第10話 あなた達は騒ぎを起こさないと死んでしまうのですか?

目が覚めると、窓の外は明るく、もう昼だった。

結構寝たなぁ、体がだるい。腹減った。

今日はちゃんと動けるようになっておかないとな。リハビリにカフェにでも行くか。

俺は身体を起こし、寝間着のまま部屋を出る。

廊下にでると外の日差しが窓から絨毯を部分的に照らしている。今日もいい天気だな。

城の中は昼ですら案外静かだった。それぞれ何かの仕事をしているし、休憩するときぐらいしか廊下にはでないからだろうけど。

無人とも思えるほどの静けさがある廊下を歩いていると、曲がり角に何かが飛び込んできた。小さい人影。そしてこちらにむかっている・・・!

「起ーきーたーかぁ!!!」

走ってきたソレは、壁を走り、天井に近付くと天井を叩いて跳ね、反対の壁を走っている。なんだこいつはアクティブすぎる忍か。飛燕とか使えるんじゃないか。

ちびっこ忍者は俺の目の前に着地するとニコっと笑った。

「カーティス、あまり城の廊下で暴れるなよ。」

「朝起きたら、兄ちゃんが復活したって聞いてさ!いてもたってもいられなくて!もう元気なんだろ!?稽古してくれ!」

ツンツンの茶髪に輝かしいまでの緑色の瞳。

13歳という若さがこうも元気さを出しているんだろう。

「ほら、いつでもやれるように常に剣も持ってきてるぜ!早く庭にいこうよ!」

「おいおい病み上がりになんてことを頼むんだお前は。こらやめろ引っ張るな。」

「病み上がりだからだろ!?今なら兄ちゃんに勝てるかもしれない、チャンスじゃん!」

「俺はお前の兄じゃねぇし稽古もしない!何がチャンスだ、せっかくだらだらできるんだから邪魔すんな。」

「えぇー!いいじゃんいいじゃん!頼むよお願いだよぉ!」

ええぃやかましい!!うっとうしい!

これだから子供は嫌いなんだ!

「あーうるせぇ!じゃあすぐに表に出ろ、適当に痛め付けて動けなくしてやる!」

なんで目を輝かせているんだこのガキは、ドMなのかそうなのか。この歳からそういうのに目覚めると将来が心配だ・・・

「わかった!すぐいこう!」

カーティスは元気に廊下を走り去っていった。めんどくさくてしょうがないけど、続いて俺も庭に向かうのだった。




「一撃当てたら俺の勝ちな!なんでも言うこと聞いてくれよ!」

「なんだそのむちゃくちゃな提案は。だいたいどんな要求をするつもりだ。」

「毎日稽古つけてくれ!」

「ふざけるな。トレーニングするか外に出て魔物狩りでもしてこい!」

思いのほかめんどくさい要求じゃねぇか。毎日のカフェ生活も送れない、仕事前もだらだらできないし、なにより単にめんどくさい!

