第15話 男のツンデレなんて誰も求めてないよ。

この何とも言えない、晴れ晴れとしているようで憂鬱な気持ち。

広い草原、曇り空、待ち合わせ。

なんかここでこうして立っているのはとても久しぶりな気がする。

もともと転生者は一月に2回来れば多い方なんだけどな。今回ぐらいが普通か。

『転生者がくる。行ってきて。』

バニタスからの連絡もなんか雑になってきてる気がするが気は抜けない。

上空に現れたまぶしい光が草原を照らし出す。

さぁ、仕事だ。


~~~~~


『レベル1、人間、転生者、危険要因・特殊能力』

はいはい特殊能力ね。もうそんな気はしていたよ、いいよわかってるよ。

降りてきた女の後ろ姿をスキャナーで確認。

「すごい・・・異世界だ・・・」

すごいのはお前だ、距離にして2mほど後ろの位置にいる俺になぜ気付かない。

「・・・おい。」

「ふぁ!?なに?だれ?」

ただの鈍感か。

しかし女の転生者なんてケモミミ以来だな、弱そうだし。

茶髪をすこし伸ばして、緑のセーター姿。特徴もなにもない一般的な女だな。

声に驚いた女は、3歩ほど後ずさって尻餅をつく。

「・・・!?あ、あなたが・・・もしかしてリーパー?」

リーパー?時代を超えて襲ってくる虫のことか?それとも宇宙兵器か?

「なんだそりゃ、俺はそんな名前じゃない。それよりおまえ転生特典でなんか能力貰ったろ。ほら出してみ。」

女は警戒を解かずに俺をにらみながら、スカートの汚れを払い立ち上がる。

「待ち伏せに、この警戒心・・・やっぱりあなたはリーパーってやつだね。」

何を言ってるのかよくわからないが、女はこちらに右手を突き出した。

能力か、何が来るかわからんけど当たるとまずそ「ぶ!?」


は?なんだ?

挙動が全く読めない・・・なにが顔に当たった?

どんなものが当たったのかすらわからないが、謎の衝撃が首を横に振らせた。

依然、女は右手を突き出したままだ。なにかを飛ばす能力か?それなら受け身型の能力者じゃねぇってことだな、つまりすぐ殺せる。

俺は背負った愛刀の柄に手をかけると、勢い良く踏み込ん「うべ!」


なんだこれ!?痛くはねぇけど衝撃だけなにか当たってる・・・そしてそれは決まって顔面に。

俺と女の間に少しずつ距離ができてきてる。後ろに下がらせるほどの威力はあるってことか?それにしてはダメージはほぼ無いな、気味が悪い。

「天使の人が言ってた。転生してすぐにリーパーに狙われることがあるって。そうやってすぐ殺されてる人がたくさんいるって。あなたがそうでしょ?」

天使の人っていう言葉の矛盾感はさておき、俺はとうとう天使から目をつけられたんだな。前もって情報与えて対策練ってくるとかありかよそんなの。

「まぁそうだな。でもだったらなんだ。お前は今から問答無用で殺されるのがわかっただけだろ。」

「えぇ。だから逃げる。勝てっこないみたいだし。」

女はそう言うと、右手をこちらに向けたまま後ろを向いた。

馬鹿が、俺を前にして走って逃げようなんざ「うぐ!」

あぁくそ!いちいちむかつくなぁこの攻撃!・・・ってあれ?

俺が視線をそらされた瞬間に、いねぇ。

こんなに隠れるところも何もない草原でどこへ隠れた?

まて、集中しろ・・・魔力探知で・・・

・・・だめだ転生したばかりのやつが魔力なんかもってるわけねぇ。

じゃあ音は・・・まったくきこえん。

どこだ、どこにいった!?視線をどこに向けようと、見渡すがりの草原。

これはかなりまずい、逃げられる!!

見えない攻撃と突然の消失・・・あいつの能力は、透明化か!

なら今もまだこの草原を必死に走ってるはず。なら1番近くに見えているセルティコを目指してるはずだ。

それならこの辺一帯を、燃やしてやる。

「イグニート!!」

今出せる最大の広範囲炎魔法。

曇り空の下を明るく照らす炎の渦が俺の周囲を這い回る。

それは円形に広がり、俺を中心に周囲50mほどを焼き尽くした。

「はぁ・・・」

結構な規模で燃やしちまったけど、仕留めてたかな?

焼け焦げた平原を歩き、死体を探す。

燃え尽きるほどの火力じゃないからどこかに死体があるはずなんだけど・・・


しばらく歩き回るが、無い。

嘘だろ、まさか初期ステータスの、レベル1の女に逃げられたのか・・・?そんなバカな。

しかしどこを見渡しても女の姿はない。

「・・・失敗した・・・!」

でも後悔してる場合じゃねぇ・・・。

俺はすぐに転移魔法で魔王城へと帰還した。


