第12話 それはフラグだろうがよ。
これでよかったんだろうか、また落ち込ませただけじゃねぇかな?
あとで謝っとくか?でも、俺は嘘をつくべきじゃないと思っただけだし、下手なことは言いたくないし・・・
俺はフカフカのベッドの上で寝転がりながら先程出ていった魔王のことを考えていた。
まずかったとはいえ、一応俺のためにわざわざ作ってきたんだよな。
しかしなんでそんなことを?コックに任せるほうが楽だろうに。
まぁ何かしらの考えがあるんだろうな、あの魔王だし。
それか今日はなんかいいことでもあったんだろう。そうでもないとあの態度は不自然だ、なにかおかしい。
そんなことを考えていた時だった。思考するのを邪魔するかのように耳鳴りが響く。
『聞こえる?私だけど。すこし面倒なことが起きたわ。反魔王を掲げた少人数の冒険者達が、東の方から城下町目指してやってきてるって情報が入ったわ。もしかしたら道中で死なずに生き残った転生者かも知れないから、お願いできるかしら?』
『今から寝ようってときに・・・パルティ、少人数って何人?』
『確認できるだけで3人だそうよ。』
『すくなっ。RPGの主人公かよ。とりあえず了解、まかせろ。』
寝てろって言われたけどしょうがねぇ、早くいかねぇとな。
立てかけてあった宵鏡とコートを手に取り、部屋を飛び出すと、ちょうどこちらに向かっている魔王の姿が。
「出てきちゃダメじゃないですか。どうかしましたか?」
「わりぃ、ちょっと外がヤバイから急いでいってくる。お前は絶対部屋にいろ。誰でもいいから護衛をつけろ!いいな!」
ここにこられたらまずい・・・早く済ませてしまわねぇとな。
「あ、ちょっと!」
魔王の隣を駆け抜け、そのまま城下町の東門を目指した。
~~~~~
さて、どこから来る?
東とはいっても大雑把だ。
城下町東門から出て右手の奥には森が、前方と左手は平原。
隠れながら来るとしたら森だろうが、そんなコソコソした冒険者なんて見たことがない。反魔王とか言いながら攻め込んでくる冒険者なんて自分が主人公だと思って勘違いしてる堂々としたアホばかりだからな。
目を凝らし、不審な点がないか辺り一面を確認するが何も見えない。
パルティの部下が見たのはどのへんだったんだ?
俺が平原から目を逸らそうとしたその時だった。
・・・ん?何かが飛んできているのが見える。
空を、弧を描いて大量になにかが・・・
やだもう・・・
それは大量の矢だった。その異様な光景に思わずくだらないギャグで応戦してしまった。つーかオレ一人相手にどんだけの数だよこりゃ、無駄が多すぎるだろ。龍を屠るような大きな矢一本のほうが良いんじゃねえかな。TP消費が激しいけどそのほうが・・・なんてふざけてる場合じゃないか。
大雨のような音を奏でながら地面に所狭しと矢が刺ささっていく。
自分に向かってきてるやつだけを切り落とすが、辺りは矢でいっぱいだ。よくこんなに持ち歩けますねぇ。
そして矢の雨がやんだ頃、ようやく奴らは姿を現した。それも思っていたよりも近くに。
情報通りの三人か。男二人に女一人。
なかなかもつれそうなパーティじゃん。ギスギスしてしまえ。
見たところ、この大量の矢はあの耳の尖った女が原因だな。弓を持って隠そうともしない。
一番前に立つ若い男は俺と同じ歳ぐらいか?端正な顔立ちじゃねぇの。ツンツンの茶髪が刺さりそうだ。
そしてそのすこし後ろの2m以上はある大男。ゴツい鎧着こんでるな、暑くないんだろうか。・・・得物は背中の斧だな。ビジュアルだけでなんてわかりやすいパーティだ。
先頭のツンツン頭がリーダーってとこか。なんとなくそんな気がする。
3人との距離が100mほどに差し掛かった所。先頭の男は右手を上げた。
「少し話がしたい!攻撃をしないでくれ!」
