第16話 ・・・いいノックじゃない。
魔導都市ヴィーク。
そこはかつて神々が地上に築いた小さな街だった。
人々に魔力を授け、魔法を教えた神々は地上を去り、その後残った人間たちはその魔力と知識で街を発展させた。
今では魔導科学、魔法薬学などにおいても最新鋭の技術を誇る都市である。
特産はマジックビーンズ。魔力と栄養分が豊富な土で育ったマジックビーンズは長年世界各国で愛されている。(お土産に最適です!)
・・・とパンフレットに書いてある。
俺は転移魔法でヴィークに着くとすぐに宿に向かった。まずは拠点づくりだ。
幸い金だけはあるからな。泊まり放題だ。
「お一人様ですね?」
「です。」
「何泊されますか?」
「んー未定。しばらく。」
「か、かしこまりました・・・」
いつも使う偽名を記帳すると、受付のお姉さんは戸惑いながらも鍵をくれた。決して怪しいものではございませんよ。
部屋に到着し、窓の外を見ると、昼間の活気溢れる街が一望できる。
高いとこはいいな。なんでもよく見える。
そして広い。ヴィークはすごく広い。セルティコの五倍ぐらいの面積があるんじゃないだろうか。
以前来たときはもっと物々しい雰囲気だったが、今はそんな空気は微塵もなく平和そのものだ。
まぁそれでも、巡視かな?軍人とかは歩き回ってはいるみたいだな。悪いことしてない俺にはまったく関係ないけど。
さてと・・・あの女め、次は逃がさん。確実に引導を渡してやる。
俺は決意を固め、宿を出た。
思うに、人探しの基本は聞き込みにあると思う。
という訳で俺は広場に出て聞き込みをすることにした。
「この街で、あまり見かけない女がこなかったか。」
・・・俺は聞き込みを20分ほどして気づいた。完全に俺が怪しまれていると。
しばらく気づかなかったが、この漫画やアニメで聞くテンプレートな質問には穴があったのだ。
・・・こんな広い街なら見かけない人間とか毎日見てるわ。
そういえばそうだよな、あの魔王城の城下町で「見覚えのない魔族をみませんでしたか」って聞かれたら困るわ。大体が見たこと無い魔族だわ。小さな田舎町でもないのにみんながみんな顔見知りなわけもない。
こうなってしまうとしょうがない、情報が集まる場所といえばギルドか酒場か。
とりあえずギルドは暑苦しそうなので酒場にいこう。
とはいえ。酒場ってたくさんあるんだよな。
宛もないので適当に選んだお洒落な酒場に足を進める。
「あい、らっしゃい。」
いいねぇ、このなんていうかラフないらっしゃい。これぞ酒場だな。
俺はカウンターに座るとマスターがメニューを持ってきた。
「お前さん初めてだな。どれにする?」
「うーん・・・俺はアルコールより、こいつが一番合うんだよな。これ頼むよ。」
「はいよ、ミルクね。」
やっぱりミルクだな。栄養価は高いし骨も強くなる。
おそらくこのミルク生活が無かったら以前も腹に穴が開く程度じゃすまなかったと思うね。
「ごゆっくり。」
そしてこの出る早さ。お冷レベルに早いからね出てくるの。
さてと、頭も冷やして、考えよう。
どうしようか・・・この広い街で、あの女をどうやって見つけ出す?
ヒントがほしいけど、ここまでくるとさすがに遠すぎてバニタスとテレパシーも繋げないしな。自力で探すしかないか。
でも自力って言っても方法もないしなぁ。もっと目立つ奴だったらいいのに。
こういう場合は、相手の立場になって考えるべきか。
俺があの転生者だったら、瞬間移動の能力でどうする?なにをする?
