第9話 お互いが平和を求めることが一番の正義。

ふふっ、やつがやられたか。

こうなってしまっては仕方がないなぁ。僕が出るしかあるまい。

今は魔王様はあっちに付きっきりでこちらに気を配れないだろうし、せっかく立候補者として僕がいるんだ。問題はないだろう。

そういうことだからさっそくバニタスに会いに行こう。

僕は自室を出て一階の広間まで『登った』ところで面倒な相手に出くわした。

「あら、えらく機嫌が良さそうだけどどうかしたのかしら?」

「やぁパルティ。僕は今寝ている誰かさんに代わって転生者の相手をしようと考えているだけさ。別に機嫌がいいというわけではないよ。」

嘘だ。

やつが、寝込んでいるなんて正直最高の気分だ。聞くところによると腹に風穴を空けられて仮死状態らしいじゃないか。こうしちゃおけない。この国の平和は僕が守らないと!

「あなたがやるの・・・?魔王様の許可は得たの?」

「まだ、だね。まぁ後で許可は取りに行くよ。じゃあ、僕は急ぐのでこのへんで。」

「あんまり変なことしないようにしなさいよ?今魔王様のへこみ方すごいんだから・・・」

「何を心配しているんだい?魔王様がそうだからこそ僕が出るんじゃないか。」

明らかに僕を警戒しているパルティとは匆々に別れ、僕はまっすぐバニタスのもとを目指す。

まったくやれやれ。僕の正義の心はどこか疑われがちだ。まっすぐに、真摯にみんなのことをおもっているというのに。

まぁいい。

僕は4階の端の部屋にたどり着くとすぐにノックした。

「なんだいディン。」

ドア越しに声が聞こえる。

「さすが預言者バニタス。僕が会いに来ることも予め知っていたんだね。・・・あえて聞くけど、なぜ鍵を開けてくれないんだい?」

「答えは今、自分で言ったでしょ?帰って。」

「おいおいおいおい。ずいぶん冷たいじゃないか。僕が君に何かしたかな?」

「これは預言じゃない、予想だ。ディン、あなたは間違いなく面倒を起こす。」

「随分高く評価してくれているみたいだね。でも今転生者が現れたら、僕が行く他ないはずだ。幹部もみんな出払ったり忙しかったりだろう?」

「・・・」

黙ったな。早く諦めて僕を受け入れればいいものを。

「誓って言おう。僕は確実に転生者を倒して見せる。そしてここを守ると。」

「わかってないね。僕の懸念はそこじゃないんだけど・・・まぁでもたしかに、あなたを頼るしかないのも事実だね。」

ガチャと鍵の外れる音がした。

ガチャガチャ、ガチャン、シャーーーー、ガチャン、チャラチャラチャラ

ちょっとさすがに傷つくんだけども。鍵多くないかい。

「やぁ、顔を会わせるのは久し振りじゃないか、バニタス。身長は伸びたかい?」

同じ城にいるのに半年ぶりぐらいに顔を合わせるバニタス。相変わらず小さいな。

年齢はまだ十代前半だが、その頭の良さ、魔法を使う資質はこの城のなかでもトップクラス。

背伸びして大きめのローブを着ているのは変わらないんだね。引きずられるマントの気持ちになってあげてほしいものだ。

「身長はもう伸びてないよ。それよりディン。早速だけど転生者が来る。」

「目ぐらい合わせてくれないかな・・・」

「じゃた望みは叶えたから。早く行って。」

まぁたしかに言うとおりだ。

僕はバニタスに用があるんじゃない、バニタスの預言に用があるのだ。

「スキャナー。忘れないようにね。」

「わかっているよ。ありがとう。」

なんだかんだで心配はしてくれてるのかな。

僕はそんな淡い期待をしながら以前うっかり破壊した彼の寝ている部屋へと向かう。


コンコン


いくら嫌いなやつとはいえノックはしないとな。

「はぁい・・・」

ん?元気のない女性の声・・・魔王様か。

「失礼します。」

「あら、ディンですか・・・どうしたんですか?」

目の回りが真っ赤だ。ずっと泣いていたのだろうか。

それにクマもすごい。あまり寝ていないのだろう。

「これはこれは魔王様。僕は彼の、スキャナーを借りにきたのですよ。」

そんなに露骨に嫌な顔しなくてもいいじゃないですか、傷つくなぁ。

「なぜディンが?」

「彼が休んでいる間に僕が代行しようかと。すでにバニタスからの預言も聞いているので急ぎたいところなんですが。」

「バニタスが?・・・そうですか。なら、持っていくといいでしょう。あなたも、無茶はしないでくださいね。あなたは特に。」

みんなして僕を警戒しすぎだろう。一体なんだと思われているんだ。

まぁいい。スキャナーは手に入ったことだし、例の草原に向かうか。

