第40話 あ、お姉ちゃん苺パンツだ~

 大通りはそのまま大橋につながっていた。

 私たちの世界だとこういう大きな橋は車が通る道だ。

 でもここは車がないから、橋も人が通るようになっている。


 絶景を見ることはできるけど、この橋を渡ってる途中で心が折れそうだ。

 幅もそのすごく広いけど必要あるのだろうか。


 私の持ってるイメージが反映されてるだけかな。

 とにかく渡るのはやめておこうか。


 私は橋の上を少しだけ進み海を眺める。

 高いところから見る海は開放感があって好きだ。


 そういえばこの島には飛んできたから気付かなかったけど、街全体が結構高いところにある。


 浸水しないようになのかな。

 この楽園にそういうのなさそうだけど。


「風が気持ちいいね~」


 ミュウちゃんが隣で両手を広げながら風を感じている。

 ポンチョのような服が風でめくれあがってるけど、ギリギリのところで大事なところが見えない。


 神風~、お願いします~。

 心の中で強くお願いすると、それが通じたのかいきなり強風が吹いた。

 下から上へと神業のように私のローブがめくれあがる。


「キャ~!」


 なんで私!?

 不意打ちだったので完全に無防備だった。

 幸いにもミュウちゃんしかまわりにいなかったので助かったけど。


「あ、お姉ちゃん苺パンツだ~」

「ちょっと言わないで~」


 もう!

 ミュウちゃんはエッチなんだから!


「私のはもふもふパンツだよ~」

「フォー!!!」


 ミュウちゃんはポンチョをたくし上げ、私にパンツを見せつけてくる。

 別にエッチな下着ではないけど、私は大興奮です。


 湧き上がる感情を抑えて深呼吸。

 危なかった。


 人のを見たかったらまずは自分が見せろという女神様からのメッセージかもしれない。


 しかしミュウちゃんにはもっと羞恥心というものを持ってもらわないと。

 誰にでもホイホイ見せてないでしょうね。

 お姉ちゃんは心配だよ。


 そういえばお風呂場で裸を見るより、こういうところで下着を見る方が興奮するのはなぜだろう。


 ……知らんよな、そんなこと。

 ふむ、今度調べてみよう。


 しばらく風を浴びながら海を眺める。

 すると橋の下を何かが通った。

 それはなんと、アニメ調にデフォルメされたクジラさんだった。


 上に人を乗せて、まるで船のように進んでいる。

 本当に船の代わりなのだろうか。


 カモメさんとかアヒルさんのような感じでクジラさんが運んでくれるの?

 ちょっと乗ってみたいな。


 やっぱり時間が経つにつれて、どんどん夢っぽさが増している気がする。

 もしかして、元の世界に戻る場合だけ時間制限があるってそういうことなのか。


 まあ、それならそれでいいかも。

 ここ楽園だし。


「あれ?」


 クジラの背中にユーノさんらしき人が乗っている気が……。

 さすがに気のせいか。


 ああ、空が青い。

 ちょっと冷たい風が気持ちいい。

 ずっとここでボーっとしていたい。


 このまま景色と一体化して溶けてしまいたい。

 感じる。


 自由の翼が私の背中にもあるんだ。

 今ならどこまでもはばたいていける気がする。


「お、お姉ちゃん、あぶないよ!」

「はっ!」


 ミュウちゃんに引っ張られて我に返る。

 あやうく飛び降りる人になるところだった。


「どうしたの? 疲れちゃった?」

「いえ、そんなことは……」

「お姉ちゃん、自覚症状ないのが一番危険なんだよ!」


 あれ?

 私、精神状態があぶない人みたいになってるよ?

 そうか、けっこう回復したと思ったんだけどな……。


「橋の下に公園があるから休憩しよっ」

「うん、そうだね」


 私たちは橋の下の公園に移動した。

 そこも人はおらず、一番海に近いベンチを独占する。


「絶景~」


 ここから見える橋の角度、やっぱり舞子公園をぼんやり思い出すよ。


「お姉ちゃん、あったかいココア飲む?」

「ありがと~」


 ミュウちゃんが水筒からココアをいれて渡してくれる。

 ちょっとだけ手が冷えてきたのでありがたい。


 再び橋を眺めながらひと口いただく。

 そこで違和感に気づいた。


「これお汁粉?」

「あ、似てるから間違えたかも」


 ココアとお汁粉って似てる……か?

 似てるかもね、粒入ってなかったら……。

 う~ん、まあ、あったまるしいいか。


 お汁粉をちみちみ飲みながら海を眺める。

 すると突然、ある場所から光の柱が発生した。

 さらにそれが3本になり、それを結んで三角形の光が完成。


「な、なに?」

「あれはね、1日に少しの時間だけ現れる自然現象だよ」

「自然なの!?」


 そんなバカな……。

 魔法とか存在するから、そりゃありえないとは言わないけどさ。

 私がお汁粉を飲むのも忘れてぼうぜんとしていると、橋の上に1人の女性が現れた。


 その方はいきなり橋の手すりの上にのぼり、叫びながら飛び立った。


「アイキャンフラーイ!」

「いや、落ちてますけど!?」


 女性は光の三角形の中にみごと着水する。

 そして水中から彼女が出てくることはなかった。

 え、これってつまり……、あれですよね?


「あのお姉さん、無事に成功したね~」

「成功!?」


 もしかしてここは、あれの名所なの?


「幸せの国へ行ったんだよ~」

「……」


 それって本物の意味でですか……?

 いや、きっと無事なんだよね?

 だってここは楽園だもん。


 海から出てこないのは、別の楽園にいったとかそういうことだろう。

 そう思っておこう。


「お姉ちゃんも飛んでみる?」

「いやいやいや」

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