~~~~~


「落ち着きなよ。昔はそれが当たり前だったんだから。」

俺は逃げた転生者の追うため、なにかしら力になってくれそうなバニタスの部屋へやってきていた。

「たしかに俺がこうして戦う前まではそうだったかもしれない。でもあの時はあのオッサンが魔王だったから大した問題じゃなかったんだ。仮に魔王までたどり着いても勝てるわけないからな。だけど標的がソフィアに変わった今、討ち漏らしはまずい。なんとかならねぇかな?」

バニタスはのんきに本を読んでいる。年下の子供とは言え魔王城随一の頭脳を持つ魔族がここまで余裕だと逆に少し安心してしまう俺がいる。

おそらくあの女が俺から逃げた理由は攻撃力不足。

あの謎の見えない攻撃がほとんど俺に効かなかったからだ。

聖剣や魔剣ぐらいになると使い手が弱くてもそれなりに力を発揮してしまう。転生者が最初から使えたり、それこそただの人間(仮)のケモミミが俺の腹に宵鏡を突き刺すことができたり。レベル1のポンコツの攻撃なんて痛みすら殆ど無い。

しかし今日逃げられた転生者が強力な武器、または高レベルになると、あの透明化の能力は圧倒的な脅威になる。音も気配も何もかもが消えてなくなれるなら、これほど暗殺に適した能力はないからだ。

誰にも気づかれず、ソフィアだけを殺すこともできる。

「あの転生者を捜しだして殺すまで、転生者狩りはディンに任せるかな。すべての町をしらみ潰しに当たればいつかみつかるはず・・・」

「そんなの効率が悪いでしょ。・・・どうしたのさ、そんなに焦るなんてらしくないじゃない。」

「落ち着いてられるかよ!俺のミスであいつが、ソフィアが殺されるかもしれねぇんだぞ!」

そうなればオッサンに、ガルスタインに会わせる顔がねぇ・・・!

「あなたも変わったね。暑苦しくてまるでガルスタイン様みたいだ。」

「やめてくれ、あんな親バカと一緒にするな。」

「でも魔王様を大切に思う気持ちは同じじゃないの?だから焦ってるんでしょ。」

「がきんちょがわかったようなこと言うな。俺はオッサンとの約束が大事なだけ。それでソフィアを守るだけだ。」

「はぁ、男のツンデレなんて誰も求めてないよ。素直に魔王様を守りたいってだけ言えばいいのに。まぁでもそんなにその転生者が気になるなら、いいものがあるよ。」

バニタスは眠そうに目を擦ると右手に魔法陣を展開する。

魔法陣から出てきたのは一冊の分厚く汚い魔本だった。

「なんだこれ。」

「僕の知識がぎゅっと詰められた魔本だよ。値段をつけるならかなりのものになるとおもう。」

「なんだ、ただの自作ノートかよ。」

「うるさいなぁ。それよりほらこれの・・・このページ。見てみて。」

キレイな水晶玉の写真と簡単な説明文が書いてる。

「ワイズマンの瞳?」

「そう。これは秘宝としても価値が高く、それでいて有用な魔具になるんだ。これを使えばもしかしたらなにかわかるかもよ?」

バニタスはそう言うと大きくあくびをする。今日どんだけ眠いんだよこいつ。

「秘宝ワイズマンの瞳・・・か。これどこにある?秘宝ってぐらいだからどこかに展示でもされてんのか?」

バニタスはフフッと笑い、腕組姿勢で立ち上がる。

「ワイズマンの瞳は、左右で1つずつある。一つは、あなたが持っているよ。」

バニタスはにやりと笑いながら俺を指差す。

いや、持ってないんですけど・・・

「あなたの魔具、スキャナーを作ったのは僕だ。それに内蔵されたコアこそ、ワイズマンの右目だよ。」

「まじかよ・・・そんな貴重品を魔具に改造していいのか。」

「ワイズマンの右目、『見透かす者』を介して魔力を照射された相手は、自分の情報をさらけ出されるのさ。これは使えると思ってね、ガルスタイン様に何とかして貰えないかお願いしたのさ。」