間違いなく、強力な武器防具、道具を盗みに入るな。
そして装備だけ整えてレベル上げだな。この近くだと、クレール山か。
また山か・・・山と女っていい思い出ないんだよな。今回はデュランダルだからたぶん腹に刺されたりはしないだろうけど。
そうなると、山に行くのは盗難関係の騒動が頻繁に起きてからだな。
とりあえず今は街の中を調べよう。あぁくそ、こういうの本当に苦手だ。
正面から来たのを倒すだけなら楽なんだけどなぁ・・・
「あ、マスター。もう一杯くれ。」
「おう。」
でもどう調べたもんかな。このままだと夜までミルク飲んじまうわ。
早くなんか・・・って、あ。
俺なんでここに来たのか目的を忘れてたわ。これもミルクの魔力か。
「ほいよ。ところでどうしたにーちゃん、難しい顔でひたすらミルク飲んでよ。」
「実は今困ってるんだよ俺。マスターさ、ダメもとで聞くけど、見かけない女を最近見なかった?」
はい、結局テンプレ質問。俺学習せず。
「見かけない女?そうだなぁ、見ないけど。」
「そうだよなぁ・・・ってえぇ!?マスターそんなに見覚えのある人しかいないのか!?」
「きいといて驚くなよ。お前さんが来たときにも言ったろ?初めてだなって。誰が初めてきた人かとか、こういう仕事してたら覚えとかなきゃいけないのよ。」
「じゃ、じゃあさ!こう、身長は160もないぐらいの、あんま長くない茶髪でセーター着た、初めて見る女を見かけたら、この宿に来るように言ってくれねぇ!?」
俺はその辺にあった布巾に宿の名前を書いて渡す。
「おいおいそれじゃあヒントが少ないよ。何人来るかわかんねぇぞ?」
「何人きてもいいから、頼む、マスターしかいねぇんだ!」
正直八方塞がりだ、頼れるのはマスターしかいねぇ!
今日、さっき知り合ったばかりの男をここまで頼りにするとは・・・こんなことあるんだな。
「わかったよ、街の少し離れたとこの宿だな?・・・ところでどういう関係なんだ?」
殺し殺される関係でございます。
「ちょっと、いろいろあってな・・・」
俺は意味もなく意味深な表情を浮かべ、ミルクを飲む。
「そうか。いろいろあるんだな。で?お前さんの名前は?」
いやぁ、お互い名前は知らないんだけどぉ・・・
「サプライズのつもりだから、誰が呼んでるとか、名前は伏せといてくれない?」
「いやでもよ、いきなり知らない男から宿に呼ばれてるって言われてほいほい行く女がいるか?」
う、そりゃいないですよねぇ・・・
「・・・よしわかったこうしよう。俺は毎日ここでミルクを飲むから、店だけじゃなくて道を通った該当者を俺に教えてくれ。」
こうして俺はこの店の常連になった。
~~~~~
「お前さんさ、あえて触れなかったけど、もしかしてストーカーなのか?」
マスターはきゅっきゅとコップを磨きながら辛辣な言葉を俺に突き刺す。
しかし、否定しづらいところがあるな・・・ほぼ面識がないのにひたすら追いかけてるだけだしな、俺ストーカーだったのか。
「もっと正攻法でいけばいい。自信もてよ。」
「あのなマスター、根本的に、そういう理由で探してるんじゃねぇんだわ。」
「じゃあそろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇか?もうお前さんと話すネタも無くなってきたしよ。」
「冷たいこと言うなよ、たったの三日だろ?それにこの件は複雑なの。そもそも俺には一応婚約者もいるんだぞ。」
「そうだったのか。婚約者がいるのに女のケツを追いかけ回すなんて・・・」
「だからちげぇって!」
「はは、冗談だって。じゃあなんかの因縁ってとこか?」
なかなかに鋭いな。
「まぁそんなとこ。どろどろしてんのさ。」
俺はミルクを一口のむ。
さすがに、飽きてきたかもしれない・・・
城下町のカフェではこんなに長居もしないからなひたすらミルクだけ何時間も飲むのは少しきつい。
「・・・お前さん、閉店後も来てみねぇか。」
ふとマスターは不適な笑みを浮かべそんなことを言った。
まさか・・・!?
「まさか、マスターこっちか?」
二刀流なのかマスター!?
「違うよ。俺は根っからの女好きよ。夜の12時にここに来るといい。何かあるかもしれないぜ?」
周りに聞こえないように声を少し潜めている辺り、何か良くないことなんだろうな。
大好物だ。
「わかったよ。じゃあもう今日は帰ろうかな。勘定お願い。」
「あいよ。3200ベリルね。」
外は夕暮れ時。結局三日目も現れなかったな・・・どこにいるんだろうか。
それはそうと夜の酒場に何があるんだろうか?