カーティスの持っているのは70センチほどの両刃剣。しかし魔法剣でもなければ名剣でも聖剣でも魔剣でもない。

よってカーティス自身の技術だけで俺に攻撃を与える必要があるわけだ。再起不能にしてさくっと終わらせてやる。

「さぁかかってこい。」

「あぁ、いくぜ兄ちゃん!」


~~~~~


「惜しいな、タイミングはいいけど少し違う。今のは右足の踏込をもっと利用しろ。攻撃するのに身を引きすぎて踏み込みの意味がない。適当に振るんだったら誰でもできるんだよ。」

「はぁ・・・はぁ・・・もう一回!!」

結局、カーティスとの手合せは2時間もかかっている。

やっぱり筋はいいんだろうな。この歳にしては強い。俺がこいつぐらいの時はまだ、剣すら持ったことがなかったけど。

「いーやここまでだ。俺はもう飽きたのでここらで終了!」

「えー!!まだまだやれるって!」

「ばーか、俺が疲れたんだよ。また今度どっかで相手してやるからお前は魔法の練習でもしてろ。」

俺は素手で攻撃を流しながら二時間も動いてたんだ、休ませろ!

人間と違って肉体が強いからなぁ魔族は。こんな子供でも全力ノンストップで2時間も余裕で動きやがる。

しかしさすがに諦めたのか、カーティスはつまらなさそうにその場で素振りを始めたので俺も城下町のカフェに向かおう。

その前に、汗を流しにシャワー室にでも・・・と思いながら庭から城入口に続く階段を登り、城の扉を開けた時だった。


「何をしているのですか?」


扉を開けて正面斜め上、階段の踊り場に立つ鎧を着ていない魔王に遭遇してしまった。

魔王とのエンカウント率が高くないかこの魔王城。城内入ってすぐに出会ったんだけど。

「あ、いやちょっと散歩を・・・」

階段を小走りで降りて、そのまま急接近してくる魔王。

・・・こいつけろっとしているが、昨日は本当に寝ていたんだろうか。全然気にしてなさそうだ。

「へぇ?あなたほどの人が、ただの散歩程度でこんなに汗を?」

「おいやめろそんな近づくなって、今汗臭いから。」

「2時間近くもカーティスに付き合ってたらそれは汗まみれにもなりますよね?・・・まったくもう、なんで安静にできないんですか?」

さすがに長くやりすぎたか、ばれてたんだな・・・つーか近い。

「リハビリだよ。身体も適度に動かさないと回復が遅くなるから・・・」

「言い訳無用。」

「いやもちろんわかってる、わかってるけどカーティスが・・・」

「言い訳無用です。こうなれば仕方がありませんね。ずっとじっとしてるまで監獄に入れましょうか。」

怖いこといってるんだけどこの子。数少ない魔王らしさを垣間見たわ・・・

「はいはいわかった悪かったよ。じゃあ俺はちゃんと城下町に行ってゆっくりしてくるから 。それでいいだろ?」

「駄目です。まだ城でじっとしていてください。」

「はぁ?もうこんなに動けるんだぜ。さっきだって普通に動けたし。」

「駄目です。いつ出動してもらうかもわからないんですから、今は休んで下さい。」

「でも適度に体を動かさないと・・・」

「命令です。じっとしていなさい。」

どんどんムッとしていくな・・・こいつとの長期戦はあまり好ましくないようだ。

それより、本当に昨日のこと気にしてないのかな、そっちが俺は気になってしょうがないんだけど。気にしすぎか?

「・・・はいはいわかりましたよ。部屋で寝てたらいいんだろ?」

まぁいい、とりあえずこう言っとけば・・・ん?

「なんだよ、キョトンとして。」

「へ?いや、別に・・・案外素直に聞くんですね。いいです。なんでもないです。」

素直に聞いても変な反応されるのか。俺はどうしたらいいんだ。

まぁいいや、魔王もこう言ってるし、部屋に戻るか。

「じゃあな、俺はシャワーを浴びて部屋に戻る。」

「そうですか、ご自愛ください。」

俺は魔王と別れるとそのまま一階にあるシャワー室へと向かった。

ちなみにここ魔王城にはシャワー室が4箇所、大浴場が2箇所ある。

どちらも魔王城から数キロ離れたグラン火山の熱で暖められた天然の温泉を利用しており、体にもいいしここだけの話、なぜかおいしい。


〜〜〜〜〜


「あぁ・・・」

きもちいい。汗をかきすぎたな、すごいきもちいい。そういえば俺が寝ている間、体は誰が世話してくれたんだろうか。目が覚めたときには多分きれいにになってたしな。1週間たったにも関わらずそんなに腹もへってないし、誰かがなんとかしてくれたんだろう。

