第8話 あなたはあなたのことをわかってるのかしら?

「後は任せたぞ。良くも悪くもこれでなにかが変わるはずだ。」

もうなにも、残ってない。

「くそが!こんなの解決じゃねぇ!あいつらの思うツボだろ!!」

魔力も、気力も、体力も。

「お前は、やっぱり人間らしいよな。しかし私はお前のその醜いまでの貪欲さにかけるよ。」

声を出すことしか、もう

「く、うぐ・・・!うわぁあああぁぁあ!!!!」


・・・


「あぁぁ!!!」

なんだ!?ここは!?おれは・・・!?

・・・なんだよ夢かよ。気持ち悪。


目が覚めると俺はどっかの部屋のベッドの上にいた。外は真っ暗だな。今何時だ?

あぁ・・・ボヤけてるけどこの天井見覚えがある。城で元々俺の部屋だった場所だな。


「あ・・・お、起きた!?」

突然なんの前触れもなく部屋の扉が開かれ、くせ者か、と俺は首を横に向ける。

お、あいつは魔王城の人気メイド、メリルちゃんじゃないか。『魔王軍男子に聞いてみた!あなたのNo.1〜メイド部門〜』で栄えある1位を獲得した話題の子だ。うむかわいい。やはりメイドといえばツインテールだな。

しかしメリルは扉を開けたまま俺を見るなりすぐさまどこかへ走り去ってしまった。くそぅ。それになんだよ、幽霊を見たような顔しやがって。

・・・あれ、そういえばなんか腹が重い。なんだこれ?なんか乗ってる?

腹部をさわってみると柔らかい感触。サラサラの、金色の、なんだこれ髪の毛?

体を少し起こして目視で確認する。

「・・・お前なにしてんの?」

この国の王様が俺の腹の上に突っ伏して寝ている。

「・・・」

「おい、魔王?」

「・・・」

「おーい。」

「・・・」

「ソフィアさん?」

「なんでしょう。」

起きてんじゃねぇか!!!!!!

「なにやってんだよってきいてんの。つーか起きてるなら返事しろよ。」

真っ赤に腫れた目を眠そうに擦りながら、魔王は身体を起こす。

「あなたこそ、いったい何をしたんですか。」

こいつ、質問を質問で返しやがったな・・・

貴女のレベルが高すぎるおかげで殺されかけてましたって言ってもしょうがないしなぁ。

「転生者には勝ったものの、そこで意識失っちまっただけだよ。で?人様の腹の上でなにしてんの?」

「戦いに行って全然帰ってこないので、魔王軍から視察に向かわせたんです。そしたら誰か様がお腹に大きな風穴を開けて倒れていたのが発見されて、それから一週間ここで寝たきりのあなたを看病していたつもりなんですが?」

え・・・?

ちょっと色々まって。

「腹に穴?一週間?」

「そうです。ちなみに2日目まで心臓止まってましたよ。あなたとあんな別れ方をして、次会ったら死体でしたっていうときの私の気持ち、あなたわかります?」

なにそれ面白い。

「ははは、婚約者に送り出されて戦地に赴くなんてさすがに死亡フラグ立ちすぎだな。そりゃ死んでもしょうがねぇわ。」

「なぁぁぁぁんにも面白くありませんよ?私は生きて帰ってといいましたよね、聞こえてましたよね?約束ぐらい守ってください。」

「いやそんなこと言われても・・・今回は予想外の強さだったんだよ。それにだいたい、一方的に聞いた言葉を約束とは言わないだろ。」

「では言い方を変えましょう。私は生きて帰れと命令をしましたよね。これは命令違反です。罰が必要ですね。」

こいつめちゃ理不尽なことをいいはじめたぞ。

ただ俺を怒りたいだけなのか心配してくれてるのかさっぱりわからんな・・・

「そもそも俺だって好きで死にかけた訳じゃ」「いえ死んでたんです。」「・・・好きで死んでた訳じゃねぇしさ?それなりに努力はしたっていうか・・・」

そこまで言うと魔王はうつむいて不満そうに俺の服を引っ張る。こいつといると服が延び放題だな。

「そんなのはわかっているんです・・・!みんなや私のために必死に闘ってくれていることもわかってます!私はただ、あなたが今みたいにヘラヘラと別に死んでも構わないような態度をとるから怒っているんです!」

なんだなんだ、俺が悪いのか?

