第2話「幽霊になる薬」

 博士は他にもいろいろな研究をしている。例えば『幽霊になる薬』。これは、四十五年前から研究を続けているが、まだ完成どころか、構想段階なのであった。


 博士はまず「幽霊」とはどういうモノであるのかを定義した。


定義1、「死んでいる」

定義2、「普通の人には見えない」

定義3、「浮遊している」


 他にも、様々な定義の候補があったが、全てこの三つの定義に集約されることが分かった。ここまでの段階で二十年の歳月を要した。


 さらにそれから二十年研究が進み、定義2の「普通の人には見えない」の項目と定義3の「浮遊している」の項目をクリアする薬を完成させた。

 しかし、『幽霊になる薬』であるのだから、本来は「生きている人間」がその薬を飲むことにより、たちまち「幽霊になれる」ということが大前提なのである。「生きている人間」が幽霊のように普通の人には見えず、浮遊することが出来る薬は完成したのだが、「生きている」ということは、定義1の「死んでいる」という項目に反し、それは「幽霊ではない」ということになる。つまり、その薬は『幽霊になる薬』とは言えないのだ。博士はその後五年間、悩みに悩んだ。


 問題は定義1の「死んでいる」という項目だけである。

「これでは、『幽霊になる薬』とは言えない」

 博士は頭を抱えていた。


 そしてとうとう、博士は革命的なアイデアを思い付いた。

「そうか! 見えなくなる効果が現れる成分と、浮遊する効果が現れる成分は、不要だ。そしてこの『命がなくなる』成分を調合をすればよいのだ!」

 様々な研究の結果、幽霊になることさえできれば、「見えなくなる」効果と「浮遊する」効果は自然に現れることがわかった。つまり、「見えなくなる」成分と「浮遊する」成分は、薬に調合する必要がないのである。


 五年後。

「できた! これを飲めば、誰でも幽霊になれる!」

 博士は五十年の歳月をかけて、ようやく『幽霊になる薬』を完成させた。

 この薬を飲めば、たちまち命がなくなり、誰でも簡単に幽霊になれるのだ。


 博士はその薬がただの「毒薬」だと気付くのに、あと何年かかるのだろうか。

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