大声でそう叫ぶ。何が攻撃をしないでくれ、だ。こっちが見える前から先制攻撃してきたくせに。
まぁでもいいや、何を話すつもりかしらんが聞いてやろう。
「別にいいぞ!聞いてやる!」
俺たちはお互い歩み寄ると、10mほど距離を離し対峙する。
「一つ聞きたい。転生者を殺しているのはお前か。」
何だそんなことか。というかその情報って伝わってるんだな。
「そうだけど?」
俺が答えると、男は大きくため息を付いた。
「なんでだよ・・・お前だって人間だろ!」
いやぁそりゃ『見かけ』は人間だけど・・・
「だったら何だよ、何も関係ないだろ。人間同士の殺し合いなんて場所によっちゃ日常茶飯事だ。仮にだが、人間が魔族に手を貸したらいけないのか?」
「そうは言っていない!・・・何か狙いがあるのか?それともやっぱり、魔族が人間の国に攻め込もうとしていて、それを手伝っているんじゃないのか?」
はいはいでました。
この国にたどり着くまでにどれほどの国をこえてきたかは知らないが、魔族が人間を滅ぼそうとしてるなんて知識、今時どこから拾ってきたんだよ。
・・・でもしょうがねぇか、天使の制約のせいだろうな。誰から何を聞こうと、今世界各地で魔族と人間の共生を目指してることも理解できないんだよな。魔族や魔王は悪、そうとしか認知できねぇんだよな。
「それも面白いかもな。」
俺は思っていることとは全く別のセリフで返事をし、わざとらしく悪どい笑顔を浮かべてみる。
「お前は洗脳されてるだけなんじゃないか?俺の仲間のところに来れば、治せるかもしれない。一緒に来てみないか?」
洗脳、ねぇ。
まぁある意味そうなのかもしれないけどな。先代魔王との約束のためだけに、ただこうして転生者を殺してるだけだもんな。そう言われてみれば、洗脳されてるのかもしれない。
「断る。だいたいいきなり矢をぶち込むわ今だって話してるだけなのに武器を収めないわ、まともに話す気ねぇだろお前のお友達は?というわけで話はここまでだ。早く始めようぜ。」
こんなの話すだけ無駄だ。
俺がそう言うと、女はすぐに弓を構えた。
「ははっ、ほらみろ最初からやる気満々じゃねぇか。」
「はぁ!」
引き絞られた弓からはなぜか5本の矢が打ち出される。どういう技か知らんがそういう魔法があるならこの大量の矢も説明がつくな。
「おっと、戦う前にスキャンしないとな。」
俺はそれらの矢を躱しスキャナーを三人に向ける。
『レベル67、エルフ、危険要因・無』
『レベル82、妖精、危険要因・無』
『レベル95、人間、転生者、危険要因・武器』
やっぱ転生者かよ。しかもレベル95か、なかなか出来上がってるな・・・それよりあのおっさん妖精なのかよ・・・!その事実のほうがある意味危険要因だろ、笑いそうだ。
今回の危険要因は武器か。見たところなんももってないけど・・・
二人は普通だな。ちょい邪魔だけど別にほっといてもいいかな。
っとあぶねぇ、ゆっくり待ってはくれねぇか。
次々に矢が放たれるが、結構雑に射ってるな。牽制か。
避けれるやつは避け、防ぎ、時たま投げ返す。
しかし投げ返した矢に正確に矢を打ち込み落としている。すげぇ、やるなぁ。
大量の矢と格闘する中、横から妖精のおっさんが斧を持って走ってくる。見かけによらずフットワーク軽いな。
「フン!!!」
走った勢いのまま全身を使って斧を横に薙ぐ。
「あっぶね。」
俺はそれを跳んで交わし、相変わらず飛んでくる矢を宵鏡で切り落とす。
「おらよ!」
そのまますれ違うようにして妖精のおっさんの頭に蹴りを放つと、走った勢いもあり大きく転倒した。
「ついでにもらっとけ!」
倒れた拍子に手放した斧をすかさず奪って、思い切り転生者に投げつける。
「こい!!」
転生者は避けようともせず、手をクロスさせ防御の姿勢を取った。
ゴッ!!!
