第4話 今はミルクで忙しい。

「あら、元気そうね。どう?仕事ははかどってる?」

魔王城近くの河川敷を散歩していると珍しいやつに出会った。赤いマントに赤いねじれた角。赤い目に赤い唇。でも髪は青。身長は180センチある俺よりも高く、なにより胸が大きい。絶対サキュバスとかの親戚だと思うわこいつ。

そんな魔王軍の幹部ことパルティである。

「捗ってなければ俺はここにいねぇよ。そもそも魔王軍の幹部殿がなんでこんなとこほっつきあるいてんの?暇なのか幹部って。」

「暇じゃないわよ?書類に判子押したり、軍事資金のやりとりに嫌気がさして気持ちをリフレッシュしてるだけ。貴方こそ暇なの?バニタスから予言がないと、やることないでしょ。」

「その通り。今日は休日ってわけよ。どうせだからなんか奢ってやろう。町に降りようぜ。」

「簡単にナンパするわね、あとで怒られても知らないわよ?」

「アイツはそんなことでは怒らねぇよ。じゃあいこうぜ。」

そういうわけで、俺たちは街の方へと降りていくことにした。


徐々に見えてくる石畳や煉瓦の家々。

馬が忙しく走り、商人の声があちらこちらから聞こえる。こういう景色を見ると、今日は仕事じゃないが、無性にあの場所に行きたくなる。

「あぁセルティコにいきたい。」

「ちょっとー?デートに誘っておきながらもう他のとこに行きたいの?」

「別に二人で行ってもいいんだけど?」

「ほんといつか怒られるわよ。」

軽いジョークも言いながら、街を歩いていく。

道行く魔族がパルティに挨拶をしている。さすが幹部殿。

町の中央に位置する先代の魔王像。それを中心に円形に広がる商店街の一角のカフェに、俺達は足を運ぶ。


「ようお帰り!・・・っておいパルティ様じゃねぇか!幹部殿が来られるなら前もって連絡しろよな!いらっしゃいませパルティ様、今日もお綺麗ですなぁ!」

「あらあらご上手なマスターだこと。どっかのだれかさんとは大違いね。」

「言われてるぞマスター。」

「お前のことだろうよ。で?今日はなに飲む?いつものか?」

「あぁ、いつもので。こっちには特ブレで。」

マスターは「はいよ」とだけ答えると裏手に消えていった。

「かなり来るみたいね?」

「行きつけだからな。週に8回ぐらいきてる。」

「1日に2回来る日があるのね・・・で?私をここに呼んだのはなにか話があるんでしょ?」

鋭いなぁ、モテる女は怖い。

まぁ言うまでもなく、あいつについての話だけどな。

「はいよ、ハルガードコーヒー特殊ブレンドとミルクです。ごゆっくり。」

俺の大好物であるミルクも来たことだ、本題に入ろう。

「どうだ?あいつは元気にしてるか?」

パルティはため息をつくと頬杖をついてだるそうに答える。

「どうせその話題だとおもったわよ。そんなに気になるなら自分で会いに行きなさいよ。」

「断る。どうせ顔を会わせたら怒るだけだからな。めんどくさい。」

前回会ったのは二月ほど前か。

たまたま魔王城で出くわして、説教。なんであいつはいつも、あんな感じなんだろうなぁ。ストレスか?

まぁどうせ元気だろうし、今は会いに行く気もないけどな。

「つめたいのね。そろそろ会ってあげないと、あの子なりに思うところがあるみたいよ?私達じゃどうしようもないこともあるんだから会いに行ってあげなさい。」

そんなこと言われてもなぁ。

「じゃあ今度いくよ。あ、でも伝えなくていいからな。」

「それ来ないやつよ。」

「そんなことねぇよ失礼な。転生者さえ来なければ会いに行けるんだからな。」

「じゃあ今からいきましょう。」

「今はミルクで忙しい。」

「・・・伝えておくわ。」

「いやそれはやめてくれ冗談だすまん。」

そんなこと伝えたらいよいよ会いに行けなくなるわ。

「それはそうとさ、なんか情報はあるか?」

「どの件かしら?」

「生き残って楽しく冒険してる転生者の情報よ。初期の転生者よりそいつらの方がよっぽどたちが悪いからな。レベルも上がってるとなるとそれなりに頑張ることになるし。」

レベル1、つまり何も殺したことのない連中は、経験もなければ力もないから簡単に殺せる。でもレベルが高いやつは力も強化されるし必然的に戦闘経験もあり、さらにチート能力を持ってるとなると、かなり面倒な相手になる。

「特にはないけど、怪しい話ならあるわ。ケドゥン山の奥で魔物が何者かに狩られているらしいの。領土内にいるのに魔王城に向かう様子はないみたいだから転生者っぽくはないんだけど・・・」

ケドゥン山か。

あんななにもないところなら武者修行してるヤバイやつか、悟りでも開こうとしてるヤバイやつだな。

「じゃあ一応確認に行くかな。マスター、ちょっと早いけど会計。」

「あいよ、690ベリルね。」

「ちょ、ちょっと今から行くの?」

「当たり前だろ。それが転生者ならすぐにでも殺す必要がある。」

今もレベルが上がっていってたらどんどん手強くなるからな、早く行くべきだ。

「あんたって・・・わかんないわね。あの方には会ってあげないのにこういうのはすぐ行くのね。」

「当たり前だろ。それが仕事なんだから。」


店を出るとすぐにパルティと別れ、街を出る支度をしに家へと向かう。

さてさて、楽な仕事だといいなぁ。


~~~~~


賑やかな街の外れの森のなか。物置小屋のような我が家。

一見散らかっているように見える家の中だがこれはアートだ。そう、アートなのだ。

一応武器は持っていくか・・・もしもの可能性を常に考慮しないとな。

この前は聖剣順列二位のデュランダルを持っていったが猿しかいなかったけどな。

よしこいつにしよう。

やっぱり刀は日本のわびさびを感じさせるなぁ。

この黒の刀身。研ぎ澄まされて光が反射するのがなんとも美しい!

テンション上がるわぁ・・・

俺は『妖刀宵鏡』を鞘ごと背負うと、家を後にした。

なんで刀を背負うかって?

腰にさすと歩きにくいからだ。何かしらひっかかるんだよこれ。

抜くときは腰の方が楽なんだけどな、こいつに限っては抜くのがどうとかあまり関係ないし。

さぁて、山籠りしてる何かにご挨拶にいこう。


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