第6話 人間不信なソロプレイヤー
山から連れ出したものの、ケモミミは服をほぼ着ていないので俺んちに寄って適当な服を着せることにした。だぼだぼのシャツとジーンズだけど無いよりマシだろ。
「こんなとこに住んでてつらくない?」
山に籠って魔物狩りしていた女にはいわれたくないんだけども。
「これが落ち着くんだからいいんだよ。」
さてさていよいよ装備も調ったことだし、いざ魔王城へ。
〜〜〜〜〜〜
「ちょっとごめん、そこの川にいってくる・・・」
「あいあい。」
魔王城の城門前を流れる川、その渡橋の下へケモミミは走っていった。
うわぁ音が。音が聞こえるよ。
しばらくすると具合の悪そうな顔でよたよたと戻ってきた。
「こんなにまで気持ち悪いとは聞いてないんだけど。」
「言っただろケモミミ、転移による酔い具合は個人差があるんだ。それより俺の服に吐いてないだろうな。」
「だから私はケモミミじゃないって。フィロだって言ってるでしょ。」
「お前はフィロって顔してないしケモミミの印象が強い。もうこれからはケモミミと名乗るといい。どうせ異世界に来たんだしな。」
それがいい、そうしよう。
「まぁそんなことは今いいだろ。早く行くぞ。」
「ちょ、ちょっとまって!あなたそれ刺したまま行くの?」
「下手に抜くと血が噴き出るだろ。それに何度も言うけど、刺したのお前だからな。ついでに治してもらうからこのままいくよ。」
もう痛みもないしな。それにこれ結構面白いんじゃないか?
でもあいつに見られると厄介だからまずはじーさんに治してもらうか。
「そ、そう・・・なんかごめん。」
「まったく、責任を自覚しろよな。・・・ほら行くぞ。」
引き気味のケモミミの手を引き、魔王城を目指す。
「なんか、想像してた魔王城とかなり違うんだけど。」
「その気持はわかる。もっと禍々しいものだと思ってただろ?」
門の向こう側、広がる庭園を超えた先にそびえたつ魔王城を見つめケモミミが目を細める。
そりゃそうだわな。
魔王城といえば妙に尖った装飾に黒をベースにした配色。
そしてなぜか周囲の天気も悪く暗い。さらに意味もなく雷とか光ってるイメージだろう。
しかし今目の前にある魔王城は普通にコンクリートや石畳、レンガなどでできており普通の立派な城だ。色もどちらかと言うと白っぽく明るい。そしてもちろん天気も快晴である。
俺にとってはもう見慣れたものなので、門番に軽く手で挨拶をし、鉄でできた大門横の小さな木の扉から庭園へと進む。
「キレイな庭ね。花の手入れ大変そう。」
「そういうのが好きなじーさんがいるんだよ。一人で楽しく庭園づくりに勤しんでやがる。まぁ住民ウケはいいけどな。」
庭をしばらく進むといよいよ城内の入り口である4メートルほどの大きな鉄の扉。
「でか・・・」
中へ進むと高い天井、円周にそって高く上がっている階段と各階の扉。
「すごい・・・!異世界のこんな場所に憧れてたんだぁ・・・」
はしゃいでエントランスを歩き回るケモミミ。こらこら勝手に進むな。
「おい、あまりはしゃぎ・・・」
言いかけて止めた。
膨大な魔力の反応。頭上。というより城の階段の一番上からだ。
「ケモミミ!戻ってこい!」
やべぇバレた、こちらから行く前にきやがったな・・・!