よくよく思えば、酒場なのに昼間しかやってないっていうほうがおかしいよな・・・
そんなことを考えながら俺は宿に向かう。
~~~~~
「さてと、行くか。」
誰に言うでもなく呟き、俺は一応デュランダルを背負い宿を出た。
外は夜中でもわりと明るい。魔法の技術で明るいがなぜか眩しくはない電灯が街を照らしている。
道行く人は昼に比べればわずかではあるが、それでも多い方のように思える。
さてと。酒場にいきますか。
歩くこと30分。電気は消えcloseの看板が置いてある酒場へ到着。
・・・しまってんじゃん。
鍵閉まってるし人がいそうな雰囲気ではないんだけど・・・?
「なにぼーっと立ってんだ、こっちだよ。」
声は店のとなりに並べてある小さな細い路地からだった。
よく見ると、並べて置いてある樽の中から顔だけだしてるマスターがそこにいた。デュランダル刺したらマスターとばねぇかな・・・
「中に入れ。」
それだけいうと樽のなかに頭も消えた。
すげぇ近寄りがたいけど、ついていくか・・・
樽を覗きこむと、梯子がかかっており地下の広い部屋に繋がっているようだった。
中にはいってみると、そこにはいくつもの酒樽が置かれていた。どうやら倉庫みたいだな。
独特な臭がする樽の底の部屋へ恐る恐る降りてみる。
「こっちだよ。」
マスターは部屋の隅にある扉を開けながら手招きをし俺はそれについていく。
「うお・・・」
扉の向こうはカウンターの中だった。地下にも酒場かよ。
「お、にーちゃん新しいボーイか?」
カウンターに座る強面の金髪刈り上げが顔を赤くしてニヤついている。
「こいつは『客』のほうだ。ほらあっちに座れ。」
マスターは俺の背中を押してカウンターから追い出す。
俺は男の隣の席に座ると、何も言わずにミルクが出された。
「お、にーちゃん、しぶいねぇ。」
「骨は強くなくっちゃな。乾杯。」
なんの酒かは分からないが黄金色の液体の入ったグラスとミルクで乾杯をかわし、一気に飲み干す。
「で?お前さん、改めて聞こうか。なんで例の女を殺そうとしてるんだ?」
あれ、なんでバレてるんだ?俺そんなこと一言もいってないんだけど。
「殺す?なんで?」
「とぼけなくても良い。別に衛兵に突き出したりしねぇさ。」
俺のグラスに再びミルクが注がれる。
「始めてみたときから、お前さんからそういう臭いがしたんだよ。」
「え、そんなにくさい?」
「そういう意味じゃねぇよ。・・・ここ酒場デニートは夜中は情報屋になる。人殺しなんてよくくるんだ、隠す必要なんてない。ここにもしかしたらお前さんの探す女の情報もあるかもしれないぞ?」
マスターはペラペラと手帳をめくっている。
思わぬ収穫だ。ここで聞いてまわればあの女の情報が見つかるかもしれない。
「そうだ、こんな手帳なんか見なくてもあいつに聞けば早いな。グラッゾ、ちょっと来てくれねぇか。」
マスターは酒場の端に座る中年の男性に声をかける。
スキンヘッドに蓄えられた髭。意外にも高い声出そうなやつだな。
「どうしたマスター、依頼か?」
普通に野太い低い声だった。
「まぁそんなとこだ。このにーちゃんが人探ししてんだとよ。」
グラッゾはよたよたとカウンター席に来ると、俺の隣りに座りワインを注文した。
「ほうほう、にーちゃんはどんなやつを探してんだ?」
グラッゾが怪しく微笑む。歯並びが悪いな・・・
「あまり長くない茶髪で、身長160ぐらいのセーター着た女なんだけど。」
「おいおいにーちゃん、その女はセーターしか着ないのかい?」
マスターとグラッゾはガハハと笑う。
「1回しか会ってないんだ、その時そういう格好しててさ。それしかわかんねぇんだよ。」
「ははは、ちょっと情報がすくねぇな。他になんかねぇのか。」
なんもねぇよ。そもそも五分も話してないし・・・・!