僕は魔王城をすぐにでることにした。善は急げ、だな。

城門を出ると門兵から不思議そうな顔をされた。久々に出てきたからだろうか。

あぁ、やはり外の空気は最高にいいな。自室に籠り続けるのは体がなまるしなにより不健康だ。

この国と僕の身体のために、僕は戦う。

のびをするように身体を伸ばし翼を広げる。

白く、あの忌々しい天使共と似た六枚羽。

しかしこの純白は僕にこそふさわしい。むしろ天使たちが二番煎じなんだと思う。

全く忌々しい。まぁいまそんなことはどうでもいいか。

僕は地面を蹴ると始まりの街セルティコの方へと向かった。



相変わらずなにもない場所だ。

僕はここがあまり好きじゃない。退屈で広くて、妙にセンチな気持ちになる。

・・・しかしどうしたものか。

バニタスとはいえ正確な時間までは当てることができない。したがって大まかに、昼とか夕方とか夜って情報を頼るしかないんだが、今回は「来る」としか言われていない。

早速だからとか言っていたから急いできたが・・・いつくるんだろうか。

そしてこの場所で本当にあっているんだろうか。

なにしろ広い草原だから明確な位置はベテランしかしらないしね。

とりあえず待つか。



彼はいつもこんなに待たされているのか!?もう三時間ここにいるんだが!

何回セルティコに行って時間を潰そうと迷ったか!

全然来ないじゃないか・・・

バニタスを疑うわけではないけど、本当に来るのか?


その時だった。

空に光が満ちる。いや僕の真上だけか。

何かが降りてくるな・・・

それはガタイのいい男だった。

人間でいうところの30代か?よくわからないけどそれぐらいだとおもう。

「ここは、どこだ・・・?」

頭を手で押さえ、落ち着こうとしているんだろうか。

とりあえずスキャンだな。

『レベル1、転生者、人間、危険要因・特殊能力』

なんだろうか、この危険要因って。

噂にきく転生者特典ってやつだろうか?

「なんだお前、その角、魔族ってやつか?」

男はまっすぐにこちらを見据える。

「自己紹介もまだなのによくわかったね。僕は魔族のディンという者だ。君を倒しにきた。」

「そうか。俺は衛藤春樹。俺もお前らを倒すように言われている。」

淡々とした口調のなかに明らかすぎるほどの敵意。

彼は手をパンと叩くと両手に銀色の何かが現れる。

「早速だが死んでもらおう。」

なんだあれは?

魔道具にも見えるが、手の中にいい具合に収まってるな。

そして距離をとったか、遠距離攻撃だね。


タンタン!


おっと!

危ない、なかなかの速さで何かが発射されたのを僕は右手で弾いた。

キンっと金属音をならすと跳ね返り地面に小さな穴が2つできた。

「すごいな。本当に銃を呼び出せるのか。以前の転生者と同じ能力だそうだが・・・便利が良さそうだ。」

手に入れたばかりの能力に感激しているようだ。

これは当たるとそれなりにダメージになりそうだな、警戒しなければ。

「これならどうだ?」

気づけば男は先ほどの魔道具とは別の、大きく長い物を持っていた。

先がこっちに向いているってことは・・・また何か出るな。


タタタタタタタタタタタタタタタタ!


ちょっ!

あんなに連射できるのもあるのか!

思わず飛び退いてしまった。だが遠距離攻撃しかないんだな、なら距離を詰めるまでだ。


タタタタタタタタタタタタタタタタ!


だめだなかなか隙がない。

こうやってピョンピョン跳ね回るのも疲れるし、早くなんとかしなければ。

「はっ!」

魔法壁の展開。

掌から魔力の壁を作り出し攻撃を防ぐ。

く、結構衝撃が来るな。腕に衝撃が伝わる。

「ちっ、面倒なものを。」

男は悪態をつく。そのまま攻撃をやめてくれないだろうか。

なんだ、なにやらまた新しいものを召喚したぞ。

肩に乗せたな、いままでで一番大きいやつだ。


ドシュ!


煙を出しながら何か大きな塊が飛んでくる。とりあえず防ぐか。


ドォォォオオン!!!!


耳がキンキンと痛み、僕はいつの間にか草原を転げ回っていた。

右腕が激しく痛む。あれは爆発系の魔法だったのか・・・!

激しく立ち上る土煙であたりは埋め尽くされているが、先ほどの軽い発射音が聞こえ、

周囲の土が跳ねあがる。

くそ、適当に乱射してるな・・・

「く!」

一発右足に食らってしまった・・・やはりなかなか痛いな。

もう一度バリアを・・・

バリアを展開するが、土煙の隙間から見た男は再びあの大きな魔道具を構えていた。


ドォォォオオン!!!!