「あのオッサン、秘宝をこんなチビッ子に・・・つーか説明が大雑把だな。情報をさらけ出すってどこまでの情報を?」

「ソレはバラバラだね。でも僕が調整を効かせればもっと色々できるし限定もできる。だからスキャナーは、相手が転生者であることや、転生特典の種類もわかる。ただ、内容までは見れないんだけどね。転生特典って、この世界のものじゃないから。」

この世界のものしか判別できないのか。特殊能力の中身さえわかればいいのになぁ・・・

「そうだったのか・・・じゃあもう片方の、左目の効果は?」

「左目は、『見透す者』。スキャナーみたいにして使うと、過去をみることができる。なぜか第三者の目線でね。」

「どこまでの過去を?」

「消費した魔力の量次第だってさ。ガルスタイン様なら、僕がミクロン単位の大きさの時まで簡単に遡って見ることができるだろうね。」

「すげぇな・・・。」

「それを使えば、さっきの戦いをもう一度見ることができる。そしたら相手の行方や攻撃の謎も解けるんじゃないかな?」

たしかに。俺が視線をそらした隙にどこに消えたのか足取りがつかめるかもしれない。

「で?繰り返すようだけど、それはどこにあるんだ?」

「それなんだけどさ・・・これも実はこの魔王城にあるんだ。」

近ッ!さすがいくつかある魔族国の中でも最大。

でも魔王城の中でそんな貴重品があるとしたら・・・

「・・・あそこか・・・」

「うん、正解。行きたくないでしょ?僕は行かないよ。」

これはまた面倒な・・・でもしょうがない。今回は状況が状況だからな。背に腹は代えられない。

「サンキューなバニタス。俺は左目を取りに行くよ。」

「そっか。気をつけてね。くれぐれも周りへの被害だけは考えて。」

「わかってるよ。」

俺はバニタスの部屋を後にして、魔王城の階段を下り、地下を目指した。


~~~~~


暗い寒い。気のせいかもしれないがジメジメする。

魔王城の地下室への階段は、魔王城の円形に登っていく階段の裏にある、高さ3mほどのそれなりに高い鉄の扉の奥にある。

そこからは階段がしつこく下に続いており、道幅はそれなりに広い。



「なんでそうなるわけ!?あなたやっぱり変態ね!?」

「人間ごときが自惚れるな。僕は君をそういう目で見ることはない。」

「残念!わたしもう人間じゃないんですけどー!」


なんか奥から聞こえるんですけど・・・

この地下への階段は宝物庫や倉庫に繋がっていて、そこにいるやつなんて一人しかいないはずなんだけど・・・

俺は階段を降りきって、少しひらけた空間の壁に設置された3つの鉄の扉を確認する。

真ん中。ここが宝物庫だったな。


「面倒だ、やはりバラバラにしよう。それが手っ取り早い。」

「だから!それじゃ私死んじゃうって言ってるじゃん!なんでわかんないかなぁ!?」


うわぁ、間違いなくこの扉の奥から喋り声が聞こえてる。

そしてそれが誰なのかも俺は知っているんだけど。


「僕らバンパイアはワーウルフとは昔から中が悪くてね、生きてるのをこうしてゆっくり見れるすら珍しいんだよ。そうなると、中身まで見たくなるは当然だろ?」

扉を開けると、赤い瞳にケモノ耳、白い毛を生やしたパーカー女子と相変わらず光りそうなほど白いスーツの変態黒髪吸血鬼が取っ組み合いをしていた。

「お前ら、何してんの・・・そしてなんでケモミミがここにいんの?しかも昼間にその姿って・・・」

それよりディンとケモミミ、この組み合わせミスマッチすぎて違和感がすごいんですけど。

「僕はここの地下保管庫の番人だからいるのは当然として、フィロは僕の助手になったのさ。逆に、君はなんでこんなところにいるんだい?とうとう家の武器コレクションを魔王城に寄付することにしたのかな?」

「ちげぇよ。借りたいものがあってな。」

地下保管庫番の助手って何すんだよ・・・じーさんなりのフィロに対する気遣いなんだろうけどこいつと組ませたら駄目だろ。

そんな事を考えているとディンはニヤニヤしながらこちらを見る。

「ほほう?つーまーり。僕にお願い事をするんだね?はは、いいよいいよ!聞こうじゃないか!」

ほら調子乗り始めやがった。だか今は我慢だ。

「そーれでぇ?何を借りたいんだい?」

「ワイズマンの瞳。」

「ワイズマンの瞳?君にはとてもおすすめできないんだけどいいのかい?」

「なんでだよ。」

「さぁね?何に使うか知らないけど、僕が君だったら使ったらすぐに戻すよ。君にとってあれはいいものじゃない。」

「だからなんでだよ。」

「過去を見る事ができるんだよ?君の恥ずかしい過去をうっかり暴かれたら大変だ!特に君が腹に穴を空けられた瞬間なら金を払ってでも見たいものだねぇ!」

高らかに笑うクソ吸血鬼。

いちいち腹立つこというなぁ・・・爆散してくんねぇかな。

「はいはい、話はもういい。はやくくれ。」

このままこいつと長時間話すとどんどんイライラする。今は急がねぇといけないしスルーだ。

「ははは、そう気を悪くしないでくれよ、僕なりの気遣いだよ?それより、魔王様から許可は得たのかい?」

う・・・ディンのくせにちゃんと仕事はするんだな・・・

「もちろんだ。」

「・・・そうか。そういうことならフィロ、持って来てくれ。多分奥の黒い棚の赤い布袋だ。」

「はいはーい。奥の赤い棚の黒い袋~」

「違う逆だ。黒い棚の赤い布袋だ。その大きな耳は飾りかい。」

嘘でも案外あっさり通るんだな。

奥の方で何かが派手に崩れる音や悲鳴をききながら待っていると、赤い布袋片手に半泣きのケモミミが戻ってきた。

袋を受け取ると、ディンは中から写真で見たそのままの水晶を取り出した。

「これが、ワイズマンの左目、『見透す者』だ。」

これがアレば、あの女の居場所がわかるかもしれない。

「よし、助かる。じゃ。」

俺は拳サイズの丸い水晶を片手に出口へ向かう。はやくバニタスに持っていこう。

「待つんだ。」

ディンの鋭い声が引き止める。

「なんだよ。」

「使ったら返すんだ。すぐにね。」

「しつけぇな、わかってる。じゃあな。」

俺は唯一の手がかりを持って、駆け足でバニタスの部屋へ向かった。