「おいおい、せっかく目が覚めたばかりなのにそんな怒鳴るなよ。」

「怒鳴りますよ!貴方は命をなんだと思っているんですか!?」

「・・・命をなんだと思ってる、だと?そんなこと知るか。尊さを考えるより前に、奪い続けることしかできねぇんだよこっちは。そうでもないとお前や他の連中が、バカみたいな反則能力で皆殺しにされるかもしれねぇんだ!こんだけの命奪って、いまさら命がどうとか考えてたら頭おかしくなるわ!」

「もしそうだとしても、貴方がいなくなることを、笑っていい理由にはなりません!死んでもいいっていう理由にはなりません!」

「ハッ、別に死んでも仕方ねぇだろ。俺だって殺してんだからお互い様なんだよ。それに?俺が死んでお前が何か困るのかよ?この仕事だって誰かが変わればいい。お前と結婚するのだって他にもっといいのがたくさんいるだろ。むしろお得だと思うけど?」

「・・・!」

魔王の鋭く見開かれた目線が突き刺さると同時に、乾いた音が部屋に響いた。

病み上がりの患者に平手打ちか、オーバーキルだろこれ。

真っ赤に腫らした目で俺を睨み付け、血が出そうなほど歯を食い縛って、震えている。

「・・・いてぇよ。」

「・・・療養中にお邪魔しました・・・!ゆっくり休んでください」

それだけ言って部屋からバタバタとでていく魔王。

ほらな、こんなもんだろ。

俺を理解するなんて、知ろうとするなんてやるだけ自分が腹立つだけなんだよ。

こうして自分をさらけ出すなんて無駄なんだ。お互いが、傷つくだけなんだ。もう知ってる。


「もう・・・何があったの?」

入れ替わるようにしてパルティが入ってきた。寝巻き姿だが色っぽいな。

「1週間前の俺のやられっぷりのこと?それとも今出ていった魔王のこと?」

「まぁどっちもよ。主に後者だけど。」

「今回の転生者は最初から魔王と同じレベルっていう転生特典でさ。とんでもねぇ攻撃力で殴られて腹に穴が開いただけ。魔王とは関係に穴が開いただけ。」

「何ちょっとうまいこと言おうとしてるのよ。」

「事実だよ。まぁ魔王に関しては最初から穴どころか溝だらけだけどな。」

「まーたそんなこと言う・・・私はあの方が生まれた時からずっと見てきてるけど、あんな魔王様初めてよ?何したの?」

「何って、あいつのお望み通り、俺がどういうやつなのか懇切丁寧に教えてるだけさ。でもそうするたびにあいつとはこうなる。俺たちどう考えても理解し合えないんだよ。あいつに俺のことなんかわかりはしない。」

まぁあいつに限らず誰でもそうだよ。俺のことを理解なんかできないし、理解することすら拒絶していく。

「そう。じゃああなたは、あなたのことをわかってるのかしら?」

「はぁ?そんなの当たり前だろ。一番にして唯一の理解者だよ。」

「どうかしらねぇ?」

そういって意地の悪そうな笑みを浮かべる。

かわいい寝巻きのくせによくここまで大人っぽい色気のある雰囲気を出すなぁ。かわいい寝巻きのくせに。

「あなたって、今21歳だっけ?」

「もうすぐな。それがなんだよ。」

「貴方を理解しているのは、案外貴方だけじゃないかもよ?自分自身ともう21年間付き合ってるんでしょ?そんなんで自分を理解できるのかしら。」

「言っている意味がわからん。1週間も牛乳飲まないと頭回らないんだよ。分かりやすくいってくれ。」

「21年間の固定概念がべったりついた貴方の眼じゃ、もう自分なんてまともに見えないってこと。でもね、他人は違う。なによりあの方の眼は偏見や他人の評価とかで曇ることは一切ない。もしかしたらすでに貴方よりも貴方を知っているのかもよ?」

そんなことあってたまるか。こわいわ。

「そんなわけねぇ。俺がなぜ、どうして今の俺に至るかすらアイツはなにも知らねぇんだぞ。」

「それを知る必要があるのかしら。あなたの過去と、今の貴方という人物像は必ずしもセットじゃないでしょ?魔王様と貴方は、むしろこれからじゃない。なら今は、今とこれからだけを見ればいいのよ。」