これほどまでか、転生者とは・・・

「死んだか?」

すぐそこで声が聞こえる・・・

「異世界の生き物がどれ程かと思ったが、特段違いはないようだな。」

目に血や砂が入って、痛む。

全身が冷たい。

「銃火器を出し放題ってのは気分がいい。この世界に銃刀法違反はないようだしな。」

なにをぶつぶつ言っているんだ・・・

男は僕が死んだと思ったのか、背を向けてセルティコに向かっているようだ。





いかせるわけないだろう。


「フクク、フハ、フハハハハハ!!」

愉快だ。ここまで傷だらけにされるとは!

痛い痛い痛い痛い。苦しい苦しい苦しい苦しい!

このような痛みを、苦しみを、国のみんなに味わわせるわけにはいかないなぁ。

「なんだ、お前まだ生きてグェッ!」

あぁ、軽い。

人間は脆くて軽くて弱くて情けない。

こうして首根っこを掴んで持ち上げればジタバタと暴れることしかできない。

「くそが!」

再び現れた魔道具が僕の顔に風穴を数ヶ所あける。

「ふふふ、痛いじゃないか?君にも相手の痛みを、丁寧に教えてあげよう。まずは右手を捻られた痛みだ。」

「ぐぁぁあ!」

パキっという爽快な音が聞こえた。手首が折れてしまったのだろう。僕だってバリアごと腕を曲げられて痛かったんだ。

「うずくまってどうした?まだ続きは長いよ!君は敵だが僕も正義の男だ。正義は平和のためにある。それにお互いが平和を求めることが一番だろ?ちゃんとお互いのために理解を深めようじゃないか。次は右足だ。アクアバレット。」

水のつぶてが男の右足に穴を開ける。

「うぐぅ!!」

「そうだ!痛いかい!?痛いだろう!それは良くないことだ、相手にしてはいけないことなんだ!だけどまだ続くよ!」

いいぞ、お互いが理解しあっている!共通の痛みをかかえている!

争いなんて下らない、こんなことの繰り返しだ!

「次は爆破だ!僕は爆破されてしまったんだ!!バーストフレア!」

小規模な爆発が彼の左手を吹き飛ばし、爆発により体が吹き飛ぶ。

いけない、彼を追わなければ!

僕は草原を駆け出す。20メートルほど行ったところ、そこに彼はいた。

「あぁなんてことだい。全身火傷しているじゃないか。フフフ痛そうだ、理想的なお揃いだ。僕を見ろ!あとは何がちがう?」

彼は苦痛に顔を歪め、這いつくばってブルブル震えている。

反撃もしてこなくなったな、平和というものを理解しはじめているみたいだ!

あと少しで本当の平和を共有できるぞ、争いのない関係を!

「う、た、たすけてく、れ」

なんだって?

「し、しにたく、ない」

これはこれは。

「おい、君は何か勘違いしていないかい?僕は君に死んでほしくなんかないんだ。君が共に平和の道を歩めるよう教育してるにすぎない。僕の受けた痛みが君も理解できれば、戦争や争いの虚しさが分かるだろう?」

「死にたく、死にたくな、い」

困ったなぁ平和を語り合うには相手の話をちゃんと聞けるようにしなければ。

「うぐぉぁぁあ!」

ちぎれた左腕の中から一本骨を引き抜いてみた。

痛みは冷静さを取り戻すかもしれないからね。

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

ほら、泡を吹きながら息を整えている。効果ありだな!

あ、しまった!僕としたことが!まだ終わりではなかった!

顔をさわると穴が4つ。4つか、少々めんどくさいな。

僕は彼の頭を掴んで持ち上げる。

力なく、震えることしかできない火傷だらけの身体。右手は折れ、左手は千切れている。


グシャ


よし!これで『同じ』だ!

最後に顔に穴を開けられていたのをすっかり忘れていたよ、彼の脳は握りつぶして弾けとんだから少しばかり差はあるがこれで同等の傷だろう。

「さぁ!いまどんな気持ちだい?それがいまの僕さ。・・・ん?」

なんだ、返事が返ってこない。

「おーい。どうした?口は残してあるだろう、返事ぐらいしたらどうだ?」

返事は返ってこない。

人間は一つの心臓が止まると死んでいるというな!確認してみよう。

・・・ふむぅ、抜き取ってみたけどもう止まっているな。

悲しいかな、彼を正義に導くことはできなかったようだ。まったくもって残念だ。

「フフフ、アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

あぁ愉快だ!自分の力足らずで彼を死なせてしまった!これからの自分の成長の可能性を考えると心が踊る!

さてさて、小腹もすいたしどうせこんがり焼けた肉があるんだ、いただいていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る