「ん??どうしたの?」
ケモミミが振り返り小走りでこちらに向かうが、俺のもとに辿り着くより前に、隕石のような勢いで降りてきた影が間に入った。。
「え、え!?え!!?え!?」
パニック状態のケモミミの前で、紋章の描かれた派手なマントと装飾の凝った黒い鎧を纏うソレがゆっくりと立ち上がる。
「私が何を言いたいかわかりますね?」
兜から漏れる声は低く重々しい声。くぐもっていて聞こえにくいけど怒ってることは間違いないな・・・
「さぁ、わかんねぇな。黙って伝わるようなコミュニケーションを求めるなよ欲張りめ。」
「随分な言い方をしますね。お腹に剣まで刺して。」
「お洒落のつもりだ、突っ込むのは野暮ってやつよ。それに一応客の前だぞ。」
鎧はすこし慌てたようにケモミミの方を振り向く。
「あぁ、申し訳ない。私はこの国の王、魔王ソフィア・ガルティーノといいます。」
「あ、どうも私はフィロ・・・ってはい!?!?魔王!?!?!?」
驚くよなぁ。城に入って一番初めに魔王に会える魔王城なんてここぐらいじゃねぇかな。
RPGとかだとすげぇ楽でいいだろうけど。
「はい。せっかくご来城されたならゆっくりくつろいでいって下さい。」
そう言ってケモミミに軽く一礼する魔王。
「まぁ降りてきたならちょうどいい、話がある。一緒に謁見の間にきてくれ。」
魔王はしばらく俺を見つめると少しため息を付いて階段を登り始めた。
了解したんだろうな。
魔王を警戒してか、そわそわしながらケモミミもついてくる。
特に会話もかわさないまま、ガシャガシャと魔王の鎧の音だけを聞きながらひたすら階段を登り、謁見の間に到達する。
王に謁見するための場所を、王自身が扉を開けて入っていくってなんか変だな。
扉を開けると魔王はその場から跳び、手摺の向こうの玉座に丁寧に腰掛け、
「何があったのか話しなさい。」
ため息混じりでそう言ったのだった。
「馬鹿なのですか。」
俺は昨日からの出来事をかいつまんで魔王に説明した。そしたらこの言われようだ。俺だって好きで腹を刺されたわけじゃないんだがな。好きで刺しっぱなしにはしているけども。
「これは完全にこのケモミミの犯行であり俺に落ち度はないだろ。それにじーさんはどこだよ?せっかく治してもらおうと思ったのに!」
「じーやは今お出かけ中です。なのでそれは後で私が治してあげましょう。さて本題ですが、転生者をここに連れてきた理由はなんですか?」
兜で見えないが鋭い視線を感じる。
まぁ普通だったら魔王を殺すことを目的にしてるやつなんか、城に入れちゃまずいからな。
「こいつは転生者でありながら、天使の制約を解除している。というより解除されてる。」
俺の発言を聞いて、ケモミミは不思議そうな顔をした。まぁ当然だろうけど。
「ちょっとまって、なにその制約って。」
「ご存じないでしょうけど、この世界に転生者として再び生を受けた者は、魔王討伐を使命とし目標とするよう精神を再構築されます。それを私たちは天使の制約と呼んでいるんです。あなたはこの世界に来たとき、魔王を倒そうと強く決心しませんでしたか?」
魔王はたんたんとそう言う。
「確かに、最初はすごくヤル気もあって仲間集めも必死にやったけど・・・」
ケモミミは考えるような動作で、過去を思い出しながら喋る。
「だいたいおかしいだろ。なんでこの世界に来ただけの元一般人、それも命のやり取りと無縁なところにいる平和な人生を送っていた奴らが魔王を殺そうとする?人も殺したことがないようなやつがそんなことをすすんで、しかも無理してまでやりたがるはずないだろ。」
普通に考えれば当然だ。
いきなり知りもしない相手を殺してこいなんて見知らぬ天使に言われて、それを快諾して命を張るなんて馬鹿げてる。
「でも私、実際に今魔王・・・様?を目の前にしても討伐したいなんて思わ・・・あ。」
ケモミミは何かに気付いたようにハッとした表情を浮かべた。
「気づいたか。そうなんだよ、最初お前は魔王に興味がないって言ったんだ。それじゃおかしいんだよ。転生者ってのは狂ったように、当たり前のように魔王討伐を掲げてる。だけど俺みたいな見かけだけ人間のやつ相手には『か弱い人間を悪の魔族から守ってやろう』という意識からか、魔王に関する質問に対して魔王に興味がないなんて必ず言わない。なにより、お前が武器を失ったことで確信した。お前はワーウルフに殺されたと勝手に判断されて、武器も奪われ制約もはずれたんだ。それらを与えた者たちから。」
