第97話 私、行きたいところがあるの
私は目を覚ましたミュウちゃんを連れて、桃ちゃんと雪ちゃんのところへむかう。
結乃さんはいったん部屋に置いてきた。
一応雫さんを見張りにつけてきたけど、今の雫さんで効果があるのかはわからない。
なんか一緒になって私の部屋にいそうで怖いな。
「どうしたのお姉ちゃん、難しい顔をしてるよ?」
「うん、ちょっと悩みがね」
「じゃあ今からユッキ―に相談しに行くの?」
「う~ん、どうしようかなぁ」
まあきっと環境の変化にまだ慣れてないだけで、そのうち落ち着いてくるでしょう!
さっき連絡をとったところ、桃ちゃんは今、雪ちゃんの家で一緒にいるらしい。
雪ちゃんの家は桃ちゃんの家を通り越してしばらく進んだところにある。
すでにいろんなことを始めてお金も稼いでる雪ちゃんは、様々なアイテムを購入していた。
その中には自動で水をまいてくれるアイテムもあり、それのおかげで雪ちゃんはずっと家にいなくても勝手に作物が育ってくれるようになっている。
私も購入したいと思っているけど、今のところこの付近のお店には在庫がないらしい。
雪ちゃんが見つけたら教えてくれることになっているけど、もしかしたら1個しかないのかもしれないな。
「やっほ~苺さ~ん、こっちだよ~」
「あ、こんにちは雪ちゃん」
雪ちゃんは自分の家の庭に置いてある椅子のところに座って、こちらにむかって手を振っていた。
まるで小さなオープンカフェのようになっていて、ここでも雪ちゃんはお嬢様らしさを維持している。
同じテーブルに桃ちゃんもいた。
「苺さ~ん」
「わわわ」
私が雪ちゃんの家の敷地内に足を踏み入れると、桃ちゃんがいきなり飛びついてきた。
「ひさしぶり~、会いたかったですよぉ」
「そんな大げさな……」
数日会えなかっただけでこれだなんて、桃ちゃんは私がいないとダメダメですね。
これは私が責任をとるしかありませんな。
なんて、私が桃ちゃんと戯れている間に、ミュウちゃんが雪ちゃんのことをじっと見ていた。
あ、そういえばミュウちゃんはこの雪ちゃんとは初対面になることを知らないんじゃ……。
「初めまして、ミュウです」
「あ、初めまして魔白雪です」
「えへへ、ユッキ―って呼んでいい?」
「え? 別にいいけど……」
「えへへ」
「かわいい……」
一瞬で雪ちゃんを落としていた。
というか、ちゃんとわかってたんだね、あの時の雪ちゃんとは違うってことを。
さすが女神の一人ってだけはあるね。
「さて、かわいい妹もできたことだし、今日は何する?」
今日は用事がないのか、桃ちゃんは全力で遊ぶ気満々だった。
ただミュウちゃんは私の妹であることは間違えないでほしいな。
まあ桃ちゃんなら別にいいんだけどね。
「あ、私、行きたいところがあるの」
ミュウちゃんが上目遣いで桃ちゃんと雪ちゃんにおねだりする。
「え、どこどこ? 私がどこでも連れて行ってあげるよ?」
ミュウちゃんに落とされた雪ちゃんがすぐさま反応。
前の夢の世界での関係と少し違うのが面白い。
「空を飛んでいかないといけないんだけど、近くに植物がたくさんの島があるの」
「そんなところがあるんですね」
そういえば島から出ることを最近考えてなかったな。
陸続きじゃないところにこそ、新たな発見があるってものなのに。
「そこにみんなで行きたいなって思って」
「いいですね、でも空を飛んでいくとなると方法がわかりませんね」
「そこは私が乗せて行ってあげるよ」
ミュウちゃんの言葉に桃ちゃんと雪ちゃんが目を丸くする。
そうか、このふたりはミュウちゃんのドラゴンの姿を知らないんだった。
「ミュウちゃんはドラゴンの姿に変身できるんですよ、だからふたりくらいなら背中に乗せてもらえます」
「え、この子が?」
桃ちゃんがミュウちゃんの前にかがんで至近距離で顔をむき合わせる。
そしていきなりミュウちゃんのほっぺをふにふにし始める。
「わふ~」
「うわぁ、やわらか~い」
目的を忘れ、ミュウちゃんのほっぺたを堪能する桃ちゃん。
気持ちはわかるけどやめてあげて。
「桃ちゃん、そろそろ終わりにして、早くその島まで行きませんか」
「そうですね、でもふたりだったらひとり乗れませんよ?」
「ああ、私は鷲さんがいるので大丈夫ですよ」
「鷲さん?」
「はい」
私はこの間見つけてしまったのだ。
あの鷲さんを好きな時に呼ぶことができるアプリを。
私はアプリを起動し、さっそく鷲さんを呼び出す。
するとしばらくしてすぐに、近くの柵の上に鷲さんが飛んできて待機してくれている。
「すごい!」
「でしょう?」
これも私と鷲さんたちの絆があってできることだと思うんだよ。
「さあミュウちゃん、案内してください」
「は~い」
ミュウちゃんもドラゴンの姿に変身すると、桃ちゃんたちの近くでかがむ。
「本当にドラゴンさんだぁ~、モフモフだぁ~」
雪ちゃんが感動してミュウちゃんのモフモフに顔をうずめている。
「あの~、早く乗ってほしいんだけど……」
表情は微妙にわからないけど、ちょっと困惑した様子のミュウちゃんの声が聞こえる。
「その状態でもしゃべれるんだ」
桃ちゃんは前の私と同じことに驚きながら、ミュウちゃんの背中に乗っていく。
遅れて雪ちゃんもミュウちゃんの背中に乗って、桃ちゃんにぎゅっとつかまる。
「それじゃあ出発~!」
ミュウちゃんが一気に浮上し、いったん上空で止まる。
私も鷲さんに頭をホールドされて空へ。
そしてミュウちゃんが先行し、私が後を追いかけるようにして、ついに海の上に飛び出ていった。
私は今までと違って海の上を飛んでいることにかなり恐怖しながら、鷲さんを信じて身を任せるしかなかった。
ちょっとこの状況を後悔している。
「わあああ、はや~い!」
桃ちゃんと雪ちゃんはまるで遊園地のアトラクションのように空の旅を楽しんでいる。
途中で水面ギリギリを飛行したりなど、ミュウちゃんもノリノリな様子だ。
それに対抗意識を燃やしたのか、鷲さんが水面ギリギリまで高度を下げようとする。
「ぎゃあああ、ダメダメダメ!」
君はそれやっちゃダメだよ!
私は君の下にいるんだからね!
同じことやったら私は水の中だから!
しかしそこはちゃんとわかってるのか、私を水面ギリギリまで降ろすと、その高度を保ってスピードを上げていく。
サービス精神旺盛なのはいいけど、別に頼んでないんだが。
って、ぎゃあああ、今足当たった、足当たった!
ひええええええええ!
まだか、まだ着かないのか!
その後しばらく、私は水に浸かったり浸からなかったりを繰り返しながら、ようやく目的の島までたどり着いたのだった。
……これ、帰りも頑張らないといけないんだよね。
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