「んなこと言ってもよ・・・そもそもなんでアイツはそんなに世話を焼いてくるんだ。仮に婚約者である立場だとしても、それはあのオッサンが勝手に決めたことだから気にする必要ねぇのに。」

思えばかわいそうなやつだなあいつ。

もっと優しくて清い心を持った貴族とでも婚約できればよかったのに。

「ガルスタイン様の遺言とかそんなこと関係ないの。はぁ、貴方ほんと意味わかんないところで鈍感よね。貴方の寝ている一週間、初日に魔王様何したとおもう?貴方を蘇らせようとして星をひとつ破壊したのよ?」

全く話がわからん。そして星に謝れ。とばっちりもいいとこだろ・・・

「なんでそんなことに・・・」

「最初あなたの心臓止まってたからね。衝撃が必要だとか言って大魔法の詠唱を始めたから、みんなで必死に止めようとしてそんなことに・・・」

いや、聞いてもよくわかんねぇよ!

それ止めなかったら危うくおれ戻ってこれないところだったんじゃないか・・・つーかどんなテンパり方したらそうなるんだ。

「いい加減わかってあげて?魔王様、本当に貴方が心配なのよ。それは誰から言われたわけでもない、魔王様の意思なの。」

そうですか。

心配ねぇ・・・

「人の心配より自分の心配しろっての。他の世界からまで命狙われてんだからさ。」

「そう言わないの。・・・それよりあなたなんでさっきから頬をさわってるの?」

あ、無意識にさっき叩かれたところ触ってたのか・・・

「あのアホ、重症の俺の頬をひっぱたきやがってさ・・・病み上がりに怒鳴るわ叩くわ、もっと気を遣えないもんかね。」

「・・・あなたって、本当に鈍感ね。もう呆れた。」

「は?どの辺が。」

「頬、痛い?」

「痛いよ。病人に手加減とかねぇのかな。いい王様だぜほんと。俺はそっちに呆れるよ。」

パルティはなぜか俺の頭をポンポンと撫でた。

なんだ?なにか意味深な顔して・・・

「だとしたら、貴方ずいぶん首の力が強いのね?」




「・・・ははっ、そういうことか。なんか恥ずかしいわ。」

「なにを言っているの?今日はずっと恥ずかしい男よ、貴方。」

「うるせぇ、モヤモヤするからちょっと散歩してくるわ。」

俺はベッドから這い出て、そのままよたよたと部屋をでた。

さぁてリハビリに散歩散歩。




コンコン


「・・・入るぞ。」

返事はないけど鍵は閉まってなかったので勝手にお邪魔しまーす。

明かりはついている。

この前来たときに座ったベッドには、白いワンピースのようなヒラヒラの寝巻きに身を包む魔王が寝ていた。

・・・寝てるのか?

・・・いや、こっそり鼻すすってるな。これ起きてるわ。さっきの件があるからな、もうだまされん。

俺はベッドまで行き、反対を向いて寝ている魔王に背中合わせで座る。

「あー寝ちまってるならしょうがねぇな。でもまぁ一応伝えるだけ伝えるか。・・・さすがに言い過ぎた。それと心配かけて、すまん。」

あぁ恥ずかしい!こんなの俺のキャラじゃない!

まぁまぁ、寝てるし?魔王寝てるし???狸寝入りなんてきっと俺の勘違いなだけで普通に寝てるし?

俺は部屋をできるだけ早く、よたよたと出て、扉を閉める。

「くそぉ、こんな時に限って、転移する魔力が、ねぇ・・・」

何時なのかは知らないが、夜中の城は完全なる静寂に包まれていた。腹もへってふらふらだしゆっくり帰ろう。


やっとのことで部屋に戻るともうパルティの姿はなかった。

大きくため息をつき、俺はベッドに大の字で倒れこむ。

はぁ・・・そうだよなぁ。

腹を殴られただけで穴が開くんだもんな。同じレベルの、しかもぶちギレた魔族の一撃なんて顔面に食らったら俺即死だよなぁ。

あんなこと言われて、あんな怒ってんのに自分の力を押さえ込むなんて・・・俺には無理だな。

そんなことを思いながら、俺は再び眠りにつくのだった。

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