お、腹の傷はさすがにそこそこ跡が残ってるな。うわぁこうやって見ると全身きたねぇ。切り傷やら火傷跡やら、どんなに回復しても残るもんは残るんだよな。

特にこの右腕の大きな斬り傷。

あのオッサン、最後に戦ったあの時本気だったんだろうか。今となってはよくわかんねぇけど。

先代魔王ガルスタイン。

この国の王にして現魔王の父親、そして世界最強だった(と思う)存在。

魔王と言う堅苦しい肩書は名ばかりで、気さくで民を思いやる理想の王だった。そしてなにより親バカだった。

よく言ってたっけな、『ソフィアと結婚する条件は私を倒すことだ。』って。

そんなことできるやつそうそういねぇっての。まず挨拶しに行くのも一苦労だわ。

「どうしたの?ぼーっとシャワー浴びて。滝業のつもり?」

物思いにふけていると、ふと背後から声が聞こえる。

「ん?バニタスか。お前がシャワー室に来るなんて珍しいな。それに今昼間だぞ?なんでシャワー?」

「あなたを追いかけてきたんだ。お腹の調子はどう?」

「問題ない。ちょっと跡が残っちまったけどな。ほれこんな感じ。」

俺は体ごと振り返り治りかけの傷跡を見せる。

「ちょ、ちょっと。前隠してよね。」

「はは、まだまだお子ちゃまだなバニタス。頭脳は魔王城トップなのにな。」

「うるさいなぁ。そんなことよりディンには会った?」

「会ってねぇよ?できれば会いたくねぇし。あの馬鹿がどうかしたか?」

「あなたが寝ている間に彼が転生者と戦ったんだ。だからスキャナーも彼が持ってる。」

えぇ・・・あいつと戦った転生者気の毒だな。来世までトラウマだぞ。

「・・・帰ってきたあいつどうだった?」

「ご機嫌に血塗れで帰ってきたから余裕だったんだろうね。いや、逆に苦戦したのかも。ディンはよくわかんない。理解できないししたくもない。」

「同感だ。」

普通にしてたらただのイケメンなんだけどな、曲がっているっていうか、変な方向に向けてまっすぐというか・・・

「ん?ところでお前はそれ伝えるために来たのか?」

「うん。それにずっと引きこもってたからね、ついでにシャワーでも浴びようかと思ってね。」

「そうか、わざわざサンキューな。」

・・・本当にそれだけか?なんか妙にそわそわしてる気がするんだけど。

「なんでそこに立ってんの?隣あいてるから使えよ。」

「え?あ、ああ、わかってるさ。使わせてもらうよ。」

「なんか変だぞお前?じゃあ俺もう行くからな。」

なんか様子がおかしいな。ぼけーっとしてる気がする。

まぁいいか。いろいろ考える年なんだろう。バニタスもお年頃だしな。

そんなことを思いながらシャワー室から出て着替えていると再び背後に気配を感じた。

「お、兄ちゃん風呂上がり?俺は今からだなぁ、惜しかった。」

「何が惜しいんだよカーティス。素振りはもういいのか?」

「うん、もう兄ちゃんとの訓練で疲れてたしね、それに飽きた。・・・あれ、だれかいるの?」

「あぁ、バニタスがいる。」

「バニタスが?珍しいね。」

「だろ?もしかしたら災厄の前触れかもな・・・」

バニタス一人の行動で災厄とまであっては困るんだけども。

「まぁいいや、俺いってくるね!」

「おう、滑るなよー。」

体を拭いているとシャワー室の中からバニタスの声が聞こえた。

「カ、カーティスじゃないか!奇遇だね!」

バニタスらしからぬ大きな声。

・・・なんだ、あいつカーティス待ってたのか。

同い年ぐらいの友達がほとんどいないバニタスにとって、カーティスは唯一の友人なのかもな。それなら引きこもってないでチャンバラの相手してやってくれ。

さてと。

着替えを持ってき忘れた俺は備え付けのタオルを巻いて転移魔法で部屋へ。正確に言うと元俺の部屋だけど。

質素でタンスとベッドと机しかない。それと椅子が1脚。

タンスの中、変わらずだな。あっちのマイホームに何着か持っていこうかな。

俺は適当に服を選ぶ。黒のズボンにシャツとコート、いつものスタイルだ。

部屋で寝るのになんでそんな格好かって?そりゃじっとしてる気なんてあるわけ無いだろ。今日はオフなんだからカフェに行くのさ!

魔王の眼を盗んで転移すればいい。せっかくの休日なんだからね、それにミルクを飲まないと本調子に戻らないからな!

・・・あれ?そういえば今更だけど俺の宵鏡はどこへ行ったんだ?

呼べば来るからいいけども。

「こい、宵鏡。」

魔力は感じる・・・下の階の方からだな。