鈍い音が響き、斧はそのまま地面に落ちた。
「それが、お前の武器か。」
いつの間にか現れた手先から肩まで覆う黄金の鎧。何やら文字が刻まれているようだけど流石に遠くて読めない。
「なんて威力だ・・・!」
転生者は苦悶の表情を浮かべる。どうやら割と効いていたらしい。いや避けろよ。
「オルガ!一旦引くんだ!」
「お、おう!」
オルガと呼ばれた妖精のおっさんは若干よろけながらお得意のフットワークで転生者の元へと走って斧を回収した。
逃げるのをサポートするためか、より多くの矢が俺をめがけ飛来する。えぇい邪魔くさい。
「駄目ね、矢もまったく効いてないし、そもそも当たらない。」
そりゃそうだ。そんなもんいちいち当たってやるほど俺は優しくないぞ。多いだけで威力も大してない、鬱陶しいだけだ。しかしその鬱陶しさがアーチャーの嫌なところなんだけどな。
「俺が行く。二人はサポートを頼む!」
「おう!」
「オッケー!」
エルフの女がバックステップでさらに下がると、入れ替わりで転生者が前に出る。
ようやく出てきたか、しかしあの中途半端な鎧はどんな能力だ?
俺がそれなりに本気で投げた斧を防いだし、防御力がかなり高いのは間違いねぇな。
「行くぞ!」
わざわざ宣言しなくてもいいよ。
しかしさすがだな、もうじきレベル100ともなると動きもなかなかに早い。この前の異常に速い転生者に比べると全然だけどな。
踏み込み一回で俺のすぐ目の前まで跳び、そのまま拳を突き出す。
身体を横にそらして避け、まっすぐ突き出された手を見てみるが特に変わったことはない。近くでみても文字が何て書いてるかさっぱりわからん。噂の古代文字かな?
「くそっ!」
必死に攻撃を繰り出してくるがこんなもん当たらん。いざ当たってとんでもないダメージも食らいたくないしな。
「チッ!これならどうだ!」
転生者はバックステップし地面に拳を突き立てると、地面が隆起し俺を挟み込む。
「うおっと。」
つぶされてたまるかい。
両手で迫り来る地面を止める。が、見えないけどかなりの数がぶつかってきてるな。ガンガンうるせぇ・・・!
「よいしょぉ!!」
俺は堪えていた手を一瞬離し、両方の壁を殴る。
「はぁぁぁあ!!!!」
壊した壁の向こうから気合いの入った声と黄金色の突きのラッシュ。しかし無駄なんだよなぁ無駄無駄ぁ!と言ってやりたい。
「スプラッシュウィンド」
呪文を唱えると、俺を中心に衝撃波のような風が生まれ、土や岩と転生者を弾き飛ばす。
「まだまだぁ!」
すげぇ根性だな。
飛ばされた姿勢から宙で一回転すると、浮いている岩を飛んで渡って、拳をおおきく振りかぶって突っ込んできた。
「うおっ!」
上体を反らしフルスイングを避けると、その拳は勢い余ってそのまま地面に突き刺さった。暴れまわりやがってちくしょう!
「もらったぁ!」
いちいち何か言わなきゃ落ち着かないのかこいつは!
突如として俺の真下の地面がへこみ、穴が開いた。
5メートルほど落とされたな、跳べばもどれるが・・・
「やべっ!」
さらに前後左右から地面が押し寄せて潰しにかかる。
さすがに、すげぇ力だな・・・!両壁を手で、前の壁を足で押すが、さらに土やら石が上から流れ込んでくる。
あの野郎埋め殺すつもりか!
「おぁぁあなんじゃこりゃぁ!」
これ・・・埋まる・・・!
「やったか!?」
平原のなかに不自然にそびえ立った、土や石や岩でできた山を嬉しそうに見ている転生者。を後ろで見ている俺。
「それはフラグだろうがよ。」
「な!?埋まったはずじゃ!?」
派手にふりかえる様と、まるで台本読んでるかのようないい返しだな。俺は転移魔法が使えるんだ、残念だったな。そこそこ魔力使うけどな。
突然の俺の登場にハッとなったエルフが慌てて矢を放ってくる。
まったく、お仲間が近くにいるのによく攻撃できるな。
俺はわざと転生者を背にして矢を避けると、転生者はエルフからの攻撃に一瞬戸惑う。が、やはりさすがのコンビネーションだな。意表を突いたつもりだったが、簡単に防がれて矢は地面に落ちた。
そして転生者は真後ろに跳んで距離をおいた。
「おぉぉお!!!」
すると突如、横からの雄叫び。
こいつ絶対妖精じゃねぇだろ。種族詐欺にもほどがあるわ。
振り下ろされた斧は空を切り地面に刺さる。本当に先を考えない攻撃のしかただな、どうやって死なずにここまでレベルあげたんだ。
刺さって動かない斧のの上にのって飛び上がると、踵落としを妖精のオッサンの頭に放つ。
「うごっ!」
ズシーンと音がなりそうだな。オッサンは前のめりに倒れ、気絶した。粉々にしないだけありがたいと思え。
「オルガ!」
さて、あと二人。
「ちくしょぉ!!」
馬鹿が、ヤケになったらそこまでだぞ。
金の鎧が光を反射し、懲りもせず拳を掲げてこちらに向かってくる。
へなちょこ右フックだな。
「ほっ!」
俺は転生者の右フックに対し後ろ回し蹴りを腕めがけて放ち、迎え撃つ。
「く、かってぇな・・・!」
この手甲の能力は間違いない、最も堅くて壊れないとかそういうやつだ・・・メチャクチャ固いわチート野郎め!