まったくムカつく話だ。勝手に転生させて、死んだらそこまで。次のコマのために使えるもんだけ回収ってか。
「そういう理由で魔王、こいつは無害だ。それに今後の天使対策で何かしら使えるかもしれない。だから連れてきた。」
しばらく間をおくと、魔王はようやく返事をした。
「わかりました。フィロはここ、魔王城で預かりましょう。あなたは引き続き転生者をあるべき形に戻して下さい。」
「あぁ、わかってる。」
傍らでなにやら気持ち悪そうに頭を抱えるケモミミが吐き出すように話し出す。
「私は、ただ・・・違和感もなかった。前は魔王を倒すんだって・・・それが『夢』であるかのような気持ちだった・・・。そもそもなんでそんなことを天使様はするの?」
「こっちが聞きてぇよ。昔聞きそびれちまったからな。」
ほんとにいい迷惑だよこちらとしては。
「我々もまだ原因はわかっていないんです。なぜ先代の魔王は狙われ続けたのか。そして先代のみに留まらず、現魔王である私にまでそれが及んでいるのか・・・」
わかったら苦労しないですむんだけどな。俺も仕事なくなって楽だろうし。
「そんじゃ俺からの話はそれだけだから。このケモミミは頼んどくぜ。俺はもう行く。」
「待ちなさい。」
魔王はそう言うと手をパンパンとたたく。
すると魔王の後ろの影からキレイなスーツに身を包んだ白髪の老年執事が現れた。あれ、さっきじーさん出かけたって言ってなかったっけ・・・
「じーや。お客人の対応をお願い致します。私は少し彼と話をしてきます。」
「かしこまりました魔王様。それではご客人こちらへ。」
言う頃にはじーさんはケモミミの隣に瞬間移動していた。あれ、やられた側はすげぇ怖いんだよな・・・いきなりじーさんが隣に現れるなんて怪奇現象だ。
ケモミミが外に連れ出されると、魔王は重々しく席を立った。
「あなたは私の部屋に着なさい。」
それだけ言うと椅子の後ろの影へと消えていく。
俺もそこからいっちゃだめですかねぇ・・・
まぁいいや、一応ちゃんと外から行くか。
俺は謁見の間を後にし、更に階段を登って最上階の魔王の部屋にやってきた。
この階段どうにかならんかね。刀刺さってる男子にはこたえるわ。
コンコン
「どうぞ。」
中からは若い女性の声。高めで透き通ったきれいな声だ。
「失礼しますよっと。あいかわらずキレイな部屋だな。」
部屋には華奢な少女が一人。年齢はケモミミと同じ20歳だが童顔と150という身長の低さがソレを否定する。
きれいな金髪を伸ばし瞳も金色。白くてなめらかな肌は赤色のドレスとミスマッチな気がするがキレイだ。
ベッドに腰掛け、丁寧に櫛で髪を解きながらなにやら不満そうにこちらを見つめている。
「隣に、きてください。」
ポンポンと自分の隣を叩く。
「はいはい。」
俺が隣に並んで座ると、ムスッとした顔で俺を見つめ、勢い良く宵鏡を引き抜く。
血はまったく出ず、傷も一瞬で消えた。
「わりぃ、さんきゅーな。」
「いえいいのです。それより・・・なぜ会いに来ないのですか。」
「会って何をするんですか魔王様。」
「それは会ってから決めればいいことです。まずは会いに来なさい。」
まーた訳のわからないことを・・・
典型的な「友達呼び出すけどノープランタイプ」だな。
「二ヶ月。あなたは私に会いに来ませんでしたね?二ヶ月前もたまたま私がお散歩をしていたら会えたってだけでしたし。」
「そりゃそうだろ、会っても話すことはねぇし、俺といても楽しくないだろ。」
無言でずっと一緒にいるやつなんて邪魔だろ。用事があるわけでもない自分以外の存在なんて煩わしいだけだしな。
「私は今だにあなたのことがよくわかっていません、あなたもそうでしょ?」
「相手のことをちゃんと理解できるやつなんてこの世にいないって。できるってやつは自分のイメージを相手に押し付けて満足してるだけだ。」
そんなに眉を曲げて露骨に嫌な顔するなよな。
そういうもんじゃないんですか他者との関わりって!
