淡い時間は煌めいて

 一真と出会ったのは1年前の合コンだった。最初はグイグイ来るノリの感じがちょっと近寄りがたいなって思ったけど、私の話にもちゃんと耳を傾けてくれる優しくて誠実な人だって分かった。

 初めて会ったその日は連絡先を交換して別れた。

 その後、彼の方から何度かメールがあり、デートにも行き、なんとなくお互いに意識するようになって、気づいたら私達は付き合っていることになっていた。


 彼は自分も疲れているのに、私のつまらない話や仕事であった不満を聞いてくれた。だから、彼のために何かしてあげられることはないかと思い、料理を作ってあげたり、部屋の掃除をしてあげたりと、私のできることは何でもやってあげた。

 めんどくさいと思ったことはない。私がやったことに対して、彼は私の体を引き寄せて、身を寄せ合い、首に吐息がかかるほどの距離で私を褒めてくれた。

それで私は愛されてると感じ、甘いキスに溺れた。


 私達の日々はとても悦びに満ちていた。日を重ねるごとに彼への想いは募り、その分だけ彼を愛し、何度も好きと伝えた。

 彼中心の生活が当たり前になっていった。

 輝いた日常。それは何よりも大切な愛しい日々だった。でも、それは私の目に映る日々で、彼の目には輝きと共に陰が見えていた。


 それはなんてないことだった。私がメールをしたのに、彼からの返信がいつもより遅かった。既読になっているのに、返って来ない。私がメールをした7時間後にメールは返ってきた。

「メールくらいすぐに返して」と彼を問い詰めた。

 彼は「仕事で飲むことになったから返せなかった」と返信してきた。

 私は浮気を疑っていた。「トイレに入ってメールしてよ」とメールしたら、彼は絵文字と句点のない「分かった」の文字を返してきた。


 彼が渋々了承したことは察していた。いつもなら絵文字、顔文字、最低でも句点をつける彼だった。私は浮気の疑念を拭えなかった。もしそうでなかったとしても、メールくらい返してほしかった。でも、それは疑いでしかなかったし、それ以降はちゃんとすぐに返信してくれるようになって、いつの間にか私もそのことについて忘れていた。


 他にも、彼の出た電話が気になり、「誰?」と聞いて鬱陶しがられた。「聞くくらい良いででしょ」と言って、また浮気を勘ぐり……。

 いつものように彼の身の回りの世話を焼いていたら、彼のお気に入りのストールをどこへやったか聞かれ、しまった場所から出してあげたら怒鳴られた。

 私は彼の部屋を掃除してあげて、綺麗になった部屋を褒めてくれると思ったし、いつものように「ありがとう」と笑顔で受け取ってくれると思った。


 彼はいつからか私に対して怒りっぽくなり、次第に連絡も取れなくなった。何度か家へ訪ねたが、彼は出てくれなかった。夜にも訪れ、部屋の電気が点いているのを確認しても、彼が応答してくれることはなかった。


 マンションの前で彼が出てくるのを待ち、なんとか会うことができた。彼は私を避けるようにして車に乗り込み、私の問いかけに一言も発することなく、どこかへ行ってしまうことが3ヶ月も続いた。


 そして今日、私は彼と別れることにした。私が束縛する女だったことにようやく気づいたのだ。

 私は彼が全てだった。だから、彼にも私が一番であってほしかった。それに依拠した私の様々な行為の積み重ねにより、私達の輝く日々は色褪せてしまった。

 愚かな私のせいで壊れてしまった関係はどうにもならない。でも、私達が過ごした時間だけは、大切な宝物にしたかった。

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