ってきたのはお兄さんじゃなくトルルちゃんだった。

「兄ちゃんに変身魔法かけてお前の姿にしておいてきた!今向こうで見張らせてるから、もう大丈夫だ!」

「そっか・・・変身魔法、もう使えるようになったんだ。それならあとはトルルちゃんが私をお兄さんに変身させるだけだね。」

「そうだな。・・・大丈夫か?また気を失ったりしないか?」

「大丈夫だよ、トルルちゃん・・・あ、でも・・・」

ダメだ、ふらふらする・・・

よろけて、トルルちゃんに抱きつく形で座り込む。やっぱりめまいがすごいな・・・

「お、おいメアリー・・・?」

「ごめんね、私もう・・・」

私もう、耐えられない・・・




「・・・あれ?」

あらら?おかしいな?

「・・・やっぱり、お前が犯人か。」

おかしいな、ナイフが刺さらない。

よく見たら、うなじに突き付けたナイフをトルルちゃんが握って止めてるじゃない。

案外力あるんだねーってそうじゃないか。

「女装癖でもあるんですか?。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る