3章 夢と希望の街
第23話 ここは夢と希望の街
はじまりの街を出て、ユーノさんが教えてくれたルートを進む。
一応道があって、しばらくまっすぐに歩くだけだ。
最初はきれいな景色を楽しみながら道を進んでいた。
しかし何時間もほとんど変化しない景色はさすがに飽きてしまう。
せめて海沿いだったら少しはよかったのに……。
この気の滅入るようなただの道はなんだ。
あの遠くに小さく見えるのが目的地だろうか。
本当に1日で着くような距離なのかな。
精神的にも疲れてきたので、お昼ごはんもかねて休憩することにした。
でもこんなところじゃまともに座る場所もない。
適当にその辺で休むとしよう。
私は道をそれて原っぱに入った。
念のために用意していた小さなシートを敷いて座る。
「はふ~」
あ~、一度休んじゃうと歩くの嫌になるな。
とりあえずお弁当食べよう。
かばんから取り出し、蓋を開ける。
これはたまたまなのかわからないけど、お弁当は私の好物ばかりだった。
さすがシズクさん、味は言うまでもなく美味。
あっという間に食べ終えた。
「ふ~」
お茶を飲みながら一息つく。
暑い日じゃなくてよかった、風も気持ちいいし。
あぁ~、眠くなってくるよ~。
これは早めに出発したほうが良さそうだ。
再び道に戻る。
前をむくと、まだまだ遠い目的地。
「うが~!!」
現実逃避で両手を空にむかって突きあげる。
すると後ろから大きな白い鳥が飛んできた。
びっくりしてしゃがんでみたけど、頭を鷲掴みされてしまう。
そして私の体が宙に浮いた。
「わひゃ~」
そのまま道に沿って低空飛行をしてくれる。
「あれ、もしかして運んでくれてるんですか?」
「クエ~」
「そうですか~、クエ~って鳴くんですね」
「クエ~」
「しばらくお話しましょうか~」
「クエ~」
白い鳥はなんとそのまま街の近くまで連れて行ってくれたのだ。
お礼にいちご大福をあげるととても喜んでいた。
……そんな気がする。
白い鳥のおかげでずいぶんと早く到着できた。
それでももう日が暮れそうだ。
あのまま歩いていたら、深夜になってた気がする。
私って歩くの遅いのかな。
それともユーノさんの感覚が変なのか。
いや、もしかして初めからあの白い鳥で移動するはずだったのかも。
そうなのかもしれない。
とりあえず宿を探そう、街中で野宿は嫌だ。
ここは夢と希望の街。
そう呼ばれるだけあって、確かに街にいる人たちはみんな楽しそうだ。
欧州っぽい木組みの家と石畳の街。
フランスの東の方にあるんだよね。
まるで物語の世界に迷い込んだみたいで、歩いているだけで楽しくなってきた。
おっといけない、観光する前に宿を見つけないと。
しかし何件か宿を見つけて入ってみても、どこも満室だった。
聞けば今日と明日はお祭りがあって、特に混んでいるらしい。
これはまずい、野宿確定か。
もうほとんど諦めかけて入った宿。
そこでなんとか1部屋とることができた。
助かったよ……。
2人用の部屋だったけど、そこは良しとしよう。
さっそく部屋にむかい、荷物をおろす。
そしてベッドにダイブ。
ふかふか~。
あれ? そういえばベッドがひとつしかない。
2人用の部屋じゃないの?
あ、もしかしてこの大きなベッドはダブルなのか。
ほえ~……。
枕は?
ベッドの真ん中でぽつんと座る。
なんかさみしくなるじゃない。
なんとなく端の方に移動、この方が落ち着くよね。
そこから窓の外を見る。
どうやらお祭りが始まりつつあるみたいだ。
宿は無事とれたことだし、ちょっと遊びに行ってみようかな?
そう思い部屋を出て玄関にむかう。
その途中、受付で新たなお客さんが来ているのが見えた。
あぶないあぶない、もう少し遅れていたらあの部屋もなくなっていたのか。
「え~、ここもいっぱいなんですか~」
「申し訳ございません……」
「あ、いえ……」
あれ?
この声どこかで聞いたような……。
「あ、アミちゃん!?」
それは同じ職場にいた、樋口亜美という女の子。
召喚娘ちゃんだ。
変態さんだ。
「わぁ~、イチゴ先輩だ~」
彼女は私に気付くと、いきなり腕に抱きついてきた。
「アミちゃん、私の記憶があるんですか?」
「え、なんですか、どういうことですか?」
どうやらアミちゃんには現実世界の記憶があるようだ。
ということはつまり、ユーノさんの言ってた同じ夢を見るというものか。
ここは私とアミちゃんの夢の世界ということになるわけだ。
でもなんで私とアミちゃんなんだろう。
今までそれほど強い関係があったわけではないのに。
「あ、そういえばアミちゃん、宿とれてないんですか?」
「はい、今日この街に来たんですけど、ちょうどお祭りみたいで……」
「そうみたいですね」
ほとんど私と同じ状況だね。
空き部屋が見つかっただけでも私は運がよかったんだ。
これもラッキーガールモモちゃんの力かも。
「アミちゃん、よければ私の部屋に来ますか?」
「え、いいんですか!?」
「はい、ただベッドはダブルがひとつなので私と一緒に寝ることになりますけど」
「お、おお、同じベッドですか!?」
アミちゃんの顔が真っ赤になっていく。
まぁ、気持ちはわかる。
知り合いとはいえ、いきなり同じベッドはハードル高いよね。
というか、普通ならありえない。
「あの、私初めてなので、やさしくしてくださいね……」
「あ、寝袋売ってるお店、紹介しましょうか?」
「ごめんなさ~い!」
謝りながら私の腕にしがみつくアミちゃんを連れて、一度部屋に戻る。
とりあえず荷物を置いて、アミちゃんとともにお祭りへ出かけることにした。
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