2章 夢の世界と始まりの街

第11話 ようこそ、私たちの世界へ

 あれ? 何だこの空間は。

 もしかして私は死んだのか?


 そうか、つまらない人生だったなぁ。

 いや、最後あの時間だけは幸せと言えなくもないか……。


 まさか女神様の胸を揉んで終わるとは。

 ある意味、最高の死に方かもしれないな。


「すみませ~ん、起きてくださ~い」


 どこからかかわいらしい声が聞こえる。

 でも真っ暗で何も見えない。


 恐る恐る足を踏み出してみる。

 その瞬間、強烈に辺りが明るくなり、意識が飛ぶ感覚がした。


 そして目に飛び込んできたのは青い空と白い雲。

 自分が地面に仰向けになって転がっていると理解する。


 はっ、私すっぽんぽん……ではなかった。

 なんだこの魔道士みたいな格好は。

 とりあえず上半身を起こし、そして立ち上がる。


 見たことない世界が目の前に広がっていた。

 まるでゲームに出てくる世界みたいだ。


 目の前に広がる森や平原、背後や左手には海がある。

 ここが少し高いところにあるので辺りを見回すことができる。

 むこうの方に街があるのが見えた。


 そして私は一軒だけ建っている家の庭のようなところにいる。

 なんでこんな街から離れたところに家を建てたんだろう。

 でも落ち着いた雰囲気で、荒れた私の心が少し癒やされていく気がする。


「どうですか? きれいな世界でしょう?」

「ひゃっ」


 いきなり後ろから声をかけられ、変な声を出してしまった。

 私が振り返る前に、その声の主は私の前まで歩いてくる。

 通り過ぎるときに顔がちらっと見えた。


 その人はあの洞窟で出会った女神様だ。

 後ろで手を組んでしばらく景色を眺めていた女神様は、くるっとこちらにむき直った。


「ようこそ、私たちの世界へ」


 目の前でにっこりと笑うその女性は、どこか雫さんに似た雰囲気をまとっている。

 雫さんって私の中の女神様のイメージにぴったりなんだよね。


 やさしくてふんわりしてて、おっぱいとかいろいろやわらかくて。

 あ、この人も同じくらいやわらかそう……。


「あの~、あまり胸を凝視されると恥ずかしいのですが……」


 目の前の女性は、さっと腕で胸を隠し体を反らす。

 やってしまった。


 いや、これはこの方のおっぱいが魅力的すぎるのがいけないんだ!

 だからついつい目で追ってしまう。


「あの~、お話を続けてもよろしいですか?」

「あ、すいません、えへへ」


 私は謝りつつも、ジト目がかわいいなぁ~なんて思っていた。

 まったく反省していない。


「まずは自己紹介からですね」


 そういえばまだ名前聞いてなかった。


「私はこの世界の女神の1人で、ユーノと申します」


 この女性、ユーノさんはそう名乗ると、さきほどと同じようににっこりと笑う。

 笑顔が完璧すぎて、逆に演技じゃないかと疑ってしまうのは私の心が汚れてるせいだろうか……。


 いや、すっごくかわいいんだけどさ。

 それに女神様って言ってるし、そんな黒い感情はないだろう。

 私じゃあるまいし……。


 あ、私まだ挨拶してない! 失礼なことをしてしまっているな。

 慌てて挨拶をしようとしたら、ユーノさんが話を再開してしまった。


「まずはこのカードを渡しておきますね、ヨミ・イチゴさん」

「え?」


 ユーノさんが1枚のカードを手渡してくれる。

 なんで私の名前を?

 そう思ったら、そのカードに私の名前が表示されていた。


 夜水苺だからヨミ・イチゴか。

 カタカナ表記に直されてるのに、姓と名の順は変えないんだ。


「これは?」

「この世界でのあなたの情報がまとめられたカードですよ」


 え? なにそれ。

 なんでそんな個人情報のかたまりをあなたが持ってるの?

 うわっ、所持金とか載ってる。


 しかもなぜかユーロだし。

 なにここ、欧州なの?


「そのカードにいろんな情報が入ってるから、わからないことがあったら調べてみてください」

「へぇ、便利なものなんですね~」


 こんな薄いカードにそんな機能があるのか。

 この『ヘルプ』と書いてあるところかな?

 あ、確かに出てくる、ゲームかよ……。


「せっかく社畜から開放されたんですから、素敵な楽園生活を楽しんでくださいね!」

「え? なんでそのことを……って、消えたーっ!?」


 説明これだけ!?

 消えちゃったよあの人……。

 雫さんみたいな人だったのに、やさしくない~!


 ふ~んだ、どうせ私はどこへ行っても社畜みたいに苦労して生きていく運命なんだ~!


「はぁ……」


 疲れた、とりあえず人を探そう。

 このままじゃ食べるものも寝るところもない。

 むこうに街があるし、行ってみるか。

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