破壊音が少しずつ迫ってくる・・・はいキャッチ。

床を何枚か貫通したみたいだけど俺の部屋は下が空き室だったり物置だったりだから穴を開けてもあまり問題はない、はず。

しかし・・・どこからきたんだ?

この部屋は3階だけど・・・おそらく地下からだな。

じゃああいつの仕業か。

そして疑いはすぐに確信に変わる。

宵鏡が突き破ってきた穴を通って魔法の槍が飛び出し、天井に刺さると消えた。

あの野郎完全に俺を狙って・・・!

「ははは、すまないね。魔法の練習をしていたらつい、ね。」

開いた扉の隣で、いつの間にか黒髪の変態白スーツが壁に寄りかかって立っていた。

「いつからそこにいたんだ、ディン。ステルスかよ気持ち悪い。」

「ノックはちゃんとしただろ?そんなことより、僕の剣がここにきてないかい?」

ノックってあれのことか・・・?

「いやきてないな。俺の愛剣宵鏡ならここにあるけど。」

「おーーっとっと、ソレだよ。いやぁすまないね。失くしちゃってさ、僕の魔剣ヴァンプロード。そのなんとかってへんちくりんな名前の武器は知らないけど。」

こいつ、槍投げつけるわ勝手に部屋にはいるわ、さらに俺の愛刀の名前まで否定しやがっただと・・・!

「おい何がへんちくりんだって?だいたいおかしいんだよ。いかにも日本刀なのになんで名前が横文字なんだよ。センスがねぇわ。」

「ニホントウが何かは知らないが、名のある魔剣に勝手に変な名前をつけるんじゃない。かわいそうだろう?いいから僕によこせ。」

「断る。これは俺の剣だ。」

宵鏡(ヴァンプロード?なにそれ?)のことになると本当に面倒なやつだな。ただでさえ鬱陶しいのに・・・

「・・・そうかそうか、そういうつもりならしょうがない。それにいい機会だからどちらが本当にその剣に相応しいか改めて決めようじゃないか。」

ディンの周囲を怪しいオーラが漂い、風が吹き荒れ部屋の数少ない家具が揺れ始める。なにもいい機会じゃないし理不尽もいい所だろ!

「おい待て、こんなところで!」

俺がディンを止めようとしたその時だった。


「ちょっと!すごい勢いで何かが飛んでいったんですけど!ってなにこれぇ!?」

部屋に駆け込んできての登場、早々にテンパるケモミミ。でも今はまずい!

「あぶねぇ死ぬぞ!早く部屋から出ろ!」

「え!?アグネスがなんて!?」

だめだ風が強すぎて聞こえてねぇな、本当にワーウルフなのかあいつは!アグネスなんて言ってねぇよ!

扉のそばにいたディンはケモミミの背中に手を回すとそのまま手で目隠しをする。

「これから起こることは若い女性には少々刺激が強すぎる。」

「キャっ!なに!?誰!?」

ディンは左腕でケモミミを押さえたまま右手をこちらに向ける・・・!こいつ正気か!?いや正気な時なんかねぇか!

「爆ぜ散るがいい。グレイ・・・おいこら暴れるんじゃない!」

「怖い怖い見えないぃ!何が起きてるのこれ!」

「落ち着かないか鬱陶しい!」

あれ、なにやってんだこいつら。

ケモミミがパニックを起こしディンの腕の中で暴れまわっている。

「離してぇ!!」

「ちっ!」

ディンは仕方なくケモミミを開放するが、視線と右手はこちらに向けられたままだ。

「フフ、一瞬寿命が延びたなぁ。だがここまでだ。グレイブクロ「ねぇちょっとあなたいきなり何するのよ!」」

半泣きのケモミミがディンの前に立つ。

すげぇ勇気だなケモミミ・・・じゃなくて!!!

「バカ離れろって!!」

「なんなんださっきから。君は何者だ?なぜ邪魔をする。」

「私はフィロ!部屋で本読んでたらいきなり床を何かがぶち破って飛んでいったから、なんだろうって覗こうとしたらまた何かが出てきて!!追いかけてきたらこんなことになってたのよ!もうなんなの!?」

軽いヒステリックを起こしているな・・・こういう女性は怖い。

しかし邪魔だケモミミ、ディンを止めたくてもお前が邪魔で攻撃しにくいんだが。せめてかがめ!

「そうかそうか、君のことはよくわかった。もういいさよならだ。」

ディンは心底どうでも良さそうに前に立つケモミミの顔越しに俺を狙って右手を向ける。

「やめろ!ケモミミは関係ないだろ。」

「関係ないのならいなくなっても構わないだろ?」

くそ、また魔力が溜まり始めた。

しょうがねぇ、なんとかあの腕切り落とすしかねぇな・・・!

俺は宵鏡を両手で握り締め、切っ先をまっすぐディンに向ける。

あいつの魔法を避けるスペースはこの部屋にはない。魔法を放つ、その動けない一瞬をつくしかない。