「そんなどこにでもいそうなやつ探すなんて砂漠で一匹のダニを探すみたいなもんだぜ?」
「砂漠じゃなくても大変だろうがそれは・・・他に知ってることもないんだよ。」
せめてもっと特徴的な格好をしてくれていたら・・・
「にーちゃんさ、その女、若いのか?」
「俺と同じぐらいかな?そいつのこと詳しく知らないけど。」
「そうか!ならよかったなぁ!」
グラッゾはゲラゲラと大声で笑う。
「なにがよかったんだよ。なんか関係あるのか?」
マスターがニヤリと笑う。
「・・・知らねぇのか?ここ数年、女がよく殺されるんだよ。それも酷い殺し方しやがるんだ。ここ一年少なかったんだが、また増えはじめてな。なぜか若い女を襲うことが多い。」
そうか、俺が以前ヴィークに来たときはそんな話聞いたことないもんな。でもあれはちょうど1年前ぐらいか。
「にーちゃん、もしかしたら探してる女はもう殺されてるかもしんねぇぞ?よかったな!ガハハ!」
それならいいんだけどなぁ・・・
しかしたかが殺人鬼が殺せるような相手じゃない。あんな特殊能力があるんだ、むしろ逆襲できるぐらいだろうしな。
「まぁそのイカれた殺人鬼の話はいいとしてよぉ、もっとヒントがねぇとな。そいつもみつかんねぇよ。」
あ、そういえば。
「ならさ、最近盗難関係の事件はないか?」
あの女が能力使って好き勝手してるなら、この手の事件が多いはず。
「そんなもんなかなかないぜ。ただでさえこの街は例の殺人鬼のせいで衛兵がたくさん歩き回ってんだ。強盗やひったくりなんてやるようなバカいねぇさ。」
むしろ無いのか。そうなると装備もろくに揃ってないんじゃないか。
「お前さんよ、もうしばらく街をぶらついたらどうだ?どうせ時間もたくさんあるんだろ?」
「人をニートみたいに言うなよマスター・・・実はあまり時間もねぇんだ。」
最悪の場合、この街を離れてるかもしんねぇしな。
「そうだにーちゃん!どうしてもってなら、いい方法があるぜ?」
「まさか・・・グラッゾ、それはやめとけ。」
マスターの笑顔が固まる。
良くない方法なんだろうけど、他にできることはなにもないしな。
「今は藁にもすがる思いだ、方法があるなら教えてくれ。」
グラッゾは相変わらずニヤニヤと笑っている。やっぱろくでもない内容みたいだな。
「この街にな、少し面倒な占い師がいるんだ。そいつは気に入ったやつにしか占いをしないらしいが、腕前は確からしいぞ?」
なるほど、情報がないなら魔法頼みか。しかし胡散臭いなぁ占いって・・・
魔法の中でも特殊な部類で、大体が嘘だったりうまく相手を言いくるめていたりするらしい。
本当に占いとして使える魔法使いは少ないって話なんだが、魔導都市ともなればそれくらいいるってことか?
「そいつにかけるしかないな・・・で?今のも情報料がいるんだろ?」
タダではないだろうよ、相手は情報屋みたいだしな。
グラッゾは真っ赤な顔でワインをあおる。
「マスター、もう一杯!にーちゃんのおごりでな!」
「そんなもんでいいのかよ?ずいぶん安上がりじゃねぇの?」
「いいんだよ。おれぁなんとなくにーちゃんを気に入った!初回は安くしとくわ!次はがっぽりもらうけどな?」
次はないと思うけどな、厚意はありがたく受けとるか。
「じゃあマスター!一番いいのをおっちゃんに!」
「あいよぉ。」
〜〜〜〜〜
次の日の朝、俺はグラッゾに聞いた場所へと向かった。
浮浪者が横たわる怪しい路地裏を進んでいき、湿っぽい空気と寒気がする・・・ような場所ではなかった。
街の中心であるセントラルという建物に続く長ーい大通りの服屋とケーキ屋の間にある1.5メートルほどのせまーーーーーい場所に、その店はあった。
『トルルのワクワク占いハウス』
名前が、あやしい。
グラッゾに聞いたときから思ってはいたが、怪しすぎるだろ。というか信用できないだろこんなの!
つーかなんでワクワク!?どこにワクワク!?