しかし甘かったな、衝撃までは防げねぇってことはさっき確認してんだよ。
転生者は蹴りの衝撃で空中に浮きあがり切りもみしながら豪快にその場に伏した。
「いやぁ惜しかったなぁ。」
肩の付け根。鎧の及ばないところを踏みつけ、俺はそのまま右腕を引っ張り、引きちぎる。
「ぐぁぁぁぁあ!!!!!」
悲痛な叫びが草原にこだまする。
派手に血が飛び散り、転生者と俺を赤く染める。
「や、やめてぇ!!!」
エルフは悲鳴に似た声をあげながら必死に矢を放つが、それらをちぎった右腕で全てうち落とす。
「便利な鎧だよなぁ。」
持ってみるとわかるがとても軽い。
なるほどな、硬いし軽い防具か。こりゃ初心者にも優しい、いい武器にしていい防具。なんか地面も操れるみたいだし、レベル上げも簡単だったろうな。
「く、そぉ・・・!どうしてだ、なぜそうまでして魔王なんかに・・・」
恨めしそうにこちらをにらむ転生者。
「俺が聞きてぇよ。どうしてそこまで魔王を『狙わせる』のかをよ。でもまぁ、お前は使われただけなんだ、さっさと解放してやるよ。」
横たわる転生者の頭を、思い切り踏み砕くと、クシャっと案外軽い音をたてた。
足への少しだけの抵抗、大きめのメロンとかを踏みつけたような感覚がとても生々しい。
「ひ、い、いやぁぁあ!!!!!」
またもエルフの絶叫が響くが、もう弓を構えることもしない。
ガクガク身体を震えさせながら、腰を抜かした姿勢で叫ぶことしかできないエルフに、俺は頭と腕のついていない転生者の死体を引きずって近づく。
「お前に選択肢をやる。二度とこの国に近づかないことを誓うか、それともこうなるか。どっちがいい?」
「あぁ・・・あぁぁぁあ・・・!」
「・・・もういい好きにしろ。次来たら『お前ら』もこんなもんじゃ済まさないからな。」
転生者の死体はそのままエルフのとなりに放置。頭も片腕もついていないが大事な仲間だったんだろう、あとは好きにすればいいさ。
仲間が目の前で死ぬのは、つれぇだろ?
わかってるよ、だからやってんだよ。これでもう同じことをしようとなんて思わねぇだろ。
『死んだって・・・もしかしたらまた、会えるかもしれないだろ?』
いやな記憶がふと脳裏をよぎる。
仲間なんかいない方が楽なんだよ、死ぬのは自分だけでいい。失うぐらいなら、最初から必要ない。
もう完全に戦意失ってしまっているようなので、俺は死体とエルフと気絶したままのオッサンを平原において街に戻ることにした。
泣き声が少しずつ遠ざかっていく。いつまでもそこにいたらこの辺じゃ数も少ないが魔獣に食われちまうぞ。
悪いことしたなんて思わないからな、それがお前らのしようとしていたことだ。お前らが、魔王にしようとしたことはそういうことなんだよ。
いやーでもしかし、正直今回は運が良かったな。
もしも今回の相手が特殊能力もちだったら、レベル95はかなり苦戦するからね、強力な武器を持ってこられるのも十分面倒なんだけど。
まぁいいや、今日はもう休もう。なんか疲れたわ。
返り血だらけの我が身を引きずり、街の外れの我が家がある森の方へと向かう。
・・・こっちじゃねぇか。
思い直し、俺は魔王城の方へと向かうのだった。
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