脱力集中脱力集中脱力集中脱力集「ねぇちょっと!私やばいんじゃないのこれ!?ねぇ聞いてる!?」

うるせぇ集中させろ!というかへたり込んでないでそこをどけ!

「せっかくお城での生活に慣れてきたのにぃ!」

ケモミミは腰を抜かしたままわんわんと泣き出す。

「グレイブクロノス!」

ディンが魔法を唱える寸前、俺はすでに踏み込んでいた。

あーあ。俺の部屋がまた派手に汚れちまう。

「くっ!」

宙を舞うディンの右腕は血を撒き散らし、部屋を赤く染める。

ディン自身からも血が吹き出し俺にまで返り血が飛んでくる中、俺は回し蹴りでディンを横の壁まで追いやる。

「フハハァ、痛いじゃないかぁ。何てことをするんだい。・・・でもうれしいよ、やっとやる気になったんだね?」

なってねぇよ。早く帰れよ!

しまったな、もっとテンションあがってんじゃねぇかこの変態!

「正直、こうしてくれることを僕は少し期待していたんだ。さぁ僕ももう遠慮はしない!・・・楽しもう!」

白いスーツは真っ赤に染まり、ディンの6枚の翼が開く。

眼は黄色に染まり、顔には赤い模様が浮き出はじめている。

こりゃぁ本格的にまずいな、部屋どころか城まで吹き飛ばす気じゃねぇだろうな!?

「貴方達は騒ぎを起こさないと死んでしまうのですか?」

あ、このくぐもった声は・・・

腕くみ姿勢で廊下に佇むのは黒の鎧。

「騒がしいと聞いてやってきてみたら・・・なんですかこれは。」

「あぁ魔王様、いま僕は最高潮に気分がいい!!邪魔をしないでいただきたい!!」

ディンは血走った狂気の目で入り口に立つ魔王睨む。

「まったく、調子に乗るのもいい加減にしなさい。」

次は魔王から魔力が溢れる。

黒の鎧を着た姿とこのオーラが、中身はあれでもやはり魔王であるということを思い出させるな。

「はは、魔王様も参加ですか。それならフベ」

満面の笑みで魔王に近付いたディンの首が一瞬で反対を向く。

「おや、いきなりですねぇ?」

うわぁきもい。首逆向いてるのに普通に喋ってる。きもっ!

「彼は今重症なのですよ?それなのになぜあなたはそんな姿にまでなって彼に攻撃を?」

ディンは自らの首を手で回し、前に戻した。翼もたたみ、顔の模様も消えている。きもい。なんかグキグキいってんだけど・・・

「いやだなァ、彼が僕の腕を切り落としたのが原因ですよ?それなのにあまりにひどい仕打ちだ・・・危うく、フフフ、首がちぎれるところでした。」

「いや、腕切られる前から暴れてたじゃない。」

いつの間にか魔王の背後に逃げたケモミミが横槍をいれる。

「君は黙っていてくれないか。それに元はといえば」

「もういいです言い訳など聞きたくありません。」

魔王はそういうと俺の方へと近付く。あ、これやばい!

「うっ!?」

いってぇぇえ!!!グキっていったぞ!?

「両成敗です。あなたもあなたです。売られた喧嘩をすぐに買わないことですよ。」

「いや買ったつもりはねぇよ!これは正当防衛なんだって、そいつが「いいですか?今後一切喧嘩しないこと。城内などもってのほかです。ディン、特に貴方は以前の件もあるんですから弁えてください。いいですね?」

だめだ聞き入れてくれない。くそぅ・・・ビンタのダメージが・・・

「えぇ、仰せのままに魔王様。」

「あなたもわかりましたか?」

「あいあーい。」

「よろしい。それではもうディンは行きなさい。」

「それではフィロももう部屋に戻りなさい。穴についてはあとで修理に向かわせます。」

「は、はい。わかりました、ありがとうございます。」

フィロはそのまま部屋を出ていった。ディンの血がベッタリついたままだけどそれでいいのかお前。

ディンの方も腕を拾って意外にもあっさりと部屋を出て行った。なんであんな満足そうな顔してるんだ気持ちが悪い。普通に出ていくあたりなおさら気持ちが悪い。

「ふぅ・・・穴の件は今じーやに伝えました。今あなたに新たな命令を出したいのですがいいですか?」

「いいですかって、命令は断っちゃダメなんだろ。・・・で、何の命令でしょうか魔王様。」

魔王は重い声のままで答える。

「貴方には見張りをつけ休んでもらいます。本気で休みなさい。これが命令です。」

・・・俺は監視されながら療養することになったようです。

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