どんな店主がここを営んでいるのかあまり想像したくはないな・・・でも入らないとな・・・
俺は紫色のドアに一粒光る金色のドアノブに手をかけ、勇気を振り絞り中へとはいる。
「・・・」
階段だ。
ドアを開けてすぐ、階段が上階に向かってのびている。
壁には『初回値引きなし!!』という張り紙がやたらと多く貼られている。
すでにあまり好感が持てない・・・!
ミシミシと小さな悲鳴をあげる階段を上ると、また扉がひとつ。
コンクリートの壁にまったくマッチしない木製の真っ赤な扉。趣味が悪いとしか思えない。
しかしそんなことより驚いたのはドアノブに手をかけた瞬間だった。
「あんっ」
ドアが高い声で喘いだ・・・
気持ち悪いのですぐさま手を離す。いやほんと気持ち悪い!この狭さでこのトラップ(?)は気持ち悪い!
「いきなり鷲掴みなんて大胆な男・・・嫌いじゃないわ。でもね?レディの家に入るときはノックするのが基本よ?」
なんだこのドア。
「ノックしてごらんなさい?」
すごく嫌だ。なんかすごく触れたくない。
「はやくぅ・・・焦らしプレイが好きなのかしら?」
「やっかましいわ!なんなんだお前は!」
「扉だけど。」
「いや扉なのは見てわかるし、むしろ扉にしか見えないから気持ち悪いんだけど!?」
赤の主張が強いだけで、他は本当に普通の扉だ・・・
「貴方もしかして、扉には性感帯がないと思ってるのかしら?」
「ないと思っているし必要性もないと思っているんだが。」
「冷たい人。でも嫌いじゃないわ。」
何言っても嫌いにはならないんじゃねぇのかこいつ。
「それより、彼女に用があるんでしょ?」
「あぁそうだよ。だからそこ通してくれ。」
正直もうすでに相手するのがめんどくさくなってきた。
「何を言っているの?別に鍵は閉まってないわよ?ただ、貴方に私を開く勇気があるかしら。」
「なんだ開いてんのかよ。それじゃあ、」
ドアノブに手をかけようとしたときだった。
「いやらしい顔で私を強引に押して開くのね。私は文字通り手も足もでないまま、貴方に好きなようにされて、入られて・・・。いいわ、みんなそうしてきた。どうせ貴方も他の男と同じでしょ?」
なにこれすごい開けづらいってか触りづらい・・・!それに男とか関係ないだろこの場合。
大体どこから声が出てるんだこの扉は。そしてこの無意味な時間は一体なんだ、なんなんだ。
「あのさ、入りづらいんだけど・・・」
「別に貴方が初めてって訳じゃないから、すんなり入ると思うけど?」
「なんでいちいちいやらしい言い回しをするんだお前は。そうじゃなくて、お前がなんだかんだ言うから入りづらいって言ってんの。」
「もしかして、私に気を遣ってくれてるのかしら?なによ、少しはやるじゃない。」
なにがやるんだろうか。
「でもそれだけね。私が扉で、貴方がこの先を目指す以上、私に入っていくという未来は変わらない。結局、どうしたって貴方も他のやつらと同じ。」
自嘲ぎみに扉はそう言った。吐き捨てるように、諦めるように。
それは扉という無機物とは思えない、感情のこもった生々しい声だった。
・・・ふと考える。
この扉は、どれだけの数の客を通してきたのだろうか?
そしてそれは、扉にとってどんな気持ちだったのだろうか?
部屋と部屋の通り道。それが扉という物であり、存在意義であり、変えられない運命であると思う。
だとするならば、客がここを通ることは、彼女にとって幸せなことではないのだろうか?使命に従い、職務を全うする。それの何が彼女をこのようにやつれさせたのだろうか?
「ほら、早く来なさいよ。もうはやく済ませて。」
なるほどそうか。わかったぞ。
敷かれた運命のレールの上ををひたすら進むことをよしとしない人がいるように。きっと、彼女にも扉としての運命に従い続け、縛られることへの抵抗があるんじゃないか?