~~~~~


「とってきたぞって、なんでお前が?」

バニタスの部屋にたどり着くと、そこには鎧姿のソフィアがいた。

「なにやら問題が起きたみたいですね。」

あーくそ。バレないように終わらせようと思ったのに。

「狙われてる本人にぐらい報告しないとでしょ。それより彼と喧嘩しなかったんだね。安心したよ。」

バニタスが呼び出したみたいだな。余計なことを・・・

俺は渋々、今日の事情をソフィアに話した。


~~~~


「なるほど。その透明な転生者の足取りを過去を通じて追う、と。」

兜越しの重々しい声はうんうんと首を縦に振りながら話す。

「すぐにでも始めようぜ、バニタス。これどう使えばいいんだ?」

俺は『見透す者』をバニタスに差し出す。

「さっきの説明の通りさ。魔力を流して、出てきた光を相手に当てるだけ。今回はあなたに当てれば見えてくるはず。」

そう言ってバニタスは両手で『見透す者』を受け取ると、胸の前で大事そうに抱えた。

「いくよ。」

その瞬間、光がまっすぐに俺を貫く。

もちろん痛みもないし、そもそも感覚もない。レーザーポインターを当てられてる感じ。

「さて見てみようか。」

バニタスが突き出した『見透す者』を、俺とソフィアは覗き込む。

水晶の中にうっすら浮かび上がる、第三者の視点。

広い草原に二人。俺と、あの転生者が空から見られているような視点だ。

「うーん、やっぱりなににされてるのかわからんな。」

右手を向けたまま動かない女と一人で顔を左右に弾かれる俺。なんかパントマイムしてるみたいじゃねこれ。

「ここだ。」

逃げ出す女を追う俺が、また顔を弾かれる。

その瞬間、女は一瞬で姿を消した。

「・・・なんだこりゃ。」

「・・・わかりませんね・・・」

俺は眉をひそめ、ソフィアは首を傾げる。

「・・・いやよく見て。ほらここ。」

少し時間が経つと、視点はすこし高くなり、その端っこに、呼吸を整える女が草原に寝ているのが見える。

「こ、こいつ!こんなところに!」

次の瞬間、草原は火に包まれるが、女はギリギリその魔法から逃れ、さらに這いずって逃げていた。

「くそ、やっぱり生きてたんだな・・・」

ほんの少しだけ実は燃えつきたんじゃないかと期待をしていたぶん、これはへこむな・・・もう少しだったのか・・・!

「あ、見てください。彼女はセルティコとは逆方向、ヴィーク側に向かっていませんか?」

普通なら転生してすぐは身近で目につくセルティコを目指すはず。だから俺もセルティコ寄りで魔法を放ったんだ。

「でも魔王様、それはさすがに無理があるんじゃない?いくら特殊能力で透明になれるとしても、武器もなにも持たずに60キロ先の魔導都市に向かうなんて無茶だよ。魔物にやられなくても体力的に難しいんじゃない?」

本来はセルティコでそれなりにレベルを上げて何人かで馬車にでも乗ってやっとヴィークに行けるぐらいだ。

それにこの世界に来たばかりの人間が普通そんな場所を知るはずがない。

「なら彼女は、どこへ向かったんでしょう?」

手がかりはこれだけなのか・・・?

これならやっぱり街を一つ一つ見て回るしかないようだな。

「もし魔王様の言うとおりなら、勝手に道端で野垂れ死ぬんじゃない?それなら・・・あ。」

「それならなんだよ。」