「あなたは、なんでそう・・・」
「ほらな、今のお前の顔見てたらわかるよ。俺が一緒にいて楽しいことなんかないだろ。」
「あるはずなんです。というより、ないと嫌です。だって私たち婚約しているんですよ?」
それに困ってるんですよ俺は。
先代魔王の遺言だからって、そんな話があるかよ。大体なんだ、俺は魔王を守る仕事はするがメンタルを守れるようなやつじゃない。
それは確かに嘘でかためて気分がよくなるような言葉を言い続ければご機嫌とりもできるだろうけど、仮にも婚約者相手にそんな嘘はつきたくない。そこは俺のポリシーだけども。
「だいたいその婚約ってのもあのオッサンが決めたことだろ。お前もいちいち従ってちゃ人生楽しくないぜ?」
「だから楽しくなるように、あなたを理解して、理解されたいんです。好きか嫌いか、合うか合わないかそれから判断すればいいんです。」
「そんな時間の浪費より先に、俺との婚約を取り消すって選択肢はないのかよ。」
魔王はまっすぐ俺の目を見つめた。さすが王だな、なかなかの気迫を感じる。
「ありません。」
「なんでそうなる?お前のメリットが全くわからないんだけど。」
「メリットでいうなら、あなたのような人間不信のソロプレイヤーと一緒にいるメリットは無いと思います。でもあなたを父が認めた。きっと何かを私に、この魔王に教えてくれる存在だと思います。」
おいめちゃくちゃいってくれるじゃねぇかこいつ・・・
「悪かったな人間不信のソロプレイヤーで!だいたい誰かを信じるなんて馬鹿馬鹿しいんだよ。お前が俺に何を期待してるか知らねぇけど、信じるだけ無駄だね。俺に裏切られる前に諦めろ。それに俺を信じられる要素なんて、そもそもねぇだろ。」
こんだけ言えば少しは響いてくれるだろう。
俺はこういうやつなんだよ、普段は気さくに話すお気楽野郎だけど本心ではこうなんだ。変わらねぇし変えれねぇ。
俺は立ち上がり、伸びをする。さて出るか。もうここに用はないしな。
しかし進もうとする俺のコートが引っ張られる。
「あなたはいつもそんな冷たいことを言う。・・・でもそれは嘘ではないってことをなんとなく感じるんです。あなたは私に嘘をついていない、それだけじゃあなたを信じる理由になりませんか?」
声は震えていた。
それが怒りからか悲しみからか、振り返る気のない俺にはわからない。
「ハッ、好きにしたらいいよ。落ち込むのはどうせいつも俺じゃねぇ、周りだ。」
と、歩きだそうとしたその時。不意に耳鳴りがなる。
『やぁ。今どこにいる?今日の夕刻、また転生者がくるから準備してね。それじゃあ』
バニタスか。
急にテレパシーがくるとビックリするだろうが・・・とはいっても前もって伝える方法もないんだけど。
「じゃあな魔王様、俺仕事入ったから。」
ほぼ抵抗もなく離された魔王の手。
そのまま部屋を出て、扉を閉める直前うっすらと聞こえた。
「生きて帰ってきなさい。」
言われなくてもわかってんだよ。まったく家臣思いな魔王様なこって。
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