第3話 どこにいったらいいですか。

基本的には俺は傭兵みたいなもんだ。

だから仕事がなければこうしてだらだらしているし、なにもしない。

他にできる仕事なんてないしな。接客、営業、事務。どれも聞くだけでうんざりする。

悪い言い方をすれば不定休。そして仕事ってあんまりこないんだよな。

今さらだけど俺の仕事は魔王の脅威を潰すこと。魔王にとっての脅威、をね。

まぁ魔王の手先だと思ってくれたらいい。なんかかっこいいだろ。

魔王の配下の偉いヤツが転生者出現の予言をするから、あの草原に行ってそいつを殺すだけ。

おい、いま休日もたくさんあって簡単な仕事してだらだら生きていると思ったやついるだろ。それは大きな間違いだ。

こっちは命がかかってんだ、月に二回の仕事で生きていけるほど稼げるのは当たり前よ。

俺が仕事ミスったら魔王城も下手すれば危ないし。

命背負ってるんだからそれなりに報酬もあるわけさ。羨ましいのはむしろ俺の方だよ。

毎日のびのびと死の恐怖もない世界で生きたいさ。・・・嘘だけど。

まぁそれはそれとして。

だらだらしてるとはいえ、今日の夕方あたりまた転生者が来るらしい。つまり仕事だ。

夕方ってまためんどくさい・・・セルティコは仕事の後って決めてるしな。

今度こそセルティコに行きたかったんだけど。

前回は行かなかったのかって?右腕が血やら臓物やらでぐっちゃぐちゃだし、臭くてとても街になんか行けなかったよ。まったくやれやれ。

今日は早く、仕事すめばいいんだけどなぁ。



夕暮れ時。

夕日が照らし出す黄金の草原は昼とまた違った美しさを彩った。

風に揺られる草が光の反射で黄金の波をつくる。

そしてそれに不釣り合いな、蛍光灯のような光が空から降りてくる。

「景観を損ねるな、こいつらは。」

さてさてどんなやつかな。


「お、ここがスタート地点かな?・・・あのーすいませーん!」

20代半ばの男だ。少しイケメンじゃないの。

「なんだ。」

「ここって異世界ですか?」

俺にとってはなにも異なってない世界なんですけど。

「たぶんそうだよ。ハイ失礼。」

俺はすかさず魔具でスキャンする。

『レベル1、人間、転生者、危険要因・特殊能力』

また特殊能力か・・・

なぜ俺がそこまで特殊能力を警戒するか?速攻を仕掛けて殺してしまえばいいじゃないかって?おいおい血も涙もないな。

いやでもそれは半分正しい。前まではそうしてたんだ。

能力や武器を出される前に殺せばいいと、俺も思ってたし、やってた。

でも少し前のことだが、ある特殊能力に出会ったんだ。

攻撃を受けることで相手にそのまま返す能力。

出てきてすぐに手刀を腹に打ち込んだらさ、もうびっくり。

まさか俺の体が真っ二つになるとはね、思ってなかったね。

相手も「え?何こいつ?」みたいな顔してたし。

とにかく。そういう受身型の能力をもったやつはまずい。あのときだって本当に死を覚悟したよ。

まぁその件はもういいか。こいつもなんか不思議そうにこっちみてるし。

「あの、異世界からきたんですけど、どこにいったらいいですか?」

「しらん。そんなことよりお前、特殊能力もらったろ。」

「えぇもらいました。見せられないですが。」

「どんな能力なんだよ。」

「僕は運動とか喧嘩とかそういうの得意じゃなくて。異世界に転生してもできるだけ『安全に終わらせたい』ので、攻撃してきた者が爆発する能力をもらったんです。試しに石でも投げてくれませんか?」

「ふざけるな。それでぶつかった石じゃなくて俺が爆発したらどうするつもりだ。」

「あ、あぁそうですね。すいません・・・」

ほらな。こんなやつがいるんだよたまに!

まさに初見殺しだよ、早まった血気盛んな奴ら漏れなく爆散だからな。

・・・さてどうしたものか。前回と同じ方法でいくか。

申し訳なさそうにそわそわしている男性をよそに、草原のある場所に魔法をかけると、俺はその男をセルティコに案内することにした。丁寧に。

「ほら、あの壁見えるか?あれがお前ら転生者が目指して、そして最初の拠点にする場所だ。とにかくあそこに行くといい。そこからは一人でがんばれ。」

「あれ、人住んでるんですか?」

「疑うぐらいなら最初から俺に聞くなよ。ほらさっさと行け。」

背中をかるく押すと、男性はすこし安心したような顔でこちらを向いた。

「そうですね、すいません。いろいろありがとうございます!がんばって魔王を討伐しますので!」

内心喧嘩売ってんのかとも思ったけど、まぁ普通の反応だわな。俺が魔王の手先だと知らないからしょうがない。

夕日が沈み、夜が訪れようとしたとき。男は俺と別れてしばらく歩いていくと、スッと姿を消した。

・・・もうみんなこの手でうまくいくんじゃないか?こういう作業で済むならそれが一番なんだけどなぁ。

そんなことを考えながら俺は男が消えたところへと向かう。

「御愁傷様。」

例えば今が真っ昼間で、あの街ばかり見てなければこんな穴が空いてることぐらい気づいただろうにな。

直径2メートルほど穴が草原には空いていた。というよりさっきあけた。

かなり深いところに先程の男性が倒れているのが見える。四肢が良からぬ方に曲がってピクリとも動かない。

さてと。ちゃんと穴は消しとかないとな、他にも落ちるやつが現れんとも言えないからね。

手が出せない相手なら、自滅してもらえばいいんだ。こっちも楽だし。

「がんばって魔王を討伐します、か。ここに来たばかりのお前らに、アイツがなにしたっていうんだよ。」

そんなこと言ってもしょうがねぇか。

そうすることがコイツらの『終わり』なんだから。

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