「ちょ、ちょっとまって。これ、もしかして・・・この人の特殊能力って、透明化じゃないかも・・・!」

バニタスはずっと覗きこんで、再生と巻き戻しを繰り返していた『見透す者』を俺に向けて、再び魔力を流し込む。

すると先程見た、炎から逃げ切ったあとのシーンをもう一度映し出していた。

「よく見て、この後這いずって逃げてる後、視点がさらに高くなるでしょ?その時にはもっと離れてるところにいる。目算で20メートルぐらいかな。この年齢の人間の女性が平均どれ程の体力があるかはわからないけど、透明になったとして、この距離をたった3秒ぐらいで移動するのは少し早いと思わない?」

言われてみれば早い気がする。

ギリギリ炎から逃れたあと、透明になって立ち上がって、20メートルほど走る。これを3秒ぐらいでできるんだろうか?

「きっと、謎の攻撃もそうだ、何かを飛ばしたんだとおもう。それは、『瞬間移動』で行ったことなんじゃないの?あなたを警戒して、能力がばれないようにわざとらしく右手を突き出して、左手とかに持ってた石でも瞬間移動で飛ばしたんじゃないかな。なにかしらの制約で距離も遠くにいけないからとりあえず限界まで遠ざかって、たまたま炎から逃れたんだ。」

確かにその可能性もあるな・・・でもなにか釈然としない。

透明化が本当の力なのか、瞬間移動なのか・・・

「いずれにせよ危険な能力なのは間違いねぇ。でも瞬間移動ができるなら、やっぱりヴィークに向かったのか。」

「能力を繰り返し使えば、できるだろうね。」

漠然としてるが予測はできたな。ならあとは殺すだけだ。逃げられないようにしないと・・・

俺は立ち上がりのびをすると、背中がパキパキと音を鳴らした。

「もう、いくんですか?」

兜越しではあるが、ソフィアは心配そうな声を漏らす。

この前の件もあるからな、少し心配かけてるんだろう。

「大丈夫、今回の相手は攻撃型の能力じゃない。たしかに反則的な能力だけど勝てるよ。だからさくっと倒してくるわ。」

「・・・わかりました。ではまた命令します。生きて帰って下さい・・・」

「はいよ、承知いたしました魔王様。」


~~~~~


転移魔法で向かった先は俺の家。魔王城の部屋じゃなくて俺の家。

今回は宵鏡じゃないのを持っていこう。やっぱこれだな。

聖剣順列二位、デュランダル。

ガラスのような刀身の両刃剣。刃渡り70センチほどの凶器だが「これはガラス細工です」といえば誤魔化せそうなほど美しい聖剣。

光を反射し七色に輝く様から極光剣と呼ばれることもある(主に俺から)。

宵鏡には夜が更けるほど魔力を充填する量が増えるという特性があるのに対し、デュランダルは光から魔力を造り出し、蓄積することができる。

植物かよ。

と、当時興奮しながら説明するバニタスにツッコンでかなり怒らせたことがあったのはここで語るべきではないか。

そしてこのデュランダル、俺以外が使うと本当にガラス細工になる。どういうことかというと、簡単に粉々になるし斬ることなんてもっての他、使用者を判別する盗難防止便利機能がついた聖剣なのだ。どうやってそうなったかは秘密。

さぁて、転生者狩りリベンジにいこうかね。

俺は宵鏡をおいてデュランダルを背負い、家をあとにした。

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