第10話 天使……、いや女神様に違いない
次の日。
温泉効果かどうかはわからないけど、いつもよりスッキリとした朝をむかえることが出来た。
もしかしたらひさしぶりにみんなと過ごせたということのほうが大きいかもしれない。
それにしても早く目覚め過ぎた。
まだ5時前だよ。
外は暗いし、建物は静まりかえっている。
まるで今世界に私しかいないように思えてしまう。
そうだ、ちょうどいいし昨日の温泉にもう一度行ってみようかな。
やっぱり何か気になるんだよね。
帰り際、温泉が光ったような気がした。
それだけじゃなくて、誰かいたような気配がしたんだ。
もし何もなかったら温泉に入って帰ってきたらいいか。
私はトートバッグにバスタオルと着替えを押し込み、部屋を後にした。
玄関の鍵を開け、外に出て気付く。
鍵持ってないから閉められない……。
う~ん、どうしようか。
別に鍵が閉まっててもテラスから入れるしなぁ……。
このまま開けっ放しにしても変わらない気がする。
でも私の中の良心が痛む。
玄関でしばらくのあいだ悩み続けていると、不意に誰かが私の肩を掴んだ。
「ひっ!?」
恐怖のあまり反射的に手をはねのけ、振り返りながら拳を叩き込む。
「きゃー!! このゴミクズ野郎!!」
しかし私の拳はいとも簡単に受け止められてしまう。
そんな……、こんなところで負けるなんて……。
「あの……、落ち着いてください……」
「え? この声は……」
聞き覚えのある声に我に返り、その姿を確認する。
そこに立っていたのは雪ちゃんのお付である黒づくめの女の人だった。
そういえば一緒に来たんだった。
今までどこにいたんだろうこの人。
というか、さっき初めて声を聞いたけどあの声って……。
「もしかして芳乃ちゃんですか?」
「……うん」
女の人は付けていたサングラスとマスクを外す。
現れたのは同じ職場で仲の良かった芳乃ちゃん。
手が震えて退職したあの子だった。
「芳乃ちゃん、雪ちゃんのところで働き始めたんですね」
「えっと……、実は逆なの……」
「え?」
逆ってどういうことだろうか。
「私はお嬢様の指示で苺さんたちを見守ってたの」
「ええ!?」
雪ちゃん、そんなことまでしてたのか。
なんかもう、なんて言ったらいいのかわからないよ。
「まさか自分が潰れるとは思わなかったわ……」
そう言って空を見上げ遠い目をする芳乃ちゃん。
かわいそうに。
せっかく雪ちゃんのところで働けてたのにあんなブラックなところに……。
というかどうせなら見守るよりあそこから救い出して欲しかったなぁ。
「あ、そういえばこんな時間にどうかしたの?」
芳乃ちゃんが急に話を戻して尋ねてくる。
「えっと、朝のお散歩でもしようかなって、でも鍵持ってないんですよ」
「ああ、じゃあ私が閉めとくね、いってらっしゃい」
「ありがとうございます、芳乃ちゃん」
私は芳乃ちゃんに手を振ってあの洞窟の温泉にむかった。
スマホのライトを使って洞窟を進んでいく。
昨日来た所なので今日は思ったよりも早く辿り着くことが出来た。
そこには誰もいなくて、昨日感じたような不思議な気配も今はない。
う~ん、やっぱり気のせいだったのかな。
まぁ、せっかく来たんだし温泉に入っていこう。
私は服を脱ぎ、濡れないところに置いてから湯船に浸かった。
朝風呂で温泉なんて贅沢なものだよね。
天井を見上げれば、うまい具合に月明かりが入ってくるようになっていた。
ちゃんと夜の間ずっと光が入ってくるように窓みたいな穴が開いている。
これ自然にこんな形になったのかな?
神秘だね~。
そのまましばらく月の光を眺めていた。
するとその光が突然強さを増していく。
思わず目をつむり、もう一度ゆっくりと目を開いた。
空からの光は元に戻っている。
かわりに目の前に神秘的な光を放つものが現れていた。
シースルーな羽衣をまとった美しい女性。
天使……、いや女神様に違いない。
そんな現実離れした存在。
いや、もうこの状況が十分に現実的ではないんだけどね。
もしかして夢でも見てるのかな。
確かめてみようか。
今手を伸ばせばこの人に触れることができる。
それで確かな感触があればこれは夢ではないといえるだろう。
信じられないことにこれが現実だということになる。
よし、さっそく行動しよう。
私は女神様が持つ極上の果実にむかって手を伸ばす。
……。
伸ばそうとしたが、体が動かなかった。
どうやらあまりの美しさに私の体が臆してしまったようだ。
くそっ、動けよ、私の体!
そこに、そこにあるんだよ!
私の楽園がさぁ!!
そんな感じで自分の体と戦っていると、女神様が今まで閉じていた目を開く。
そして私と目があった。
「……」
「……」
お互いに無言のまま見つめ合う。
まるで時が止まったかのように感じるけど、お湯の流れる音がするから気のせいだ。
でもこうしてじっくり見ると女神様は意外と幼さがある。
背は私より少し高いくらいだし、大体155センチくらいかな?
ウェーブのかかった髪の毛のせいか、ふわふわした印象だ。
美しいというよりは可愛いと言うべきかもしれないな。
そう思ったら緊張が緩み、いまさらながら体が言うことを聞くようになる。
そして気付けば私の手が女神様の果実を鷲掴みしていた。
ああ、これヤバイわ……。
女神様は先程までと同じように無言で私を見ている。
ただその視線はちょこっとだけ冷たくなった気がした。
どれくらいかって?
マイナス20度くらいかな?
私は精一杯の笑顔を女神様に返す。
次の瞬間、私は全裸で宙を舞っていた。
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