しかし現実はそれほどうまくはいかない。彼女の場合、「人を通す」という運命を嫌だと言って避けられることではない。
なぜなら彼女は「受け」であり、自らに与えられているのはしゃべるという行為だけなのだから。
・・・なら俺にできることは・・・。
コンコン
「・・・」
なら俺にできることは、変えられない運命のなかにささやかな喜びを与えること。
彼女は最初から望みを口に(?)していたのだ。ノックをしろと。
その行為自体にどれほどの意味があるかはわからない。ただ、それこそが彼女を唯一救える行為だと考えたのだ。
「・・・いいノックじゃない。」
赤い扉は、最初聞いたあえぎ声とは違った高い音をたて、ゆっくりと開いた。
「おいで。貴方なら受け止めてあげたいと思うわ。」
俺は、黙って進む。
言葉はいらない。感謝も、謝罪も、今は筋違いだと思った。
扉を閉めたとき、ひっそりと声が聞こえた。
「また、待ってるわ・・・」
ちょっとまった。
なんか通してくれたから通っちゃったけど、ノックの返事聞いてないんだけど。入ってよかったんだろうか。
それに見たところ、人いないんだけど。
部屋を区切るようにカウンターがあって、その上には水晶玉。
奥は畳になっており、占い屋ってより駄菓子屋だな。
胡散臭いグッズが駄菓子の代わりに置いてあるような感じだ。
「だれかいないのかー?おーい!」
返事はない。
いい感じに別れたのに真後ろにさっきの扉あるんですけど。しゃべらないからなんか気まづいんですけど!
「おーい!だれかいねぇのー!」
2度目の呼び掛けには反応があった。
ポロン、ポロン、と壊れたオルゴールの音が聞こえる。
なんだかまるで、電力を失って死を待つだけの警備員のような気分だ・・・
気付くと俺は無意識的にデュランダルに手をかけていた。
なんか嫌な予感がする・・・
するとオルゴールの音はピタリとやんで、背後から何が襲いかかってきた。
「おせぇな。」
デュランダルを鞘ごと引き抜き、相手を突く。
「ふげぇ!」
情けない声をあげて、それは床の上をのたうち回った。
「い、いってぇ!!なにすんだよー!」
赤色のツインテールが特徴的なゴスロリ少女が腹を押さえながら涙目で睨む。
「これで私がお嫁にいけなくなったらどうすんだよ!鬼畜か、お前鬼畜なおにーちゃんなのか!」
「パクリ疑惑が出るような呼び方をするんじゃねぇ。それに先に襲ってきたのはお前だろうが。」
「襲うだと!?こんなかわいいロリっ娘が抱きついてきたのを襲うだなんて表現するな!鬼畜で口もわるいとは、顔以外ダメダメだな!」
「やかましいわ!それよりまさかとは思うけど、お前がこの店の店主じゃないだろうな・・・」
ダメそうな少女だ。こいつはたぶん、ダメだ。
「いーかーにーも!私こそ天才魔導師トルル様だ!」
あぁ・・・最後の望みまで潰えたか。さてどうしたものかなぁ。
「お、おい無視するな!私はすごいんだぞ!天才なんだぞ!」
「はいはいその年の子供はみんなそう思ってんだよ。くそ、せっかく期待したのに・・・」
「まだなにもしてないのにガッカリするな!私はルンルン気分で待ってたんだぞ!」
「あぁそう。何を?」
「お前をだよ!!せっかくまともな客が来るって思ってかなり期待してたのに!がっかりだ!」
俺の方がよっぽどがっかりなんですけどね・・・
しかしサラッと言っていたが、このロリッ娘の言うことが本当なら、これは少し期待できるかもしれない。
「俺が来ること知ってたのか?」
「当たり前だ!目つきの悪いハゲのおっさんからここの話を聞いてやってきたんだろ。知ってるもんねー。女を探してほしいんだろ!」
「・・・お前さては、グラッゾからなにか聞いたな?」
トルルはきょとんとした表情で小首をかしげる。
「そんなやつは知らない。私は天才なので魔法を使えばそれぐらいすぐわかるのだ!」
こいつ、ふざけてるわけでもとぼけてるわけでもなさそうだ。
もしかしたら、こいつなら本当に・・・
「ぐはは!驚いたか!天才には何でもお見通しだ!跪け!!」
・・・こいつなら・・・こいつしかいないのかな・・・
俺は正直このクセしか無いゴスロリの少女に賭けたくはないが、少し冷静に考えて、ほかに方法もないのであきらめることにしたのだった。
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