幕間 暗闇の声
第20話
シュナイが目ざめたのは、暗い森の中だった。
空を見あげようとして首をひねっても、うっそうと茂った葉がおおいかぶさっていて、昼か夜かも判然としない。
意識を失ってから、どれほどの時間がたったのだろうか。
うつぶせのまま動けず、喉と頭が割れるように痛む。
なぜこのような状態になっているのか、記憶が混濁して思い出せない。
「動かぬほうが良い」
ふいに頭上から、歌うような声がした。心地良い低音の、男声の響きだった。
返事をしようとして、ひゅうと風の音が鳴った。
「さすが竜の眷属らしく、傷は癒えつつある。されど、まだ無理ができるような状態ではない」
傷ついたシュナイの体は首しか動かすことができず、声の主を見つけることができない。
人か、魔物か。
騙された記憶を少しずつ思い出しながら、シュナイはジャニスの姿を探そうとする。
気まぐれで助けた、魔物になったばかりの小さな魂。
やがて蜥蜴のように細いシュナイの瞳が、巨木の根本でうずたかく盛りあがる黒い塊を見つけた。
「其方が……助けてくれたの……か……」
黒い塊は何も答えず、ただ表面を波立たせた。
おそらくそれが返事なのだろうとシュナイは思った。しゃべることのできない魔物だ。
つまり先ほどの声の主は別にいる。
ふとシュナイは黒い塊の中央に、五つの英文字が書かれてあることに気づいた。
「E……X……I……」
一文字ずつ読みあげる。
EXIST……生存するという意味の言葉だった。
「……ここに在りて生くる」
たしかに我は生きている、そうシュナイは思った。
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