天才フィボナッチ博士の不思議な薬

日望 夏市

第1話「透明になる薬」

 博士は五十年の歳月をかけて、ようやく『透明になる薬』を開発した。しかも、薬の飲みやすさを考えて、錠剤タイプ、液体タイプ、気体タイプを作った。これだけの種類があれば、大人はもちろん、固形物を飲みにくい老人や子供でも、はたまた赤ん坊でも、犬や猫や虫、木や花など植物までも、たちまち透明にすることができる。


博士は完成した三タイプの『透明になる薬』を、錠剤タイプは皿の上に、液体タイプはビーカーに、気体タイプは集気ビンに入れ、テーブルの上に置いた。


そして「さぁ、試してみよう」とテーブルの上の三種の『透明になる薬』の中から、どれにしようかと選んでいたところ、

「やはり、錠剤タイプから試してみよう」と、皿から錠剤タイプの薬を指でつまんだ。

ところが、うっかり指をすべらせて、錠剤を、液体タイプの薬が入ったビーカーの中に落としてしまった。錠剤の『透明になる薬』は液体の『透明になる薬』の中でどんどんと透明になってゆく。

あわてた博士は、液体の薬の中の錠剤の薬を取りだそうと、ビーカーに手を伸ばしたところ、またまたうっかり、隣の気体の薬の入った集気ビンを倒してしまった。すると、気体の『透明になる薬』の効果で、液体の『透明になる薬』の入ったビーカーごとどんどん消えてゆき、やがて三種類の『透明になる薬』は、どこにあるのか見えなくなってしまった。


『透明になる薬』は、本当に透明になってしまった。

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